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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
日日譚【アガルタ編集の日常】最終章

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秦史 【4月初旬】

 4月3日



 その日は(ふひと)の19歳の誕生日であり、人生で初めて誰かにちゃんと祝ってもらった記念すべき日でもあった。


 寿々(すず)は近所のケーキ屋で甘さ控えめで、と頼んだいちご多めのシンプルなショートケーキに立てた19本のロウソクに火をつけるとリビングの電気を消した。


「・・・皆こんな恥ずかしいイベントを何年も熟してきているんですね・・」


 と史はめちゃくちゃ恥ずかしそうに手で顔を隠し、ロウソクを吹き消すのを躊躇う。


「何なら歌おうか?」


 と寿々が言うものだから


「それだけは絶対にやめてください」


 史は真顔で断固拒否した。

 そして躊躇い続けても仕方ないのでそのロウソクを思いっきり吹き消すと、寿々が思わず拍手で


「誕生日おめでとう!」


 と隣で笑顔で祝ってくれるものだからあまりの嬉しさに感無量になり


「ありがとうございます・・」


 と顔を真っ赤にさせ少し俯きながら恥ずかしそうに答えた。

 寿々は電気をつけると


「ちゃんとロウソク消す時に願い事言ったか?」


 と確認するので史は思わず


「・・もう願い事は叶ってるんですよね・・」


 と更に恥ずかしそうに素直に答えたが


「そんなもっと欲だせよ?もっと願ってもいいんだぞ?若いんだから」


 などと言うものだから


「じゃあ今すぐベッド行きましょう」


 と真顔で言うので流石に寿々も


「あのなぁ・・。性欲以外の話しをしてるんだよ俺は・・」


 呆れながらも寿々まで顔を赤くさせる。


 史は冗談めいた笑顔から向き直ると

「寿々さん。2日前と同じ事を言いますが」そのまま寿々の手を取り指を絡ませ強く握り


「・・・・好きです。俺と付き合ってください」


 としっかりと目を見つめて3度目の告白をした。

 史の透き通る銀色の瞳に魅せられ、寿々はその視線から目を逸らす事も出来ず


「・・・・はい」


 とやや照れながらも笑顔で返事を返すと史は嬉しそうに寿々にキスをした。




 基本食にこだわりのない史ではあったが、引っ越しをしてからここ1ヵ月は料理初心者という事もあり、さらに寿々の食生活に合わせて肉や魚をほとんど食べてなかったのでこの前久しぶりに食べたリブステーキの弁当が物凄く美味しく感じたらしく。

 寿々もこれからはもっと意識的に史に肉魚を食べさせないと、と思いその日はとにかくステーキやらフィッシュアンドチップスやらサーモンロールやら普段は頼まないメニューばかり選んで頼んだ。


 史はそれを存外美味しそうにガツガツと食べるものだから寿々も思わず


「・・なんか・・普段からさ、俺の食事に合わせすぎないでもっと自分が食べたい物買っていいんだからな・・」


 と本気で申し訳なく感じてしまった。


「あー・・でも普段はそんなに食いたいってわけでもないし。本当に時々無性に食べたくなる程度で。でも食べたくなったらそうしますのでそんなに心配しないでください。元々実家の時も自分で適当に鶏むね肉と卵を茹でて食っていて、別にそこまで足らないと思った事はなかったので」


「なんかボティビルダーみたいだな・・」


「もう簡単に摂れるタンパク質があればそれでいいんだと思ってたので本当に気にしなかったんですよ。逆に寿々さんと過ごすようになってからの方が俺何でも食えるんだなって色々と分かったので。しかも料理もするようにもなったので、なんか今人生で一番健康的な気がします」


