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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
白狐怪奇譚③【短編】

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第2話 糸操り

「さあ・・どうするよ(ふひと)?」


 汐音(しおん)寿々(すず)を呪力の鞭で縛り上げ自分の足で踏みつぶしている。



「汐音・・・お前・・・・!!!」


 史の呪力が次第に高まりその瞳が徐々に金色に切り変わろうとしていた。

 寿々はその瞳を見て


「史!・・・」


 と呼びかけたが、今自分が何を言ってもこの踏みつぶしている汐音の思う壺になるのは明白だった。


 寿々はとにかく自分が下手に助けを求める事もなくただただこの状態で諦めて静観すればこいつも特にこれ以上楽しくもなく最後には諦めるのではないか・・・。

 そんな事を思いつき


『思えば先週の皮裂村の時の方がよっぽど酷い扱い受けてたからな・・・こんな住宅街の真ん中の公園で倒されたくらいじゃ別に何ともないな・・・』


 と寿々は怒るのも叫ぶのも諦めて無抵抗のまま地面に寝転がった。


「はぁ・・・くだらない」


 そう小さく呟くとその声が汐音に聞こえていたのか


「ああ??おいテメェ今何て言った?」


 と更に寿々の締め上げ再度足で踏みつけられる。


「ぐ・・・・」


 その締め上げで流石に寿々の細い腕の骨があと少しで折れそうなほどミシミシと体が軋む音が聞こえた。


「やめろ汐音!!」


 そう言って史は再び手を打ち祓の波動を作ろうとする、が


「おいおい史、こいつがどうなってもいいのかよ?コイツあともう少しで肋骨と両腕の骨が折れるぞ?それ以上俺に近づくんじゃねぇよ・・・」


 それでも寿々は汐音の思い通りの反応を絶対にしてやるものか、と締め上げられながらも意識を保とうと必死に呼吸を繰り返した。


『あー・・もうどうすればこいつに一泡吹かせてやられるだろうか・・・なんか物凄く悔しくて仕方がない!・・俺もしかしたら今まで生きてきた中で一番怒っているかもしれない』


 すると寿々は思わず汐音を睨みつけ


「・・・あんまり・・・調子に・・乗るなよ・・」


 と寿々から聞いた事のないようなワードが飛び出て来て史も思わず驚き


『え・・まさか寿々さん何かに憑依されているとか・・』


 しかし足蹴にしている汐音は寿々の発言に


「はぁ?お前馬鹿なのか?どうすればこの状態から虚勢が張れるって言うんだよ!はは!そんなに言うならもうくたばれよ」


「やめろ!!!」

 史が叫び咄嗟に祓を飛ばした。

 しかしそれより早く汐音は更に寿々の縄を締め上げた体から、ボギッ!!という鈍い音が響き渡った。

「!!」


 その音が聞こえたのと同時に史の波動が汐音の右腕に当たりそのままバシイィイン!!という音と共に銀色の光が弾け飛ぶ。


「!!?」

 ・・・汐音は史の攻撃が直接当たった右手が急に力が入らなくなりだらりと力なく肩を落とした。


 史は倒れる寿々に駆け寄り急いで起き上がらせ

「寿々さん!!・・・・」


 史は涙目で寿々の様子を確認した。


 寿々はあれだけ派手な音を立てて完全に骨が折れたかと思われたのだが。

 何故か一言も呻き声さえ上げずに物凄い剣幕のままスッと立ち上がると

「・・・え・・大丈夫なんですか?」


 史の言葉に返答する事なく肩を抑えつつも左の手をだらと落とし呪力を削がれた汐音の前にスタスタと向かった。


「・・・はぁ・・はぁ・・なんだお前!!気持ち悪いな!!こっち来るなよ」


 汐音は呪力が思うように使えなくなったのと、更に今先ほど確かに骨を折った感触があったのに、寿々が目の前に左肩をぶらりと落としながら虚ろな目をしたまま立ちはだかっている事が急に恐ろしくなっていた。


