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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
小人爺怪異譚【短編】

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第2話 ギスギス

 うっきうきな中嶋を先頭に、寿々(すず)(ふひと)は妙なギスギス感を持ったまま小さいおじさん調査の為、会社の裏手にある古い桜の樹の下を訪れていた。



「さっきの写真に写っていたのは・・・あ、あの(うろ)辺りですね!!」


 中嶋は自前の高性能レンズのカメラで樹の上部にある洞を何枚も連写した。

 寿々は外に出て来たにも関わらず機嫌が悪い史を放って、中嶋に付き合うように自分も樹の周辺や樹の洞などを入念に調べてみた。


 当然そこにあるのは特に何の違和感もない、枯れた古い桜の樹だけだ。

 樹齢こそわからないが高さは10メートルあるかないかといったところだろうか。

 ところどころ朽ちた枝が落ちたのか傷跡のような幹の肌が痛々しい。


 寿々もしゃがんで根っこの隙間や幹を隅々まで調べてみたがやはり特段変わった部分は見られなかった。


 そして自分でもちゃんと写真にとっておこうと思い、スマホを取り出し何枚か色んなアングルで撮影した。



「・・・・中嶋さんどうですか?何か気がついた事とかありました?」

 寿々は一通り見終わるとまだ写真を撮りまくってる中嶋へ声を掛ける。


「今のところ何もないですねぇ~」


 ふと史を見るとさっきから全く上の空で樹を見る事もなくただボケっと立っているだけのようだったので流石に寿々も頭にきて


「史。お前編集部に戻っていいよ」


 と冷めた顔で突き放すと、史も寿々と目を合わせる事もなく黙って一人社内へと戻っていった。



『・・・・・ったく本当に何なんだあいつ・・・』



 寿々もやれやれと言わんばかりに首を振って中嶋の元へ戻る。


「あれ?史君どうしたんですか??さっきまであんなに小さいおじさんを熱心に語っていたっていうのに・・・」


「いやぁ・・・本当なんなんでしょうね、俺も全くわかりません。それよりこの後どうしますか?」

 と寿々が中嶋へ聞くと、


「う~ん・・・確か2階3階のフロアでも小さいおじさんの目撃があったりするんですよね?一応社内も全部見てみますか??」


 中嶋の徹底した調査意欲にちょっとついて行けるか不安になりながらも


「そぉおうですねぇ~、じゃあ行きますか!」

 と同行を了承したのだった。





 史が暗い顔をしてエレベーターを一人下りて地下へ戻ってきたところに、ちょうど手洗いから戻った丸が廊下で鉢合わせになりその顔を見てギョッとした表情になった。


「おま・・・・何その酷い落ち込みようは・・・・・」


 丸はあまりに生気を失った史の顔を見て急いで腕を引き給湯室へと連れ込んだ。


「ちょっとマジどうしたの史・・・・・さっきのもそうだけど一体何があったって言うのよ??」


 そうびっくりしながら問いただす丸に、史は特に顔色を変える事なくがっくりと項垂れた。



「何でもないです・・・」

「何でもないは無いでしょう??流石にしっかりしなさいよ!」


「・・・はい、わかりました」


 とそのまま給湯室を出て行きそうな史をもう一度取り押さえ

「いやいやいやいや。本当今、めっちゃ精神ぶっ壊れてんの自分でわかってる??」


 とめちゃくちゃ心配そうに聞く丸に


「・・・・わかってますよ」

 と表情一つ変えることなく史は答えた。


「・・・もしかしてだけど。さっき来た総務の女に三枝がキャッキャしてたのがそんなにショックだったって言うの??」


「・・・・・・・・」


 史は丸の言葉に言い返す事が出来なかった。


「はぁ・・・ばっかねぇ!!あんな女いっくら三枝がどう見てようが関係ないでしょ?それにあの女、上の方では男とっかえひっかえしてるって有名な奴だよ??三枝になんかに興味持つわきゃないじゃない」

