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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
白狐怪奇譚・最終章

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第3話 吉乃

 誘拐され白菱稲荷神社の座敷牢に入れられている寿々(すず)の目の前に、とても人間とは思えない赤黒く光る瞳で睨みつけてくる(ふひと)の祖母、(はだ)吉乃(よしの)が立ちはだかっていた。


 その瞳・・いや全てが秦家の誰よりも禍々しく、小柄でありながらもその存在はまさしく畏怖そのものだった。


 目の前の吉乃は先ほど境内を祓った史の浄化の影響を全く受けていない様子で、ゆっくりと座敷牢へと近づく・・・



「・・・・あなた・・。どうしてあの犬畜生と一緒に暮らしてなんていられるのかしら・・」



 吉乃は寿々をまるで汚物でも見るような目で袖で顔を覆い、侮蔑しながら座敷牢の外をゆっくりと移動する。


「犬畜生・・・・。なぜそう思うんですか・・」


 寿々は腹の内から込み上がる恐怖を悟られないよう、必死に吉乃から目を離さずじっと見つめ返し質問した。

 すると吉乃は開けられた扉を潜って座敷牢へと入ってきた。


 寿々も身の危険を感じ自ずと後ずさりする。


「・・・なぜ?・・・アレは狼と狐の子・・・もはやただの()



『狼・・?史の母親が・・?』


 吉乃は何がしたいのか分からないが、寿々と一定の距離を保ちながらも畳をスリ足で歩きながら座敷牢を回るように移動し続ける。


「たとえ史が・・・犬だとして。何がいけないのでしょうか・・。血筋の話しをしているのは分かります。しかし純粋に力だけならば秦家の人達より史の方が上回っているのではないでしょうか・・」


 寿々は史を見下されたあまり思わず吉乃に言ってしまった。


 すると吉乃は次第にワナワナと震え、寿々をより鋭い顔で睨み返した瞬間に寿々の左後ろで開かれた座敷牢の扉がバタン!!という音と共に勢い良く閉まった。


「!!」


 吉乃の目が更に赤く赤く光り出す。

 寿々は座敷牢の扉を力一杯揺すった。


『くそ!!扉が開かない!!』



「穢れた混種が・・我ら眷属より力が上だと・・・?たわけた事をっ!!」


 吉乃が叫ぶと座敷牢を物凄い風圧が襲った。


「!!」


 それは吉乃から放たれた邪気の波動。

 その段違いの呪力。史が祓で境内を一掃させたはずなのにやはり何故だか吉乃だけはその強大な呪力故に影響を全く受けていなかった。


 寿々は風圧から身を護るように構えていた両手をすこしだけ下し、目を開け吉乃を見た途端真っ赤に光る吉乃の瞳に睨まれ体が動かなくなった。


「!!?」


 そしてそのまま後ろの木製の格子に思いっきり打ち付けられると念動作用で首を絞められ宙に浮かされた。


「ぐがが・・・が・・・」


 先ほど迦音(かなん)にも人形を介して首を絞められている。

 寿々は下手すればこのまま本当に脳の方がどうかしてしまいそうだった。


 宙に浮いたまま足をバタつかせ苦しみもがいていると。

 背後から勢い良く、ダダダダダ!!と階段を下りて誰かが駆けつける音がした。


「やめろっ!!!」


 そう叫ぶと史は走りながら右脇あたりで両手を打ち、座敷牢の中にいる吉乃めがけて〝祓〟の波動を床に勢いよく打ち付けた!


 ゴォォォオオオ!!!


 という音と共に銀色の波動は一瞬にして床を走り吉乃に命中する。


「!!」



「・・がっ・・・」


 吉乃の念動作用から解放された寿々は畳の上に落下し頭を強く打った。

 と同時に寿々の金縁の眼鏡が勢いよく吹っ飛んだ。


「寿々さん!!」


 史は木の格子越しに寿々に駆け寄る。


「・・う・・・・・」


 寿々は本気で意識が途切れそうだった。

 顔は真っ赤で目をむき出しにし、解放されても息がまともに出来ない。

 頭を打ったせいもあるかもしれない。その目線は一生懸命史を追うように彷徨うも全くそれを捉える事もできなかった。



「――――っっ!!!」



 その姿に史から声にならない酷い叫び声がこぼれる。

 そして突如暴走させた呪力を抑えきれず叫びながら左手を太い木製の格子へと叩きつけた!