「はぁ・・・。俺小さい頃からめちゃくちゃ肩の関節外れやすかったから・・」


 というと自分の右手で左肩をグッと抑え勢いをつけてそのまま肩の関節をゴキっ!という音共に入れなおす。

 その様子を見て史は

「関節・・・良かった・・」


 と安堵し一気に力が抜けその場にへたり込んだ。

 しかし寿々はまだ汐音をとても怖い顔で睨み続けている。


 汐音はいまや完全に不利な立場だ。


「・・汐音・・・・。お前はなんで史を虐めていいと勘違いしているんだ?一体何様なのつもりなんだ??お前のどこに人を馬鹿にできる権利があるのかちゃんと答えてみろ!!」


 史はそのブチ切れた寿々にあっけにとられていた。

 と同時にやはりもしかしたら今誰か別の人格が憑依しているのかもしれない・・・そう思うくらいこんなに切れた寿々を見るのは初めてだった。


 昔から義弟の颯太(そうた)があまりにも突飛な性格だった為か、寿々には兄気質なプライドがそれなりにある。

 根っからの弟気質の汐音は寿々に怒られて明らかに動揺を隠せない様子だった。


「うるさい!うるさい!!お前みたいな部外者が(はだ)の家に首を突っ込むんじゃねぇよ!!」


 汐音はまるで小学生の様に口答えをして少しだけ後ずさりをする。


「部外者を巻き込んだのはお前の方だろう・・・」


 更に寿々は汐音が後ずさりした分だけジリっと追い詰めるように前に出た。

 いつもなら小動物くらいの気迫しか持ち合わせてない寿々がその時ばかりはまるで猛獣のような凄みがあった。


「・・・・・・」


 汐音は寿々のその何にも動じない表情が次第に怖くなりそのまま公園の入口の方へと体勢を変えた。


「・・・・くそ。ふざけやがって・・・俺は絶対に史も姉さんもお前も!・・・絶対に許さないからな・・・・絶対に不幸にしてやる・・覚悟しておけ!!」


 そう捨て台詞を吐くと汐音はヨロヨロとしながらも足早に公園を後にした。



「・・・・・はぁ」


 その姿を見送ったのと同時に寿々がフラっとよろけ、史はすかさず寿々の肩を支えた。


「なんて無茶するんですか!」

 史はまだかすかに目に涙を残しながら寿々を叱った。


 しかし寿々は薄っすらと笑うと

「はは・・虚勢は俺の十八番(おはこ)なんでね。・・・それに俺どうしても許せなかったし。これ以上史を虐めていいと思っている汐音(あいつ)をなんとしても呪力を与えずに叱ってやりたかった」


 それを聞いて史は何だか嬉しいのとそれでも今後は絶対に無茶をして欲しくないという両方の気持ちでいっぱいになった。


「ありがとうございます・・・」


 史は今すぐ寿々を抱きしめてやりたかったが・・・。

 公園の脇の道は微妙に人だかりが出来ており、やや近隣に迷惑になっていたようなので


「とりあえず急いで帰りましょう」


 と少しだけ反省するように顔を赤くさせ史は足早に荷物を回収しに回った。

 そして

「俺荷物は全部持ちますけれど、寿々さん自分で歩けますか?」

 と聞くと

「ああ、悪いな。もうちょっとで家だし歩くのは大丈夫だと思う」

 とまだ関節が外れた肩を抑えながら寿々はゆっくりと歩き出した。





 自宅に着いてから寿々は洗面所で服を脱ぎ、肩が腫れていないか確認をしてみた。

 幸い外れ方も戻し方も大丈夫だったようだ。だが、当然上に上げとすると痛むのと、上半身がそういうプレイでもしたのかってくらい縛られた後が残っていたがそれ以外は特に問題は無さそうだった。