 と笑って返した。


『これは俺が気をつけて意識的に食わせるか、俺も頑張って何かしらの肉や魚を克服した方がいいのかもしれないな・・・』


 と思い、自分が食べる用に頼んだわけではなかったサーモンロールを意を決して食べてみた。


「え・・・大丈夫なんですか?」


 史も思わず何をいきなりしだしたのかと驚くと


「・・・・・・・んーーー・・。まぁ食えなくはないって感じ。勿論サーモンくらい食ったことあるけど。どうも魚は生臭さが苦手で・・。でもまぁ。魚くらいは俺も食えるようになりたい・・。だから臭みが少なそうなサーモン・・いや鮭・・フレークあたりから克服してみるか・・」


「鮭フレーク・・・・・」


 と史は思わず笑ってしまった。




 食後は寿々が全て片づけを済ませ、史は風呂の準備やらをしているとあっという間に夜の10時を過ぎていた。


「そう言えば先週頼んだベッドが明日来るんだけどさ」


 とキッチンの電気を消しながら寿々はリビングに戻ってきた史に話しかける。


「明日の何時ごろですか?」


「引き取りもあるからなるべく午前中に届けば明日から使えると思ったんだけど。早かったかな」


「・・・・・午前中」


 史は今夜のこれからの事を考えれば、もしかしなくても明日の午前中に寿々が起きる可能性は低いのでは・・・と本気で心配したが。


『・・・まあ・・とりあえず俺が起こせばいいか・・。起きるといいんだけど・・』


 と多少不安ではあったがその時はそれほど気にもしていなかった・・・。





 翌日



 ピンポーン・・・。


 というチャイム音で史はハッとして飛び起きた。


「やば・・・今何時!!」


 スマホを確認すると時間は10時半を超えている。


 昨日の夜は今までの比でない程長い間行為に耽り、結局二人共明け方近くにくたばるようにそのまま眠ってしまったものだから身支度は勿論、部屋の中も最悪な状態だ。


「寿々さん!!起きて下さい!!」


「うぅ~ん・・・・・」

 急いで寿々を起こすも、寿々はまだ寝ぼけておりすぐに起きてくれそうもない。


 史は更に慌てるものの、とりあえず着るものを着てサイドチェストの上に散らばったものを引き出しに押し込み。

 更にゴミ箱を移動させる為に勢いよくパーテーションを開くとそのまま自室へと投げ込んだ。


 すると再び

 ピンポーン

 とチャイム音が鳴る。


 流石にそろそろ応答しないと荷物を持って行かれてしまうと思い、史はもう一度寝室へ戻ると窓を全開にしてから

「寿々さん!早く!!」


 と耳もとで声を掛ける。


 そして、良くはないが一先ずこれでいいか・・と思い

「・・・はい」

 と汗を拭いながら玄関の扉を開けた。



「・・・・・なんで・・お前がここにおるんや・・・・」


 とそこには顔面蒼白な寿々の義弟、颯太(そうた)が立ち尽くしていた。


「・・・・・・・」


 史もその状況を飲み込めず。

 急いで扉を閉めようとしたところを颯太は扉に足をガッと踏み入れ


「おま・・・っほんまふざけるんじゃねぇえぞぉぉお!!」


 とブチ切れ状態で部屋の中に入って来そうだったので史は扉を開けさせないように颯太を押しつぶす勢いで全力で引き戻した。


『ちょ・・何でいきなり颯太さんが来てんだ!!配送業者じゃなかったのかよ・・俺聞いてないし!てか寿々さんまだ起きないの!?まじでヤバいって!!!』


 と力の限り押し合いをしていると寝室のパーテーションを開け、寿々がTシャツを着ながら廊下に出て来て


「・・あれ?ベッド届いたのか?」


 などと言うものだから史は顔を青ざめながら無言で必死に首を横に振った。


「?」


 そこで眼鏡を掛けながら扉を見ると、まるでシャイニングのジャック・ニコルソン状態の颯太と目が合った。


「うぁわぁあああああ!!!」


 寿々は悲鳴を上げて奥の史の部屋へと一目散に飛び込んで行ってしまった。

 その時点で史は全てを諦めドア抑えるのも止め玄関の壁にもたれ掛かかる。


 すると颯太はドアを壊す勢いでこじ開け中へと押し入り、その勢いで史に思いっきり殴りかかった!

