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オカルティック・アンダーワールド  作者: アキラカ
呪物蒐集家奇譚【短編】
18/102

第1話 呪物コレクター



 12月初旬の金曜日

  

 三枝(さえぐさ)寿々(すず)は地下帝国ことアガルタ編集部へ異動になってからようやく1ヵ月が経とうとしていた。

 最近は教育担当としてタッグを組んでいる高校生アルバイト(はだ)(ふひと)と、連日3月号の企画書を作り続けていたのだが。今日が初めての企画会議となりその成果を編集部一同の前で提案しなくてはならなかったのだ。


 

 寿々は元々学術誌から突然の人事異動でアガルタにやってきた事もあり『超常現象』とは何か?すら心得ていない全くのド素人だ。

 ゆえにここ半月は連日アガルタの創刊号からを徹夜で読み漁り突貫で得た知識で企画書を作成しての今日になる。

 当然緊張は計り知れなかった。


 最初に副編(デスク)の吉原が3月号のメインの方向性を提示し各編集者がその内容に即した特集記事を提案してゆく。

 チーフの丸は海外で有名なサイキッカーに今年の世界情勢などを予言してもらう企画を提出すると、世界的な奇祭や怪異に詳しい後藤からはメディアで騒がれているアジアの呪術師を特集する企画などがあげられた。

 他にもネットの情報収集に長けている篠田からはダークウェブと都市伝説の因果関係を取り上げた企画が持ち出され。UFO・UAP・UMAに詳しい中嶋からはアメリカの最新UFO情報を大きく取り上げたい、と皆一様に最新の情報を取りいれた数々の企画が次から次へと持ち出され、寿々は正直圧倒されてしまい自分の企画書の説得力のなさに発表する前から自信を無くしていた。



 「三枝君は何か企画があるかい?」

 編集長の最上が全員の話しを一通り聞いた後、気を利かせて寿々に声を掛けてくれた。

 

 しかしながら、自分の持ち寄った企画の自信のなさに正直このままスルーされて会議が終わればいいのに、とすら思っていたところだっただけに何とも分の悪い雰囲気になってしまったのだった。


「ええっと・・・・そうですね・・・・」





 会議が終わり編集者一同が自分の席へと帰ってゆく中、寿々は一人沈んだ顔をして会議室から最後に出てきた。


 企画の総評としては

「着目はいいとは思うけれど内容がエンタメとしては弱いかな。アガルタを読む人達はあくまでも堅苦しい内容を読みたいと思っているわけではないからね。三枝君自身がもう少し肩の力を抜いてあらゆる方面から不思議だなとか知りたいなを追求できるような内容を探してきて是非僕たちに聞かせてもらいたいんだよ」


 というのが最上の意見であった。

 一応次の会議までにいくつかをブラッシュアップさせ他にも新規の企画を最低10は出すようにとやんわりと全ボツを出されたのだった。



「はぁ・・・・」


 独りどんよりとため息をついていると


「三枝君」


 と先に出て行った最上が自分の机から声を掛けてきた。

 見ると隣には後藤が立っている。


「?」


 疑問に感じながらもそちらへ近づくと。


「三枝君。さっきの企画だけどね。三枝君はずっと大和(やまと)の方で日本の古典学についての記事を扱っていたんだよね?」

「え?ご存じでしたか?」


 寿々は最上が自分の仕事の内容を詳しく認識しているとは考えていなかったので正直驚いてしまった。

「勿論だよ!ほら前に言ったでしょ?キミの編集した秦総司先生の本が色々なきかっけになったって」

「確かにそうでしたね」


 寿々は幽霊団地の一件の中、史との繋がりが自分が編集したあの一冊にあるという事を思い出し何だか改めて不思議な因果を実感していた。


「それでね。僕はキミはやっぱり日本の信仰や風習などの知識を強みにした企画をもっと追求してゆくのがいいんじゃないかってね。後藤君とも話していたんだよ」

「え?後藤さんが?」


 最上の隣に立つ後藤が寿々ににっこりと笑った。

「俺も大和の記事読んでいたからさ。ちゃんとお前が日本の信仰や考古学に詳しい事は知っていたよ」

「そうなんですか!・・・」


 寿々はそう言われて自分は完全な偏見でアガルタをほとんど読んでもいなかった事を心から恥じた。


「それでね。後藤君も日本を含めた世界の民俗や宗教学について詳しくてね。元々そういう研究をしていたって事もあるけれど。今アガルタでは主に世界的な風習や民俗学から見た色々な超常現象を追求する記事や特集を作ってもらっているんだ」

