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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
呪物蒐集家奇譚【短編】

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20/102

第3話 イタコ


 ひろせが編集部を出て行ってから1時間が過ぎようとしていた。

 その間寿々(すず)(ふひと)は仕事の続きなどをして時間を潰していた。

 

 一方預かったオシラサマはちゃんとボストンバッグに戻され、目が届くよう打ち合わせ室の机の上に置いたままにしてある。

 史は寿々の隣の席でライティングの作業に没頭していたが、1時間もたつと集中力が切れたのか大きく伸びをすると立ち上がりオシラサマの様子を見に打ち合わせ室へと向かった。


 寿々(すず)もその間黙々とアガルタの既刊号を読んでいたのだが、実のところずっと背後のオシラサマからの嫌な視線が気になってそれどころではなかったのだ。



 手に持ったミネラルウォーターを飲みながら史は1時間ぶりに話し始めた。



「ところで寿々さんはオシラサマのことを知っていたんですね」

「ああ、元々月刊大和(やまと)では日本の古典学を専門的に扱っていたってこともあるけれど。実は俺の母方の実家が青森でお祖母さんがイタコだったんだよ・・・」


 寿々はアガルタを読みながら極力オシラサマを気にしないように気を逸らしながらさらっとそう呟いた。


「はい?お祖母さんがイタコ??」

 史はその発言に珍しく声を大きくした。

「え?何?そんなに珍しいこと??」

「いや珍しいも何もイタコさんなんてもう数名しかいないんですよ??貴重な存在に決まってるじゃないですか??」


 史は全く何を言ってるんだと、寿々に呆れたように話す。


「そうなのか?・・・・まぁそのお祖母さんはもうだいぶ前に亡くなってるんだけど。俺んちさ、俺が4歳の時に父親が他界して。母親も一人で育てるの大変だったみたいで俺が9歳の時に母親も倒れちゃってさ。それで俺は翌年の10歳から12歳までその青森のお祖母さんの家に住んでいた事があったんだ」

 寿々は暇つぶしと気を紛らわす為に何となく史に昔の話をぽつりぽつりと話始めた。




「お祖母さんの家は青森ではごく一般的なりんご農家だったけれど。元々生まれた時から目が不自由で、そんな事もあって親族からイタコの修行に行かされて半強制的にイタコになったって言っていた。仕事としてはほぼ毎日全国からやってくる人と話して、口寄せって言ってつまり降霊術をしては悩みや相談を受けていたみたいなんだけど。正直俺はお祖母さんがめちゃくちゃ怖かったしその仕事場には絶対に近寄るなと強く言われていたから、一度もそれをやっている様子を見た事はないんだ。ただ年に数回各家庭に祀るオシラサマを招いてオシラサマアソバセっていう儀式をする時だけは多くの地元の人がやってきて仕事場も解放されていたから、何回かはその様子を見た事があったんだよ」



 史は寿々の話を聞いて

『なるほど寿々さんの霊感はイタコの血を継いでいるからなのか・・・』

 と、本人はいまだにそれを全否定しているけれど何となく合点がいったのだった。



「それでオシラサマの事に詳しかったんですね・・・」

「別に詳しくはないよ。ただ知っているって程度だな」

 寿々は史と話したおかげか、嫌な視線から気を紛らわす事ができたと思い少しだけほっとしていると、史がふいにボストンバッグの中からオシラサマを取り出して、そのご神体を目で見ようと持ち上げているではないか。

