表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4章 新たな決意

タナカはリリスとの約束を胸に、宿屋へと向かった。いつもなら魔法で瞬時に移動できるところを、足で歩くのは新鮮な感覚だった。街の喧騒や人々の笑顔が彼の心を和ませる。


「ここが宿屋か」


彼は看板に目をやり、中に入った。木の温もりが感じられる内装で、暖かな照明が彼を迎え入れる。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」


宿の主人がにこやかに声をかけてくる。


「ああ、一晩お願いしたい」


「かしこまりました。お部屋は二階の奥になります。こちらが鍵です」


鍵を受け取り、階段を上がる。部屋に入ると、清潔なベッドと小さな窓がある簡素な部屋だった。タナカは荷物を置き、ベッドに腰掛けた。


「今日は色々あったな...」


異世界に飛ばされ、言葉も通じず、魔法も使えない。しかし、リリスという協力者を得て、一筋の光が見えてきた。彼は窓の外を眺める。見知らぬ星空が広がり、異世界であることを再認識させる。


「まずは休もう。明日からが本番だ」


そう言ってベッドに横たわると、疲れからかすぐに眠りについた。


翌朝、タナカは朝日と共に目を覚ました。窓から差し込む光が部屋を明るく照らしている。彼は軽く伸びをし、身支度を整えた。


「よし、行くか」


宿屋の食堂で朝食をとり、リリスとの待ち合わせ場所へと向かった。学院近くの静かな公園で待っていると、リリスが姿を現した。


「おはようございます、タナカさん。よく眠れましたか?」


「おかげさまでね。リリスも早いんだな」


「ええ、今日は大切な日ですから」


二人は公園の奥へと進んだ。木々に囲まれた静けさが、魔力の調整には最適な環境だ。


「では、始めましょう。まずは瞑想からです」


タナカは地面に座り、リリスの指示に従って深呼吸を繰り返す。


「周囲の魔力を感じて、自分の内なる魔力と同調させてください」


彼は目を閉じ、意識を集中させる。微かに風が肌をなで、鳥のさえずりが耳に届く。しばらくすると、体の中を暖かな何かが流れる感覚があった。


「感じる...これがこの世界の魔力か」


「ええ、その感覚です。無理をせず、そのまま受け入れてください」


タナカは全身で魔力を感じ取り、自分の魔力と融合させていく。しかし、突然強い頭痛が彼を襲った。


「ぐっ...!」


「タナカさん、大丈夫ですか?」


リリスが心配そうに駆け寄る。


「すまない、少し無理をしすぎたようだ」


「焦らないでください。ゆっくり進めていきましょう」


彼女はタナカの肩に手を置き、癒しの魔法をかけた。痛みが和らぎ、彼は深呼吸をした。


「ありがとう、リリス。助かったよ」


「いえ、お気になさらず。今日はここまでにしましょう」


「そうだな、無理は禁物だ」


二人は立ち上がり、公園を後にした。


「タナカさん、この後はどうされますか?」


「少し街を散策しようと思う。この世界のことをもっと知りたいからね」


「それは良い考えですね。もし何か困ったことがあれば、いつでも言ってください」


「ありがとう、心強いよ」


リリスと別れた後、タナカは街の市場へと足を運んだ。活気溢れる人々の声や、多種多様な商品が彼の興味を引く。


「見たことのない果物だな」


赤や紫の鮮やかな果物が並ぶ店先で、一つ手に取ってみた。


「それは『ルベリアの実』ですよ」


店主が笑顔で説明してくれる。


「甘酸っぱくて美味しいですよ。試食されますか?」


「ぜひお願いするよ」


タナカは一口かじると、爽やかな酸味と甘さが口いっぱいに広がった。


「これは美味しい!」


「でしょう?お土産にもいかがですか?」


「そうだな、いくつかいただこう」


彼は金貨を取り出し、果物を購入した。歩きながらルいくつかベリアの実を味わい、そして自身のMPの最大値が増えている事に気づく。


「この実にそんな効果が...もっと買い占めておくんだった...」


その時、遠くから叫び声が聞こえた。


「助けて!泥棒よ!」


タナカは声のする方へと駆け出した。一人の男が小さな袋を持ち、逃げている。


「待て!」


タナカは素早く男の前に立ちはだかった。


「邪魔するな!」


男はナイフを取り出し、タナカに向かってくる。


「くっ...!」


魔法が使えない今、彼は自分の身体能力だけで対処するしかない。だが、魔王を倒した勇者の実力は侮れない。


