第4話 日本次元昇華計画
再び旧地下道へと出てきた寿々に佐藤は
「さ、三枝さん。ここからは自分で歩いて帰ってください。元来た道を戻ればいいだけですので」
と左方向へと手を広げ促した瞬間・・・
「!?」
佐藤はいち早く危険を察し後ろに飛び退いた。
パシィイィン!!!
寿々の後ろ奥から得体に知れない何かが勢いよく飛んでくると寿々と佐藤の間に刺さる様に落ち高音の破裂音を発した。
「!」
寿々もその衝撃で耳の奥がキーーンと鳴り響く。
佐藤は険しい顔をして寿々の後ろを睨み返す。
寿々も思わず後ろを振り返った・・・・。
「寿々さん!!」
「・・・・史。なんで・・・」
寿々は家で休んでいるはずの史が今目の前にいる事が信じられなかった。
そしてその史のすぐ後ろには最上も一緒に立っているではないか。
「・・・・・ん?」
佐藤はその最上の姿を見るとまるで怒りと喜びに満ちたそんな複雑な顔になった。
「ははは・・・・・最上ぃ・・・久しぶりじゃないか」
寿々と史は佐藤がそう言った事に驚いている。
「お久しぶりです・・・・。佐藤・・・いや。鏑木さん」
佐藤を鏑木と呼んだ最上の顔は決していつものニコニコ顔ではなかった。
その表情はとても険しく、そしてどことなく悲しそうでもあった。
「・・・・・・・」
〝鏑木〟と呼ばれた佐藤は怒りに触れたようにみるみる内に般若の様な顔に変化し
「・・・・あいにく鏑木はもうこの世にはいないんでなぁ・・・誰かさんのおかげで」
そう言うと佐藤はババっと印を結びその勢いで印で結ばれた気の波動を最上に向けて放った。
「!!」
最上は思わず身構えるが、史はそれより早く両手をパッシン!と打つように合わせるとその手の内からまるで鋭い円盤の様な波動を作り出すと右手でその飛んできた波動に投げつけた!
その波動がぶつかると先ほどと同じようにパシィイン!!という高音が当たり一面に響き渡る。
「・・・・へぇ。昨日呪力を根こそぎ奪ってやったてのに凄いじゃないか。なんだ・・お前〝祓〟も使えたのか?・・・なるほど。どちらの気も使えるからこうやってここへやって来れたってわけか・・・」
佐藤はブツブツとまるで独り言の様に史の力について話した。
そしてしばらく史と最上と睨み合ったかと思うと、すっと手を下し。
「最上!・・・・お前に家族も何もかも奪われた鏑木正雄はもうこの世にはいない。ワシはもうここ20年以上ずっと佐藤として生きている・・・。お前はいいとよを隠れ蓑にして身を護っているつもりなのかもしれんが・・・・ワシはそんな事でお前を許す事は絶対にないからな・・・俺はいいとよを潰し必ずお前も殺す・・・覚悟しておけ」
そう言うと先ほどは違う印をスッと結んだかと思うと佐藤はその場からスゥとまるで消えるようにいなくなってしまった。
史は佐藤が消えたのを確認すると寿々に駆け寄り
「寿々さん大丈夫でしたか!?」
と慌てながら聞いてきた。
「・・・ああ。大丈夫だ。だけどやっぱり懸念していたとおりかなり威圧的に口留めをされたよ・・。そんなことよりお前体調は大丈夫なのか?」
「あ・・はい。何とか回復したので・・・。ところで知念さんはどうしたんですか?」
史は寿々が一人である事に疑問に思いそう質問した。
すると寿々は
「・・・・知念?」
と急に眉間に皺を寄せる様にして史に質問してきた。
その聞き方に史は嫌な予感がした。
そして・・・
「知念って・・・・誰の事だ?」
寿々から聞いた言葉に耳を疑った。
「え・・・何言ってるんですか・・・知念さんですよ・・・。今日だって一緒にここまで来たんじゃないんですか?」
「いや・・俺一人で地下鉄使ってここまで来たけれど・・・ていうか急にどうしたんだよ史・・?本当に嫌だなぁ・・・誰だよ知念って」
「・・・・・・・・・」
史はその寿々に言葉に狼狽えすぐに返答できなかった。
