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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
鬼神怪奇譚・最終章

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第2話 残りの時間

 寿々(すず)が次に黒いモヤを追って辿り着いたのは見知らぬ土地の道路だった。


 寿々は足元のモヤを注意深く見つけながらその後を追う。

 しばらく歩くと看板が見えた。


達谷窟(たっこくのいわ)・・・・』


 そこは岩手県にある達谷窟毘沙門堂という寺だった。


 寿々がそのままその敷地内へと歩いて行くと向かいから二人の男女が歩いてきた。

 そしてその二人とすれ違う瞬間、寿々は気づいた。


『母さん・・!?・・・父さん!!』


 その二人はとても若く、恐らく二人共20代前半といった様子だ。

 寿々は思わず二人のあとを追った。


「他にもこの辺りで御朱印を書いてもらえそうな場所って言ったら?」


「そうだな・・・。あとは一関の方に戻ればあるけれど」


 二人の会話から察するに、どうも寿々の母真紀と父大吾はその昔二人で御朱印を集めながら東北の神社仏閣巡りを趣味としてたようだ。


 寺の参道を駐車場へと降りる二人を黒いモヤから現れたアグルが見つめていた。


「・・・・ふふふ・・・そうだ。この時だよ寿々。・・俺はようやく居場所を見つけたと思い嬉しくて堪らなかったよ・・・。1200年・・いやそれ以上前から俺は・・俺達は、お前とお前の兄の存在を待っていた」


『・・・アグル』


 アグルは杉の木の幹に手をかけ真紀を見つめている。


「我々は怨念の塊・・・蝦夷の無念そのもの・・・。しかし人間は都合良く我々を鬼にし、最悪な事に勝手に神格化する事で魂の位まで上げやがった。・・・おかげで簡単に生まれ変わる事も出来ない呪いにかけられた・・・。だが長きにわたって待ったおかげでようやくお前らの・・魂の位が神に最も近い存在が現れた。しかも片方はもう既に死にかけている・・・。この好機を逃すはずがない・・・」


 アグルはそう笑うと黒いモヤになりそのまま真紀へと憑りついた。


『やめろ!!』


 寿々は急いで真紀に駆け寄り、憑りつくモヤを払おうと一生懸命もがいた。



「・・・・・?」


 真紀は突然首の下を抑え嫌な顔をする。


「?どうした真紀・・・」


「・・分からない・・。でも何だか急に気分が悪くなってきたわ・・」


「大丈夫か?・・・まだ妊娠が分かったばかりだけど、やっぱり無理して出かけない方が良かったかもな・・。とりあえず今日はもうこのまま家へ帰ろう」


「うん・・・。そう・・ね」



 そう言うと二人は車へ乗り込む。

 真紀に憑りついていたアグルはそのまま霧散するようにフワっと消えていった。


『・・・くそ・・・』


 真紀と大吾が乗った車はそのまま国道を出ると一関方面へと走っていってしまった。


『こんな体じゃ何もできやしない・・・!!』


 寿々は自分の七色に光る透き通った体を見て悔しくて仕方がなかった。

 そして


『・・・だめだこんなんじゃ。このままアグルに着いて過去を振り返ったところで俺に何かできるわけじゃない・・・。違う・・。俺がするべきは止める事じゃない・・過去を変えることじゃない・・。この光景をあいつは俺にあえて見させているんだ。きっとその理由に本当の意味があるはず・・・』


 そう思うと同時に再び七色の閃光が寿々を次元の狭間へと引き戻してゆく。


『考えろ・・・考えて見つけろ・・・・!あいつの目的を・・・!』






 次元の狭間に戻った寿々は黒いモヤが見えていたが、今度はそれを追わなかった。

 そしてその場に座り込み腕を組んで考え始めた。


「・・・あいつは何がしたいんだ・・・。このままこうやって俺の過去を見せたところで俺に何を期待して・・・・・。そうか・・・・。あいつは・・・俺に何かを期待しているのか・・・」



