第2話 リアル八尺様
「はい・・はい・・。そうなんです、ええ。今のところ全部で5本を予定しておりまして・・・・・。本当ですか??いえいえ大丈夫です。3本も受けて頂けるなんて本当に助かります。はい!じゃあ是非ともよろしくお願いします!!ではこのあと詳しい内容をメールでお送りしますので。いえいえ本当に助かります!打ち合わせの予定もメールで・・・はい、ではよろしくお願いいたします」
そう言うと寿々は受話器を置いた。
「やったぞ史!3本分なら受けてもいいって!!しかも現代妖怪というか都市伝説の記事なら何度も書いてるから1週間あれば大丈夫だってさ!」
と寿々は史を見て喜びを抑えきれなかった。
「本当ですか??良かったぁ・・・・」
史もそれを聞いて少しだけ安堵した。
時刻は午後7時
編集部には最上と中嶋以外は皆帰宅してしまい、寿々は午後からずっと電話に付きっきりの状態だった為喉がもはや限界に来ていた。
「喉大丈夫ですか・・?俺何か飲み物買ってきますよ」
隣で朝霧に発注していた現代妖怪5種類の珍しいエピソードを調べていた史は、電話を寿々に任せっきりだったのでせめてものお詫びにと席を立ちあがった。
「何か飲みたい物あります?」
「そうだなぁ・・・じゃあ暖かいミルクティー買ってきて欲しい」
「寿々さんが甘いもの飲むの珍しいですね」
「いや、もう今お茶とか飲むと喉ヤバいから」
「わかりました。俺ちょっとコンビニ行ってきます」
そう言うと史はふと編集部内を中を見て
何かを思いついたようにそのまま中嶋の席まで行くと
「中嶋さん、今ちょっといいですか?」
「はいはい?何でしょう?」
中嶋も取材のスケジューリングやその為の資料作りで忙しそうだ。
「今〝八尺様〟と〝ケセランパサラン〟の面白いエピソードを探しているんですけれど、中嶋さんって何かそういうの知ってたりしますか?」
史はUMAに詳しい中嶋ならばちょっと変わったネタがあるのではないかと思い聞いてみたのだ。
「そうですねぇ・・・ケセランパサランってみんな持ってると幸せを呼ぶラッキーアイテムって一般的なイメージがありますけれど、一説には動物の毛や植物の綿毛に地球外生命体が寄生したことによって意思を持って動いたり、またはそれを捕まえた人によって神格化したりなんて話もありますよ?何と言ってもケセランパサランは食事をしますからね!」
「そうなんですか?・・・おしろいを食べて成長するのは知ってましたけど、まさかそんな説があるとは」
「でしょ?」
と中嶋は得意げに答えた。
「じゃあもしかしてケセランパサランを持っている人とか知ってたりしますか?」
「う~ん。みんな持っているって言っても大体が核のないただの毛だったりするらなぁ・・あ、でも川口盤太郎先生は前に持っているって言ってたしなんなら増殖に成功したとかも言ってた気がするなぁ」
「増殖とか凄すぎるじゃないですか。それって見る事出来ますか?」
と史も急に目を輝かせ興味津々になる。
「どうかなぁ・・・その記事って最終締め切り来週末だよね?・・・・う~ん。来週の木曜に千葉でUFOサミットがあるんで僕夜に参加するんだけど、それに盤太郎先生も参加するからその前にケセランパサラン見せてもらえないか聞いてみようか?」
と中嶋が提案すると
「是非お願いします」
そう言うと史は中嶋に礼を言いそのままコンビニに行く為に編集部を出た。
その後史が戻ってくると中嶋はすでに帰ってしまったようで残るは寿々と編集長最上だけだ。
『何だかこの三人でこの部屋にいると一番最初の幽霊団地の時の事を思い出すな』
と史は何となく懐かしさを感じていた。
「寿々さん、遅れましたがどうぞ」
そう言って買ってきたミルクティーを渡す。
「お、ありがとう!たすかる」
寿々は史から受け取ると早速熱いペットボトルのミルクティーの蓋を開け一口飲み込む。
「・・・いって。喉に沁みる・・」
「のど飴とかも必要でしたか?」
「あーいや、飴はあんまり好きじゃないからいいかな」