 寿々はその行動にギョッとして声を上げた。


「おいやめろ史!触るな!!」

「大丈夫ですよ?何もないですか・・・ら・・」

 そう話す史の手から急にオシラサマがテーブルの上にゴトと音を立てて落下した。


「ちょっと何やってんだよ!何で急に落としたんだ!?」

 その行動の意味がわからなくて寿々は史のもとに駆け寄った。

 すると史が自分の両手を眺め呆然としている。

 見るとその両手の手のひらがぱっくりと裂けるように切れ、ボタボタと床に流れ落ちる程の出血をしていた。


「うぁあああ!!ちょっ!ええ?何で!?」

 寿々はひとり慌てふためき、とにかく何かで止血しないとと自分の机に戻ると、鞄中からハンドタオルを取り出し史の両手を抑えた。


 その声を聞いた浅野が

「どうしたんですか・・・・??」

 と様子を見に来たのだが、史の手から溢れる血の量を見ると急にフラフラとしてその場に倒れ込んでしまった。

「ええええ!浅野さん!?」


 と同時にメディアプランナーの高橋も駆けつけ

「浅野さん?てか史君もどうしたのこれ??」

 と困惑気味にまずは近場の浅野を起こし様子を窺う。

「うぅ・・・すみません。私血見るのダメで・・・」

 そう言うと高橋はとりあえず顔面蒼白な浅野を抱え近くの椅子に座らせた。

「あ、確か奥の方に救急バッグみたいなのあったと思うから持ってくる」

 と急いで廊下に出て行ってしまった。



「史、お前大丈夫なのか??」

 寿々はさっきから全く反応がなかった史に声を掛けた。

「あ・・はい大丈夫です。全然痛みとかないので」

「え・・・痛くはないのか?」

「・・・ええ。ただいきなり手の力が入らなくなって、見たら両手が裂けていたので正直驚いて・・・」

 史はかなり驚いたようで、ショックなのかしばらく反応がしっかりとしない様子だった。

 寿々は止血をしようとそれなりの力で史の手を握る。

「・・・むしろ寿々さんの方が痛いです」

「はぁ?」

 何をこんな時に言っているんだとばかりに寿々は史の言葉に少しだけイラついた。


 すると、

「ありました救急バッグ!」

 そう言って布製の救急バッグを持って高橋が急いで戻ってきた。

「・・すみません高橋さん」

 史はようやく正気に戻ったようでしっかりとした口調で高橋に声を掛ける。

 寿々は止血をしながら高橋に先に謝罪した史に対してさらにイラついた。


『順番的には俺に謝るのが先なのでは?』と



「そんなことより大丈夫?どうしたのいきなり何で手を切ったの?」

 高橋の問いに史は心配そうにオシラサマに目を向けた。

「あのオシラサマを持ち上げたら突然手が切れたんですが・・・手が切れた時に落としてしまったので壊れてなければいいんですが・・・」

 止血で動けない史と寿々に代わって高橋がその視線の先にあるソレに向かって何だ?とばかりに近づこうとすると、

「高橋さん!それ以上絶対に近づかないでください!また触れようとすると何か起こるかもしれませんので!」

 と寿々は慌てて制止すると、高橋も驚きながらもそれに従ってその場から離れた。




「寿々さん、多分もう大丈夫だと思います」

「ええ?いやまだ出血してるだろ・・・」

 そう言って血に染まったハンドタオルをそっとどかすと、手のひらは血で真っ赤ではあったが確かに血は止まっているようで寿々もほっとした。

 その傷口をよく見ると確かに手のひらの端から端まで一直線に切れていたが、傷自体はそこまで深くなさそうで安心したのだった。


「それにしても不思議ですね・・・これじゃあまるで鎌鼬(かまいたち)にあったみたいです」

 史も痛みがほぼないせいかまるで他人の傷口を見ているかのような口ぶりだ。

「・・・ったく。いいからまずは血を洗い流してこいよ」

 寿々は仕方ないとばかりにため息をつくと、史を洗面所に行くように促す。

 時計を見ると時刻は午後6時半を過ぎようとしていた。

 



「・・それじゃあ私は浅野さんをタクシーに乗せたらそのまま帰りますよ。本当に大丈夫ですか?」

 その後高橋はまだ気分の悪そうな浅野を支えながら先に帰宅する事にした。


「大丈夫です。本当にありがとうございました」

 史はようやく普段通りに戻ったようで、高橋に即答で礼を言うとそのまま二人を追い出すように見送った。



 そして編集部には寿々と史の二人きりになり、寿々は慣れない手つきで仕方なく史の手に包帯を巻いてあげた。

 その作業に集中していたのもあるが、しばらくの沈黙の後ふと、



「・・・・いやまじさぁ・・・・謝罪もお礼も俺の方が先じゃないのか・・?」



 一生懸命包帯を巻く寿々は流石に言わないと気が済まないとばかりに史に抗議した。

 史はその言葉にすぐに反応できず

「・・・・・・・・・・・・・」

 しばらく黙り込んでしまった。



「いや何か言えよ」



 と寿々は顔を上げ史の方を見る。

 すると史はなんとさめざめと泣いているではないか・・・。



「何で・・・泣いてるんだよ??」



 流石の寿々もぎょっとしたが、それよりも『仕方ないな・・』という気持ちの方が先にきた。

 おかげで目の前で容姿端麗なハーフのイケメンが何故か泣いているというのに、必要以上の動揺がなかったのだけはむしろ助かったと心から思った。



「・・・団地の時もそうですが。本当に寿々さんに迷惑ばかりかけているなと・・・」



 史は普段どうしようもなく生意気な口調と態度で、アガルタでもそんな雰囲気を微塵も見せずに過ごしてはいるが、こうやって素をさらけ出して話す姿はまるで10歳の少年の様でそれはそれで何とも言えない庇護欲に駆られてしまうのだからどうしようもなかった。