 すると荷物を片付けた史が洗面所までやってきて


「どうです?肩は大丈夫そうですか?」


 と聞いてきたので


「ああ、全然。暫く上げづらいだろうけれど、痛みもそこまで無いし問題なさそう」

 と部屋着に着ながらそう答えた。

「それより・・・」


 そう言っていきなり史服をめくる。


「ちょっと・・俺は大丈夫ですって」

 と両手を上げて抵抗をしないと言う風にしめすが、服をめくった寿々は

「いや・・お前の方が全然腫れあがっているんだけど・・」


 と見ると引き締まった腹筋から脇腹にかけて広範囲に赤くなっている。


「あ~・・・でも本当に痛くはないので・・」

 と言うと寿々はその患部を指でうりゃっと押した。

「いっ・・・・!!!」


 思わず史はその痛みに涙目になる。


「・・ダメだなこりゃ。俺今ちょっと湿布でも買ってくるよ。こういうのは早いうちに冷やさないとだし」


 そう言うと寿々は部屋着の上にコートを羽織った。


「・・すみません。じゃあ俺その間に夕飯作っておくんで」


 と申し訳なさそうに言った。

「わかった。じゃあ行ってくる」


 寿々は財布とスマホをポケットに突っ込むとそのまま外に出て行った。





 史は何だか今日も色んな事があったな・・と正直疲れながらも何となく嬉しい事もあった一日だったそう頭の中で振り返っていた。


『汐音はどうせまた同じ事の繰り返しになるだろう・・・。もしくは小学生の時みたいに大学でも色々と俺の悪い噂を流して不利になるような事をあれやこれやと周りに吹聴するだろうな・・・。まぁもはやあいつに関しては怒るのも面倒くさい。今日だって寿々さんの事がなければ俺も全く抵抗せずに全部攻撃を交わしてあいつの心を折ればきっとその内自滅して泣き出すだろうと思っていたし・・・・』



