変化
「あっつ~い!」
『はぁ…それで何回目…?』
「頭もガンガンする~!」
『言っててもマシにならないって。』
「それもそうだけど…。」
『珍しく素直なんだな。』
「珍しくは余計!」
『はいはい…。』
現在午後11時。私は体の異常に悩まされていた。まず異常なほど高い体温。さっき測ったら39度くらいあった。それと激しい頭痛。立ってたらクラクラするぐらい痛い。
「この家に睡眠薬ないの?」
『さぁ…?見たことないけど。』
「夕方はあんなに元気だったのに…。」
『たぶん血を吸ったからだろ。ってか少し静かにしろよ。一応俺だっておまえと同じ症状なんだからさ。』
確かに静かにしてた方がいいかもしれないけど…。こいつに言われるとなんだかムカつく!
午前0時
「この症状の原因って何なのよ!」
『知らない。ってか色々ありすぎて1つ1つ覚えてない。』
「はぁ…使えないわね。」
『使えなくて悪かったな!』
私の予想ではあの先生があやしいんだよね。だってあの先生私達のこと色々知りすぎでしょ!
午前1時
「…もう寝た?」
返事は返ってこなかった。
「ったく…。やることないじゃない!」
だったら寝ればいいじゃんって言われるかもしれないけど眠れないの!
「っていうか、私が起きててもアイツは寝られるんだ…。ずるっ!」
私は先に寝てしまった夜にさんざん愚痴をぶつけていた。
「はぁ…。気持ち悪い…。」
この熱気で着ていた下着は汗びっしょりになっていた。
「シャワーでも浴びよう…。」
そう思い立った私はフラフラとしながらもなんとかお風呂場までたどり着けた。私は汗臭くなった下着を脱ぎ捨てお風呂場に飛び込んだ。しかし、踏み込んだ先の足元には昨日使ったのであろうせっけんが落ちていた。
「え…?」
気付いた頃にはもう遅く、バランスを崩した私の体は後ろに傾いていた。思いっきり後頭部を床に打ち付けた私はそのまま意識を失った。
<<ピンポ~ン>>
「ぅ…」
さむっ!
私が目を覚ました瞬間思ったことはこれだった。
このままシャワー浴びようかな…
立ち上がると打ち付けた後頭部がズキズキと痛んだ。それになんだか体も重いし…。
<<ピンポ~ン>>
「こんな朝早くから誰?…っていうか今何時?」
インターホンなんて完全に無視し、私は温かいシャワーを浴び始めた。
なんか違和感あるなぁ…。
そう思い自分の体を見下ろした。
「……え?」
昨日まではまったく自己主張していなかった体が今では凹凸のある魅力的なカーブを描いていた。
「これ…どういうこと…?」
<<ピンポ~ン、ピンポ~ン>>
『ったく!朝からうるさいな!』
「文句なら私に言わないでくれる?」
『…え~っと…あんただれ?』
もしかしてこいつ気付いてないの?そうとう変わっちゃったみたいね…。
(だれってあんたと身体を共有してるのって1人しかいないでしょ!)
『どう見たってアイツじゃないと思うんだけど…。』
こいつでもわからないほど変わったの!?
(って、あんたどこ見てんのよ!)
『おまえが見てる方向。』
(なんでそんなに冷静なのよ!)
『はぁ…?何を言いたいわけ?』
(ほんとになんとも思ってないのね…。)
ときどきこいつって何を考えてるのかわからなくなるのよね…。
<<…ピンポン、ピンポン…>>
『まぁあんたが誰だかは後回しにしてとりあえず出てきてくれない?さっきからうるさいんだよね。』
(だから私は純だって!)
『純…どっかで聞いたような名前だな…。』
(あんた私の名前覚えてなかったの!?)
『だからあんた誰だって言ってるだろ?』
あ~もう!こいつには何て言えばわかるのよ!
(…あんたにはいつも性悪女って言われてるわね…。)
『へぇ~。やっぱあんたはアイツだったのか。』
(知ってて聞いたの!?)
あぁ~!イライラする~!
私はとりあえずシャワーを止めお風呂場から出た。
「あぁ~!」
『どうかしたか?』
「服が…入らない…。」
私の急成長のせいで昨日まで着ることのできた服が着れなくなっていた。
『あ~…。上だけなら俺の使っていいけど…。』
「上だけじゃどうしようもないでしょ!」
<<ピンポン、ピンポン、ピンポン…>>
私たちがどうしようかと悩んでいる間にも迷惑な誰かさんは鳴らし続けていた。
「こんなときにいったい誰なのよ!?」
『とりあえず誰なのかだけ確認したらどう?まぁ…少し予想はつくけど。』
「教えなさいよ!」
『だから、自分で確認したら?』
「あぁ~もう!確かめればいいんでしょ!?確かめれば!」
私はとりあえずバスタオルを体に巻き、玄関へ向かった。
「…ってあの子じゃん!」
のぞき窓をのぞくと扉の先にいたのは愛美だった。
『アイツには前科があるからな…。』
「そういえばそうだったわね。」
『アイツならこの状況どうにかできるんじゃないの?』
「あぁ~!それいいかも!」
そうと決まれば時間もないしさっさと事情を説明しないとね。
私は玄関のカギを開け、勢いよく扉を開けた。
「やっと開けてくれたんです…か…?」
彼女の声は後にいくにつれてだんだんと小さくなっていった。
「連打するなんてなかなか非常識なのね。」
「すいませんでした!」
彼女は頭を深く下げていた。…ってなんで!?