「っぐぁあああああああああああ!!!!」


 バキバキバキバキ!!

 と壮絶な音と共に太い座敷牢の格子がバラバラに破壊された。


「・・はぁ・・はぁ・・・。寿々さん!!!」


 史は倒れた寿々を抱え上げる。

 史の左手は全ての爪が剥げ、薬指は折れ曲がり酷く傷ついていた。


「―――っは!」


 そこでようやく寿々はまともに息を吸えるようになった。


「・・・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」


 青ざめていた寿々の顔が次第に赤みを帯び少しだけ元に戻ったような気がした。



「・・ケケケケ・・・この犬畜生めぇ・・・どこまでもどこまでもふざけやがってぇぇえ・・・!!」



 吉乃の赤い瞳が再びピカッと光ると史へ向けて鋭い呪力の矢が何本も襲い掛かる!


「!!」


 しかし史は右手を突き出しその矢を銀色の波動で全て弾き飛ばした。



「・・・忌々しい・・実に忌々しいぃぃぃいい・・・!!!」


 吉乃の顔はもはや人間でも狐でもなかった。

 その形相はこの世のものではない恐ろしい獣そのものだった。



 史はその吉乃の姿に驚きもせずただやるせない気持ちと・・そしてこうなれば本気でやらなければならない・・。

 とその覚悟を決めた。


『・・・もやはあれは人間じゃない・・・。もうあんなのどうやったって救えやしない。無理だ』



 史は寿々を抱えると急いで後ずさりをし、一気に飛び退くと部屋の入口の通路へ寿々を寝かせた。


「すぐに終わらせます・・・」


 そう言って史が立ち上がろうとすると、その右手をほぼ意識が飛びかけていた寿々が握りしめた。


「・・・・?」


「・・だめだ・・・。絶対に救わなきゃ・・。俺はお前にそんな事を絶対にさせたくない・・。お前はそんな責任を負わなくていい・・」


 寿々にそう言われて史は決意した心が揺れる。

 しかし・・・


「・・ここで待っていてください」


 それだけ言うと少しだけ寂しそうに笑い、史はすぐに吉乃へと向かい歩いて行ってしまった。


「・・・史・・・頼むから・・・!」


 寿々のその嗄れた声は史の耳へは届いていなかった。





 獣と化した吉乃は、天に向けてまるで遠吠えのような大声で鳴き声を上げた。


「ぎゃぁぁああああああああああぅぅう!!!」


 そして四つん這いになり髪を振り乱し赤く光る眼で呪力を燃やした黒炎を口いっぱいに溜め込む。

 ジリジリと間合いを詰めると一気に黒炎を吐き出し飛ばしてきた。


「!!」


 史は初手をかわすと2発目は祓の波動で打ち消す。

 しかしその後は燃えた鎖のような炎を打ち出して来たため避けられず、その黒炎が史の右脚に思いっきりヒットした。


「ぐぁあ!!」


 その衝撃はまるで脚に熱した油を浴びたのではないかと思うほどの激痛だ。


 呪力の炎は実際に熱を帯びているわけではないが、触れたもの全てにそれと同様の反応を与える。

 それは人だけでなく実際に畳も触れた部分は即座に焼け焦げた。


 史は急いで起き上がると黒炎に炙られた右脚を引きずりながら〝祓〟を打ち出す。


 再び吉乃へ向けて地を這う波動が襲い掛かる。

 しかし先ほどと同様に吉乃に当たった波動はそのまま銀色の光を辺りに散らばらせただけで祓自体は全く効果がなかった。



『なぜだ・・なぜ祓・・浄化が効かないんだ・・・』


 史はこうなるともう打つ手が何もなかった。

 呪力のそのほとんどを祓へと変換させてしまっていたし、どのみちもう力などほぼ残ってもいない。



 そして痛めた右脚を引きずりながら数歩後ろに下がる。


 すぐ後ろを見るとそこには寿々が横たわっている。

 これ以上は下がれない。


「こうなれば・・もう逆しかないか・・」


 史は手をゆっくりと合わせると今度は祓の力を少しだけ呪力の方へと戻した。

 それでももう呪力もほとんど残ってない。

 既に意識を保っているのさえ奇跡に近かった。


 残り一回しかその力を使う事はできなそうだ。

 史はどの攻撃が一番効果的なのか見定めようと喚き唸る吉乃をもう一度良く見た。


『火であればその逆の水・・・・しかしそんなイメージの攻撃の仕方を俺は知らない・・』



 史が今使えるパターンは呪力の透視、重力、念動作用(テレキネシス)、そして祓の木、火、金。

 しかし祓のイメージを呪力に乗せられても風や炎では吉乃の黒炎には敵いそうにない。


『もっと違うイメージがあれば・・・』


 そう思い瞼をぐっと閉じたがその時間は全く無かった。


「ぎゃぁあああああおおおおおぅぅぅう!!!」


 再び吉乃は鳴き声を上げると次の瞬間史に目掛けて真っすぐに突進してきた!


