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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
皮裂村怪奇譚【長編】

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第5話 御前様


 (ふひと)は知念を見送ってから再び辺りを入念に調べてみた。



 とりあえず地形的にその目の前の施設はそこまで大きくはなさそうではあったが、それでも妙な造りでおいそれと簡単には中へ入る事は出来なさそうだ。




 とにかく、この施設の周囲は高さ3メートルくらいの土色の壁でぐるりと囲われている。

 奥の方は分からないが、史がいる位置から左側は高い崖だ。

 恐らくこの下の川は廃村に来るまでに見た川と繋がっていると思われる。

 しかしこの場所は更に高くなっており降りる事など到底無理だ。


 また残りの奥半分は山の断崖絶壁に接しており、所謂要塞のような厳重な囲いになっている。


 前に廃村周辺の上空写真を地図アプリで見た限りではこんな地形もこんな要塞のような建物も何もなかったはずなので、史は本当にここが実在する施設なのかすら本気で疑っていた。

 そしてもし実在しているのだとしたら、地図アプリで見る上空写真なんてものは、もしかしたら金さえ積めばデータ修正くらい簡単にしてもらえるのではないだろうか・・・?そんな疑念さえ思い浮かんできていた。



 そんな事より寿々(すず)の捜索が先だ。

 先ずは目の前の高さ3メートルの壁をどうにかして突破しなくてはならない。


『監視カメラが入口の上にあるぐらいで他は見当たらないのが幸いだ。あとは周囲の見張りさえどうにかすれば何とか壁を登って越えられなくもなさそうだけど・・・』


 史は施設入口付近で(たむろ)する年配の警備員に目をやる。

 勿論強行突破も考えた。正直あのくらいならば無理矢理暴れればなんとか蹴散らかせそうでもある。

 しかし知念にも念を押されたが、今自分が無謀な行動をすれば寿々の命の保証はない。


「・・・・・どうすれば」


 史は木の陰に隠れてとにかく色々な方法を考えた。


 一番確実に中へ入れそうなのは暗くなるのを待ってから潜んで壁を超える。

 しかしそれでは寿々の無事が保証されない。

 後は見張りの気を逸らせ中へ入る・・・。


 これはあまりいい案とは言えないが、今すぐとなるとやはりそれしか方法は無さそうだった。


 問題は見張りの気をどう逸らすか・・・。


 史は鞄の中を漁りクマよけのスプレー缶と食材を温める用の発熱材とパックを取り出した。


「・・・上手くいくだろうか・・」


 はっきり言って一か八かである。

 しかしやってみない事には分からない。


 史は身軽になれるよう必要最低限の物だけジャケットに詰め込み、鞄を木の陰に隠し準備をすると、パックに指示分量より少しだけ増やした水を入れ、トンネルの方へと警戒しながら戻った。


 そしてトンネルの入り口に発熱パックを置きその中に発熱材を3つとさらにクマよけスプレー缶を真ん中に入れると一目散に先ほどの場所まで戻った。

 この発熱材は水に触れる事で科学反応を起こし最大98℃くらいまで加熱する。

 今は寒い時期なのでそこまでの温度が期待できるか不安はあるが、スプレー缶は40℃以上になると破裂の危険があり、実際爆発するには60℃から70℃くらいの温度が必要だ。