 そこまで話すと最上はニコニコと後藤に目線で合図をする。

「それでな三枝。俺はこれから3月号の特集で忙しくなるのと、元々担当している別冊の仕事も多くて大分無理があってな。お前に一つ俺が担当している連載記事を引き継いでもらいたいと思うんだ」


「連載記事ですか??それってもしかして・・・」

 寿々も当然後藤の担当している記事の内容くらいわかっている。

 だからこそそれを聞いて青ざめた。

「ああ、呪物コレクターひろせよしひろの連載記事だ!」


「呪物コレクター!!」








「『ひろせよしひろの呪物蒐集禄』の担当ですか!!良かったじゃないですか!」


 学校が終わってから編集部へやってきた史は寿々からの報告を聞いてまるで我が事のように嬉しそうに喜んだ。

 一方呪物への恐怖から既に不安な寿々は、もう午前の会議の後からずっと胃がキリキリと痛み何だか今日は元気など出る気もしなかったのだった。


「何で皆そんなに喜べるんだよ・・・俺は呪物とか怖くてもう既に怖気づいているってのに・・」

「何でですか?呪物って言ったって別に幽霊が出て来るとかじゃないのに、やる前から何でそんなに消極的なんです?」


 史は寿々の発言に全く同意できないとばかりに苦言を呈した。


「だって呪物って事はその物によって誰かが不幸にあっているから呪物って思われているんだろう?人の恨みや妬み、ましてや不幸ごとの象徴として扱われている物と接していい事なんて起こるわけがないじゃないか・・・」


 相変わらずなネガティブ発言に18歳の史も流石に呆れた顔をしている。


「ま、でも担当になったからにはやらなければいけないわけですし。・・・それより企画書はどうでしたか?」

「う~ん・・・・やっぱりまだ難しかった。ごめん俺の力不足だ」

「そうでしたか・・・で、結局どれをメインにプレゼンしたんですか?まさか僕の提案した企画ではないですよね?」

「?いや、勿論それを出した」

 寿々の返答を聞いて史はあからさまにがっかりとした態度をとった。

「はぁ・・・・何でですか?俺寿々さんが企画した都内五芒星結界伝説から読み取る信仰と歴史の方をメインにした方が良いって言いましたよね?僕が出した各地に残る石碑と妖怪伝説は寿々さんが妖怪に詳しくないって事でやめた方がいいって言ったのに・・」

「それは悪かったよ本当に。ただどのみち俺が書く企画書とプレゼンがあまりにもその、堅苦しいみたいでどうもイメージが伝わらなくてなぁ。なによりもそれが原因だったみたいだ・・・」


「・・・・まぁ。それじゃあまた一から作り直して次こそ企画が通るように頑張るしかないですね」


 史は残念そうではあったが、それでも決して落ち込む様子もなく極めてポジティブな雰囲気で応接ソファのテーブルに仕事道具一式を広げ始めた。



 寿々は史が前回の幽霊団地の一件で最上から取材同行禁止令が出ている事を分かった上で念のために伝えておかなくてと思い。


「ああ、それでさっき話してたひろせさんの件だけど。ちょうど明日の午後3時に呪物の受け取りで都内でクライアントと会うらしくてさ。さっき電話で挨拶をしたら是非とも同行してみないかって言われて・・・」

「それは聞き捨てならないですね・・・。寿々さん今僕がどういう立場か分かっていてそれを話しています?」


 史は開いたノートパソコンの電源を入れると恨めしそうにじとっと睨み返してきた。


「行けないのは分かってるけど。編集やライティングするには一応内容話しておかないとだろう?だからそんな目で俺を見るなって・・・」

「じゃあ僕も一応聞いておきますが。ちなみにひろせさんとどの辺で会う約束しているんですか?」

「えっと・・渋谷のルノ・・・・」


 そこまで言ってハッと気づき寿々は言いとどまった。


「いやいや・・・来るなよ。本当に編集のバイト続けたないなら絶対に来るなよ」


 寿々は危ないとばかりに史に釘をさした。


「・・・・わかってますよ。と言うか場所ちゃんと聞いてませんし」


 そう言うと史はその後寿々と目を合わせず黙々とライティングの作業を続けた。






 翌日の土曜日



 寿々は呪物コレクターひろせよしひろと会う為に30分前に約束の喫茶店に入った。

 するとそこには既に見覚えにある人物が居座っているではないか。


「はぁ?・・・史お前なぁ・・・」

「あれ?寿々さん奇遇ですね」


 そこに座っていたのは偶然を装った史だった。


「いやいやなんだその古典すぎる対応は。言っただろう?お前取材同行が編集長にバレたらもう続けけられなくなるかもしれないんだぞ?」


 寿々も流石に看過できないとばかりに少し声を強めて叱った。


「いやだから。僕は偶然ここに居ただけなので本当に気にしないでください」


 休日午後の渋谷駅近くのレトロな喫茶店でラフなファッションで一人アイスコーヒーを飲んでる高校生がたまたまを装えるわけもない。

 見るからに場に不釣り合いなのだ。


『なるほど。こいつ前任者の松下って人の時もこんな感じで偶然を装っていつも取材同行していたのか。思っていた以上にたちの悪いジャーナリズム(やり方)埋め込まれてるじゃないか・・』