『庇護欲?・・・』

 そう考えながら寿々はまさかこの庇護欲が史の計算の元に誘導されているのではないか?と一瞬だけ頭をよぎったがそんなことはあって欲しくなかったのでとりあえずすぐに忘れることにした。



「・・・・お前なんか前に言ってたよな。色々と複雑なんですって。まぁ俺はそういうの特に知りたいとは思わないけれど。話したくなったらいつでも聞いてやるからさ・・・・・・・よし。これでいいだろ?」



 不器用な手つきで巻いた包帯はゆるゆるとして何とも頼りがいのない出来栄えで、まるで三枝(さえぐさ)寿々(すず)そのもののようであった。

 そのすぐに解けてしまいそうな巻き方を見て思わず史も、



「下手くそすぎです」



 とさっきまでの涙もすっかり止まりいつもの毒吐きの史へと戻っていたのだった。



「お前なぁ・・・人に何かやってもらったらありがとうなんだよ!」

 と怒りながら余った包帯を史へ投げつける寿々。

「怪我人に暴力とか最低ですよ!」

 と史も笑いながら言い返した。



 二人がそんな話をしていると、寿々のスマホに着信が入った。

「?」

 確認するとひろせからの電話だ。

「もしもし、はい三枝です。・・・いえいえ。はい、そうでしたか。それは良かったです!」


 寿々がそう話していると、史は目の端でさっき手から落ちたオシラサマが微かに動いたような気がして、そちらを向いた。

「・・・・・・・」


「はい。わかりました。あと30分くらいですか?じゃあお待ちしてますので。はい、失礼します」


 そう言ってスマホを切ると、史がまたもやオシラサマを気にしているのを見て、寿々は再度釘を刺す。

「史、もう二度と触るなよ!いいな!」

「わかってますけれど・・・。今ちょっとだけ動いた気がしたんですよ」

「動いた・・・?」

 それを聞いて寿々も信じられずに二人して打ち合わせ室のテーブルの上をジッと見つめていると。


 ・・・・・・・カサ。


 と微かな音を立てて不自然な動きをしたのだった。

 二人は顔を見合わせる。

 確かに今、二人の目の前でオシラサマが僅かにだが動いたのだ。


 そう言えば打ち合わせ室の床には史の血がまだ零れ落ちたままだ。

 この後ひろせが戻ってくればこの状況をだいぶ不信に思うだろう。

 しかもオシラサマはボストンバッグに入れておいたはずなのに今は外に出た状態だ。


 寿々はそんな事を思うと相変わらずオシラサマから睨まれているような視線を感じていたものの、嫌な事はささっと済ませてしまおうと思い意を決して席を立った。


「とりあえず。俺が全部片づけるから史はそこで待機していろよ・・・」


 寿々は一先ず床の血を拭き取らないとと思い、机の上にあったウェットティッシュを持って床を拭き始める。

 しかしその間もずっと机の上からオシラサマが寿々を見下ろしているような気がしてならなかった。


 全て拭き終わると恐る恐る立ち上がり、今度はオシラサマと目を合わせないようにゆっくりとバッグの中に戻そうとした次の瞬間、突如寿々のこめかみをめがけてオシラサマが勢いよく飛んだと思うと、そのままスコーンという軽快な音を立て寿々はその場に卒倒してしまったのだった。



「寿々さん!!」

 一部始終を見ていた史は倒れた寿々に駆け寄り抱え上げた。

 そしてすぐにオシラサマの所在を確認しようと辺りを見回す。

 しかし打ち合わせ室の中にも入り口にもどこにも姿が見当たらない。


 一体どういう事かと困惑したが、史は即座に透視をする為に目を閉じるとさっと左手を掲げ意識を集中してその場所を探った。



 ・・・・・・・・・・・・・。



 しかしながら何故かいつもの様に透視ができない。

 今までこんな事がなかったので更に焦りが募った。


『・・・もしかして手を傷つけられたせいか?』


 史は手に巻かれた包帯を見て呆然とした。


 すると背後から急に殺気を感じ振り返ると目の前にオシラサマが宙に浮かんでいるではないか。

 オシラサマは再び一瞬だけゆらっと動いたかと思うと物凄い勢いで二人に向かって襲い掛かってきた!



