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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
日日譚【アガルタ編集の日常】④

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挨拶【2月末日】

 2月末土曜日




 その日寿々(すず)(ふひと)の家を訪ね話さなければいけない事があった。

 その内容とは史を自宅に引っ越しをさせるという事だ。


 勿論史からも前もって父親の総司にちゃんと話すよう何度も言っておいたのだが・・・・・。




「え?・・・・・史の引っ越し先。三枝君の家だったの?」


 挨拶に行ってすぐにそう総司から言われ、寿々は史を睨みつけた。


「史・・・・・いつもなんで毎度毎度大事な事を先延ばしにするんだ?」

 と言うと


「すみません・・・・やっぱり言い出しづらくて・・」

 と本気で反省だけはしている様子だ。



 史はいつもそうなのだ。

 言い出しづらい事はいつまでも言えないし聞かれない限り言わない。

 寿々も史のそういうところが正直言って嫌だった。



 三人はとりあえずダイニングの椅子に座り、寿々は一応色んな事を掻い摘んで引っ越しの経緯を話した。



「・・・と、そこまで畏まった理由もないのですが。とりあえず史もどうしても家を出たいらしいので。俺の家も以前弟が使っていた部屋が空いているのでどうかと」


 とまぁ微妙な展開ではあったものの寿々は総司にそう話した。

 総司は当然それを聞いても納得いかない様子で。



「しかし三枝君・・・。これじゃあまりにも君の負担が大きすぎるんじゃないのかい?だって君は史の教育担当だろう?・・・仕事場で一緒で、家に帰ってからも一緒じゃあ・・。正直嫌にならないかい?」


 本当にもっともな質問だ。

 寿々もどう総司に誤解がないように伝えればいいのか考えながら一つ一つ丁寧に話す。


「ええ、まぁ嫌になる事もあるとは思います人間ですから。・・でも総じて言えばそこまで嫌ってわけでもなく。本当に単純に史がどうしても家を出たいというのならそこまで苦学生みたいな生活をしなくてもいいんじゃないかと・・そう思いまして」


 総司はそう聞いてから不安そうに史を見た。


「史・・・やっぱり、どうしても僕からの支援は受けたくないのかい?」


「・・・・正直言えば、今は前ほど抵抗を感じてはいない。だけどこれは俺にとってのけじめでもあるから」


「でもそれで三枝君に甘えるのはやっぱり違うんじゃないのか?実際ここからだって通えるわけだし」


 今日の総司はいつもに増して真剣で、何よりもどうして寿々にはそんなに頼るのに(はだ)家と絶縁を考えている自分とはいつまでたっても和解が出来ないのか。親としてもどうしても納得のいく理由が知りたかったのだ。


 寿々は総司の言う事は本当にもっともだと心からそう思った。

 大体史がちゃんと先に一言自分の家に引っ越すから、とさらりとでも言っておけばこんなにも拗れた話にならなくて済んだのだ。


 寿々は小さくため息をつく。


「秦先生、俺は負担だと思っていませんよ。ルームシェアするくらい別に仕事関係でも普通にある事です。そこまで深く心配されなくても本当に大丈夫だと思います。それにほら、家を出てみると先生との関係も色々とまた違った見方ができるかもしれません。ですからあまりネガティブに捉えずに史の成長を見守ってみるのもいいんじゃないでしょうか?」


 と寿々はかなり穏便に話を進めたおかげで何とか総司も納得をしかけていたその時。



 総司の部屋の方から出てきた史の従兄弟の迦音(かなん)がリビングに来て寿々を見るなり


「・・あら・・・あなた。確か、史の()()の?」


 などと言い出すものだから


「えぇえええええ??三枝君??」

「迦音!!いきなり出て来て何言ってんだお前!?」

 と総司は驚きすぎて転がる勢いで椅子から立ち上がり、史は顔を真っ赤にさせて迦音に怒鳴りつけた。


「・・・・・・」

 寿々は一人テーブルに肘をつけ額を覆い

『全部台無し・・・・』

 とただただ状況を嘆いた。




 その後怒った史は迦音をすぐに部屋に追い返そうとしたが、総司に止められ。総司は何故か迦音を隣に座らせるともう一度最初からちゃんと話をするように寿々と史に本気で問い詰めた。


