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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
鬼神怪奇譚③

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52/102

第1話 颯太

2月2週目

 祝日明けの木曜日



 寿々(すず)(ふひと)は群馬県のとある占い師を取材する為に渋谷から湘南新宿ラインに乗って一路高崎駅を目指していた。


 取材の時間は午後2時となっているので予定としては午前8時台の快速電車に乗り10時には到着し、そこから信越本線に乗り換え北高崎駅を目指すという形になっている。




 渋谷から電車に乗り込んだ二人はグリーン車を取り空席を探す。

 平日の下り線だからかそこまで混んでおらず、二人は難なく席に座れたのだった。


「寿々さん、予定だと到着が10時頃になりますが昼飯どうしますか?」

 史はいつもより興奮気味に見え、まるで遠足に行く子供のようだ。


「まだ電車に乗ったばかりだから昼飯の事なんて何も考えられないって・・・」

 寿々は地元に帰るだけなので特に何もわくわくするような事もなく史のそのテンションに正直付いて行けるか不安だ。


「ていうか俺毎回グリーン車乗るとすぐ寝てしまうからなぁ・・いつも気づいた時には高崎に到着している感じ・・」

 そう言って寿々は椅子に深く座り込みコートを上からかけると既に眠りに入りそうな雰囲気だ。


「え・・寝ないでくださいよ。せっかく2時間もあるのに・・・」

 何がせっかくなのか分からないが史は寿々とこうして取材に行けるのも、遠出ができるのもとにかく楽しくて仕方ないといった感じだった。





 先日、史から提案された約束により史自身はこの数日間はこうやって一緒に過ごしていてもそれなりにメンタル面は安定しているように寿々には見えた。

 勿論自分も史との関係を今すぐにどうこう決める必要がなくなった安堵と、実際にはこの先本当にどうしたらよいのか・・という相反する悩みに苛まれながらも・・・。


 隣でこうやって自分の事を信頼してくれいる存在が確実にいるという事を嬉しく思わずにはいられなかったのだ。


 史は座席背面の折り畳みのテーブルを広げるとノートを取り出し何やら計算をし始めた。


「・・・・?何してるんだ?」


「帳簿整理です」


「帳簿??」

 寿々はこれまた高校生からはなかなか聞きなれないワードが出て来たぞと少しだけ体制を起こしそのノートを覗き込む。


 そこには相変わらず綺麗な筆跡でまとめられた収支記帳。つまり帳簿が細かくしたためられていた。

 寿々の視線に気が付いた史は


「・・・・今はまだ高校生なので一応扶養になっていますが。卒業したら扶養を外れて一人暮らしをする予定なので・・・。それに向けて色々な収支は必ず記帳しておく事にしているんです」


と帳面から視線を離さずにそう答えた。


「・・・・え・・・なんで??」


 寿々は史のその発言に驚き、またどうすればそういう発想になるのか不思議で仕方なかった。


 史の家は確かに色々と難しいところが沢山あるのは知っている。

 でも両親共に地位もありそれなりの収入があるのは明白だ。

 それなのにどうしてこの先の大学の4年間を全て自分の収入だけでやっていこうとしているのか。流石に突飛すぎて意味がわからなかったのだ。


「まぁ。自分のわがままですかね・・・。流石に学費までは支払えないのでそこは母に一応借りるって形になりますけれど」

 史は溜まっていたレシートを数枚広げその金額を書いてゆく。


「いや・・何でわざわざそんな大変な方を選ぶんだ?・・それってつまり、そんなに秦家とは関わりたくないって事なのか?」

 寿々がそう聞くと。史は一瞬手元が止まったが。


「そうです。本当にあの家から全てを絶ちたいんです。その為には自立するしか方法がないし・・・何よりもこれはもうずっと前から考えていた事なので・・・・・・と」


 そう言うと全てを記帳し終え、レシート類をクリッピングするとノートに挟み鞄にそれをしまった。


「・・・・・・」

 寿々は正直史がここまで自分の人生において覚悟のある人間だと思っていなかったので何だかとても複雑な気持ちになってしまった。


「じゃあもう来月には部屋探さないとって事になるのか・・・」

「はい。なるべくいいとよと大学へのアクセスのいいところを探しているんですが、予算もそこまであるわけじゃないのでなかなか部屋探しは難航していますね」


「まさかその予算も自分で?」

「?勿論ですよ。その為にアガルタでのバイト代はほぼ全額貯金していましたので」


 寿々は思わず何かあれば金くらいは貸してやりたいと思ってしまったが、恐らくそんな事を史が喜んで受け入れるわけもなさそうなのでそれ以上余計な事を言わないよう言葉を飲み込んだ。