「!!!」



 気絶する寿々を庇うように体を覆った史だったが、気が付くとその寿々の右手が飛んできたオシラサマを鷲掴みにして動きを止めている光景が目に飛び込んできた。


「!?」


 しかし寿々はまだ気絶したままなのだ。



 その異様な光景に史が驚いていると、急に寿々の目がカッと見開いた。

 しかしその目はいつもの茶色い瞳ではなく、白く濁り盲いた瞳をしている。



 「"オシラサマともあろうお方が祟り神さ成り下がるとは、んともいだわしぃ・・・”」



 突然聞こえてきたその声は寿々の声とは明らかに違ったまるで老婆のような声色だ。

 すると寿々は右手でオシラサマを掴んだまま左手で何かを数回空を切る動作をするとその老婆の声色のまま念仏を短く数回繰り返し唱えた。



 次の瞬間、不自然な角度で押さえていた右手のオシラサマがまるで力が抜けたかのようにスっと落下して寿々の脚の上にぽとりと落ちた。



 史はその一連の光景に言葉が出て来なかった。

 すると今度は寿々の首が少しだけ史の方を向いたかと思うと、その白く濁り焦点の合わない瞳で。



 「“おめさ、うちの孫の犬だか。もうわがっていると思うばって寿々は霊媒体質が酷く強い。こうやってわが入ってしまうのもなんとも容易い。だから決しておめが力さ使って見たあの()()()()()はぜってぇに開けてはならんぞ。おめの役目はどんだけ生まれ変わっでも寿々を守ることだけだ。わがったか犬っこ・・・”」



 そう言い終えると白く濁らせた瞳をスッと瞼が覆い、次に開いた時には普段通りの寿々の瞳の色に戻っていた。

 意識が戻った寿々は抱えられていた史の腕から勢いよく起き上がると自分の脚の上にオシラサマが落ちている事に驚いた。


「!!なんで俺の脚の上に?・・・・」


 すると史はスッとオシラサマを両手で持ち上げてそのまま何事も無かったかのようにボストンバッグの中へと戻した。



「ばっかお前触るなって!!」

「いえ・・・もう大丈夫だと思います」

「はぁ??一体何言ってんだよ・・・」



 自分の体の中に祖母のイタコが降霊した事など気が付いていない寿々は史が何を言っているのか全く理解が出来なかった。




「いやぁあ~おそうなってすんませんでした!!」

 二人が打ち合わせ室から出て来ると同時に声がして編集部の入口を見ると、そこにはようやくひろせが戻ってきていた。


「ひろせさん・・・おかえりなさい。お待ちしておりました」


 寿々は先ほどまでの出来事をひろせには伏せ、何事もなく帰りを待っていたかのように慌てて冷静さを取り繕った。


「・・ほなら、もうだいぶ遅くなってしまったので僕はこの()を持って帰らせて頂きます!今日はほんまにありがとうございました!!」

「いえいえ、こちらこそ色々と勉強になりました。是非とも次回の連載記事に関しても改めて打ち合わせをさせて頂きますのでどうぞよろしくお願いします」


 寿々は丁寧に挨拶を交わすとその場でひろせをそのまま見送った。






 何だかんだで寿々と史が会社を出たのは夜の7時半近くになっていた。


「なんか・・・今日もめちゃくちゃ疲れたな・・・」

「それはそうですよ」

 寿々は気絶してほとんど覚えていないようだが、恐らく降霊されてから力を使っていたのは寿々本人なのだから疲れていて当然なのである。



「寿々さん、今から飯食いに行きません?」

「ん?・・・珍しいなぁ史ってそういう事言う感じだったのか?」

「嫌なら別にいいですけど」

「そうだなぁ・・・問題はどうも俺たちは飯に対して関心が薄いってのが共通している事だよな」

「それは言えてますね。・・・じゃあとりあえずこの前丸さんに連れ行ってもらった鍋の店でもいきませんか?」

「あ~いいねぇ。あそこなら好きなものだけ食べられそうだし」

「てか寿々さんて俺より偏食ですよね?」

「いや、それ史には言われたくないやつ」


 史は会社に置いてあった自分の自転車を転がしながら寿々と一緒に並んで街中の方へと向かって歩き出した。




 そしてその楽しそうな2人の様子をとある女が暗がりの中から恨めしそうに眺めていたのだった。

 その女は長い爪をギリギリと歯で噛みちぎり垂れ下がった長い黒髪の間から血走った目で史の姿だけを追っていた。



今後の創作の為にも是非!感想と評価へのご協力をよろしくお願いします!

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