「まず三枝君。今さっき迦音が言っていたことは本当なのかい?」


 何故か本気で怒り気味に寿々にそう聞いてくる。


「いいえ。断じてそういう事はありません。これは誓ってもいいです」


 と寿々もなんで今自分がこんな事を総司に直接弁明をしなくてはならないのか、正直に理不尽以外の何でもなかった。


「じゃあ。史も本当にそうなのかい?」


「・・・・・・・・・」

 総司の質問にとにかく答えたくない史は弁明する気もなく目を瞑って沈黙を貫いた。


「史。黙っていたらわからないだろ」


 総司が再び厳しく聞いたが、史は決して口を割ろうとはしなかった。

 寿々も何で史が今ここでちょっとした機転を利かせた嘘をつけないのか本当に疑問だった。

 しかし同時にこういう嘘がつけないのが史なのも良くわかっている。だからこそ話が余計に悪い方向へと行きそうで頭が痛かった。


「迦音・・。何でそう思ったんだ?」

 総司は急にその話を隣にいた迦音に振った。

 すると史もいい加減ムカついたのか。


「今、引っ越しの話しをしているだけなのに。何でいきなりそういう話になってるんだよ!いちいち迦音に何をそんなに聞き出したいのか本当に意味がわからない!」


 とキレる史を総司は真顔で


「史。今は迦音に質問しているんだ。口を挟まず座ってなさい」


 とかなり厳しめな目線で史を制した。


「・・・・前に、汐音(しおん)が私の人形を勝手に持ち出した時。私、史の会社の近くまで人形を追って行ったのよ。・・・そこで史と貴方が一緒に歩いているところを見てすぐにわかったわ。ただ歩いていただけだけど。どうみても貴方たち、恋人同士にしか見えなかったもの」


『いやいや・・どういう言いがかり?』

 寿々は反論したかったが、自分の感情だけを吐露しても余計拗れるのは目に見えていた。

 大体問題は自分ではない。史がどう答えるかだけなのだ。


 しかし史は本当に総司に自分の事を話すのが嫌なのだ。

 何よりも拗れすぎた親子関係の果てに、好きな相手が男で目の前にいて元父親の担当編集だなんて恥ずかしくて何も言えないのだ。しかも本当に恋人でもなんでもない関係だからなおの事自分だけの話になってしまう。



 総司は正直空気を読むのが苦手だ。

 しかし今こうやって史が口を割らないのはやはりそこに何か理由がある事ぐらいは理解できた。

 と同時にこの前史から聞いた『本当の居場所』という話が恐らく寿々に起因しているのだろう。それだけは何となく想像はできた。


「・・・・・・わかった」


 総司はようやくその言葉を出した。


「史が何を考えて今黙っているのかは分からないけれど。それでも史が三枝君を大切に思っているのだけは良くわかった。今までずっと険悪で、ようやくこうやって最低限親子っぽい雰囲気になってこれたのだから僕もこれ以上史を困らせるような事はしないよ」