 史は買ってきた卵を三つ慣れない手つきでどんぶりに割り・・・・。

「・・・・・・・」


 すでにこの時点で何故か殻が数個混入している。


「何故だ・・・・」


 どうも史はまだ割る時の力加減が上手くないようだ。

 仕方なく史は注意深く卵の殻を探しつまみ出すと流しに捨てた。


 そして少し何かを思い出すような仕草を見せたかと思うと小首を傾げ。

 仕方なくスマホを取り出し〝至上の卵焼き〟の動画を見直しながら料理を続けた。


「えっとまずはかき混ぜ・・・水・・そして白だし・・塩と砂糖・・・」


 史はちゃんと手順通りに分量を量りながら慎重に調味料を入れる。

 そして買ってきた卵焼き用のフライパンを洗いコンロにあげ火をつけた。


「・・・・それから。油を・・」


 動画を見ながら油を入れたせいか想像以上の量がフライパンへと注がれた。

 しかしそれを確認する事なく暫く熱していると急に熱された油から、拭かれていなかったフライパンの上の水分が猛威を振るった。

 パチンっと音と共に高音の油が史に襲い掛かる


「あつぅ!!」


 思わずビックリしてたっぷり入ったフライパンの油をひっくり返すところだった。


「・・・やばい。料理怖いな」


 と油が跳ねて火傷した手を摩りながら本気で顔が青ざめている。

 しかし再び意を決し、溶いた卵をフライパンへと慎重に流し込む。


 中火以上の火力だった為、ジュワっと音を立て卵が一気に固まり始めた。

 史はフライ返しでゆっくりと固まった卵を巻いてみるが・・・・。

 これがとにかく難しかった。

 フライパンの中の油が多かったせいもあるが、全然上手い事巻かれてくれない。

 固まった卵があっちいったりこっちいったりしている内に、ようやくぐちゃぐちゃながらもまとまった頃にはかなり真っ黒になっていた。

 そしてそれを何回か続ける。


 何故卵焼き一つ焼くのに・・十数分もかかったのだろうか。


 そうして生まれて初めて作ったそれはとてもではないが卵焼きなどと呼べる代物ではなく、異界の食い物のような固形物がそこにはあった。

 しかし史はとりあえずこれを皿に乗せさえすれば一回は作った事になる・・。そう思い最後までなんとか慎重に用意した皿に傾けた瞬間。


 フライパンの中の多量の油で滑った異界の卵焼きはそのまま勢い良く流しへとダイブしていったのだった。


「・・・・・・・・・」




「ただいまー」


 そう言って寿々が薬局からから帰ってきてリビングに入ると入ってすぐに右側のキッチンで史は両手をついて床で撃沈しているので何事かとびっくりした。


「え?何?どうしたんだよ・・・」


 史は愕然としながら


「俺の人生初の卵焼き第一号が自ら流しにダイブしていきました・・・・」


 と言うものだから寿々は思わずシンクの中を見ると、異界の食べ物らしきぐちゃぐちゃに焦げた物体が史にさよならを言うように流しの中へと吸い込まれていた。


「あっははははははは・・・・!!」


 寿々は思わずその絵面に大爆笑をした。

 しかし本気で落ち込んでいる史を見て寿々はすぐに


「ははは・・・でも・・これ外側剥がせば食えるじゃないか?」


 と笑いながらシンクの落ちたその異界の卵焼きを置いてあった箸で掬って皿に乗せようとしたので思わず史も涙目でそれを阻止し


「ちょ・・・まじで食いそうなのやめて下さいよ・・・」


「えー・・・。まじで食おうかと思ってた」


 と本気の顔でそう言われたものだから思わず史もぐっと嬉しさだけを飲み込み。


「・・・とりあえずもう一回だけ作り直してみます・・・」


 と顔を真っ赤にさせながらそう答えた。





 二度目の卵焼きも上手く巻く事ができず何だかペラペラの薄焼き卵の塊のようなものが出来上がったが、夕飯はそれとスーパーで買ってきた総菜で、とにかく史はそれを機に料理への意欲に目覚めたようだった。