 そんなこんな悶着をしていると店に入ってくる一人の人物に寿々は目がいった。


 その人物、歳は30代くらいで至って普通の見た目なのだがどうも様子がおかしい。

「・・・??」

 寿々はその人物と目が合うと、異様なオーラに一気に背筋に寒気が走った。


「あ、どうも。もしかして三枝さんですか??はじめましてひろせです。」

 その異様なオーラを纏った人物こそ呪物コレクターのひろせよしひろ本人であった。


「はじめまして。私月刊アガルタの三枝と申します。この度は受け渡しの同席をお誘い頂きましてどうもありがとうございます!そして改めまして今後ともよろしくお願いします」

 そう言うと寿々は鞄から名刺を取り出しひろせに丁寧に手渡した。

「ああ、これはこれはどうもご丁寧にありがとうございます。すみません、僕今名刺を切らしておりまして。何もないのですが」

「いえいえとんでもありません。ひろせ先生の事は存じ上げておりますのでご心配いりません。さ、どうぞお掛けください」


 そう言うと史とは通路を挟んだ一番奥の窓際の席にひろせを案内し、反対側に自分も腰を掛けた。


「いやいや。そんな先生なんてやめてくださいよ。後藤さんなんて呼び捨てでしたよ?はは」

「そうなんですか?でも私は本当にまだアガルタに異動してきたばかりで全くの新人ですのでそんな恐れ多いです」

「じゃあせめて先生以外でよろしくお願いしますよ」

 とひろせはその強いオーラに反して屈託のない笑みで寿々に笑いかけてくれた。

 しかし寿々にとってはその相反した笑顔すらも怖く思えた。

「では僭越ながらひろせさんとお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「全然全然。ええ、是非それでお願いします」

 ひろせはニコニコと寿々に柔和な微笑みで話しかけてくれているのだが、寿々からはどうも目が笑ってない。と言うか笑ってはいるのだけれど頭の上の方に何か得たいのしれないぼんやりとした黒色の亜空間の様な歪みをずっと感じるのだ。

 やはり呪物を扱うような人物になると威圧感が違うのだなと寿々は更に手に汗を握った。


「ところで・・・・・」

「はい?」

「お隣の方はお知り合いですか?」


 ひろせに咄嗟に聞かれたもので寿々はびっくりして隣の席に座る史を見ると。どうも史は隠れる様子も見せずあからさまにこちらを凝視していたらしく・・・。


「あ~~・・・そうなんです。すみません。本当に偶然なんですけれど、彼はアガルタ編集部のアルバイトなんですよ。ははは」

「そうでしたか~。なるほどなるほど」

 史はこれはチャンスとばかりにひろせの前にずいっと出て来ると

「初めまして秦史と言います。僕ひろせさんの大ファンなんです!」

 とひろせに握手を求めてきた。

 寿々もこれには苦笑いをするよりなく。

「ははは実はそうなんですよ!彼ひろせさんのファンらしくて。いやぁ今日はたまたま居合わせただけなんですけれどね~!」

と苦し紛れに話を繋げた。

『何出しゃばってんだ!?てかただのミーハーかよ!』



「ええ~!嬉しいです。ほんま若い子のファンって僕珍しいんですよ~」

 寿々の意に反してひろせの反応は悪くなく。純粋に史がファンである事を喜んでくれているようだ。

「あ~じゃあ良かったから史君もこのあとのクライアントさんとの受け渡しに同席してもらったらどうですか?」

「いいんですか!!」

 史は寿々が反応するより早く満面の笑みでひろせに答え、断りもなく寿々の隣へ腰を掛けてきた。

「全然ええですよ~。クライアントの方には連載記事を載せてもらっている出版社の方も一緒です~ってちゃんと断っているんで。問題ないと思います!」

「ありがとうございます!僕呪物とか見るの初めてで本当に楽しみです!あ、勿論ひろせさんの動画も毎回見てますよ!よろしければあとでサインください」

「ええですよ勿論です~。え~史君僕の動画も見てくれているの?嬉しいなぁ~!」

「・・・えぇぇ・・・」

 寿々は盛り上がるひろせと史にすっかり置いていかれ、そのままクライアントの人物が到着するまでほとんど話に入る事も出来ずに盛り上がる二人の会話をただ聞かされたのだった。



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