 そう言うと総司は寿々に向き直って


「三枝君・・・。半人前の僕が親みたいな言い方でこんな事を言うのも違うかもしれないけれど。史をよろしくお願いします」


 そう言って総司は寿々に頭を下げた。

 寿々も畏まってしまい


「いえ・・。俺が出来る事は少ないと思いますが。とにかく先生に心配を掛けないよう二人で協力していきますので・・こちらこそよろしくお願いします」


 と頭を下げながら

『もう・・ルームシェアの挨拶じゃないなこれ・・・』

 心の中でそう呟いた。






 その後寿々と史は明日の引っ越しの準備をする為に史の部屋へと行き、扉を閉めると。


「・・・・はぁ。史はなんでもうちょっと上手い言い訳の仕方が出来ないんだよ・・」

 と寿々は開口一番に呆れて話すと、史はしょげたまま自分のベッドの上に腰を下し項垂れた。


「どう考えても本当の事を言い出しそうでもう何も言えませんでした・・・」


「まぁそんなところだろうとは思っていはいたけど。でもとりあえず先生にも挨拶できたわけだし・・・さ、荷物片づけられるものはチャチャッとまとめちゃおうぜ」


 そう言って寿々は自分のコートと鞄を部屋の入口付近に置くと腕まくりして部屋を見渡す。


 史の部屋は想像以上にシンプルな印象で、本棚にびっしりとオカルトや妖怪の本が収まっている以外は本当に机の上にも何も飾り気一つなくてむしろ驚いた。



『引っ越しの準備いらなくないかこれ?』



 そう思っていたら寿々は急に手を引かれそのままバランスを崩しベッドに座っていた史に胸に顔を埋められるようにして抱きつかれた。


「おい!前から言ってるけどいきなりやめろよな!」

 寿々も何度目か知らないけれど史は気が緩むとがすぐにこういうスキンシップを取りたがる。


 しかも今さっき総司に断じてそれはないと豪語したばかりだし、隣のリビングにはまだ総司と迦音がいるのだ。寿々としても当然そんな気分ではない。

 というか正直付き合ってもいないし、恋人でもない。たとえ嫌でなくてもやはり抵抗はある。



「・・・・前にハグならいいって言ってたじゃないですか」


「言ってないし、あの時もお前から抱きしめられて仕方なく背中叩いただけだ」


「もう明日でこの部屋も最後なので。とりあえずちょっとだけ許して欲しいです」


「理由としては大分弱い。故にだめだ」


 ときっぱりと言い切ったところで寿々も自分でもその言い方に気づいてため息をついた。


 当然史は寿々を離そうとはしない。


「大体・・・明日から一緒に暮らすって言うのに本当にこんな事が当たり前になったら俺としても一緒に暮らしづらいんだよ。史、前に俺が嫌がる事は絶対にしたくないって言ってたよな?」


 史はそう言われても寿々の胸に顔を埋めたまま一向に離す素振りがない。


「嫌ならもっと抵抗したらいいじゃないですか・・・何で全然抵抗しないんですか?」


「・・・・・・・」

 そう言われて寿々も何も言い返せなかった。


『本当のその通りだ。何故俺はいつもいつも口ではやめろって言うのにこうなると全く抵抗をしない、というか出来ないのだろうか・・・。いや、もう出来ない理由くらいわかってはいる。けれどそれでも完全に理性がぶっ壊れるまでは口だけでは抵抗しないといけないんだよ・・・』



「ぐ・・じゃあ明日からは真面目にこういう事をしたらぶん殴る・・」


 そう言うと史は


「殴ってもいいですよ」


 と、寿々の胸から顔を離しそのままグイっと引き寄せると自分の膝の上に乗せ、今度は寿々の首の後ろにその大きな右手を回すとそのまま顔を近づけ・・。


「むしろ殴られるくらい抵抗されないと俺分からないので」

「・・・・!」


 と寿々も驚いて目を見開いたまま近づく史の瞳に抵抗などできるわけもなく、そのまま唇があと数センチで触れようとしたその瞬間。




 急に部屋の扉が2回ノックされ

「史。明日の引っ越しだけど、迦音がどうしても手伝いに行きたいって言ってて・・・・」

 と扉が開かれ総司が入ってきた。



 寿々はベッド脇の本棚から本をドサッと引き抜きながら

「ええ?手伝い??それはありがたい話ですね!!人手は多い方が助かります!!」

 と取り繕い、史はベッドの上に座ったまま両手で額を覆いバカでかい溜息をつく。


「・・・・ん?」


 総司はその光景を不思議そうに見ていた。



 寿々の心臓は物凄い速さで鼓動させながら

『先生が鈍くて本当に助かったな・・・』

 と心からそう思った。


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