『寿々さん・・・何を言っているんだ・・?知念さんの事を何で急に忘れてしまっているんだ・・・・。何だ?それとも俺がおかしいのか?・・いやそんなはずはない・・・!』
「最上編集長・・・」
史は助けを求めるように最上を見た。
最上もどうしたらいいのかという表情をしながら
「三枝君・・・。君、一緒に岐阜に取材に行ったライターの知念さんを覚えていないのか?」
最上からその言葉を聞いて史はようやく半分だけ安堵したが。
「いやいや・・・編集長も何を・・・。岐阜には俺と史の二人だけで行きましたよね?」
寿々の中から知念の記憶だけがすっぽり抜け落ちている事が分かると、史と最上は顔を合わせてそれ以上何も言えなくなってしまった。
その後は最上からとにかく寿々も史も帰って休むように念を押され、二人は電車に乗って帰宅した。
午後11時半
家に着くと寿々はいつもと変わらない様子で荷物を置き、コートを掛け。
洗面所で手を洗いついでに顔を洗うとそのままキッチンの冷蔵庫を開け中から缶ビールを取り出す。
史はその一連の動きを見ていたが本当にいつもと何も変わらず、かえって不安が募った。
そして寿々が缶ビールを立ったまま開けようとしたところを史は横からすっと奪い取った。
「お・・ちょっと・・何するんだよいきなり・・」
寿々も急に手からビールを奪われて不機嫌になる。
「今日はやめておいてください。お願いですから・・」
「えぇ・・。まぁ、確かに変な場所に連れて行かれて妙な人達と会って来たけれど・・。だからこそ飲まずにいられないだろう・・」
と拗ねるように言われたのだが
「そうではなく・・・。寿々さん誰かに思いっきり殴られたりどこかに頭打ったりしてませんか?」
と史は寿々の頭を本気で心配するように寿々の頭に手をやった。
しかし寿々は少し嫌そうにその手を払い
「まじで大丈夫だって!何なんだよさっきからお前も編集長も・・・俺は本当に知念って人知らないんだって」
やや本気で怒る寿々を史はどうしたらいいのかと思い悩んだ。
「じゃあ俺達ってどんな関係ですか?もしかしてそれも忘れてたりしませんか?」
「はぁ?・・・そ・・それは・・。まぁ現状友達以上恋人未満的な・・・」
「一昨日の事は?」
「覚えてるって!!そんなの・・・忘れるわけないだろう・・」
と本気で赤面しながら恥ずかしそうに言うのを見てちょっとだけ安堵もしたが、史はやはり佐藤に連れていかれた先で何かがあったのは間違いないとそう確信していた。
そして寿々を引き寄せるとそのまま抱きしめ
「・・・・・明日念のため病院行きますからね。編集長にそう言われてますし」
「しつこいなぁ・・。もう・・わかったよ。ちゃんと検査してもらって何でもなければいいんだろう?・・・ったく、この忙しい時期に病院だなんて・・」
と悪態をつきながらも寿々も自然と史の胸に寄り掛るように頭をもたれさせた。
翌日
朝一で近所の脳神経外科を受診し、寿々は記憶がなくなっているという事を指摘されているから念のため検査を受けるように会社から言われた旨を伝え、血液検査や心電図、それからCT・MRIの検査を一通り終え病院を出る頃には既に午後の2時をまわっていた。
最上の指示で史もずっと付き添ってはいたが、とにかく寿々に何もない事だけを祈った。
「はぁ・・やっぱり結構時間かかるもんだな。こんなに沢山検査したの本当十数年ぶりだよ・・」
寿々は電車に揺られながら心底疲れたと言った様子だ。
「でもとりあえず何も異常がなかったのがわかって俺も安心しました」
隣で座る史は冗談抜きでほっとしたと言った顔をしている。
「・・だから大丈夫だって言っただろう?」
二人はその後30分くらいでいいとよに到着し
「お疲れ様です・・・」
「遅れました」
と二人して編集部へと入って行った。
「あ、三枝?頭の検査だって??マジで大丈夫だったの?」
と丸も少しだけ本気の顔で心配しており
「本当もう・・丸さんまで・・。まじで何でもないんですって・・」