「あ、でも寿々さんちにならいつでも喜んで引っ越しますよ!」

 と史もその雰囲気を変えようと冗談めかしてそう言った。


 寿々はうっすら笑いながら

「流石にそれはない」

 ときっぱりと断る。


「ですよねぇ・・」

 史も冗談で言ったがその断言ぷりに若干落ち込んだ。


『ん?・・・・・俺の部屋に引っ越し??』

 それを聞いて寿々は一番面倒くさい事を思い出した

「あっ!!」


 電車内だというのに寿々は思わず大きな声が出てしまい口に手をあてた。


「どうしたんですか急に・・・」

 史も急な大声に引くほどびっくりしている。


「やばいやばいやばい・・・俺()()()するのすっかり忘れてた・・・」

 そう言いながら顔は青ざめ、寿々は急いでスマホを取り出しチャットアプリで誰かと連絡をし始めた。


「根回し・・・?」

 史も寿々の異常な慌てように何を言っているのか気になって仕方がない。


()()()に今回の事バレたらめちゃくちゃ面倒くさいことになる・・・」

 寿々はそう言いながら誰かとチャットしている。


「・・・あいつ?」

 史は何のことを言っているのかはわからなかったが、相当面倒くさい()の話しをしているのだけは理解できた。


「・・・・・・!!・・・・だめだ。遅かった・・・」


 そう言って寿々は絶望するように天井を見上げ額に手をあてた。


「さっきから誰の事を言っているんですか?」

 史はちょっとだけ怪訝そうに聞く。


「えぇ?・・・俺の義理の弟なんだけど・・・。今回群馬に帰る事絶対に喋らないで欲しいって母親に伝えるのすっかり忘れてた・・・」


「寿々さんの義理の弟さん?」


 そう言えば母親と亡くなった父親の話しは聞いた事があったが、その後の寿々の家庭については史は全く知らなかったのだ。


「・・・いやぁ・・・・。ちょっと義理の弟が問題児でさ・・」

「問題児?え・・いくつの義弟(おとうと)さんなんですか?そんなにグレた人なんです?」

 流石に史も寿々の発言に何かよからぬ予感が漂ってきたのを感じずにはいれなかった。


「いや。その逆。性格はめちゃくちゃ真面目なんだ。歳も俺の二つ下だし。地元の役所で勤めていて学生の頃からとにかく誰からも好かれるような人気者タイプのいわゆる陽キャってやつだ・・」


「・・・?それのどこが問題児なんですか・・?」


「・・・・・・・」

 寿々はその理由を史にちゃんと伝えるべきなのか悩み顔がグッと歪みなんとも言えない変顔になった。

「なんですかその顔の意味は・・・・」

「・・・俺の口からは・・・」

「どうせあとで分かる事なのに?」


 確かにそうなのだ。

 恐らくこのあとどこかのタイミングで絶対に弟の颯太と会う事になりそうなのだ。

 颯太(そうた)の寿々への狂信ぷりを思えばもしかしたらこの後すでに駅で待ち構えている可能性すらありえる。

 正直事前情報無しで颯太との遭遇は史の落ち着いてきたはずのメンタルを打ち砕いてしまうかもしれない。

 寿々も自分でそんな事を言うのも嫌だったが。


「・・・いいか。勘違いを一切しないで聞いて欲しいんだけど」

「はい」

「俺の義理の弟の颯太は・・・頭がおかしいほど、俺の事が好きすぎる・・・」


「・・・・・・はぁあ???」




 二人が高崎駅に着くと案の定改札口の前では三枝颯太が両手を振って寿々を待ち構えていた。


「兄ちゃんこっちや!!」


 身長は170㎝後半くらいのやや浅黒の健康そうな肌とスマートながらも運動をずっとやってますというのがわかるガタイの良い爽やかな関西弁のイケメンがかすぐそこで待ち構えていた。