 と丸は女特有の悪口で史を慰めようとするが


「・・・そう言うんじゃないんですよ」

 と史は今度はしっかりと答えた。

「じゃあなんだって言うのよ」

「・・・皆さん絶対に勘違いしてると思いますが。俺は別に寿々さんとどうなりたいとかそうは思ってはいないんです」

 という史の真面目な答えに丸も驚いてきょとんとしてしまった。

「丸さんは女性だからわからないかもしれませんが。そういう気持ちにだけはなりたくないんですよ?今の俺はまさに()()なんです」


 とかなり本気で答えた史だったが、丸は2,3秒考えて


「・・・・いや、それ思っている時点でもう()()じゃねぇだろ??」

「やっぱそう思いますか・・・」

 と丸の突っ込みに史は更に落ち込んだ。



「じゃあぶっちゃけ聞くけど史はどうしたいわけ?」

「・・・・・そうですね。何も考えずにただ一緒に楽しく仕事がしたいです」

「でもそれを恋愛が遮っているのか・・」

「恋愛とか言わないでください。気持ち悪い」

「じゃあ何なのよ?それが恋愛じゃなかったらただの独占欲だっていうの?その方がよっぽど気持ち悪いわ」

「・・・じゃあもうそれでもいいです。どうすれば何も考えずに楽しく仕事ができますか」

「・・・・そうねぇ。いっそ告って振られちゃえばいいんじゃない??」

 と丸の突飛な発言に史も驚いた。

「はぁ?そんな事したら楽しく仕事なんてできるわけないじゃないですか!」

「そうでもなくない?三枝はそんな嫌な奴じゃないと思うよ??きっと傷つけられずにちゃんと振ってくれると思うし、そしたら気持ちを切り替えて仕事に集中できるじゃない?」


 史は呆れて首を振ると

「丸さんに相談した俺がバカでした!」

 と怒って給湯室から出て行ってしまった。





 中嶋と寿々は2階3階と隈なく捜索し、4階そして5階まで来ると流石に寿々は社員の視線が気になって仕方がなかった。

 5階と言えば元いた大和編集部がある階だ。

 流石に小さいおじさんを探しをしているところを元同僚に見られるのは何となく気まずい。


 中嶋はそんな寿々の思いなど全く知らないので、この階でも廊下から共有スペースから男子トイレ、そして編集部の端から端まで隈なく捜索し、通りかかる編集者達にも小さいおじさんを見た事がないか声を掛け続けた。

 寿々も正直恥ずかしかったが、中嶋のその集中力と小さいおじさんに対する熱量はとにかく尊敬しかなかった。



「よぉ三枝!!!」


 廊下捜索していると背後から聞き覚えのある声に呼びかけられた。

 振り返ると大和の編集長真崎(まざき)が立っている。


「真崎編集長!!」


 何となくこのタイミングで一番会いたくない人に会ってしまったなぁ・・という思いがあったものの、真崎はツカツカと歩み寄ると


「三枝どうよ!地下帝国は?」


 と嬉しそうに聞いてきた。


「えっと、大和とは全く違いますけれど。仕事は楽しいですよ・・」

 とぎこちなく答える。すると


「いいなぁ~~!!俺もアガルタやりたいんだよ!!お前が羨ましい!」

 と予想だにしない答えが返ってきて、寿々はあまりの驚きですぐに言葉が出て来なかった。

「・・・・・・え・・そうだったんですか?」


「実は俺入社して一番最初に希望出したのがアガルタだったんだよ。でもご縁がないのか運が悪いのかずっと呼ばれる事もなく今は大和の編集長だ。アガルタは夢があっていい!俺はもっと夢が溢れる本が作りたい!」


 真崎は大和の中でも超がつくほどの現実主義者(リアリスト)だと誰もがそう思っていただけにまさかその真崎の一番最初の希望部署がアガルタだったとは寿々も驚きを隠せなかった。