と言うと寿々は自分の机に鞄をおいた。
史はその様子をまだ複雑な気持ちで眺めていたが
「史君いいかい?」
奥から最上がそう声を掛けるとちょっとだけ寿々を見て
「ところで篠田さん昨日の合コンどうでしたか?」
などと暢気に話す寿々を横目に最上の呼ぶ方へと急いだ。
最上はそのまま史を会議室に入れると
「・・・で三枝君どうだったんだい?」
「詳しい検査結果は後日になるのですが、先生が診た限りでは特に異常なしという事でした」
「それは良かった・・・。まず三枝君に関しては僕はもうこのままにしておいてあげた方がいいと思うんだ・・」
と最上は急に深刻そうな顔でそう言うので、史は再び嫌な予感を感じ
「・・・何でですか・・」
と小さく聞くと
最上は新聞をテーブルの上に出した。
「?」
「今朝の新聞だけど・・・ここ」
史は最上に言われ、指さされた部分の記事を読んだ。
「・・・昨日の夜9時頃・・・溜池山王で飛び込み・・・知念勇也・・・32歳」
史は信じられないと青ざめた顔を最上に向けた。
「僕もこの記事を他のネットニュースでも調べてみたよ。目撃者も多数いるので三枝君は勿論、僕たちもこの時間帯ちょうどあの地下道にいたから関与を疑われることはないけれど。・・・正直何が起きたのか僕にも全く見当がつかない。ただ・・・三枝君の記憶が消えているのと知念さんが亡くなったのは無関係ではないというのは確かだよ」
「そんな・・・」
最上は深刻な顔をして頭を抱えた。
「・・・僕が佐藤の正体をもっと早く勘づいていればこんな事にならなかったのかもしれないね・・」
とぼそりと呟くように話し始めた。
「・・・彼の本名は鏑木正雄と言って、かつて僕がフリージャーナリストだった時代に出会った公安内の裏組織通称ゼロと呼ばれる作業班に所属していた男だ。・・彼は元々陰陽師の家系でゆえにその力を使った特殊任務を担っていた。特に彼の能力で秀でていたのが【千里眼】。彼はその力を使い犯人や対象人物を探し当て秘密裏に工作を行う手助けをしていた。僕はその時不法滞在していた外国籍の移民を取材していて彼らを守ろうととあるマンションで匿っていたのだけれど、彼の力によって発見されてしまいそのまま僕も拘束されてしまったんだ。それ以降僕は鏑木に目を付けられてしまってね。僕は当時まだ30手前の若造だったから反抗心と興味本位で彼の素性を暴こうと逆にその存在を追ったんだ。・・・だがそれがいけなかった。僕の書いた記事のせいで彼の存在が方々の組織にバレそれが原因で彼の家族が狙われ、そして命を奪われてしまった・・・。勿論その記事は世間には出なかったけれど、僕が鏑木を追ったせいで彼の人生を全て奪ってしまったんだ・・・」
史はその話を聞いて佐藤が最上に言っていた事を思い出した。
〝ワシはそんな事でお前を許す事は絶対にないからな・・・俺はいいとよを潰し必ずお前も殺す〟
「・・僕はその後公安から突如消えた鏑木の情報を掴むためにいいとよに来たんだ」
「・・・どういう事ですか?」
「鏑木・・・いやもう今は佐藤か。佐藤が所属しているのは常天国家統合府という組織になる」
「とこの・・たか?」
「常世の常、高天原の天でとこのたかだ。つまり常世と高天原のどちらも統べ日本国家ごと次元昇華させることを目的としている」
「次元昇華・・・って何をする気なんですか?」
「具体的な実態は僕もまだ掴めていない。けれどずっと長い間全国的に社会実験として色々な施設やコミュニティで実験を行っていたのは間違いない。僕は今回君たちが運悪く迷い込んだ宗教団体施設もその社会実験施設の一つとなっていると考えている。そしてそういう施設で得られたデータよって人間の次元を昇華・・・つまりどうすれば肉体や場所や因果律に囚われずに高次元の存在になれるかを冗談抜きにやっているんだ。噂では少し前に人工的高次元体を作り出したとか・・・そんな噂も囁かれている。しかもそれを推進しているのが裏政府と呼ばれる権力のある政治家たちが寄り合った地下組織だ。佐藤は公安を辞めてからはずっとそこの中で任務を続けている・・・」