「はぁ・・・最悪だ・・」

「あれが義弟(おとうと)さん?関西弁??」


 二人がスマホで改札口を通り抜けたその瞬間、颯太は走って寿々へと抱き着こうとしてきた。

「寿々!会いたかったわ~!!」


 ・・・のだが。

 その前に史が最高に機嫌が悪そうな顔で寿々の上半身を片手で抱えあげるとその抱擁を阻止した。


「ん・・・?・・・なんやお前・・。うちの寿々に何しとんじゃゴラァ?」


 史は寿々を下しながら

「寿々さん()()のどこが真面目なんですか・・まるで田舎の不良じゃないですか」

「あああ??」

 颯太はすでにブチ切れている。


「もぉぉ・・・勘弁してくれ・・」


「ほんま誰やお前??」

 完全にメンチ切ってくる颯太に対して史は1ミリも動じる事もなく。

「・・初めまして、(はだ)(ふひと)と言います。月刊アガルタで寿々さんに仕事を教えてもらってる者です」

 としっかりと頭を下げ明らかな育ちの良さを見せつけた。

「仕事だぁ?こんな高校生みたいな顔した奴がか?」

「まあ。高校生なので」

「高校生ぃ??」


 颯太は寿々の方に向き直り

「兄ちゃん、ほんまこいつ何や?なんでコイツが一緒に群馬来とるん」

 と責めるように問いただす。

「だからさぁ・・仕事なんだよ。母さんからちゃんと聞いてなかったのか?今回は仕事で来たんだから仕事仲間がいてもおかしくないだろう?」

「出版社の仕事仲間が高校生??冗談キツイわぁ」

 史はその言葉にイラっとした。

「いいから。颯太もう俺と会えたんだから満足しただろう?早く帰ってくれないか?」


「な・・・なんて冷たい事言うようになったん・・今までそんなに冷たかった事あったか?」

 颯太はオーバーリアクション気味に寿々に訴える。

「全然あるだろ・・て言うか俺たちこのあと飯食ってからまた電車乗らなきゃだし、時間ないからもう行くぞ」


 そう言って寿々は改札前から移動しようとすると颯太は寿々の行く手を両手を広げて塞いだ。

「あかん・・今日は俺も寿々の為に有給とって来とるんや。絶対にこの後の移動も俺が運転して連れていく!」


 寿々と史は目を合わせ同時に疲れた顔をして肩を落とした。





 寿々と史はなかば強制的に駅のロータリーに停めてあった颯太のランドクルーザー300に乗り込む。

 外は想像以上に寒く見ればちらほらと雪が舞っていた。


「お前は後ろやぞ!」

 そう言って颯太は史を睨みつける。

「兄ちゃんは絶対に助手席な~」

 と寿々にはニコニコと話しかけた。


「・・・はぁ」

 史も寿々もやれやれと言った顔で同時に溜息をついた。



 その後三人は高崎市内のとある日本料理屋に入り昼食をとる事にした。

 席に着くと史は定食を頼んだが、颯太は寿々にはメニューも見せずにすべて代わって注文をする。


「史悪かったな・・お前も何か食べたいものとかあっただろう?」

 来るときに何やら気にしている風な事を言っていたから寿々も気になっていたのだ。

「あ~、確かに。釜めしとかちょっと興味ありましたけど」

「釜めし?なんか珍しいな・・」

「そうですか?」

「いやほらだって、いつもシンプルな食べ物しか食べてるイメージがなかったから」

「いやいや、それ以外にも普通に食べますよ・・。別に寿々さんみたいに肉魚ダメってわけではないので」

「釜めしかぁ・・俺も小さい頃に碓井峠で食べたっきりだなぁ。まぁ、また今度な」


 寿々が無意識に言ったその言葉にを史は驚いてちょっとだけ胸が高鳴ってしまった。

『・・・・・また今度があるのか・・』



「おいおい・・そこ。距離近いからちゃんと離れとかんかい!」

 目の前に座る颯太が史に睨みをきかす。


 料理が出て来てからも颯太は何かと寿々の配膳を手伝い

「兄ちゃんはこれと、これと、これな。ほなこれは俺もらうわ」

 と慣れた手つきで食べられるものと食べられないものをせっせと分け、あっという間に寿々の目の前には寿々が好きな食べ物だけになった。


「こういう所でそういうのもういいから・・・」

 寿々は颯太のお節介が恥ずかしくて頭が痛くなってきた。


「何でや。こんなん毎日やっとった事やろ。さ、食べ」


 寿々も仕方なく目の前の料理を食べ始める。料理はサラダにかぶの炊き合わせ、胡麻和え、茶碗蒸しに澄まし汁。全て自分の好きなものばかりなので正直嬉しいのだが・・・・。どうにも左に座る史の視線が気になる。