 が、史も殴られるのは違うと反射的にそう思ったのか颯太の拳を寸で受け止めた。


「・・寿々となにしたんやゴラァ!!ちゃんと言えや!!」


 颯太は拳の力を緩める事なくもう片方の手で史の胸倉を掴む。しかしその手も史は抑え込み。


「・・・そんな事話す必要ないですよね・・」


 と本気で睨み返す。

 颯太は流石元高校球児と言わんばかりの力がある。

 しかし史も馬鹿力だけは負けはしない。


「話す必要ならあるやろがこんボケカス!誰の家族やと思っとんねん・・・!」


 と次に膝で股間を狙って来そうだったので史も流石に本気で力を込め颯太の殴りかかってきた右手をそのままぐいっと力一杯内側へ捻り込んだ。


「あだだだだ!!!」


 颯太は思わず捻られた方向へと体を傾けた。

 史はこんな狭い玄関先で大の大人を捻じ伏せてしまったが。


「あの・・とりあえず話しますか?それとも帰ります?」


 と聞くと颯太はそのまま玄関先に塞ぎ込み


「・・・何でや・・・何でなんや・・・」


 とあまりのショックで暫くその場から起き上がれそうになかった。





 その後寿々も史の部屋から出て来て、何故か寿々と史は床に正座をさせられ。

 目の前のソファに座る颯太は見るからにイライラが凄まじかった。



「・・・くっそ・・。何でや寿々・・・。何で俺じゃあかんのや・・・」


 そう言うと本気で悔しそうに頭を垂れさせる。


「いやいや。もうそれは最初からずっと言ってるだろ。お前は家族。それ以外にはなり得ないんだって!」


「俺がどれだけ寿々の事を好きで何回告白して何年間こうして片思いしてると思っとんねん・・」


「真面目な話、年数も回数も関係ないから!お前の事をそういう風に見た事は一度もないんだって」


「じゃあなんでこいつはええんや!?」


 史はいきなり指でさされ思わず嫌そうに眉を寄せる。


「だからさ・・・それお前にいちいち説明する必要ないだろう・・」


「いいやある!家族にちゃんと説明できないような奴と・・その・・付きおうとるなんて絶対におかしいやろ!!」


「わかったよ。じゃあ全部答えるから全部聞けよ」


 流石の寿々も切れかかって腕組みをして堂々と反論した。


「・・いつからや・・いつから付きおうとるんや・・・」


「3日前」


「3日ぁあ??」


「じゃあこいつを好きになったんはいつからや!」


「・・・それは・・・」


 史も思わずその質問の答えは聞きたいと思い期待してしまった。


「・・・わからない。生意気だし素直じゃないしムカつく事も沢山あったけど思えば最初から嫌いじゃなかった」


「・・・・・・」


 寿々のその言葉を聞いて史は思わず照れてしまった。

 しかしすぐに颯太に睨まれ


「おいそこニヤついてんな・・」

 と本気で凄まれた。


「なぁ寿々・・・ほんま頭大丈夫なんか?こいつまだ10代なんやろ?」


「昨日19になっている」


「19かて寿々からしたら10っ個も下やぞ?ほんまにそんなガキと付きおうて自分まともやと思うってんか?」


「まともだとは思ってない。初めからずっとどうかしてるとは思っている」


 寿々は腕組みをしながらもそう話す。



「でも。俺は史が好きなんだよ」



 その言葉に颯太だけでなく史も驚いて黙り込んでしまった。

 颯太は再度顔を覆い、酷く落ち込み。


「何度も失恋しているけど・・・今回はもうお手上げや・・。今まではずっと女の子と付きおうてるから、そりゃそうだろって思ってきたけど・・。ほんまに寿々が男と付きおうてるんなら俺だって可能性あるかと本気で期待した。・・けど・・やっぱりそれでも俺だけは絶対に無いって言われたらもうどうにもできひん・・・。はぁ・・・ほんま辛すぎる・・・」