『だめだ・・!間に合わない!!』


 そう思いながら史は左手を前に掲げ思い切り吉乃の首を目掛けて念力を飛ばした。


「ぎゃん!!」


 勢いで止められた吉乃の体が数メートル先で宙に舞うように跳ね、そのまま首だけ史に握り締められている。


「・・・・・・・く・・」


 しかし史は吉乃の呪力に敵うわけもなく押さえている左手を震わせ、すぐに力が入らなくなってきていた。


「ぐ・・・ぐっぐぐ・・・」


 史の左手から血がボタボタと畳の上に落ちる。

 爪が剥がれた指先からは出血が止まらない、指は全て負傷しもはや力の限界だった。




 寿々はすぐ後ろでその史の背中を見つめ、手を伸ばした。


「・・・・史・・・」


『・・あぁ、今すぐあいつの隣に行って助けてやりたい・・。俺は本当に何もできない・・。いつも守られてばかりで・・・。こんな時でさえ足手まといで・・・。俺にも・・・俺にも何か出来ることが・・・・あるはずだろ・・!!』


 そう強く思う寿々は次第に意識が薄れ、何かに引っ張られるように・・いや落ちるように・・。視界に七色の閃光が走るとそのまま真っ白な世界へと向かって行った。




『・・・・・・・・・』




 ふと目を開くと目の前は何も無い真っ白な世界。



 寿々は辺りを見回したがそこには何も見当たらず、ただひたすら白いだけの空間が広がっていた。



「・・・ここは・・・」



 しかしどこからか微かに誰かの声が聞こえたような気がした。



「・・・・うぅっぐ・・・・・う・・ぅ・・・・・」



『・・・誰だろう・・・泣き声?・・・・子供の・・・』



 寿々は真っ白な世界を歩き、その泣き声のする方へ歩いた。

 すると目の前にどこから続いているのかわからないほど遥か高い虚空から大きな白いベールが掛けられ目の前を塞いでいるのが分かった。


 寿々はその絹のように白く柔らかなベールをそっと開け、その泣き声のする世界へと入ってゆく。


「・・・うぅ・・うっぐ・・・」


 そこは先ほどまで自分が入っていた座敷牢の中だった。

 しかし座敷牢は先ほど史が壊してしまっているので、今見ているのは別の次元だと直感的に思った。



 畳の上で銀髪の小さな子供が一人伏せながら泣いていた・・。



『史・・・』



 寿々はそれが子供の頃の史だとすぐに分かった。

 急いでその泣く子供に駆け寄り、背中に手を当てようと差し伸べる。

 しかし寿々の手は七色に光り輝くだけで史の体には触れる事ができずそのまま畳の上までストンと抜け落ちてしまった。


『・・・そんな触れる事も・・・話す事も出来ないのか俺・・・』



 寿々は自分の体がまるで幽霊になってしまったかのようにこの世界に干渉できない事を知ると、途端に悲しくなってきた。


 目の前で泣きじゃくる史の体は暗くてはっきりとは分からないが、体中どこも痣だらけだ。

 きっとあの祖母に酷い仕打ちを受けたのだろう。


 寿々はすぐにでも史を抱きしめてやりたかった。

 しかしそれすら叶わない。

 叶わなかったとしても触れずにはいられなかった。


 寿々は全く干渉ができないまま史の頭を何度も撫でた。

 すると史がふと泣き止み、ゆっくりと頭を上げると不思議そうに周りを見渡す。


『・・・良かった』


 そう思うと更にキョロキョロと周りを見ながら。


「・・・・誰?」


 と呟いた。

 寿々はすぐにでも『俺だよ・・寿々だよ』と伝えてやりたかったが、声が出て来ない。

 今の寿々は人間ではなくただの記憶を持ったエネルギー体そのものでしかなかった。


