好きの分岐【12月末】
12月29日
年越しまであと2日
寿々は明日からの休みの前に出来るだけ仕事を進めておこうと必死に作業を続けていた。
企画の一つ心霊写真については2月号に何とか滑り込みで募集記事を出せたし、アガルタのWebページにも載せてもらったので具体的な進行は肝心の心霊写真が集まってからになる。
だが万が一集まりが悪い事も考えられるので、知り合いは勿論、会社の社用ホームや社報にも声を掛けて応募の記事を載せてもらったのだ。
あとはひたすらネットやSNSに上がっている写真を手当たり次第に探しては使用許可申請を送るのが最近の日課となっていた。
いいとよ自体は週末の26日で仕事納めになってはいたが、寿々は今日も一人出社してひたすら心霊写真を真剣に探していた。
「おざーっす!!」
「!!!!」
苦手な心霊写真を見ていただけに急な挨拶に寿々は3㎝程飛び上がった。
「篠田さん!・・・・びっくりさせないでくださいよ・・・・」
寿々は動悸を抑えながら編集部に入ってきた篠田に声をかけた。
「え?どうしたんですか??そんなにビックリさせました??」
篠田もそんなつもりはなかったのでかえって困惑している様子だ。
「いやぁ・・ほら今例の心霊写真を集めるためにSNSや色んなサイトを見ていたんですけれど。本当に俺こういうの苦手なのでもうそれだけでビクビクしてたんですよ」
寿々は冷や汗を拭いながら篠田にそう答える。
「心霊写真!ああなるほど!それで」
篠田は自分のリュックから色々な仕事道具を取り出しながら笑って返した。
「あれ?今日は史君はいないんですか?」
篠田は編集部に寿々が一人なので自然と史の存在を確認してしまった。
「あ~、史も流石に毎日は来れないですよ。まだ高校生なので扶養とかの兼ね合いもあるし。それでなくてもアイツ給料無くても出社しそうだから今日は来るなって釘をさしました」
「なるほど」
そう言うと篠田はまたニコニコと不敵な笑みを浮かべたまま自分の席についた。
「まさか篠田さんも俺と史の事をなんか勘違いしてたりします??」
と寿々に咄嗟に聞かれ
「いやぁあ??まさかそんな何かあるとか思ってはいませんよ??え?誰かに何か言われたんですか?丸さんとか?」
と質問を返すと。
「いや、丸さんはむしろここずっとそういう下世話な事を言わなくなったんですよ。まぁ返ってそれも気になりますが」
「じゃあ誰ですか?」
「最近は特に浅野さんに毎日のようにニコニコしながらチラチラ見られ、史と話していると『あ、別に私の事は気にしないくださ~い!』って妙な目で見られていたんですよね・・・・本当アガルタの人たちは何でこうすぐに偏った見方しかできないんですかね・・・」
寿々は少し怒り気味に篠田に愚痴った。
「篠田さんはそういうの気にしてないみたいだから気が楽ですよ本当」
そういう寿々だったが、篠田は少し考えた上であえて質問をしてきた。
「う~~ん・・・・でもまぁぶっちゃけ気にはなりますよね?」
「!?篠田さんまでもそういう目で俺と史を見てるんですか??」
寿々は正直ショックと言わんばかりに作業の手を止め篠田に訴えかけた。
「ああでも本当誤解して欲しくはないんですが、俺はあくまでも仲が良ければなんでもいいというスタンスの上で気になっているだけですよ?」
「仲が良いって・・・そんなの俺がどれだけ気の迷いがあってもそれだけは無いって断言しますよ。と言うか皆どこまでを疑っているんですかね?言っても男だし、ましてや高校生だし。ここのいい歳した人たちが何かを想像するだけでもぶっちゃけアウトでしょ」
「それはそうですよ!そこは俺も全くの同意見です。・・・ただ」
「ただ?」
「史君は三枝さんが来てから本当に変わったんですよ。今ではまるで別人のようです」
篠田にそう言われて先々週に起きた史のストーカー事件の時に言われた言葉を何故か思い出してしまった。
『あれはあたしの知ってる史じゃない・・・・・全部あんたが変えてしまったのよ・・・・・』
「・・でも俺もここの皆もそれで良かったと本当に思ってます!ほら史君って誰が見ても無理をしているようにしか見えない子だったから。それが今は嘘のように伸び伸びと楽しそうにしていて。・・・要するにどう見ても史君の方は三枝さんの事好きすぎるのは間違いないじゃないですか?」
篠田にど直球でそう言われて何だか寿々も気恥ずかしくなってきてしまった。
「・・・・まぁ、好かれているのは流石の俺でもわかっています。どう好きかはわかりませんが、俺的にあいつは18歳の見た目と大人以上の能力。しかし精神的にはまだ10歳のままだと思っていて・・・・きっと好きの分岐はまだこれから知っていく事になるんだろうな・・・と」
そう顔を赤くさせつつも真剣に話す寿々の表情を見て篠田はまたニコニコと微笑み。
「きっとそうですね。史君はこれからもっと成長していくんだと俺もそう思います」
と素直にそう答えた。
「じゃあ?逆に三枝さん的にはどうなんですか??」
と唐突な篠田に寿々も思わず焦りつつも暫く考え
「俺ですか?俺は・・・・・・・・・・犬?犬の様な存在だと思っていて・・・」
「犬・・・・・・へぇ・・・」
そう聞いた篠田は心の底から史に同情し、また寿々の事を
『・・この人存外酷い人なんだな』
と本気で思ったのだった。