 戻る途中で既に発熱材から蒸気が出ているのを見て更に急ぐ。

 元の場所まで戻ってくると警戒しながらも壁に一番近い木によじ登った。



 一番下の太い枝まで上ると高さは2mくらいにまでなるので、ここから隙を見て壁にジャンプすれば何とか届きそうだ。


 するとトンネルの入り口でボン!!という破裂音と共に火柱が上がった。

 同時に回りで見張りをしていた警備員達が何事かと急いでそちらへ向かいはじめる。


「うおぉっ!!!」

 一番最初に近づいた60歳くらいの男がクマよけスプレーの刺激によって目や鼻を抑えその場にうずくまった。

 更にそれに続いてきた男達も次々に同じようにスプレーの刺激にやられている。

 どうもトンネルから吹き出る気流で一気に全員がその刺激を受けてしまっているようだ。


 史はその様子を確認すると負傷中の左手を庇いながらもまるでボルダリングの選手のようにひょいっと壁に飛び移った。

 そして壁に足をかけ少しだけ中を覗いて近くに誰もいないかを確認をする。


 ぱっと見中はそこまで広くなさそうだが、それでも向こうの廃村と同じくらいの敷地はありそうだ。

 監視カメラは右20mくらい先の入口内側にあるが、あのカメラがこちらを向いていない事だけを祈った。


 騒ぎを駆けつけて中の方から今度は数名の女性がわらわらと門の方へと向かう様子が見られたが、幸い向こうの騒ぎで壁に張り付く史には全く気付いていない様子だ。


『・・よし今だ』


 史は意を決してそのまま壁をよじ登ると3m下まで一気に飛び降りた。









 知念はトンネルを抜けて廃村にまで戻ってくると急いで村の入り口を目指した。

 そしてそのまますぐにバイクに跨りスターターをつけエンジンをかける。


 しかし・・・どうにもエンジンがかからない。

 知念はおかしいと思いメーターを確認すると何故かガソリンが空になっているではないか。


「・・そんな馬鹿な・・」


 昨日の夜満タンに入れたばかりなのだ。そして今日はそこまでの距離を走らせていない。

 しかもここに着いた時にはまだメーターは8割以上あったはずなのに・・・。


 バイクから下りて給油口を確認する。

 どう考えても人為的に燃料を抜かれたのだとそう思った。


「・・・・・仕方ない」


 そう呟くと必要な物をバックにまとめて知念は歩いて戻る事を決心した。


 辺りをとにかく気にしながら山道を走る様にして戻り始める。


 気付けは時刻は既に午後3時半を超えていた。

 山間にある廃村はすでに山の影に入り次第に辺りはどんどん暗くなっていった。


 知念は20分程走り少しだけ歩き呼吸を整える。

 あと少しでスマホの電波が入る圏内に差し掛かろうとしたその時。

 目の前の山道が何十本の倒木が道を塞いでいるのを目撃し、愕然とした。


「おいおい・・嘘だろう・・・。来るときはこんな倒木無かったのに何でいきなり道が塞がれているんだよ・・・」


 右側は崖になっており下の川まで数十メートルはありそうだ。

 更にこの辺りの左側はずっと5mほどの急な斜面になっているのでこちらも簡単に登るのは難しい。

 当然ここから先に戻る事など出来なかった。


「・・・ガソリンが抜かれているのも倒木で道が塞がれているのもおかし過ぎるだろ・・・明らかに誰かの意思で邪魔されているとしか思えない」


 そして試しに重なる倒木の上を上って越えられないだろうかと、少しだけ足を掛けて木に体重を乗せてみた。

 しかしすぐにその重みで倒木がズズズと動き、下の崖に数本の木が勢いよく落下していった。


『・・・・こんなんじゃ越えようとする前に木と一緒に崖の下だな・・』


 知念は悔しそうな顔をするとスマホを取り出し何とか電波が届かないか山道で可能な限り試してみた。


「くそ・・・だめか・・」


 倒木の上を見上げ、既に暗闇が近づいてきているのを確認するとこのままここで夜を過ごすよりももう一度史の場所に戻って寿々の救出に加担するしか方法がないとそう悟った。

 それに・・・


「さっきのあの場所・・きっとこっちから通って出来上がった施設じゃないはずだ。日常的な物資の搬入だってあるだろうし、廃村からのトンネルのようにどこかに別の道があると思う方が自然じゃないか・・・」


 それに気づくと知念は再び急いで元来た道を走り始めたのだった。







 壁を超えた史は急いで敷地内の低い雑木林に身を潜めた。

 史の銀髪とカーキのジャケットは冬の木々に上手い具合に溶け込み、まるでギリースーツの様に隠れ蓑になっている。

 これが黒い頭髪だったら一発でバレていることだろう。

 

 そして少しだけ身を低くして内側の監視カメラに近づくと10mくらい手前で止まり足元の石を拾い、外の爆発で騒いで出てゆく施設内の女達を見送ったあと、絶妙なコントロールで監視カメラに向けて投げつけた。