 暫くすると子供の史は泣き止んだものの、再び悲しそうな顔をして膝を抱え頭を垂れた。

 そしてそのまま膝に伏せると


「・・誰か・・・助けて・・・」


 絞り出すように声をあげた。


『史・・・!!』


 寿々はその無力さが悔しくて次元の境界線上にある畳に手をついたままぐっと爪を立てるように引っ掻いた。

『?』


 とその時史の言葉が頭の中に蘇ってきた。



 〝最初は所謂イマジナリーフレンドみたいなのかと思っていたのですが、どうも違うんです。話しかけても来ないし姿形も見えない。でも時々こう畳をトントンと叩くと向こうも同じようにトントンと優しく叩きかえしてくれる。俺はその目に見えない存在に本当に助けられました・・・・〟



『そうか・・・・・・』


 それに気づいた寿々は右手を軽く握ると、優しく畳を2回ノックした。



 〝トン・・トン・・・・〟



「!!」


 史はバッと顔を上げて真っ赤な目を見開きもう一度当たりを見渡す。



「・・・やっぱり、誰か・・いるの・・?」



 史は怖がる様子もなくただ嬉しそうにそう聞いてきた。


 寿々は流れ出てこない涙を流しながら大きく何度も頷いた。


『ああ・・すぐそばにいるよ・・』


 そう思いながら再び2回ノックをする。


 〝トン・・トン・・・・〟


 すると史も嬉しそうにゆっくりと床を叩く。


 トン・・トン・・・・



 〝トン・・トン・・・・〟



 寿々のノックは実際には聞こえる音ではなかった。

 世界に干渉していないのだ。

 物理的な音はそこには存在しない。


 しかし史にはエネルギ―の流れを感覚で受け取れる能力があった。

 それはいずれ透視の能力へと発展する為の小さな一歩でもあった。



 史が少しだけ安心したような顔になると、寿々も思わず嬉しくなり気が緩んでしまい。

 と同時にまた七色の閃光が視界を走り始める。


『あ・・・』


 次第にその世界が歪み引き延ばされ、再び別の世界へと引っ張られ始めたのが分かった。



『史・・・。また・・・絶対にまた来るから・・・待ってろよ・・・!!』



 と寿々は真っ白な世界へと引っ張られたかと思うと



 ・・・次に瞬間には元の世界へと戻ってきていた。

 しかしその姿はまだエネルギー体のままだ。


 暴れる吉乃の首を念動作用(テレキネシス)で掴み続け、もう限界で手を離そうとした史に寿々は背後から必死に駆け寄る。


 『史!!』

 そしてその左手にそっと寄り添うと抱えるようにして一緒になって支えた。


「!!?」


 史は自分の左手が急に楽になり物凄いエネルギーがどんどんと体の中に入ってくるのを感じ、一体何が起きているのか分からなかったが、左手にしがみ付く七色に発光するその人影を見てすぐにそれが寿々だと気づいた。


「寿々さん!?なんで・・・」


 七色に光る寿々は言葉を発しない。

 ただ何となく笑っている、そんなような気がした。



 そして数秒間その光が史に触れていたかと思うと、なんと負傷していた左手の傷口も剥がれた爪も右脚の火傷もまるで魔法をかけられたかのように瞬時に回復していった。



 それは史が寿々を守る為に呪力や祓を習得したのと同じ理由で、寿々は史と一緒にいる事で自分の生命エネルギーを消費し自分は勿論、史にもその力を分け与え急速に癒す力を自ずと手に入れていたからだ。

 だからダーラナホースを握り締め、史を思い出すことで刺された傷を早く回復させる事もできたし。史のヒビの入った左手も本当は何度も悪化させていたのにも拘わらず、回復がそれ以上に早かったのは全て寿々の力のおかげだったのだ。


