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悲劇の幕開け

 そして、約束の日曜日の前日の土曜日。昨日輸血をしなかった俺は、1日中何もやる気がせず、必要最低限の食事だけを取り、あとは寝てばかりいた。



<<ピンポ~ン>>


「ぅ…」

 頭がズキズキする。体もいつもより数倍重く感じる。


「こんな朝早くから誰だ…?」

 俺がノロノロとベッドから起き上がっていると、


<<ピンポン、ピンポン、ピンポン…>>


「連打するなよ…」

 時刻はAM7:30。なんて礼儀知らずなやつだと思った。フラフラする体で玄関に立ち、扉を開ける。


「紅月く~ん!」


「こいつか…」

 扉の前に立っていたのは愛美だった。


「約束覚えてる?」


「あぁ…覚えてるよ。」

 覚えてないわけないだろう。そもそも忘れていたら、こんな辛い思いもする必要がない。でも、ちょっと早すぎると思わないのか?今は日曜日、それも午前中!普段の俺ならまだ普通に寝てる時間帯なのに…。


「ちょっと待て…。おまえ、どうして家の場所を知ってるんだ?」

 もちろん教えた覚えなどない。


「そこは…ね?」

 いや…わかんないし。


「そんなことより、早く行こっ!」


「おまえ…今何時だと思ってる?」


「おまえじゃなくて愛美って呼んでよ!」

 俺の質問は無視ですか…


「で、こんな朝早くから何の用?」


「迎えに来たついでに、朝ごはんをご一緒させてもらおうかなって!」

 なんて利己的な考えなんだ…。だいたい、俺には他人に出せるような朝ごはんを作る技術はない。


「あ!もちろん作るのは私だよ!」


「それなら…って良くないし!」

 危うく相手の口車に乗せられるところだった。ただ、彼女は俺の意見などはなくから求めてはいないようで、勝手にキッチンに向かって走り出す。体調が絶不調の俺は、彼女のやりたいようにやらせた。



「紅月くん!できたよ!」

 私が呼んでも、一向に返事が返ってこない。


(もしかして、勝手にキッチン使って怒ってるのかな…)

 私が捜索を始めると、意外と早く彼は見つかった。リビングにあるソファの上で眠っていたのだ。


「カワイイ…」

 普段のクールな風貌からは想像出来ないほど可愛らしい彼の寝顔は私を癒した。私は自分の携帯を取り出すと、彼の寝顔をカメラに収めた。



「ん…」

 心地よい夢の中から目覚めると、可愛らしい美少女が俺を見つめている。


「って…何?」


「あ…起きちゃった?」

 何やらいい香りがする。そういえば、今は何時だろうか?


「今、何時?」


「う~ん…9時ちょっと前だよ。」


「9時!?おまえ今まで何を…?」


「愛美って呼んで!」


「今まで何してたんだ!」


「そうカリカリしなくてもいいのに…」


(はぁ…もう付き合ってらんねぇ…)

 立ち上がろうとしたその瞬間、軽いめまいに襲われた。


(頭痛…酷くなってるな…)

 めまいの原因が輸血していないせいだとわかると、急にあるおぞましい考えが頭をよぎった。


(こいつから血を頂けば…)


『あんた…大丈夫…?』

 こいつに指摘され、こんなことを考え付いた自分が恐くなった。


「紅月…くん…?」

 愛美が心配そうな顔をして俺を見つめている。


「…どうした…?」


「どうしたじゃなくて顔色悪いよ!」

 どうやら俺の心配をしてくれていたみたいだ。


「悪いな…。よし!飯食おう!」


「うん!」


 テーブルの上を見ると、和食を中心とした料理が並んでいる。


(これあいつが作ったのか…?)


『すご…』

 うちは基本的に朝はパン食と決まっているので、朝から和食を食べるのはとても贅沢なことのように思えた。


「どうかな…?」


「どっかの誰かさんが俺をすぐに起こしてくれてたら満点だったのにな。」

 味は絶品だが、料理が冷えてしまっているので最高とまではいかなかったのだ。


「あれは不可抗力なの!たぶんどんな女の子でもあの寝顔を見たらその場から動けなくなっちゃうよ!」


(そう力説されても…。だいたい俺の寝顔が人を惹き付けるわけないだろ…)

 自分のことはまるでわかっていない夜であった。


 朝食を食べ終えると、約束の買い物という名のデートに付き合わされることになっていた夜は、自分の部屋に戻ると適当に服を選ぶと、下で待っている愛美のもとへ向かった。


「何かおかしいか?」

 俺の姿を見つめっぱなしでいたので尋ねてみた。


「紅月くんの私服姿…レア!」


「は…?」

 愛美はサッと携帯を取り出し、写真を撮ろうとしていた。


「あのさぁ…行くなら早く行こ…」

 呆れながらそう言って玄関に向かう夜。それに着いていく愛美。

 玄関の扉を開けると、鋭い日差しが目を突き刺した。空を見上げると雲1つない青空。


(頭がズキズキする…)

 このまばゆい日光は今日の俺には最悪の相性だった。


「とりあえず商店街にでも行くか。」


「エスコートお願いしま~すっ!」


「…え?」

 左腕に飛び付いてきた愛美を避けようとしたが、体が思うように動かず左腕の自由を失った。


「離し…「やだっ!」」


「…放り投げるよ?」


「泣いちゃうよ?」


(こいつ…)