「で?今小さいおじさん探しているんだって??」


 と真崎に聞かれ


「そ、そうなんです。でも全く手掛かりがなくって」


 と寿々が答えると


「実は俺・・・・見た事あるんだ。このビルの中で。しかも2回も!」


 と小さい声で寿々に教えてくれたのだった。






 真崎の話しだと小さいおじさんはやはり上の階の方では現れないのでは、との事だった。

 真崎が目撃したのが編集長になる前にいた3階の児童書の編集フロアだったからだ。


 どうもいいとよに現れる小さいおじさんは児童書や絵本などが好きらしく、他にも目撃した人の話ではやはり3階が一番目撃証言が多いとの事だった。

 ただ出現する時間帯があるらしい。

 ちなみに真崎が目撃した2回とも夜の9時以降との事だ。



 中嶋と寿々は一旦アガルタに戻り作戦を練り直す事にした。




「中嶋ただいま戻りました~!」

 編集部に戻ると中嶋は入口で礼儀正しく挨拶しながら自分の机に戻り、大切なカメラをせっせと片付け始める。


 それを見ながら寿々も

「中嶋さーん、それ終わったらこっちによろしくお願いします!」

 と声を掛けながら席に戻った。

「ラジャーですぅ!」

 と中嶋は離れた机から寿々に向かって敬礼をした。



 寿々は自分の席に戻ると

 一人隣で黙々と仕事をする史をチラリと見て


「・・少しは落ち着いたか?」


 と声を掛けた。


 史は一瞬タイプを打つ手を止め、少しだけ俯き


「・・・・はい」


 と小さく返事をした。


「なら良かった」


 寿々も安堵して椅子に深くもたれ掛かり、史の方を顔だけ向けると


「聞け史・・・・小さいおじさん。本当にいるかもしれないぞ?」

 ニヤリと笑った。


 そしてびっくりした史が寿々と目を合わせると


「これから中嶋さんと一緒に作戦会議だ。勿論お前も参加しろよ。いいな!」


 と不敵に笑い、そのいつになくやる気な寿々の表情にさっきまでのギスギスが嘘のように薄れ、史もようやくいつもの笑顔が戻ってきたのだった。





 中嶋の準備が整うと3人は再び応接ソファへと腰を掛けた。

 先ずは寿々が指揮をとって説明を始める。


「では今から小さいおじさんハンティング作戦会議を始めます」


 そのネーミングセンスの無さに寿々は自分でも笑ってしまったが、そのまま作戦説明を続ける。


「まぁハンティングとは言っても目的はまずは目撃する事そして撮影をする事」

 史と中嶋は寿々の説明を真剣に聞く。


「どうやら大和の編集長からの情報では、小さいおじさんがいいとよに現れるとすればそのほとんどが3階の児童書編集部のフロアかもしくは共有スペース、あとはトイレとのことだ。それから加藤さんの情報も入れると2階にも現れる可能性もありそうかな。あとは外の桜の樹・・・・もしこの小さいおじさんが桜の樹を住処にしているとしたら確かに高さからしてビルに来れるのはせいぜい3階辺りまでという事にはなるのかもしれない。あとは出没時間は夜の9時以降の可能性が高いらしい」