史は寿々のその様子を見て少しだけ微笑むと、再びモニターに向き直り受けてくれた飯島に依頼する記事の詳細と諸々の誓約書や記事の金額などをまとめた書類を作成しメールに添付し送信した。
『明日は休日だし、明後日は群馬に日帰りで取材だし・・なかなか忙しいな・・他にも出さないとけない原稿が数本あるし・・・』
史はそう思いながら時刻を確認するともうすぐ8時を過ぎようとしている。
「寿々さんそろそろ8時ですけど。帰らなくて大丈夫ですか?」
史は気を使って寿々に聞くと
「う~ん。今日ほぼ一日何も出来なかったからノルマの校正が山積みなんだよ・・。しかも明後日から群馬だろ?明日の休みに来てやればいいけど。・・でも出来るだけ今日中に進めておきたいかな・・・。史は?」
と寿々も史に質問をする。
「俺も同じですね。金曜日までの原稿もあるし、少なくてもこの記事だけは粗方形にしておきたいです」
「じゃあもう少しやっていくかぁ・・」
そう言いながら寿々は赤ペンを持って机の上の原稿に頭を抱えながら向き合った。
「あ、そうだ、先ほど中嶋さんと話してた事なんですが。来週の木曜日に千葉で川口盤太郎先生にケセランパサランを見せてもらえるかもしれません」
と史は少し興奮気味に話した。
「ケセランパサランを?川口先生が?」
寿々も見た事がないのでちょとだけ興味はある。
しかもまだ一度もお会いしたことのないオカルト界の重鎮、あの川口盤太郎先生に会えるチャンスが急にやってくるなんて思いもしなったので寿々はとても驚いた。
「しかも中嶋さんの話だと、増殖に成功したらしいですよ?」
「増殖??え?ケセランパサランってどうやって増えるんだ・・・」
「まだ確定はしてはいませんが、もし取材オーケーが出たら寿々さんから編集長にお願いしてもらえますか?」
と史は自分ではその許可を取る事ができないので寿々に聞いた。
寿々もこの好機を逃すわけにもいかず
「いいよ。いくらでも許可申請ならする、てか今してくる!」
「え?今?」
と言って驚く史を置いて急いで最上の方に走っていってしまった。
その寿々の姿を見て
『凄いな・・いつの間にかあの何も知らなかった寿々さんが、ちゃんと業界ワードや著名人の名前で会話ができるようになっているなんて・・』
と史も思わず寿々の成長を喜ばずにはいられなかった。
程なくし寿々が嬉しそうに席に戻ってくると
「いいってさ~」
とまるで子供の様にうきうきで答えるものだから史も思わず愛おしさで胸がいっぱいになりそうで参ってしまった。
祝日前にきちんと規定の仕事を終え、帰宅の途に就いた中嶋は仕事の後に秋葉原でUMAサークルの集いに参加する為渋谷駅に向かってせこせこと一生懸命に歩いていた。
中嶋は編集部内でも一番背が低い。
小柄な寿々でさえ168㎝あるが、中嶋の身長は163㎝で手足のリーチも短いのでなかなか人並みにスタスタと歩くのが苦手だ。
井の頭通りから右に曲がりセンター街に出ると向かいの方で何やら人だかりができて通りを塞いでいるのが目に入った。
『あ~、なんでこんな急いでいる時に限ってあんなに人が沢山いるんだろう・・・もう勘弁してほしいなぁ・・・』
祝日前夜の渋谷センター街だ。
当然の賑わいようだが、それ以上に何かまるで芸能人でもいるのかってくらいの人々がどよめいている。
しかしながら渋谷駅へはこのままセンター街を抜けるのが最短コース。
中嶋はとりあえず道の脇に寄りながらなんとか直進しようと人混みを避けて店舗側へ足を向けたその時。
人だかりがわっと言う声と共に割れその間から急に大きな人影がぬっと現れたかと思うとそのまま中嶋はぶつかってしまった。
「ぅわっ!!」
中嶋が一言発するとまるで弾き飛ばされるように後方へコロコロと転がった。
その場で野次馬のようにそれを見ていた通行人達は一瞬静まりかえった。
すると中嶋の回りにいた人達がヒソヒソと
「あれマジやばくね??本当にリアル八尺様じゃん!!」
と言いながら写真をパシャパシャと連写しまくっているのが見えた。
『リアル八尺様・・??』
