屋上で
入学してから1週間が過ぎた。
相変わらず、女子が付きまとってくるのは変わらなかった。
俺は授業を受けるのも、女子の相手をするのも面倒だったので、屋上に来ていた。
授業を受けないなら学校に行く必要などないのだが、もともと授業日数の半分は最低でも欠席する事になるので、校長先生とあらかじめ交渉をし、テストで一定段階以上をとればよいということになっていた。勉強に関しては、俺かもう片方の俺がやってくれれば記憶に残る。もう片方の俺には悪いが、俺は勉強が大嫌いだ。この学校も、もう片方の俺のおかげで入れたようなものなのだ。そのことには感謝しているが…
「やっぱり学校ってめんどくさいな…」
空を見上げた。どこまでも澄み渡る青い空。その中を風に流され、浮かんでいる白い雲。
「…雲はいいよなぁ…」
俺は屋上の一段高くなっている場所で横になり眠りについた。
「イヤッ!離してッ!」
俺は嫌がる女の声で目が覚めた。
「なんだ…?騒がしい…」
声のした方を見てみると、1人の女子が5人の男子に取り囲まれていた。
「だれだ!そこにいるのは!?」
男子の1人が俺に気づいた。どうやら上級生のようだ。
「なんだ1年か。痛い目に会いたくなかったら、そこでおとなしくしとけ!」
男子5人で群がって女子1人を襲う…か。
「まぁ…俺には関係ないしな…」
『目の前で女の子が襲われてるのに逃げるの?』
俺がそう思った瞬間、女の声が聞こえた。
「だれだ?」
『うーん…もう一人のあんたかな?』
「…!話せるのか?」
『そんなことより、早くあの子を助けてあげなさい!それでも男?』
「わかったよ…」
俺はそう言って、男子グループの方を向くと、男子は女子の制服を無理矢理脱がせている。
「お前ら!軽く俺と遊ばない?」
俺が挑発すると、5人組の内2人が出てきた。
「てめえ、ふざけてんのか!?」
「痛い目に会わせねーとわからねーみたいだな!」
そう叫んで、迫ってきた。
「ったく…めんどくさい…」
俺がそうつぶやいた瞬間、2人は飛びかかってきた。俺は体を軽く傾け、それを受け流すと、1人に強烈な回し蹴りを放った。
「次は誰の番?」
そう言うと、さっき飛びかかってきたやつが、背後から襲いかかる。俺は身をかがめつつ、体を回転させ、そいつの腹に拳を打ち込んだ。
「さて…あと3人か…」
「チッ…ふざけた野郎だ!やっちまえ!」
リーダーらしき人物が叫ぶと、その横にいた2人が殴りかかってきた。だが、その拳は空を切り、代わりに鋭い膝蹴りが腹部を襲った。2人は苦しそうに腹をおさえていた。
「はい…あと1人。」
俺がそう言うと、女子を押さえ付けていたリーダーらしき人物が慌てて逃げていった。
「大丈夫か…?」
一応、女子の安否を確認する。
「ぁ…大丈夫…」
よっぽど恐かったのだろう。体が小刻みに震えている。制服も所々破られていた。
「とりあえず、これ着ろ。」
俺は着ていた制服の上着を渡した。
「あ…ありがとう…」
その女子はそう言って、上着を受け取った。
「立てるか?」
そう尋ねると、その女子は立ち上がろうとしているようだが、足に力が入らないようで、立つことは叶わなかった。
「乗れ。」
俺は女子に背を向け、身をかがませた。女子も少し戸惑ったようだったが、身をあずけてきた。
女性らしい体の膨らみが背中に当たってしまうことに気付くと、この運び方にしたことを少し後悔した。
(まぁ…他の運び方でもあんまり変わらないか…)
一方の女子はというと、
(憧れの紅月くんにおんぶしてもらえるなんて…襲われてよかったかも!)
こんなことを考えていた。
「さて…どこに連れていけばいいんだ?」
「ずっとこのままで!」
「はぁ?」
「ぁ…保健室までおねがい…」
(本心が出てしまった…)
「あぁ…わかった。」
「ところで、あなたは紅月くんだよね?」
「どうして俺の名前を?」
「この学校では超有名だよ!」
「なんで?」
「それは…カッコイイから!」
そう言うと、女子は一層強く抱きついてきた。
「また面倒くさそうなことになってるし…」
こんな会話をしながら、俺たちは保健室に向かって行った。