 そこまで聞いて中嶋は


「どうしましょう。今日決行しますか??僕は全然オーケーですよ!」

 とむしろ今すぐにでもやりたいと言った勢いだ。


「俺も今日の方が都合がいいです。というか心霊写真は検証する事が企画の目的なので検証まで一日で終わるならそれに越したことはないです」

 と寿々が発言すると


「・・・・・・俺も別に今日で大丈夫です。明日から学校始まるし、検証が今日中に終わるなら賛成です・・・」

 とまだいくらか喋りにぎこちなさがありながらも史も承諾した。






 こうして3人は小さいおじさんハンティング作戦を決行すべく午後9時に各自持ち場へと配備された。


 3人は各々ボイスチャットを使って各自イヤホンマイクにした状態で持ち場に就く。


 中嶋は自前の高性能光学レンズのカメラを持って一番目撃件数のある3階の共有スペースで待機。


 寿々はスマホを動画モードにして2階事務フロアの自販機の前で待機。


 史は透視を使って随時桜の樹を監視しながら、樹から何かしらの動きが無いかを見張る事になった。




「もしもしもしもし~!聞こえますか聞こえますか??中嶋待機場所に到着しましたどーぞ!」



「中嶋さんボイスチャットなので特に通信も音質も問題ないですよ!それとあまり大きな声出すとまだいる編集部の人達に怪しまれますから気をつけてくださいね」


 と寿々はすっかり冒険モードに突入している中嶋へヒソヒソと小声で返した。


「俺の方も今のところ何も変化ありません。と言うか結構寒いので1時間待つのは無理そうですどうぞ」


 と史も中嶋に習ってまるで無線機で話しているような口調で返す。


「史君了解しました~!ご武運をお祈りいたします、どうぞ~!」


 中嶋と史のノリについて行けない寿々はその会話をそのまま聞き流した。



 寿々のいる2階は事務フロアなのでほとんどの社員が定時もしくは遅くても8時くらいまでには退社しているのが普通だ。

 ましてや今日は正月明け初日なので当然9時の時点ではフロア全体がほぼ真っ暗な状態であった。



『人がいないのは良かったけれど・・・ここまで暗くて静かだと自分の会社とはいえやっぱり何だか不気味な雰囲気があるよな・・・』


 と急に一人で待機する事に不安を感じ、とりあえず落ち着こうと自販機の前の椅子にゆっくりと腰を掛けた。



 するとどこからか声が聞えたような気がして寿々はスマホのライトをそちらの方向に向ける。



「・・・・・・・・・」



 しかしその後は何の音もなくまた静寂が訪れた。


『気のせいか・・・・』


 暗闇でちょっとばかり緊張しているのか、どうも神経が過敏になっているようだ。

『きっと上の階の声とかが聞こえたのかもしれない』とそう自分に言い聞かせた。



 そう思った次の瞬間



「・・・・ふふふふ」



 とやはりどこからか女の笑い声が聞こえてきて寿々は思わずガタっと音を立てて立ち上がった。


「・・・今の物音は寿々さんですか?」


 イヤホンの向こうから史の声が聞こえてきた。


「あ、ああ。悪い俺だ。・・・・・・あの中嶋さん??」


「はいはい何でしょう?どうぞ?」


「中嶋さんのいる3階で今誰か笑っている人とかいましたか??」

 と聞くと


「いえいえ、3階は僕が上がってきた時点で最後の社員の方が帰宅したので、今フロアには誰もいない状態ですよ?どうぞ?」


 と返事が返ってきて更に寿々は背筋に寒気が走った。



「ええ・・・・じゃあ声がしたのって1階からだったかなぁ・・・」


「寿々さん2階から声が聞こえてきたんですか?」

 史も気になって質問をする。


「あぁ・・でも、やっぱり俺の聞き間違いかもしれない・・・」


 そう言って気持ちを落ち着かせる為にもう一度椅子に腰を掛けようとしたその時


「・・・あ」


 と史の短い声が聞こえてきた。


「どうした史?」


「・・・ちょっと待ってください。今透視していたら樹に動きが・・・・」



 史は寒い裏路地の桜の樹の下で左手を樹に向けて瞼を閉じジッと樹の微細な変化を読み取っていた。

 僅かにだが、桜の樹の中にボンヤリとした光を感じるのだ。


 静寂の中、サワサワと周辺に生えている柳が音を立てて揺れた。



 史は写真で見た樹の上部のある(うろ)辺りに意識を集中させる。


 すると樹の洞から緑色の光がパッと現れたかと思うと、その光が樹の枝を瞬間移動でもする様に走りいいとよのビルに向かって移動し始めたのだ。


 光を確認したと同時に目を開けその所在を追うと、一瞬だけ夜闇に紛れてリスやイタチ程の大きさの小さい影がビルの2階の窓へと飛んで移動するのを目撃した。


 史は向こうに気づかれないように小声で


「寿々さん!今桜の樹から何か生き物らしき影が2階の窓に向かって飛んでいきました。方向からすると恐らく男子トイレの窓辺りになるかと思います」


 その声を聞いて寿々も一気に緊張感が増した。


「わかった・・・行ってみる・・・」


 そしてスマホの動画を回しながら慎重に廊下突き当りにある男子トイレに向かってゆっくりと歩きだしたのだった。



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