「ん・・・卵焼きかはわからないけれど。これはこれで美味いよ?なんか寧ろ新しいなこれ」


 史の卵焼きを嬉しそうに食べる寿々を見て史も嬉しかったが


「やはりちゃんとした卵焼きを早く作れるように料理は日々やらないといけないってわけですね・・」


 と自分で作った卵焼きを食べながらやはりこれは卵焼きとは違うな・・と思い肩を落とした。


「あーそんなに考え込まなくったっていいって・・。仕事も忙しいんだからさ。出来ない時はスーパーや弁当屋は勿論、宅配でもいいじゃん別に・・。無理するなって」


 寿々はそう言ってくれたが、何故か史はそういうわけにはいかないとやや意固地にもなりかけていた。


「俺一度決めたことはやり遂げないと気が済まないたちなので。俄然やる気が湧いてきましたよ・・」


 と妙な気迫を帯びながらそう言う史を寿々はやれやれといった顔で見ると。


「じゃあ、お前の理想の卵焼き。楽しみにしているからな」


 と応援の意味を込めてそう活を入れた。


「勿論です」





 食後、寿々は買ってきたスーツを史に着させ近くで確認すると。


「いやぁ・・・まじで羨ましいなお前・・。なんでそんなに格好いいの?」


 と褒めてもいるのだが、それ以上に真剣に羨ましいといったニュアンスでそう言うと


「そう言えば寿々さんのスーツ姿とか見た事ないですよね」


 聞かれ


「そうだな。確かにアガルタに来てからは特にそういう機会なかったもんな。大和にいた頃は結構な頻度で着てたぞ?」


「じゃあ着てください」


「え?今??いやいや。いいって面倒だし」


「俺だけ着させておいて?」


「いや、もうそういう言われ方されたらさぁ・・・・」




 寿々は仕方なくクローゼットの中からスーツを取り出し言われるがままに着替えた。


「ほら。特になんも面白い事ないからな?」


 と確かに寿々のスーツ姿はこれと言って特色も何も無かったが、それでもいつも以上に寿々が男らしく見えるのは史にとって新鮮ではあった。


「いいですね。今日は可愛いだけではない寿々さんが沢山見れたので俺は結構満足した一日でしたよ」


 そう言ってスーツ姿の寿々の腰に手を回す。


「俺は特にそういう趣味ないからな・・・。ていうか買ったばかりなんだからスーツ大事にしろよ」


 そう寿々は反論したが、史はその言葉を気にする事もなく寿々の腰を少し持ち上げる様にしてキスをする。

 そして


「・・・どうせすぐ脱ぐから大丈夫です」


 と言いながらひょいと持ち上げそのままベッドへと運び込むと、上に覆い被さり両手を抑える様にして握り更にキスを続けた。


 寿々は今しがたそんな趣味はないといったはずだったのに、目の前のスーツ姿で迫る史に思わず


「嘘ついた・・・。スーツのままされるのいいなこれ・・」


 と瞬時にして何かに目覚めたかのように顔を紅潮させながらそう言うと


「否定からの覆しの速度がかつてない程速すぎるんですよ・・」

 と史も思わず笑ってしまった。







 寿々と史はこうやって体を重ねるのは一週間ぶりだったが、結局寿々の方の都合で最後までは出来そうもなく。

 二人はそのままベッドで何となく会話を続け


「・・・ていうか。こういうの結構難しいものなんだな・・・」

 寿々は恥ずかしさと情けなさもあり、ベッドに顔を埋めながら申し訳なさそうにそう言った。


「しょうがないんじゃないですか?寿々さん今までした事ないんですから・・」


「何か言い方気になるけれど・・。でもお前だって本当はその・・」


「ええまぁ。いつでもしたいですよそりゃあ」


 そう堂々と言われ寿々は更に申し訳ないと言わんばかりに史の胸に顔を埋めた。

 史はそれでもいつかはそうなれると思っているし、焦りが無いと言ったら嘘になるけれど。それでも今は寿々が日々自分の傍でこうやって寄り添っていてくれることが何よりも幸せだと感じていた。


「それと・・・今更だけどベッドが小さすぎる・・」

 寿々は寄り添いながらだから何とか納まっている風だったが、良く考えなくても史の体が大きすぎてとてもじゃないけれどセミダブルのベッドでこうやって過ごすのは厳しいと、ずっと思っていた。


「確かに狭いですけれど・・。でも俺は別に寿々さんがこう引っ付いていてくれさえすればなんとでもなると思っていますが」


 史は特に気にもしていないようだが正直寿々は眠る時にこの状態だと熟睡は無理なのでそこは真剣に考えねばと思い


「やっぱり新しいベッド買うか・・・。睡眠は大事だからな」


 と言うとその事をすぐに決めたらしく


「よし。来週末にでも新しいベッド探しに行くぞ」


 と一人で決意をしていた。




 シャワーを浴び終え、史が再びベッドに戻ると先に戻っていた寿々は既に寝息を立てて眠っており、史はその隣に滑り込むように布団に入ると暫くの間寿々の寝顔を眺め



『・・・知念さんの事はこれからも俺の中で消える事なくずっと大きなわだかまりとして残り続けるだろうな・・・。しかし万が一寿々さんの記憶が戻ったりしたら一体何が起こるのだろうか。そんな事がないように祈るしかないけれど。・・もしそうなった時は絶対に俺が助けてやりたい・・・。いいや。助けられるのは俺しかいない・・・』


 そう思いながら眠る寿々の頬にキスをすると部屋の明かりを消した。







 ・・・・・・そんな寿々の部屋のベランダに蠢いていた一匹の蜘蛛がまるで部屋の中をずっと監視していたかのように部屋の明かりが消えた瞬間ベランダから糸を垂らして1階まで一気に降りた。


 すると蜘蛛はその下に停められていた一台のタクシーの後部座席の窓から伸びた赤いマニュキュアが塗られた女の手の内へと還っていく。



「・・・・・全く薄汚い犬畜生が良い気になって笑いやがって・・本当に憎たらしいたらありゃしない・・・」


 女の手には蜘蛛の子がワラワラと群がっている。

 見るとタクシーの中にはそこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされ、その糸が絡みついたタクシーの運転手はまるで意識を乗っ取られたような正気のない虚ろな目をしていた。


 女は隣を見て


「・・・いいこと迦音(かなん)ちゃん?・・・次は必ずあの眼鏡をおびき寄せて白菱に連れて来るのよ」


 隣で座る迦音にも体中に蜘蛛の糸が絡みついている。


「・・・お母様・・・。住所を教えたらもう自由にさせてくれるって言ったじゃないですか・・。なんでこんな事まで」


 迦音は大きな体を震わせ怯えていた。


「自由・・ですって?・・・・・そんなもの元から(はだ)の家にあるわけがないじゃないですか。・・・・・そうでしょ?史・・・・」


 そう呟きながら上を見上げ蜘蛛まみれになった公子(きみこ)の瞳が暗いタクシーの後部座席でボウっと燃え上がるように金色に輝いた。


今後の創作の為にも是非!感想と評価へのご協力をよろしくお願いします!

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