 寿々は自分の体から抜け出し、この幽体とも言える体になってみて初めてそれに気付いた。



 史は失っていた力が一気に戻ってくると立ち上がり、一度吉乃の首を手から離す。



「ぐえぇええええ・・・!!」



 吉乃はその場に倒れ込み首を抑え苦しそうにのたうち回った。


 史は再び手をパシンッ!!と合わせる。


 七色に光る寿々は史のすぐ後ろにまるで守護霊のように寄り添った。


『不思議だ・・・寿々さんに回復してもらった瞬間から本当の意味での〝浄化〟のイメージが俺の中へ伝わってきた。そんな気がする・・・』


 史は今まで空間の中の邪気そのものを吹き飛ばす。そういうイメージでその場を浄化していた。

 しかし寿々からもらったイメージは吹き飛ばすのではなく完全に癒すイメージだ。

 失ったもの。欠けたものを思い出させ、そしてその記憶を記録を取り戻そうと自ら呼び起こす気を注ぎ込む。まるで大地に降り注ぐ恵みの雨のような癒し。

 そこには〝浄化〟の文字通り〝水〟の要素が含まれていた。



 吉乃は再びのろりと立ち上がると大きく口を開け気を吸い込み、その口いっぱいに黒い邪気の炎を轟々と音を立て燃やした。


「ぐぅぅぅ!!・・・これで最後じゃ!!お前ら共々焼き尽くしてやるぅぅうっ!!!!」




 史はゆっくりと目を開くと、その瞳を美しい銀色に光らせ。

 そして囁くように祝詞を唱えた。



「・・・諸々の禍事(まがごと)、罪、穢れ、有らんをば・・・祓え給い清め給えと(もう)す事を・・聞こし()せと(かしこ)み恐み白す・・!!」



 祝詞が終わると同時に吉乃の燃やした黒炎が勢い良く史に向かって吐き出された!

 それを見た史は波動を溜め込んだ右手をグッと握るとそのまま床に向かって打ちつけた!


 史の目の前にまるで壁のように天井まで膨れ上がった浄化の大波が出現したかと思うとそのまま轟音を立て吉乃へと襲い掛かった。



「!!!な・・んじゃと・・」


 その波は吐き出した黒炎を消し去らい、ドドドドドド!!という音と共に吉乃を飲み込む。



「が・・・はっ!!―――――っ!!!ぐ・・ごごおご・・・・・く・・る・・・・し・・・」



 部屋中をまるで荒れた大海のごとく浄化の波が暴れまくり、1000年以上にも及ぶ秦家の穢れた呪いを全て根こそぎ祓い落としていった。

 そしてもがき苦しむ吉乃の口から吐き出されたそれは、9本の尾を持った白狐であった。


 秦の家が大陸から持ち込み、そしてずっと大切に崇め奉っていたその正体。秦の当主の身に巣くわせ代々受け継がれてきたのは天狐、つまり九尾の狐だ。

 元は瑞獣として神聖な存在であった天狐も、時代が進むにつれてその存在は人を惑わす悪しき存在へと伝え変えられ、その姿はどんどんと醜く変貌させられていった。

 やがて追われた天狐は中国から逃げ出し日本へと渡り、再び神の使いへと昇格する為に姿形を隠し人々からの祈りを糧にこの白菱稲荷神社で1000年以上の時を経て来たのだ。


 しかしその裏では一度喰った怨念を簡単に拭いきる事は出来ず、この地へ来てからも天狐は秦の当主の身に巣食いながら呪力を絶やさぬよう一族へと連鎖する負の呪いをかけ続けた・・・・。