 施設内側のカメラがパンッ!と軽い音を立てて割れた。

 上手く壊せたかは分からなかったが、ある程度支障をきたせたのは間違いない。

 そしてそれに誰かが気づいて近づいて来ないか確認する為にその場でじっと立ち止まった。


 一見すると壁の中はコミュニティになっており、今のところ女性しか見られない。

 壁の外には年配の男がいたが、中には一人も見当たらないのだ。

 しかも皆一様に白のストレートラインのワンピースに白いスリッポンを履いている。

 史はその様子を見てすぐにそれを確信した。


『・・・ここはいわゆる信仰宗教団体の施設か何かか?』


 それにしても奇妙な光景だ。

 こんな山間の敷地に女性だけの団体が暮らしているなんて。

 しかしそれと同時に史は嫌な予感しかなかった。

 もし寿々を攫っていったのがここの女達だとして、一体何が目的で誘拐したのか・・・。


 もしさっき昼飯を食べていた時点でこっちの男三人を把握していたとして。あえて寿々を狙ったのにはきっと何か理由があるはずなのだ。


『・・・女だから寿々さんしか運べ無さそうだったからか・・?それとも一番非力で手っ取り早く誘拐できそうだったからか・・・。いやそのどちらもか』


 どうにもその理由から考えても寿々がこの施設内で良い待遇を受けている可能性は低そうだと史はそう直感的に思った。


 そしてまさかとは思うが寿々が何某かの搾取の為に誘拐されたのでは?と考えてしまい

『・・・・・絶対にそれだけは無いと信じたい』

 と本気で無事を祈った。



 暫くすると敷地内の中央に建つまるで教会のような白い塔がある建物から学校の予鈴のようなチャイムが鳴り響くと、施設周りで清掃や花の手入れなどの作業をしていた女達が一斉に終えその建物へと入ってゆくのが見えた。


 史はそれを確認するとカメラがないか注意を払い急いでその教会のような建物の裏手へと回る。

 しかし裏側への角を曲がろうとしてすぐに足を止めた。



 そこには二人の女がその場に留まり何やら会話していたからだ。



「さっき連れて来られたあの貧相な男・・・本当に御前様はあんなので良かったんかね」

「しっ!大きな声で話すんじゃないよ。もし御前様の耳に入ったらあたし達だってただじゃ済まないんだからね・・」

 そう言うと咎めた女の方が一度キョロキョロと辺りに誰もいない事を確認してから更に近づき

「御前様はここでお生まれになってから初めてでいらっしゃるからと言う事で志保様がわざわざ弱い男の方がいいだろうとお選びになったんだよ・・。それに後の()()()を思えば簡単に済む方がこっちとしても楽だからね」

 と本当に史の耳に届くか届かないぐらいの声でそう囁いた。



『ゴゼン様?・・・・贄の儀?』



 そう考えていると建物の入口の方面から何人もの女達が薙刀のような長物を持ってバタバタと出てくるのが見えた。



「警戒して徹底的に探しなさい!」


 一人の背の高い女が全員に指示すると周囲に女達が一斉に散らばってゆく。


『・・・不味いな。さっきのスプレー缶の爆破で警戒態勢に入ったかもしれない』


 史は裏手にいる二人が話し終え裏口の方へ歩いてゆくのを待ちタイミングを見てから更に奥にある小屋まで何とか走り抜けたかった。


 そしてあと少しで先に進めそうだとそう思った瞬間。


「いたぞ!!」


 と背後で声が聞こえると史は一瞬だけ振り返り、すぐに急いで裏手の小屋までダッシュで逃げた。


『やばい!・・・どうすれば・・・』


 そう思い史はその小屋の入口に手を掛けると運よく扉が開き、急いで中へと侵入した。


 しかしもし小屋に入ったのがバレたら・・・・。

「・・・・しまった・・これじゃ袋の鼠だ・・」

 史は焦った。

 そして一度小屋の中を確認しようと後ろを振りえったところでその状況に身動きが取れなくなった。


「!!・・・・・・・」



 その小屋の中にはそれまで作業をしていたのであろう怯えた一人の女性が史に向けてプラスチック製の銃のような物を向けている。



「・・・いや・・・来ないで・・・!!」


 女性はそう叫ぶと史に向けてその引き金を引き針金状のワイヤーを発射した。


『テーザー銃!??』


 そう気づいた時には既に遅かった


 バチバチっという閃光と共に史の頭の中に衝撃が走るとそのまま固い床にドスンという音と共に倒れ込んでしまった。











 寿々は見知らぬ女に全裸馬乗りの状態で首元を噛まれ、あまりの激痛で本能的にその女の腹を足で蹴り飛ばしていた。


「きゃ!!」


 女は後ろに倒れ込み畳の上に尻もちをつく。


「いってぇ・・・」


 寿々が自分の首元を触るとべっとりと手に血が付いた。

 しかし幸いな事に滴り落ちる程の出血ではなさそうでそこだけは少し安心した。

  