そう思いながらズレた眼鏡を直しながら中嶋はぶつかった人物を見上げた。
するとそこにはいたのは白いつば広帽子と白のワンピースにそして白のロングコート。そして高さ10㎝はありそうなヒールを履いた黒髪ロングの身長2メートル以上に見えるモデルのような背の高い女性が目の前に立ちはだかっていた。
「・・ひっ・・」
中嶋は思わずそのド迫力に驚き小さく悲鳴を上げる。
「・・・・・・・」
女は中嶋を遥か上空から見下ろすだけで一言も喋らない。
その冷たい視線に中嶋は本能的にゴミムシとして見られていると感じた。
つばの広い帽子と腰まであるサラサラな黒髪で良く見えなかったが、目元がとても切れ長なうえ、赤いアイシャドウとライナーがより一層この世のものではない畏怖を醸しだし、中嶋は酷く怯えた。
辺りは相変わらず
「八尺様だ・・!SNSにあげようぜ!!」
「うっそ・・めっちゃスタイル良すぎる!どこのモデル?」
「えぇ・・あれ男じゃねぇの?」
みたいな声が聞こえ誰もが盗撮という概念を無くしひたすら目の前の女の写真を撮りまくっている。
すると女はすっと屈み中嶋に手を伸ばす。
「・・大丈夫?」
と表情を一切変えずまた瞬きも一切せずにそう言った。
「!!・・ひゃい、だ・・大丈夫です・・」
中嶋は思わず恐怖でたじろぎ、その手を取る事なく四つん這いで少し後ずさりするとそのまま立ち上がり、通りを少しだけ戻ると左折して文化村通りの方へと一目散に逃げていってしまった。
「・・・・・・」
女はその後も一切表情を変えず、再びぬっと立ち上がると回りの人混みからそれだけで「おぉ・・」という声が聞こえてくる。
そしてまた再びゆっくりとセンター街を歩き出し右に折れ井の頭通りに向かったのだった。
一方その頃、いいとよ出版の向かい。
通りを挟んだビルの2階にあるとあるカフェの窓際で一人の人物が楽しそうにいいとよの出入り口を眺めその時を今か今かと待ちわびていた。
「・・・早く出て来ないかなぁ~♪」
そう言いながら手元に不気味な銀髪の人形を持ち、陽気な鼻歌を歌っていたのは史の従兄弟、秦汐音だ。
汐音は先日形代と人形の髪の毛で史のドッペルゲンガーを作り、あの日渋谷にばら撒いたおかげでようやく史がいいとよのビルに通っていることを突き止めたのだ。
そして先ほどビルに入っていく史をチラッと目撃し、そこからこのカフェで張り込みながらまたどうやって史で遊ぼうかそればかりを考えていた。
しかし2時間も経つ頃にはいい加減イラつきが増幅し、いっそこのままこの人形の四肢をもぎ取ってやろうかと本気で思い始めていた。
「・・・・っくそ。出て来るの遅せぇな・・」
午後9時半
最上も9時には帰り、編集部にはいつものように寿々と史だけになっていた。
ようやく史はノルマの記事を書き終え、固まった肩をぐっと伸ばす。
「はぁ・・やっと終わりました。寿々さんはどうですか?」
史はそう言いながら左隣の席を見ると、寿々は赤ペンを持って左手で頭を支えながらウトウトと居眠りをしていた。
「寿々さん?」
もう一度声を掛けたが起きる気配がない。
「・・・・・・・」
史はその寝顔を見ながら2ヵ月前に寿々の寝顔を見た時の事を思い出し
『まさかたった2ヵ月で自分の気持ちがここまで変わるとは思っていなかったな・・。』
とそう考えながら。
『・・・どうすれば合法的にもっと触れるだろうか』
などと阿保な事を考えていた。
当然寿々とは恋人でも何でもない。
未だにただの教育担当と教わる立場の関係だ。
ただ先日言われた「史は嫌ではない・・」という言葉に勝手に歓喜し勝手に精神的にはつきあってるようなものと自分一人で思い込んでいるだけだなのだ。
ましてや寿々の言う「嫌ではない」には「たとえ史でも男に色々と触られるのは嫌」が入っている可能性が高い。と言うかほぼ間違いなくある。
状況的にせいぜい肩を叩いて起こすくらいしかできるわけもないのだ。
史はそんな事は百も承知とばかりに両手で顔を覆い目をギュッと瞑り
『・・・変な気を起こす前に起こそう!』
とそう思った瞬間