『あんたってほんと女の子に弱いわね。』


(あぁ…女子恐怖症になりそうだ…)


『なれば?』


(はぁ…おまえがこの場にいたらこの手で殴り飛ばしてやるよ…)


『返り討ちにしてあげるわ!』


(…どこからそんな自信がわいてくるんだよ…)


『だってあんた弱そうだし!』


(はぁ…もういいよ…)


 そうこうしているうちに商店街に到着した。


「何を買うんだっけ?」


「う~ん…服とか、服とか、服とか?」


「は…?」


「こっちこっち!」

 俺は左手を引っ張られながら無理矢理店内に連れていかれた。


 その後は地獄のようだった。愛美の長い長いファッションショーを見せられ、その度に感想を述べなければならなかった。さらに、俺の評価がよかったものは俺に持たせていく。多分買うつもりなんだろう。

 店を出る頃には、俺の手には大量の紙袋が吊り下げられていた。


「自分で持てよ…」


「こういうのは男の子の仕事だよ!」

 そんな理不尽な理屈で片付けられてしまった。


(あぁ…もう限界だ…)

 もともと最悪の体調だったのに加え、大量の紙袋を持たされた夜は愛美に手を引かれフラフラと人混みの中を歩いていた。


「それじゃあランチにしよ~!」

 今はPM1:00。かれこれ3時間ほどはファッションショーに付き合わされていたので、かなり腹は減っていた。愛美が俺の手を引き、目の前にあるファミレスに行こうとした瞬間、


ドスッ…!


「どこ見てあるいてんだコラァ!!」

 俺はヤンキーっぽい男にぶつかってしまった。俺はフラフラと立ち上がると、何事もなかったかのように落とした紙袋を拾い上げその場から立ち去ろうとしたが、


「おい!てめえ!面かせや!!」

 胸ぐらを掴まれ体が宙に浮く。そのまま暗い路地裏へ連れていかれた。



「少し顔がいいからって調子乗ってんじゃねーぞ!」


ボスッ!


 みぞおちに強烈なパンチを受け崩れ落ちる。


「紅月くん!!」

 どうやらこの男の仲間であろう男2人が愛美を無理矢理連れてきたようだ。


(こいつもほんと運が悪いよな…)

 ついこの間襲われたばかりの愛美に少し同情していると、


「よそ見してんじゃねえ!」


ゴスッ!


 顔めがけて鋭い蹴りが飛んでくる。いつもの俺なら軽く避けれただろうが、今の俺には無理な相談だった。

 さらに男は俺を蹴り続け、俺の頭から流れ出た血は顔をつたい地面を紅く染め上げていた。目の前の光景が歪んでいく。愛美が俺の方を見て目に涙を浮かべている。


(こいつだけでも助けたかったな…)

 意識が遠のいていく。


『夜!夜!!』


(俺の名前知ってたんだな…。こいつの名前、今度聞いてみようかな…。俺が死んだらこいつはどうなるのかな…)

 ふとそんなことを考え、俺は意識を失った。



「紅月くん!!」

 彼は私の方をゆっくり見上げた。頭から流れる真紅の血。あまりにも大量に流れ出ている。そして、彼の目から光が消えた。

(紅月くんが死んじゃう!)

 そう思ったとたん、私は無我夢中で私の腕を掴んでいる男の手に噛み付いた。


「痛ぇッ!なにしやがんだ!」

 そんな言葉には耳も貸さず、倒れている彼の方へ走った。

 でもそんな私を、彼を痛め付けていた男はあっけなく捕まえた。


「イイ体つきしてんじゃねえか!」

 男が私の上着に手をかけた。


(私…こんな男どもに好き勝手にされるんだ…)

 そう思った瞬間、私を捕らえていた男が真横を吹っ飛んでいった。


(え…?なに…?)


周りを見回すと、さっきまでそこにいた男は十数メートルほど遠いところで地面で気絶していた。


「…化物だ…」


 男の仲間の1人がそう呟くと、もう1人の仲間と一緒に気絶した男を担ぎ上げ、一目散に逃げていった。


「紅月…くん…?」

 私の目の前にいるのは彼であることは間違いない。ただ、さっきまで茶色っぽかった髪と澄んだ青色の瞳は血のような紅に染まっていた。


「…血…」

 紅月くんが何かを呟きながら私の方を見る。獣のように獰猛な目で私の体を見つめている。


(違う!これは紅月くんじゃない!)

 私はその場から逃げ出そうと彼のいた方向と逆の方向へ走り出した。


「え…?」

 しかし、さっきまで逆方向にいたはずの彼は今私の目の前に立ちふさがっていた。


「あなた…だれ…?」 彼の姿が消えたかと思うと、首筋にチクッとした痛みを感じた。そして、温かく柔らかい何かが触れたかと思うと、急に体の中の温かいものが失われていく感覚が生まれ、目の前が真っ暗になっていく。


(私…どうなるのかな…)

 私はそのまま意識を断った。


愛「え?なになに?この急展開!」


夜「まぁ…おまえはもう用なしということで!」


愛「なにそれ!まだ死にたくないよ!」


夜「冗談だよ…」


愛「そんな冗談いらないっ!」


夜「あっそ」


愛「なに、その適当な相づち!」

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