 颯太は目を真っ赤にさせながら天井を仰ぐ。


「・・俺どうすれりゃええんや・・これからの人生」


 と呟くのに対して寿々はややイライラした様子で


「あのさぁ颯太・・・。お前糞程ショック受けてるのわかるけどさぁ」


 と寿々からやや酷い言葉が出て来て史はちょっとびっくりしていると。


「お前高校の頃からこうやっていつも俺に振られる度に、慰めてもらえる女の子のところに行ってるの俺知ってるんだぞ」


 と寿々がうんざりした顔で言うので史は更に驚きを隠せなかった。


「・・・・・・・・それくらい普通するやろ!でないとここまで生きてけへんて!!」


「だからぁ!・・・そういう子をもっと大事にしろよなぁあ!!お前みたいな最低な男の事をずっと受け入れてくれる子こそお前が一番に大事にするべき相手だろうが!俺じゃないだろ!」


 史は群馬に行った時も寿々が颯太に対して辛辣な言い方をするなとは思っていたけれど。それも何となく納得いったし、そういう人がいるならそんな風にショックを受けるなよと本気で思った。


「・・・もうええ・・・帰るわ・・」


 そう言うと颯太はふらりと立ち上がり部屋を出て行こうと玄関へ向かった。


 そのトボトボとした後ろ姿を見て寿々も仕方ないと立ち上がると

「ちょっと見送ってくる・・」


 と言い残し付いていこうとしたところで、玄関を開けた颯太と配送業者が鉢合わせになり。


「あ、三枝さんのお宅ですか?お荷物のお届けです。このあと組み立てもありますので今ちょっと残りの商品と道具持って来るので一旦ここ置かせて頂きますね」


 と言って業者が降りてゆくと

 梱包された段ボールの表記に書かれた文字を読み上げ。


「・・・・・ダブルベッド・・」


 寿々はその後ろで思わずハッとした。



「生々しいねん!!!」


 と言い残して颯太は走って一人で出て行ってしまった。

 寿々は颯太を追いかける事なく共有廊下から駆け下りてゆく颯太を見送ると。


「はぁ・・・あいつ本当何しに来たんだ・・・・」


 とうんざりしながら部屋の中へと戻っていった。





 何だかんだで慌ただしい土曜の午前が過ぎ、ようやく業者も帰っていった頃には既に午後1時になりかけていた。


 寿々は新調したベッドに横になると


「いや~・・。奮発して高いマットレス買って良かったなぁ・・・・・・・・」


 と既にそのまま寝に入ろうかとしているので史はその隣に腰をかけ。



「・・・・・・・・あの。俺さっき初めて寿々さんから()()って言われましたよね」


 と確認するように聞かれた。


「・・・・・あれ?・・・・」


 ふとそう言われて寿々もがばっと飛び起きる。


「そうだな・・・・」


「・・・・・・・・」


 史は無言で寿々にもう一度言って欲しいとばかりに見つめるので寿々もそれにきちんと対応せねばと正座をすると咳払いをして畏まり。


「ん゛ん・・・・好きです!」


 とやや堅苦しく言うと史は腕を組んで小首を傾げ不満そうな表情で


「・・・・もう一回違う感じで言ってもらってもいいですか?こう・・もう少し自然な感じで」


「まさかのリテイク・・・」



 仕方なく寿々は少し考えてからやや顔を赤くさせながらも


「じゃあ・・・ちょっと」


 と言うと史に近づき両手を広げる。

 史はそれを受け止めるように自分も手を広げると寿々はその胸に近づき、肘下を掴みながらはにかむ視線をゆっくりと合わせ





「史・・・好き」


 と囁くように言った。


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