「寿々?」


 再び声のする方を見ると深淵の子がいた。


「ああ・・俺、元の狭間に戻って来れたのか?」


「ううん、近くまで来たのが分かったから私のほうから来た」


「そうか・・・・・」


 そう言うと寿々は再び難しい顔をして考え始めた。


「ねぇ寿々?・・・もうそろそろ時間だよ?」


 深淵の子は寿々に優しく囁いた。


「うん、わかってる」


 だが寿々は考える事を止めずにアグルが自分に何を期待しているのかを必死になって探っていた。


「・・・でも、もう間に合わないよ?」


「わかってる!」


「・・・・・・・」


 寿々は苛立ちながら悔しそうな顔をした。


「ごめん・・・。でもこのままじゃ戻れない。というか戻る事ができない。きっと戻る世界を間違えてしまう。・・・次に行くのがもしアグルの罠で間違った世界だった場合、俺はもう二度と自分の体には戻れない。あいつはずっと封印されるまでの12年間だけを見せてきた。あの過去は間違いなく本当にあった過去だろう。でもこの後に続く道が同じ世界線とは限らない。だからこそあいつが何をしたいのか先に読み取らなくてはならないんだ」


 そう真剣に話すと


「・・ねぇ、君は以前俺に記憶を思い出させた時、正しい世界線の情報(データ)を見せたよね。その時君は俺に何を期待していたの・・・?自分の存在に気づいて欲しいって事?それとも正しい世界線を見て絶望する俺を望んでいたの?どっち?」


 深淵の子は少しだけ黙り込み


「・・・・・どっちも」


 とだけ答えた。


「そうか・・・やっぱり・・・」


 寿々はそう言うと立ち上がった。


『目的は一つじゃない。あいつも一つ以上の望みがある。一つは俺へ・・いや人間への恨み妬み復讐。それと同時に・・・おそらくアグルは俺の幸福そのものを欲しがっている。だから今だったんだ。俺が人生で一番幸せだとそう感じていたから・・・今俺の人生が欲しいんだな』



 しかしそこから一歩も歩き出そうとはしなかった。


「寿々・・・」


 深淵の子は更に不安そうに声をかける。

 すると寿々は上空を、延々と続く真白な空を見上げた。


「・・・・俺はもう信じて祈るしかない。ある意味賭けだ。俺はここで()()()()()のを待つ・・・」









 (ふひと)は個室で機器に囲まれ沢山の管に繋がれながら眠る寿々を見て本当にどうしようもなくいたたまれない気持ちになった。


「・・・・・くっ・・・」


 あまりに無念で、あまりに悔しくて。

 でも何も出来なくて本当に胸が張り裂けそうだった。


 真紀は反対側の窓の方へと回ると椅子に腰をかけ寿々の手を取った。


「・・・・・寿々。ほら史君が来たわよ・・・。きっと日向吾(ひゅうご)も一緒ね」


 真紀のその言い方があまりにも最後を連想させる言い方で本気で自分もこのまま一緒にこの世から消えてしまいたくなった。



 しかし史はその前にやらなければならない事がある。


 ここへ来たのは決してお別れを言いに来たわけではない。

 例えどんな状況であっても絶対にまだ諦めたくないからだ。


 

