浅野紅葉【1月末日】
アガルタ編集部の編集アシスタントの浅野紅葉27歳は土曜の朝から編集部に行って少しだけ来週の仕事の準備をした後、渋谷のファストフード店の隅で翌日の同人誌イベントに向け残りの原稿とペーパーと言われるチラシの作成に追われていた。
自前のタブレットは角度をつけているのでよほど除き込まれない限り誰の目にも入らないように注意はしている。
仕事場の人達に同人活動を特に秘密にしてはいないが、別に聞かれる事もしゃべる事もないので誰もそれを知る人物はいなかった。
のだが・・・・。
「あれ。浅野さん?」
「?」
浅野は呼ばれた気がしてワイヤレスイヤホンを外しながら目の前を見ると何故かそこに史が立っていた。
「!!!」
浅野は突然湧いて出た史にあまりにビックリして作業していたタブレットを慌てて抱え隠した。
「ななななんで史君がこんなところに???」
あまりにびっくりしたせいでつい喋りもどもってしまった。
「・・・いや。俺も普通にコーヒー飲みにくらい来ますよ。っていうか今の・・・」
「いや違います!!断じて違います!!」
浅野は気が動転して何故か敬語が出てしまった。
「えぇ~浅野さん漫画めちゃくちゃ上手いんですね~。凄い」
何故か既にタブレットの中を覗き込まれており、浅野は言い訳もできず史に正直にそれを見せる事になってしまった。
「でも・・・これって。もしかして・・・寿々さん?」
漫画はオリジナルの魔法少年のお話なのだが、魔法少女アニメものように目が大きくとても可愛い絵柄なのが特徴だ。しかしその見た目がどう見ても寿々に似通っている。
「ごめんなさい!!」
浅野は急に謝った。
「・・・何で謝るんですか?」
「だって・・・私この前のドッペルゲンガーの時まで史君がその・・三枝さんを本気で好きだとか全く知らなかったから・・」
史はそれを聞いて少し物憂げに
「・・・何でそう思ったんですか?」
と聞くと
「だって・・・昼間の三枝さんも完全におかしかったし、その後の史君も本気で怖かったから。あとで丸さんにもしかしてそうなのか?って聞いたら見りゃわかるでしょって」
「・・・はぁ・・・まぁじゃあ自業自得って事ですね」
と史も仕方ないとばかりに諦めてそう言った。
「で、このお話何で主人公寿々さんがモデルなんですか?」
「え・・・・?だって三枝さんめちゃくちゃ可愛いでしょ!!??」
浅野のその反応は過剰すぎるとは思ったものの、実際史も本当そう。としか思っていなかった。
「私、もともと三枝さんが異動してきた時から、あれはやべぇなって思ってたんだけど。以前に眼鏡壊れて顎鬚もなくなったのを見て更にやべぇな!!って思ったんだよね。あれはあのまま外歩かせたら本当普通に痴漢に遭いそうだし下手したら誘拐されるんじゃないのか?て私毎日ハラハラしちゃって・・・・そう思ってたらなんか漫画描いてた」
「・・・漫画ってそんな感じから描くものなんですか??」
史はそういうクリエイティブな発想には全く疎いので浅野の感性に素直に驚いた。
「わからないけど。まあパッション?」
「パッション・・・」
史は今まさに未知の世界に足を踏み入れたような気がしていた。
「これって本出すんですか?」
「うん、これからすぐ近くの印刷加工店行って刷って折って」
「へぇ~。てかこの本出来たら買います。売ってください」
史のその発言に浅野は本気で驚いた。
「え?マジ?」
「まじで」
「え?やっぱそれって愛ゆえなの?」
「これはそういうのとは違うかと。単純に面白そうなので」
そう言うと史は浅野にニコっと笑った。
「!!???」
浅野は史にこうやって笑いかけられたことが一度もなかったから思わずその笑顔にドキっとしてしまった。
その瞬間に天啓が降りて
『!!!・・よし・・・この次のお話には史君っぽいキャラクターも絶対に出すぞ・・・』
と勝手に心に誓う浅野紅葉27歳なのであった。




