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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
日日譚【アガルタ編集の日常】④

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丸早智子【2月末日】

 2月末日土曜日



 その日、丸は夕方になると西早稲田にある自宅から散歩がてらゴールデン街まで出て馴染みのバーで一人呑みを楽しんでいた。


 (まる)早智子(さちこ)、39歳。

 

 今まではとにかくがむしゃらに仕事に集中して何もかも考えずに生きてきたけれど、この間川口盤太郎からケセランパセランをもらってからと言うもの、どうも丸の心境にも少しだけ変化が訪れていた。


 正直に丸は結婚とかはもうあり得ないと諦めている。

 8年前に婚約していた相手を裏切るような事をしてしまったのも含め、自分にはその資格がないとずっと思ってきたからだ。


 しかしケセランパセランをもらってからと言うもの、どうもその虚勢が異様にダサく感じるようになってしまい一気に色んな事が嫌になってきてしまっていたのだ。

 勿論ケセランパセランだけが要因ではない。

 今年で40歳になるという節目がより一層そう感じさせていたのは間違いない。



 当然一人で寂しさを感じないわけがない。

 しかしたまの休みでさえ色んなオカルトや心霊、またはスピリチュアルなイベントに積極的に参加してどうにか今まで楽しんできてはいた。

 勿論どれもこれも好きなのだが、その半分以上がやっぱり気を紛らせている為に参加しているという事実を拭う事が出来ず今日は本当にどこにも行く元気もなく一人で呑みに来たというわけだ。



「は~い、丸?やっぱりここに来てたわね?」

 そう言って狭いカウンターだけのバーに入ってきたのはシンディだった。

「シンディ?どうして?今日は別に会いに新宿に出てきたわけじゃないのに?」

 と丸も急の到来に驚いていた。


 シンディは丸にハイヤーセルフを教えてくれ、また自身でも高次元の存在と交信(チャネル)が出来る所謂チャネラーという能力を持っている。

 普段は新宿2丁目で神出鬼没に現れては色んなゲイやバイセクシャルの悩みの相談に乗っているのだ。しかしその実態は誰も知る事はなく、普段の仕事が何なのかは付き合いの長い丸ですら知らなかった。