 真紀はチャットアプリの通知音を聞くとスマホを確認した。そして、


「・・・・史君。今下に颯ちゃんと彰さんが到着したみたい。私二人を迎えに行ってくるから。・・寿々の事ちょっとだけよろしくね」


 そう真紀は力なく言うと静かに部屋を出て行った。




 史は椅子に座ると右手で寿々の手を握りしめた。


 そして瞼を閉じて意識を集中する。

 ゆっくりと左手を掲げ寿々の中を透視した。

 それは会ってすぐ、幽霊団地で寿々を透視をした時以来の事だ。


 史は寿々の内の内の内側まで・・その奥深くまで、その中にある全てを見通すように透視した・・・・・。



 その中のヴィジョンに史は驚いた。

 寿々の中にあるあの四角い箱は既に開かれ、中から黒いモヤが寿々の奥の方へとずっと繋がっている。


 史はすぐにそれが鬼神(おにがみ)アグルと繋がっているのだと分かった。

 しかし不思議な事にその鬼神の黒いモヤとそれ以外にも七色に光る帯がずっと同じように下へと続いている。


『これは・・寿々さんの魂・・!?』



 史はそれに気づいた瞬間に、まだ肉体から完全に断たれたわけではないのだと分かり、はやる気持ちを抑えつつも更にその先へと意識を集中させた。


 寿々の魂はきっと物質と物質の、更に意識と意識の境界にある遥か遠くの空間へと落ちて行ってしまっているだけでまだ肉体と完全に切り離されているわけではないのだと。


 そして道のりさえわかれば絶対に探し出せる自信があった。

 例えどんなところにいようとも。内側であれ、外側であれ、それこそ宇宙の彼方でさえ。

 史は寿々の存在を今では誰よりもよく知っている。

 いや、史以上に寿々の全てを知っている人などこの世に存在しないだろう。



 次第にヴィジョンはどんどんと白い世界へと変わっていった。

 どこまでも真っ白でどこまでも続く。


 深い深い・・更に奥の奥。







 寿々は真っ白な空にキラッと光る一筋の銀色の光を見た。

 それを見つけた途端に待っていて良かった。信じていて良かったと本当に心からそう思った。



「史っ!!!」



 寿々は大きな声でその光を呼んだ。



 史も遥か下で七色の光が声を掛けてきてくれたのをしっかりと聞いた。



「見つけた!!・・・・寿々さん!!!」




 二人にはお互いの姿が光としてしか見えていない。

 しかしそれでもしっかりと間違いないという確信があった。

 これだけずっとお互いの魂を呼び合っていたのだからたとえ形が違っていてもそれが絶対本人だと分からないわけがないのだ。



 寿々は一直線に駆け寄ると飛び込むようにしてその銀色の光を抱きしめた。


「史・・・・会いたかった・・・」


 史もまた七色の光の寿々を抱きしめる。


「俺もです」


 不思議な事にこの次元の狭間では史のエネルギー体への感知能力によって仮想的にだが触れる感覚がきちんとあった。しかもその声までもはっきりと認識できる。

 そして抱きしめ合うことでそのデータがより鮮明に具現化されると、まるで魔法にでもかかったかのようにお互いに姿形がしっかりとしたヴィジョンとして見えるようになったのだった。


 二人はその化学反応、いや奇跡に驚きながらお互いの顔を見つめ合う。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


 そしてもう一度抱きしめ合った。



「寿々さん・・・時間がありません」

「ああわかってる・・・」



 そう言うと寿々は深淵の子へ向き直る。


「俺は戻るよ。君は?」


 寿々が聞くと


「私は大丈夫。どの世界にも行けるしどの世界にも干渉できる。いつでもどこでも。だからまた会いにゆくよ寿々」


 深淵の子の言葉を聞くと寿々はにっこりと笑った。



 そして史へ向き直ると


「史・・。きっとこの先にアグルが待っている。でもきっと俺達ならあいつを()()()やれると思うんだ。だから俺に力を貸してくれ。そしてちゃんと解決させて一緒に帰ろう・・・」


 史は寿々のその真剣な目を見てしっかりと頷くと


「勿論です。絶対に帰りますよ!」


 そう言い、寿々を抱え自分が降りてきた道筋の銀色の光の糸をぐっと握った。


 そして史が軽く上へ飛び上がると、その糸はぐんぐんと二人を遥か上空を目指して引き上げてゆく。

 二人は風もないその空間をただひたすら上へ上へと上がり続けた。



 しかし次第に真っ白だった空間にはまるで嵐の雲の中のように暗雲が立ち込め、それは黒い霧がかかった真っ暗な空間へと変貌していった。


「・・・やっぱりここで待っていたのか・・アグル・・」


 寿々はきっとアグルは最終的には意識の出口前でどんな事があってもそれを阻止するとそう思っていた。

 絶対に寿々の魂を戻させずに、体が死んで切り離された瞬間に乗っ取るのだと。



 辺りはまるで台風のような強風が吹いている。

 史もまっすぐに上へ戻るのが大変そうだ。


「寿々さん・・・このままだと更に酷い嵐の中を通らないといけなくなります。絶対に俺から離れないよう必死にしがみついていてください!もし一度でも落とされたらもう間に合いません!!」


「ああ、わかってる!」



 と、急に二人の間を雷が横切った。


「!!」


「嘘だろ・・・次元の狭間でもこんな攻撃が出せるものなのか・・?」


 それは本当に荒れ狂った嵐の中そのものだった。

 史は一心不乱に自分の左手へと意識を集中させ魂を体へと引き戻す。

 そのスピードはどんどんと加速する。


 しかしそれを本気で阻止しようとアグルは更に二人を雷で狙い続けた。

「・・・・もう間に合わない・・・諦めろ!!!」


 そうアグルの声がしたかと思った途端

 バリバリバリバリ!!