史は最初の幽霊団地の時からずっとそんな社会実験の裏で幽霊騒動などを追っていたのかと思うと何だか急に自分の追い求めていた事全てどうしようもない事のように思えてきた。
しかしその実、幽霊団地でも今回の皮裂村でも自分達に関わった人達が結果亡くなってしまっている。
もはやこれ以上この仕事を続けていいのだろうか・・。史はそんな気もしてきていた。
最上はそんな史の表情を察したのか
「史君・・・君も三枝君も責任を感じる必要はない。確かに因果的に見れば君たちの周りで亡くなっている人が多発しているのは確かだ。けれど、それだって君たちが関わらなかったら本当に現在も生きているのかなんて誰にもわからないんだから」
「編集長・・・俺は・・・俺と寿々さんはこれからどうすればいいんでしょうか」
史は膝の上で両手をグッと握り締めた。
「そうだね・・・。やはりしばらくは取材を控えた方がいいかもしれないね。これは決して意地悪で言っているわけじゃないんだよ。このままでは君たちの心が本当に壊れてしまう・・。だから今現在やっている事に関してはそのまま遂行してもらって。皮裂村の記事はちょっと僕の方でも方向性を見直すから。それが決まったら君がそのまま記事を書いてくれ。それと来月から大学が始まるし高校時代より忙しくなるだろうから。君は暫くはまた皆のアシスタントとしての業務に従事してもらうよ。それと三枝君の君の教育担当も今月で終了とさせてもらう。三枝君には来月から入ってくる新入社員の教育担当をやってもらおうと思っているんだ。企画立案は進めてもらうけれど、大きな取材が入る様な内容は僕の方で全て却下させてもらうよ」
史は最上のその言葉にやるせなさしかなかった。
何故ならば本当はまだずっと寿々と一緒に企画を考え、取材に行って記事を作って・・・そうやってずっと過ごしていたかったからだ。
確かにいつかは寿々の教育担当が終わる事はわかっていた。
それにそうなれば自分もちゃんと寿々に告白できるし、恋人にもなれる。
しかしそれはこんな形で急に強制的に終わらせられるとは夢にも思っていなかった。
決して自分が望む形での終結ではない。
しかし・・・・
「・・・・わかりました」
それでも史は寿々の事を思えば最上の考えが一番良いのだという事だけは理解できた。
午後9時
寿々と史は遅れて出勤した事もあり、山ほどの仕事に追われていた。
史は明後日校了分のゲラに目を通ながら再来月号のレイアウトも作る。
ふと左隣を見るといつもの通り真剣な顔で赤ペンを持って校正をする寿々の姿がある。
しかし史はその様子を見ると何だかとても複雑な気持ちになり胸が締め付けれた。
『・・・一体寿々さんはあの先で何を見たというのだろうか・・・。確かに知念さんは俺にとってはある意味厄介な存在ではあった。でもだからと言って決してあんな形で亡くなるだなんて思ってもいなかった。もし寿々さんに知念さんの記憶があって亡くなった事を知ったらどうなっていただろうか・・・。きっと大きなショックを受けてそれこそ暫くは仕事だけでなく生活もまともにでなかっただろう。・・・決して良かっただなんて軽々しく言えないけれど・・それでもやはり記憶が無くなっていることはある意味救いとも言えるのかもしれない・・・』
その視線に気づいたのか寿々は史を見て
「ん?どうした?」
と笑顔で声を掛けてきた。
「いえ・・・。何時くらいに終わりそうなのかと」
「そうだなぁ・・・。予定では10時までには終わらせて帰りたいよなぁ。まだ明日明後日あるし」
「そうですね。じゃああと40分・・頑張りますか・・」
「ああそうだな」
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