 彼女はいつも呼ばなくても必要があれば来てくれる。そういう謎の存在なのだ。


「うふふ。今日は丸が元気無さそうだなぁって上から何となく降りてきたから街に出たらここに辿りついただけよ?」

「はは、流石ねぇ~。私もそのくらいずば抜けた能力があったら今の仕事に固執しなくても良くなりそうなのに・・・」

 と丸の何となく投げやりな発言を聞いてシンディも少し驚き

「あらやだ!・・あんた想像以上に傷心中じゃない・・。何でよ?あれだけ仕事一筋の鋼鉄の女決めてたのに?」

 シンディにそう言われて丸も

「鋼鉄の女ぁ??んな馬鹿な・・。アタシだって時には弱々になりますの!」

 と言いながらグラスのビールを一気に飲み干した。

「っはぁ~~・・・マスターお代わり!」

 そう言ってグラスをカウンターへ戻す。



「ところであの高校生・・(ふひと)君だったかしら?元気?」

 シンディが丸へ聞くと

「あ~元気元気!あ、でも今自転車で転んで左手首にヒビ入る怪我しているけど」

 そう言いながら丸は新しく出されたグラスビールを美味しそうに口をつけた。

 シンディはそれを聞きながら特に笑うわけでもなくポケットから煙草を取り出し、一本加えてライターで火をつけた。


「・・・・・ふぅ。丸って彼の上の存在と交信したことあるのよね?」

 シンディはそう真面目に丸に聞く。

「ん?そうねぇ何度か」

「・・・どう思う?」

 シンディは何か思うところがあるのかそう丸に質問してきた。


「どう・・・って?・・私は・・他の人の交信とそこまで特別な違いはなかったけれど」

 と何だかシンディの改まった態度が気になった。

「じゃあ私の思い過ごしかしらね・・・」

 と言うものだから、まさかシンディがそんな自信なさげな言い方をすると思っていなくて少しだけ驚いた。


「え?どうしたの?史が何か他の人とは違うって言うの?」

 と丸も思わず問いただすと


「そうねぇ・・・・私はね。全く違うと思っている」

 その答えを聞いて丸も二口目に飲もうと口に運んだグラスをそのまま下した。

「違うって・・どう?」


「う~ん。不思議なのよ。あれだけ何もかも話して見せてくれるのに、どうも肝心なところは完全にシャットダウンしているの」


「肝心なところってのは?」


「普通ね、私その人の運命の相手の姿形までほとんど視えるのよ。でも彼の場合モヤモヤっとしていて形が見えないの。だから視せないようにしているのか・・それとも・・・」

 とシンディがいつも以上に真剣にそんな事を言うものだから丸も正直何を言っていいのかわからず。

「え・・・・でも。それって普通相手の性別とか年齢とか関係なく視えるものなの?」

 と聞くと

「勿論よ」

 丸はグラスを握ると再び勢い良くビールをグビグビと飲み、喉を潤した。


「もしかしてシンディ、あの後も史と会ってたりする?」

 と丸が聞くと

「それは答えられないわ~。って言うか敢えて答えないけど察して?」

 と言われ丸も、『なるほど会ってはいるんだな』とそこは察した。

「じゃあ相手の姿形わかるんじゃないの?」

 と丸も流石にそれは三枝(さえぐさ)寿々(すず)の事意外ありえないのでは?と思って聞いてみたのだが



「・・・どうかしらね。彼の運命の相手は本当にこの世に存在しているのかしらね・・・」



 丸もどういう意味でそう言っているのか分からず返答に困ってしまった。

 するとシンディもその表情に気づき話しを切り上げ


「ところであんたはどうなのよ?そろそろ自分の運命の相手に気づいてたりしないの?」

 と急に振られ飲んでいたビールを噴き出しそうになったが

「ちょっと・・アタシの話になる流れだった今の?」

 と驚き手についたビールの泡をおしぼりで拭く。


「大体気づくって何?アタシすでに会ってるって事??」

 と何だか嫌そうに聞かれるのでシンディはキョトンとした顔になり

「ヤダ、嘘でしょ?全く気付いてないとは言わせないわよ?」

 そして丸は心から愕然とし

「運命の相手って人生に2人や3人いるもんじゃないのぉ?・・・」

 とカウンターに伏せながらまるで懇願するようにシンディに聞いた。

「いないわ。この世にいるのは運命の相手か、それ以外かよ」


 そう言われて丸は額を抑え

「じゃあもうそれ以外でもいいやアタシ・・。運命以外の人と幸せになりたい・・」

 と本気で呟く。


「はは、馬鹿ね。運命の相手が生きてるうちはそれ以外では幸せになれのよ。だから運命の相手なの。・・・・でもあんたがそんな投げやりな感じだったらまだまだ幸せにはなれなさそうね。いつかまた出会う運命だったとしても。その時には思うような幸せは恐らくないわよ」


 シンディに辛辣な言われ方をして丸も思わず

「何でそんな酷い事言うのよぉ!!今日は楽しくお酒呑みに来ただけなのにぃ!!」

 と思わず狭い店内で大きな声を出して泣き喚いてしまった。


 するとそこに一人の客が入ってくるなり


「・・・ひでぇなぁ・・。通りまでアラフォー女の喚き声が響き渡ってんじゃないすか・・」


 とカウンターで泣いている丸を嘲笑するような聞き覚えのある声でハッとしてそちらを向いた。


「・・・・・てぇめぇ!松下!!」


 丸も思わず脊髄反射で怒りに震えた。

 隣で呑んでいたシンディは松下の顔を見るなり再びキョトンとした顔になったかと思うと


「あ!いっけなぁーい。私これから約束があるんだったわ~!じゃあ丸また今度ね!」


 と言って立ち上がるとそのまま松下の横を通りながら



「おい、いつまでもテメェのくだらねぇプライドで女泣かせてじゃねぇぞ?これ以上不幸になりたくなかったらいい加減自分の行動を改めろよ・・このクズ」



 と耳元でドスのきいた男声で脅したかと思うとスッと松下を侮蔑した目で見ながら店を出て行ってしまった。


「・・・はぁ??なんだ今のアレ・・・」

 松下もシンディの発言にビビりまくり顔が青ざめる。


 すると店奥で呑んでいた丸が俯きながら

「・・・大体・・・何であんたがここに来るわけ?」


 と席2つ分離れた距離から松下に話しかけた。



「は?・・この店俺に教えたのあんたでしょ・・」

 と松下も何だか微妙な空気の中そう答え、そしてそのまま2つ離れた席に着くとマスターにビールを頼む。


 そしてポケットから煙草を取り出し火を付けようとしたところで、離れたところにいる丸が手をだしている事に気づき



「・・・たく・・煙草乞食かよ・・」


 と愚痴りながらも松下は丸に煙草を差し出し。


 そしてライターで自分の煙草に火をつけると松下は仕方なく離れたところから丸へそのまま火を差し出した。



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