 当然酷い事をした自覚はある。

 しかしこのままでは無理矢理されるかそれが無かったとしても殺されると思い、女の状態を確認する事もなく目の前の布団から敷布団のシーツを剥ぎ取るとそれを羽織り一目散に障子をあけ廊下へと飛び出た。



 廊下に出ると直ぐに隣の座敷間で待機していた3人の年配女達が大声で


「御前様!!」

「チクショウ!!逃げやがったな!」

「誰か!防衛班を呼べ!!」


 と次々と叫び出す。



「やばいやばいやばい!!!」


 寿々はそのまま廊下の突き当りを屋敷に沿って左に曲がろうとしたがその先から呼ばれた防衛班らしき女達が鉈などの武器を握りながら前方に現れたので急いで踵を返し、すぐ近くの窓の鍵を開け素早く園庭らしき庭へ飛び降りた。


「!!!」


 下は砂利とかではなく幸い芝生のような感触でとりあえずこのまま走って逃げられそうで安心したが。しかし外の気温はとんでもなく寒い。

 ましてや今寿々はシーツ一枚以外はほぼ全裸だ。


 外に出た瞬間はあまりの恐怖で感覚が麻痺していたけれど、実際は3月の山奥。

 走って逃げる間次第に体全体が痛くなるほどに冷えこのままでは本当に逃げ切る前に凍死してしまう、そう思うくらい寒かった。



「はぁ・・はぁ・・・一体どこに行けば・・・」


 暗がりの中辺りを一生懸命に見渡す。

 しかしそもそもここがどこかなのかすら寿々は見当がつかないのだ。

 それでも何とかして逃げなくてはいけない。


 とにかく可能な限り身を低くし隠れられそうな場所を見つけてはその物陰に潜み、少しずつ前に進んだ。




 逃げ出してきた屋敷から300メートルくらいは離れただろうか。


 茂みの中に身を隠し少しだけ来た道を確認するとライトを持った人物が何人か屋敷の周りをうろうろと寿々を探すように歩き回っているのが見えた。

 暗がりの中なので正確には分からないが、追手の声を聞くとどうも全員が女のようだという事だけはわかった。



『本当にこの場所は何なんだよ・・・』


 そう言いながら寿々は首の怪我に手をやった。

 出血はそこまでではなかったが、だいぶ深く噛まれたのかまだ手に血がべっとりとついてくる。

 暗闇の中なので本当に傷が大したことないのかさえ分からなかった。



『・・・それにしても史と知念さんはどうしたのだろうか・・・もしかしたら二人もどこかで同じように捕まって・・・・!!』


 ようやく冷静になって二人の事を心配できたものの、まさか自分と同じように変な女達に襲われているのではないか?と思うと寿々は本当に身の毛もよだつ思いだった。


『大体俺なんかを犯して何が目的なんだ?・・確か贄がどうこうって言ってたからもしかして目的は子種が欲しいとかそういう・・・。いやいやそんな願望あるくらいならむしろ俺は選ばないだろう普通!!』


 寿々は身を潜めて目の前の追って達が一度引くのを寒さに耐えながらとにかくチャンスを待った。


 そしてこんな未知の場所で本当に見知らぬ女に無理矢理犯され、ましてや妊娠させて万一子供が出来てしまったらと考えたらそれだけで本当に恐ろしくてショックが酷かった。



 こんな事まではされてこなかっただろうけれど、思えば史の人生も女から追われ酷い仕打ち受けてきたことを寿々は身をもって知らされている。

 最初丸から『ナチュラルボーンメンヘラ製造機』などと酷い揶揄のされ方をしていたのを冗談半分で聞いてはいたが、女だっていざ本気を出せば見境なく凶器を取り出し男に襲い掛かって来ることだってあるのだ。

 寿々は今までの人生でそういうメンヘラタイプの女性と出会う事がたまたま無かっただけで、出会う人間によっては状況や立場が一気に不利になる事だってあるのだと改めて思い知らされた。

 

 史がそのせいで女性と付き合うなんて考えられなくなったのも正直今の寿々ならば理解しかなかった。

 あんな風に自分が不利な立場で素肌を無理矢理押し付けられてそれでも興奮できる男も世にはいるのかもしれないが・・。相手がどれだけ美人だとしても自分には絶対に無理だとそう思い知らされ、色々な意味で恐怖が勝り涙が溢れた。



そしてとにかく元の場所に帰りたくて仕方なかった。



『・・早く・・家に帰りたい・・・・。史がいる家に・・・』



 寿々は身を屈め泣き声が漏れないよう口を押さえ、声を押し殺して涙を流した。

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