 穢れた瑞獣が吐き出されると、荒れた浄化の海はぴたりとその動きを止め、天に舞うように消え。

 そして天狐も光と共にその身を一瞬だけ白く煌々と輝かせたかと思うと、そのまま銀色の粒子へと姿を変え、同じように天へと舞い消えていった。






 先ほどまで史の後ろにいたはずの寿々の幽体は、浄化が消えると共にふっとその存在を消していた。

 それに気づくと史は急いで引き戸の外に横たわらせた寿々のもとへと戻り



「寿々さん!!寿々さん!!・・・」



 寿々の体を起こし、懸命に呼びかける。


『頼むから無事もとに戻っていてくれ・・!』


 すると寿々の瞼がゆっくりと開く。


「・・・・史・・」


 寿々の瞳はまだどことなく虚ろだったが、それでもしっかりと史の瞳を見つめ返してくれた。


「・・よかった・・・・・」

 史はそのまま寿々を引き寄せ、安堵するように抱きしめた。



 気づくと階段から駆け下りるように一人の男が降りてきていた。

 それは公子の夫真之(さねゆき)だ。


「・・・・史君・・・。か・・迦音(かなん)は・・・」


 真之は少しどもりのある喋りで史を見るとすぐに部屋の中へと入り、一番奥で倒れている迦音へと駆け寄った。


「迦音!・・迦音!!しっかりしなさい!!」


 真之が声を掛けると迦音もゆっくりとだが、目を覚ます。


「お父さん・・・」


 一言だけ確認するように言うと、真之は目に涙を溜め


「良かった・・・」


 と声を掛けた。そして

「お義母さんを・・」


 そう言いその次に倒れた吉乃のそばに行くと、鼻と脈を確認し

「・・ちゃ・・ちゃんと息もしている。・・・はぁ・・・」


 真之は本当に良かったと言わんばかりにその場にへたり込んだ。




 史はこの後の事はもう全て真之に任せようとそう思った。

 警察沙汰にするのもしないのも全部あの人に決めてもらおうと。


 何故ならば今はもう寿々さえ無事でいてくれればそれで良かったからだ。

 目が覚めた寿々を史は抱えながら優しく見つめた。



「寿々さんが助けてくれたおかげで全て片が付きました・・・。全部あなたのおかげです・・」


 そう言うと寿々は弱々しく口元だけ笑い


「・・・さっき子供の頃のお前に会ってきた・・・」


「!」


「・・あれは俺だった。・・・・お前が言っていた()()()・・・あれは、俺だ」



 史は勿論驚きもしたが、やはり自分を子供の頃から救って見守っていてくれた存在が本当に寿々だったのだと思うともう嬉しさしかなかった。



「・・・そうだと思っていました」







 その後吉乃は念のため救急車で病院へ運ばれていったが、真之の話では症状は特に酷くもなくただの過労という事で1週間程の療養で退院できると翌朝の連絡で知った。

 今回の事に関してはまだ何も話したくはないらしく、今後の秦家の事に関してはまるで未知の領域だ。

 これからも変わらず負の連鎖を繰り返し呪力の習慣に依存するのか・・・。それとも心新たに普通の家と変わりなく過ごすようになるのか。それはまだ誰にも分からない。

 ただ史にとって、秦家との因縁はこれで全て断ち切れたのは間違いなかった。

 例えこれからも同じような事をして来ようとしても、もう史には秦家の負の連鎖を恐れる事など一つもなかったからだ。


 迦音は真之に自首したいと言っていたが、それに関しては寿々の「お願いだからしないで欲しい」という希望を尊重し見送られる事となった。

 それゆえに迦音は自責の念を抱えながらこれからも過ごす事となるだろう。しかし寿々はそれを乗り越えるだけで充分贖罪になるとそう言っていた。






 逗子からの帰りの電車の中。

 寿々は史から借りたジャケットを羽織り、二人は人の少ない始発電車の中寄り添いながら


「・・・・俺の霊視も霊媒も、お前の呪力も祓も・・・みんな必然だったんだな」


「そうですね・・・。前にシンディさんが運命というのは自分がどうしたいか、とは関係ない。それは必ず起こる事だから・・・と言っていましたが。俺はその時は本当にそうか?と正直信じていませんでした。でも俺はこうやって寿々さんと過ごしながら、やはり運命はあらゆる方向に開かれてはいるけれど、ある一定の分岐を過ぎた後の道筋はまるで導かれるように必然的に向かってゆくものなのだな。とそう感じています。シンディさんはそれを糸で例えていました。無理矢理糸を引き寄せるという事は他の糸、つまり他の誰かの糸も絡んで引き寄せてしまう・・と。つまりはその糸は人の運命そのもの。糸と糸が絡んで複雑に絡まり合い。しかもそれは決して平面的ではなくあらゆる方向へと絡まりながらしかし皆同じ方向へと進んでいる・・・」


 寿々は史の肩にもたれながらその話を嬉しそうに聞いている。


「糸が複雑に絡まれば絡まるほどあらゆる方向へと引っ張られ、複雑さが増せばそれは自ずと捻じれ脆くなり切れてしまう・・・・と。確かにたった一本の糸ならば絶対にそうなると思います。・・・・でもそれが少なくても2本の撚られた糸だったら・・」


 史は決して笑う事なくそう話すと寿々は


「・・・・・・まるでプロポーズみたいな話するじゃん」


 とまだ気だるそうな顔を薄っすら赤くして答えると


「ま、そんなような話です」


 史は茶化しはしないものの、本気とも冗談とも取れそうな口調でそう返した。


 寿々は少しだけ眠くなり薄っすらと遠のく意識の中で


「・・・そうなれるといいな」


 と小さな声で答えた。


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