 と空間を引き裂く轟音と共に閃光が走り史の背中に雷が直撃した。


「!!!」


 その衝撃に史は一瞬で気を失う。


「史!!史!!!」


 寿々は必死で史を起こそうと声を掛けたが、史は糸から手を離すと寿々を抱えていた右手から力が抜け二人はそのままアグルが開いた真っ暗な空間へと落ちていってしまった。



「史ぉおおおお!!!!」



 寿々は離れてゆく史が黒い霧に覆われて消えてゆくのを見た次の瞬間、どこかの地面へと激突した。


「がっ!!・・・・・・」



 ぶつかった衝撃は凄まじかったが、今の寿々はただの魂だけだ。

 この次元の狭間で仮想的な衝撃があったとしても特に痛みを感じることはなかった。


 しかし史は違う。

 史は実際の体と繋がった意識を飛ばしているのだ。

 恐らくさっきぶつかった衝撃で実際の肉体も消耗していると思われる・・・。

 寿々は心配になると急いで立ち上がり史を探した。



「史ぉぉ!!どこにいるんだぁあ!!!」



『まさか史だけ白い世界まで落ちていったとかはないよな・・・。

 ・・いやそんなわけがない。さっき最後に見たのはこの世界の霧の中だったはず』



「くそ・・・絶対に見つけないと・・!」



 寿々は荒れ狂う黒い霧の中をひたすら歩いた。

 足の下は大きな石がごつごつと転がっている。

 勿論痛くはないが、それでもこの世界でも仮想重力で地面に接している境界線はちゃんと歩いているような感覚だけはあるのだ。

 寿々は何度も転びそうになりながらもひたすら荒れ狂う霧を分けながら前へ進んだ。



 すると急に目の前の霧が一気に晴れて消えていった・・・・。



「・・・・ここは・・・」



 目の前には見覚えのある山と湖・・・そして抜けるような真っ青な空・・・。


 そこは12歳の時、祖母の廣美がアグルを神送りの儀で次元の狭間へ閉じ込めたあの恐山だった。


 寿々は湖の水際に目をやった。


「!!」


 そこには既に多量の出血をして倒れる廣美とその血の海の上で横たわる12歳の寿々がいた。


 寿々は急いで廣美へと駆け寄る。


「祖母ちゃん!!・・・・」


 寿々は廣美を抱え上げた。


「・・・・・す・・ず・・・。おめ、まだこんなとごさいたんけ・・。早ぐ・・家さけぇれ・・」


 寿々はその弱って消えてゆく魂に縋るように涙を流した。


「ごめん・・・俺・・祖母ちゃんがせっかく封じてくれたのに・・・・俺・・・・」


「・・・寿々・・・おらの代わりは・・犬っこしかいねぇ・・・。大丈夫・・あの犬はつえぇ・・・・・大丈夫・・・・」


 廣美はそれだけ言うともう二度と息を吹き返すことはなかった。


「・・・・うっ・・・う・・・・・・」


 寿々は溢れる涙を抑えきれず嗚咽を漏らした。

 しかし


「寿~々!!」


 と調子のいい声で呼ばれたかと思った途端、寿々は背後から物凄い勢いで思い切り背中を蹴られ数メートル先まで吹っ飛ばされた。


「ぐは!!・・・・」


 寿々の体はまるでゴムボールにでもなったように大きく弾み、石の上を転がる。

 痛みはないが、衝撃はちゃんとある。

 その反射的反応のせいなのか思わず苦しくなり咳が出た。


「ぐぉっほ・・ごほ・・ご・・・」


 起き上がり蹴られた方向を見るとアグルが廣美の前で不気味な笑いをして立っている。


「この・・クソババァが!ただでさえ1200年以上も待った上にさらに16年もこんな糞みてぇな場所に閉じ込めやがって!!!」


 そう叫ぶとアグルは息を引き取った廣美の頭を何度も何度も踏み潰した。


「やめろぉおお!!!」


 寿々は起き上がりアグルを止めようと突進していった。