「・・・・な、なに」


「いや。寿々さんがまともに食事しているの初めて見たから感動してました」

 史の一言に寿々は白米が喉に詰まるかと思った。


「なんやお前。寿々の好きなもんも知らんのか??一緒に仕事しとったら普通それくらい分かるやろ」

「普通に仕事していたら分からないですよ?仕事したことあります?」

「なんやと??」

「史もいちいち颯太に構うなって・・。せっかく好きなもの食べてるんだからせめて静かに食事させてくれよ・・たく」

 寿々がそう言うと二人は睨み合うように食事を再開した。


「大体俺は大学の4年間寿々と二人で都内に暮らしとったんや。その間毎日料理作って寿々を支えていたんはこの俺やぞ。寿々の事なら何でも分かっとる。お前みたいなポッと出のガキには分からんやろうけどなぁ」

 と颯太はなおも煽り続ける。


『なんだって・・・。この常軌を逸した義弟と二人で暮らしていただって・・・?』

 史は色んな感情で言いたい事が沢山あり過ぎて寿々を見た。


 寿々も何を言いたいのか何となく察したようで

「いいから、さっさと食べ終わって取材に行こう」

 と史の言葉を制止した。




 食事が終わると再び颯太の車に乗り込み目的地の洞窟観音の少し奥ある占い師の家までやってきた。

 車を走らせる途中から既に雪が大粒になりこのままでは今夜は珍しく雪が積もりそうな勢いだ。

 車を降りると寿々は


「じゃあ颯太。ここでお前はもう帰っていいから。取材は俺たちしか行けないし。送ってくれてありがとう」

 と極めて冷めた態度でそう言った。


「いやいや、終わるまで待っとるわ。てか帰りはどうするん?こんな雪降っとったらタクシー呼んでも来へんかもしれんやろ」

「・・・でも本当にもう帰って欲しい」

 寿々も呆れていい加減にしてくれとばかりに答える。


「・・・わかった・・・。じゃあ一旦戻るけど、タクシー捕まらんかったらすぐに連絡してな」

 そう言うと颯太はめちゃくちゃ名残惜しそうに寿々を見つめながら車を走らせ来た道を戻っていった。



「はぁ・・史本当にごめんな。何と言っていいのか・・ああいう奴なんだよ」

 寿々は力なく答える。

「寿々さんが謝る事じゃないですよね?・・ていうかさっき颯太さんが言ってたの本当ですか」

「は、何が?」

「4年間一緒に暮らしていたって?」

「あ~・・・そう。暮らしてた」

「真面目な話大丈夫だったんですか??」

「大丈夫って何が?」

「いや、だってあの勢いなら完全に襲われていてもおかしくないでしょ?」

 雪降る中、他人の家の前だと言うのに史は真剣に寿々に聞いた。


「言いたい事は分かるんだけど、流石に俺もそこはアイツに大分厳しく言ってたから。何よりもアイツは俺に嫌われるのだけは嫌らしいので流石に度を越しそうな時ははっきりと怒るし、場合によっては手も出す」

「寿々さんが?」

 史は寿々が場合によっては人を殴る事もあるのかと正直驚いた。


「自分から申告するのも何だけど。誓って颯太とは何もない。だから勘違いして欲しくないって最初に言ったんだ・・・。もういいか?この話」

 寿々も恥ずかしいやらなんやらでこの寒空の下だと言うのに顔が赤いではないか。


『・・・颯太さんがアレなのはともかく。俺も半分くらいは気持ちが分かってしまうから気をつないとな・・』

 と史はあらゆる感情をぐっと押し殺した。



 とにもかくにも

 ようやく仕事だ。



 二人は雪の中その何の変哲もない民家に振り返るともう一度住所を確かめ、郵便ポストに書かれた名前を見た。


 〖小松 (いさお)


 名前は合っているようだ。


 すると

「見て下さい。こんなところに看板が・・・」

 史が玄関脇にある落ちた看板を指差した。


 そこには〖高崎の父・手相、方位、易占〗と書かれた手作りの看板が立てかけれてていた。



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