「あの~…。夜くんと純ちゃんのお姉さんですか?」
「へ…?」
お姉さんって私そんなに変わったの!?まぁ確かに身長も伸びたしスタイルもよくなったみたいだけど…。
「あ~…。信じられないかもしれないけど、私は純なんだよね…。」
「はい…?」
彼女は少しの間固まっていたかと思うと、次の瞬間には私の顔をじーっと見つめていた。
「え~っと…とりあえず家に入らない?」
さすがにバスタオル巻いたまま外で立ち話はまずいし。
私が中へ入るよううながすと彼女は黙って入っていった。
「で、信じてくれた?」
彼女をソファに座らせ私はそう切り出した。
「確かに顔立ちは純ちゃんそっくり…。でもそのスタイルは昨日とはほぼ真逆…。わかんないよ…。」
「やっぱり証拠は必要みたいね。……ほら、昨日の帰り際にした話覚えてる?夜が好きな理由についての。」
「!!あなた、純ちゃんなんだ…。」
「やっと信じてもらえたみたいね。」
「でもどうしてそんな体に…?」
「色々話さなきゃいけないこともあるんだけどとりあえず頼みを聞いてくれる?」
「うん、わかった。」
「愛美も見ての通り急にこんな体になっちゃったから着るものがなくなっちゃったのよ。そこであなたの力を借りたいんだけど、どう?」
「別に協力してあげてもいいよ。でも昨日はあんなこと言わされちゃったしなぁ…。」
「昨日のことは謝るから、ごめんなさい!」
「う~ん。それじゃぁ、私の言うことなんでも1つ聞いてね!」
「1つでいいのね。」
なんでもってイヤだなぁ…。だいたい私に拒否権ないし。
「今から予備の制服と下着持ってくるね!」
そう言って彼女は家を飛び出していった。
「はぁ~ぁ…。」
めんどくさい約束させられちゃったなぁ…。
『それよりアイツの家ってウチの近所なのか?』
「そんなこと私が知ってるわけないでしょ!」
『学校に間に合うのか?』
「今は…まだ7時だし大丈夫でしょ。」
って、7時に人の家に来るなんて常識なさすぎでしょ…。
「たっだいま~!」
突然玄関の扉が開いたかと思うと、とても元気な声が聞こえてきた。
「…あなたどこに住んでるの?」
まだ5分くらいしかたってないんだけど…。
「え~っと…この家から見て右前かな?」
「…そんな近所だったんだ…。」
私あんまり近所付き合いしないからなぁ…。
「そんなことより、はい、これ!」
彼女は持ってきた大きな紙袋を私に手渡した。
「ありがと!」
私はその紙袋を持って2階の自分の部屋へ上っていった。
『アイツって同じ中学だったりするのかもな。』
「かもしれないわね。」
夜が話しかけてきたので適当に話をしながら私は紙袋から制服と下着を出していた。
「あんた見ないでよ!」
『それって俺に言うより自分の目を閉じれば済むことじゃないか?だいたいさっき…。』
「う、うるさい!!」
私はもっともなことを言われそうになったので話を遮り目を閉じてさっさと着替えにかかった。
『ところでさぁ、何が原因なんだろうな。』
「やっぱり一番怪しいのはあの先生だと思うんだけどね。」
『だよなぁ…。』
「それかあんたの暴走なのかもね。」
『はぁ…バンパイアかぁ…。』
「ほんと信じられないわね…。」
着替えが終わり下へ降りると愛美は家のキッチンに立っていた。
「あなたってもしかしてかなりの世話好き?」
「そんなことないよ~。」
「そうじゃないならなんで人の家で頼んでもいないのに料理作ってるわけ?」
「それはね~…」
彼女はそこまで言うと私の耳元でこうささやいた。
「純ちゃんに気に入ってもらえれば夜くんの情報もゲットできるじゃん!」
「コソコソ言ってもアイツには聞こえてると思うんだけど…。」
「あ…。」
はぁ…。この子ってかなりのおバカさんだったりする…?
「あ!今私のことバカにしたでしょ!?」
この子意外と鋭いわね。
「それよりご飯できたなら食べましょ。」
「話そらしたでしょ!?」
机の上には昨日と似た色とりどりの料理が広がっていた。
でも私、朝はパン派なんだよね…。
「そういえば服どうだった?」
「う~ん…。ちょっと胸が苦しいかなぁ…。」
「なにそれ~!昨日まではぺったんこだったのに!」
「別に胸なんてどうだっていいでしょ!」
「え~!女の子にはとっても重要なことだと思うよ!」
「もう!どっちでもいいでしょ!」
「どっちでもよくない!」
私たちは少しの間にらみあっていたが私はある用事を思い出したので時計を確認すると荷物を持って玄関の方へ向かった。
「もしかしてもう学校行くの?」
「いろいろと用があってね。あなたはどうする?」
「私はまだここに居ようかなぁ~って。」
「それならカギを渡しておくから戸締まりよろしく。」
カギって言っても夜のなんだけどね。
私は彼女の方に夜のカギを投げると学校に向かって歩き始めた。
夜「おまえなに人のカギを勝手に他人に渡してんだよ!」
純「いいでしょ?あんたのだし。」
愛「夜くんのカギをくれるなんてさすが純ちゃん!」
夜「あげてないから。」
純「それより私の大変身どう?」
夜「ん~…。普通にいいんじゃないの?」
愛「夜くんにほめられるなんて純ちゃんズルい!」
純「夜にほめられたって別にうれしくないのよ!」
夜「じゃあはじめから聞くなよ…。」