 しかしアグルは寿々の動きを寸で交わすとそのまま寿々の脇腹を思いっきり蹴り上げた。


「!?」


 寿々の体は青い空に舞うように宙に浮かび、再び石の上に叩きつけられる。


 ドサ・・・・・


「・・・・・・」


 寿々は痛みもないのに何故かどんどんと体の動きが鈍くなっていた。


「ふふふ・・・・馬鹿だな・・・もうお前の本体が止まろうとしているというのに・・・」


 見ると自分の左手が徐々に七色の粒子になって少しずつ天へと舞い上がり始めている。


「・・・・そんな」


「持ってあと数分・・・」


 アグルは寿々の溶けてゆく粒子を目で追いながら空を仰ぎ、


「寿々・・・俺はお前の事が心底大嫌いだった・・・。皆から愛されて、皆から大切にされて・・・幸せそうに笑うお前が本当に大嫌いだった・・・。だからお前の周りをどんどん不幸にして、お前を悲しみのどん底へ突き落としてから体を奪おうとそう思った・・・。だがお前の周りにはいつも俺の邪魔をするやつらばかりだ・・・。あのババァもあの犬もあの銀髪も!!みんなお前の事を守ろうといつでも必死だ・・・・。だから俺は考えた・・・。不幸にするのではなく・・・最高の幸せをお前から奪ってやろうってな・・・」


 寿々は粒子になって消えかけている左手をぐっと握り締め立ち上がる。


「・・・そうじゃないだろ・・・アグル・・。お前はただ俺の幸せが欲しかっただけだろう・・」


「なんだと?」


「お前のその心は・・・確かに鬼神の報われない魂そのものだ。・・・でも肉体は俺の消えた兄の血肉の中へと入っていた。・・・だから確かにお前鬼神なんだろうけど・・・と同時に俺の双子の兄でもあるんだ。・・・・・生まれて来れなかった悲しみと。俺だけ幸せなのが許せない気持ちが何よりもその証拠だ」


「ふふふ・・・戯れ言が・・。俺がお前の幸せを羨んでいるとでも言うのか!!!」


「そうだ!・・・この5ヵ月間、俺が死にそうになった事なんて何度もあった。でもお前はあえて時を待った。ひたすら待った。俺がもっともっと幸せになるのを・・・」


「黙れ!!!」


 アグルが大声を上げると再び黒い霧が一気に吹き荒れ寿々を襲った。


「・・・・!」


「寿々・・お前の戯言などどうでもいい。あと3分・・・俺は先に上に行く・・・お前はここで消えて無くなれ」


「アグル!!・・お前が俺の体を奪ってもお前は幸せにはなれない!!お前の幸せはそこにはない!」


 アグルは黒い煙を纏い上空の嵐の中心へと吸い込まれるようにして消えていった。


『・・・く・・・どうすれば・・』


 寿々は荒れ狂う嵐の中、消えゆく自分の左手を見た。

 そこにはもう左手は無かった。


「・・・・・史・・・」


 寿々は失われた左手を抱えながら嵐の中、その時が来るのを一人怯えていた。



『もう間に合わない・・・』


 

 寿々は最後の力を振り絞って名前を呼んだ。

「史ぉぉおおおお!!!!」

 


 すると嵐の間から切れ目が出来て途端に銀色の光がその黒い霧を浄化してゆく。

「寿々さん!!!!」


 その隙間から雷に撃たれてボロボロになった史が精一杯手を伸ばし寿々の左手を掴む・・。が寿々の失われた左手を掴む事が出来ず史の手は宙を掴む・・・・


 寿々の魂は急激に粒子となって消えていき、既に肘までがなくなっていた。

「・・・ぁあ・・・」


 しかし史はもう一度寿々に手を伸ばし


「ぜったいにぃ・・逝かせないぃっ!!!!」

 そう叫びながら寿々の肩を掴むと力一杯体ごと引き寄せた。



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