タナカは男の攻撃をかわし、的確に拳を振るった。男は倒れ、気を失った。


「大丈夫ですか?」


被害者の女性が駆け寄ってくる。


「ありがとうございます!命の恩人です」


「いいえ、当然のことをしたまでです」


警備隊が到着し、タナカは事情を説明した。隊長らしき人物が感謝の意を伝える。


「あなたのような方がいてくれて心強い。ぜひ私たちの隊に入っていただけないか?」


「申し出は嬉しいが、今はやるべきことがあるんだ」


「そうですか。何かあればいつでも言ってください」


タナカは礼を言い、その場を後にした。


「やはりこの世界でも人々の役に立てるんだな」


自分の存在意義を感じながら、彼は再び歩き出した。


夕方になり、彼は宿屋へ戻った。食堂で夕食をとりながら、今日の出来事を思い返す。


「リリスとの魔力調整もうまく進んでいるし、この世界にも少しは慣れてきたな」


その時、宿の主人が話しかけてきた。


「お客様、今日は市場で活躍されたとか」


「ええ、たまたまですが」


「素晴らしい。ぜひこちらの特製エールをどうぞ、サービスさせていただきます」


「それはありがたい」


タナカはエールを受け取り、一口飲んだ。芳醇な香りと深い味わいが広がる。


「これは美味しい!」


「お気に召して何よりです」


周囲の客たちも彼に感謝の言葉をかけてくる。タナカは少し恥ずかしそうに笑った。


部屋に戻り、彼は窓から夜空を見上げた。


「明日も頑張ろう。この世界でできることを精一杯やってみるか」


彼はそう心に決め、静かに目を閉じた。


翌日、タナカは再びリリスと共に魔力の調整を行った。少しずつではあるが、確実に進歩している。


「タナカさん、この世界の魔法の知識が保管されている場所があります、行ってみますか?」


「ぜひお願いしたい」


リリスは学院の図書室へと彼を案内した。そこには膨大な数の魔法書が並んでいる。


「この書物には、古代の魔法や次元間の理論も記されています」


タナカは興味深くページをめくる。異世界に関する記述や、転移魔法の高度な理論が彼の目を引いた。


「これなら元の世界に戻る方法も見つかるかもしれないな」


「私も協力します。一緒に探してみましょう」


二人は熱心に調査を進めた。


その時、学院内に警報が鳴り響いた。


「何だ?」


「非常事態です。学院の防御結界が破られました!」


学生や教師たちが慌ただしく動き出す。


「リリス、一体何が起きてるんだ?」


「わかりません。でも急ぎましょう!」


外に出ると、黒い煙が立ち上っている。そこには巨大な魔物が現れていた。


「なぜ魔物がここに...!?」


「魔物の数は減ったはずじゃ...」


恐怖に包まれる学院。タナカは拳を握りしめた。


「俺に任せてくれ!」


「でも、魔法がまだ...!」


「大丈夫だ。リリス、みんなを避難させてくれ」


タナカは魔物に向かって走り出した。魔法が使えない今、自分の力だけで戦うしかない。


魔物が咆哮し、炎を吐く。タナカは咄嗟に跳び避け、魔物の懐に飛び込んだ。


「うおおおおっ!」


全力の拳を叩き込む。だが、魔物はびくともしない。


「くそ、やはり魔法が必要か...!」


その時、彼の体が熱く輝き始めた。


「これは...?」


周囲の魔力が彼の中に流れ込み、力がみなぎる。


「今なら...!」


彼は手をかざし、かつて使っていた火炎魔法を思い出した。


「フレアブラスト!」


巨大な火球が生み出され、魔物に直撃する。魔物は苦しげな声を上げ、崩れ落ちた。


「やった...!」


リリスが駆け寄ってくる。


「タナカさん、今のはあなたの魔法ですか?」


「ああ、どうやら魔力の調整ができたみたいだ」


「素晴らしいです!」


学院の人々が歓声を上げる。タナカは安堵の笑みを浮かべた。


「これでこの世界でも戦えるな」


しかし、彼は同時に不安を感じていた。なぜ魔物が現れたのか。


「リリス、もしかしてこの世界にも何か異変が起きているのかもしれない」


「その可能性がありますね。一緒に調べてみましょう」


新たな課題が彼らの前に立ちはだかる。しかし、タナカは決意を新たにした。


「この世界を守るためにも、俺は戦う」


「私もお力添えします」


元の世界には彼女達がいる...今は自分のいるこの世界の力になろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