「!!?」
ふと寿々の背中辺りに何か嫌な気配を覚え即座にその方向を見た。
と同時に居眠りしていた寿々の頭がカクンと滑り落ちようやく目を覚ました。
「あ・・・あれ。・・・俺今寝てた?・・ん?どうした史?」
寿々が何事も無くいつも通りなのを見て、史も
『・・・気のせいか・・?』
と思い
「・・・いや。・・俺ようやく終わったんで。寿々さんはどうですか?」
「あ~・・ノルマは達成してないけれど、まぁ来週頑張れば何とかなるかな」
とまだ眠そうな目で答えた。
「じゃあとりあえずもう帰りましょうか」
と笑顔で返すと
「そうだな。明後日もあるし・・・!」
と欠伸をしながら寿々は首筋を伸ばす様に動かした。
二人はいいとよから出て史は駐輪場から自転車を持ってくると自然と寿々の向かう駅まで二人で歩き出そうとしていた。
すると史のスマホの通知音が鳴った。
「・・誰だ?」
史はポケットからスマホを取り出し見るとなんと中嶋からのメッセージだった。
「中嶋さんからだ・・・」
そう呟くと寿々も驚いて
「え?中嶋さん??」
とちょっとだけ身を乗り出してスマホを覗き見する。
二人共中嶋からメッセージが届くなんてことは一度もなかったから本気で驚いた。
内容は他人のSNS投稿の動画の添付と一緒に
〖今日帰る時にセンター街でリアル八尺様に会いました!〗
と送られてきていた。
「リアル八尺様?」
二人は顔を見合わせてその添付されてSNSを見てみる。
そこには引きの画角で人より頭一つ分以上大きい全身白の服を着た女がセンター街を歩く様子が映し出されていた。
スマホを見る史を向かいのビルのカフェで汐音が目撃するといよいよ『ようやく出てきた!』とばかりに顔を歪ませるように笑い切れ長の目を光らせ、持っていた人形を史と重ね髪の毛を鷲掴みにしようと手を伸ばす・・・・。
寿々は史を見て
「ん?八尺様って言うか・・・ただの背の高い女性なのでは・・?」
と真っ当な事を言う。
しかし史はその画像を見ながら
『・・・・どこかで見た事あるような・・・』
と顔をしかめた。
その史の後ろ姿を2階の窓から眺め、存分に呪力を込めた手で汐音が今まさに人形の頭を掴もうとしたその瞬間。
「・・・見つけた」
汐音の背後にセンター街で八尺様と騒がれた背の高い女が立ちはだかっていた。
「・・・え?」
汐音も突然背後に大きな影が出来たので恐る恐る後ろを振り向く・・・。
「汐音。私の大切な人形で何するつもりなの・・」
「か・・迦音・・・姉さん・・・」
汐音は一瞬にして顔が青ざめ、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動きがとれなくなった。
そしてそのまま手の内から史の髪の毛で作られた人形を迦音に奪い取られた。
「なんでここが・・」
「分かるに決まってるでしょ。これ私のだから・・・ん?」
そしてその角度から汐音が何を見ていたのか察した。
その視線の先には従弟の史が立っていたからだ。
「・・・・・ふひ・・と」
寿々は史の顔を見て
「どうした?」
と声を掛ける。
「・・・・いや。何でもないです」
史は何となく嫌な予感を感じてはいたが『まさかな・・・』とその考えを打ち消し
「行きましょう」
と寿々に笑いかけると二人は並んで代々木八幡駅へ歩き出した。
史の従兄弟、そして汐音の姉である迦音は9年ぶりに史を見て肩を震わせ
「ひひひひひ・・・」
と不気味に笑った。
そして寿々の隣で楽しそうに笑う史を見つめながら。
「はぁぁ・・・・汐音。抜け駆けはいけないわ」
と言いながら汐音の頭を大きな手でグッと掴んだ
「!」
汐音はそれに本気で怯えている。
「どうしましょう私。・・・・こんなにも楽しいなんて・・・本当にいつ以来かしら・・・」
そう言って切れ長な目をより細め、口が裂けるくらいまで広角を上げ不気味に笑うと史と寿々の後ろ姿をうっとりと眺め続けた。
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