2章 新たな世界で
カルーロの街をさらに歩き回るタナカは、焦燥感を募らせていた。転移魔法が使えないという事実は、勇者にとって死活問題だ。故郷に帰れないだけでなく、魔物が現れた際に人々を逃がすこともできない。
「落ち着け…まずは情報収集だ」
そう言い聞かせ、街の酒場へと足を運んだ。昼間にも関わらず、店内は多くの人で賑わっている。冒険者らしき者もちらほら見受けられた。
カウンターに座り、先ほど覚えた翻訳会話魔法!(エストラルド)を使用し、店員に話しかける。
「何か飲み物を。それと、この街のことについて少し教えてくれないか?」
店員は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。「珍しい格好ですね。遠方からいらしたんですか?カルーロのことなら、何でも聞いてください。」
タナカは水差しとグラスを受け取り、尋ねた。「ここはカルーロという街だと聞いたが、周辺にはどんな街や国があるんだ?」
店員は快く答えた。「カルーロは、貿易都市として栄えているんです。東には広大なエルデン森林、西には砂漠が広がっています。北には鉄鋼都市ヴォルカ、南には港町リベルタがありますね。」
「エルデン森林…ヴォルカ…リベルタ…聞いたことがないな」タナカは心の中で呟いた。完全に知らない土地だ。
「エルデン森林には魔物も多いと聞きます。冒険者の方々もよく狩りに向かいますよ。」店員はそう付け加えた。
「魔物か…」タナカは目を細めた。魔王を倒したとはいえ、魔物がいるなら放っておけない。しかし、今の状態では満足に戦える自信がない。使える魔法の確認をしなくては・・。
「そういえば、魔法を使える人はいるのか?この街で」
「魔法使いですか?ああ、ギルドに何人か所属していますよ。腕利きの魔法使いなら、ヴォルカに多いと聞きますね。」
「ギルド…か」
情報収集を終え、ふと財布を確認すると、所持していた金貨の形が微妙に変わっていた。
「支払いは・・この金貨、使えるか?」
「ええ、もちろんです、おつりを持ってきますね。」
・・・まずここは前居た世界と異なる、又は魔王討伐で隅々まで世界を網羅していたつもりだったが、知らない場所でもあったのか・・?
タナカは酒場を後にした。
ギルド…冒険者ギルドだろうか?もしそうなら、情報を集めたり、魔法使いを探すには最適な場所かもしれない。
カルーロの街には、立派なギルドがあった。建物は石造りで、入り口にはギルドの紋章が掲げられている。
意を決して、タナカはギルドの中へ足を踏み入れた。
ギルドの中は、さらに活気に満ち溢れていた。クエストの依頼書が壁に貼り出され、冒険者たちが情報交換をしている。
受付に近づき、タナカは声をかけた。
「すみません、少しお話を聞きたいのですが。」
受付嬢は明るい笑顔で答えた。「はい、どのようなご用件でしょうか?」
「私は旅をしてきた者なのですが…いくつか質問させてください。まず、この世界ではどのように魔法が使われているのでしょうか?私は魔法使いなのですが、自分の魔法が使えなくなってしまって…」
受付嬢は驚いた顔をした。「魔法が使えない、ですか?それは大変ですね。魔法ギルドに所属されていらっしゃいますか?」
「いいえ、所属していません。私は、遠い国から来たので…」
「なるほど。でしたら、一度ギルドマスターにお話を伺ってみてはいかがでしょうか?ギルドマスターは魔法にも精通していますし、何かアドバイスをくれるかもしれません。」
受付嬢は、タナカをギルドマスターの部屋へ案内してくれた。
ギルドマスターの部屋は、重厚な木の扉で閉ざされていた。受付嬢がノックすると、中から低い声が聞こえた。「入れ。」
タナカは緊張しながら扉を開け、部屋の中へ入った。
部屋の中は、薄暗く、古めかしい書物が積み上げられていた。奥のデスクには、白髪の老人が座っている。その老人が、カルーロのギルドマスターだった。
「あなたが…」ギルドマスターはタナカをじっと見つめた。「魔法が使えなくなったという旅人か。」
タナカは頷いた。「はい。私はタナカと申します。」
「タナカ…奇妙な名前だな。まあいい。なぜ魔法が使えなくなったのか、心当たりはあるのか?」
タナカは首を振った。「全くありません。転移魔法を使った直後から、魔法が使えなくなってしまったのです。」
ギルドマスターは顎鬚を撫でながら、しばらく考え込んだ。「転移魔法…か。この世界では、相当に高度な魔法だ・・。」
しばらく考えた後
「ギルドの中でも特に魔法に精通している者がいる。名をリリスという 紹介しよう。」
「リリス…わかりました、ありがとうございます。」
その後、図書館のような場所に、輝かしい紫髪を肩下まで伸ばしたリリスという女性と出会う。
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