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新入部員の受難

《魔術ファイル》



【烈火】


属性:火


 単体の対象へ向けて火球を放射する。使用魔力によって火球の大きさが変化するため、魔力を費やすことで複数の対象を巻き込むこともできるが、単純な魔法であるため威力は高くはない。




【黒炎】


属性:火・闇


 攻撃対象を中心に漆黒の炎を放出する範囲魔術。相手の視界を奪う効果もある。単純な魔術の中では少ない範囲魔術であるため使用者は多い。




【烈風】


属性:風


 風の刃で対象を切り裂く単体魔術。当たりどころによってダメージが変化するので安定しない。そのため、使用者も少ない。




【五月雨】


属性:無


 ティアのオリジナルの魔術。5本のナイフを空中に浮かべ自由自在に操る。




【操術・体】


属性:幻


 対象の行動をコントロールすることができる。ただし、対象と使用者との実力差が大きい場合発動せず、魔術自体も複雑なので使える者はあまりいない。




【絶】


属性:幻


 使用者を中心に広範囲に渡ってパラレルワールドを形成する。現在世界に影響を与えることがないので使用者の多い魔術の1つ。




【氷花】


属性:氷


 巨大な氷柱を地面から発生させ、対象を貫く。




【爆炎魔破】


属性:火


 全魔力を消費して使用者を中心とした大爆発を起こす自爆魔術。使用者の魔力によって威力が著しく変化するが、使用すればほぼ確実に絶命するので使用者は皆無。

「…どうして私が剣道部に入らなきゃいけないのよ?」


 夜のセカンドキスが奪われたその日、夜は人の血を飲んで私と入れ替わった。夜は大した抵抗もなく血を飲んだみたいだった。そして、次の日の今日、突然の愛美からの勧誘。


「このままじゃ剣道部人数が足りなくて廃部になっちゃうんだって!だから、入って!」


 そういえば、剣道部のマネージャーだったっけ…


「強引過ぎない?」


「あれ~?純ちゃん、忘れちゃったの~?」


「何を?」


「ほら~、前に純ちゃんが人形みたいにカワイイ女の子から今のパーフェクトボディに大変身したことがあったでしょ~?」


「あのときはかなり焦ったわね。」


 っていうか、私をどんな風に見てたのよ…


「それで、何か思い出した?」


 思い出した?って言われても…


 あの日は確か…。お風呂の中で倒れて…、起きたら急成長してて…、…夜に見られて…、愛美が訪ねてきて…、服を借りたんだったっけ…。


「もしかして…」


「思い出してくれた?あのとき私の言うこと何でも1つだけ聞いてくれるって言ったでしょ?」


 …すっかり忘れてたわ。


「もちろん断ったりしないよね~?」


「…しょうがないわね!やればいいんでしょ!やれば!」


「やった~!早速今から部員集めだよ!」


「あと何人必要なの?」


「え~っと…最低2人だね~。」


「まぁ、1人ならどうにかなりそうね。」


「え?なんで?」


 時間的にもうそろそろ…


「お姉さまぁ~!!」


 ほら、来た…


「なるほどね~!」


「何がなるほどなんですの?」


「ちょっと頼みがあるんだけど。」


 そう言うと、急にティアの目が爛々と輝き出した。


「お姉さまからの頼みだなんて…。私、一肌でも二肌でも脱がせていただきますわ!そして、そのまま全裸になってお姉さまとの楽しい一時を…」


「そこまでしなくていいから。」


 ほんとティアってあらゆる意味で危ないわね…


「で、その頼みっていうのが、剣道部への入部なんだけど。」


「剣道部…。お姉さまもお入りになるのですか?」


「入りたくはないけど入らなきゃいけなくなったのよ。」


「でしたら私も入ります!というより、入るなと言われても入ります!」


 なにそのやる気…


「これであと1人ね。」


「あと1人って、何のことですの?」


「実はね、あと1人部員を集めないと廃部になっちゃうんだ…」


「なるほど…」


 ティアは少し考え込むと、何かを思いついたようで、意地の悪い笑みを浮かべていた。


「そのことなら私に任せて欲しいのですわ!」


「…一体何を企んでいるのかしら?」


「あら、お姉さま。私別に何も企んでなんていませんわ!」


 絶対嘘だ…


「それじゃあ、あと1人は瑠璃ちゃんに任せたよ!」


「無理矢理はダメだからね…」


「心配ご無用ですわ!」


 めちゃくちゃ心配なんだけど…


「純ちゃん、剣道場行こっ!」


 ほんと任せて大丈夫…?


 そんな不安に関わらず、私は愛美に手を引かれて行った。




「ぶちょ~!2人ゲットしてきましたよ~!」


 そんなハイテンションな愛美に連れられて、剣道場の中に入ると、夜にしつこく付きまとう部長と、おっとりとした女の先輩、それに部長に恋してる男子部員が、何やら一ヶ所に集まっていた。


「よくやった、愛美!」


 部長がとても嬉しそうに愛美に駆け寄り、次に私を見た。


「名前は?」


 そう聞いている間にもまっすぐに目を見つめられていた。


「紅月 純です。」


 名前を聞いたとたん、目付きの悪い部長が私の心の中を探るようにさらに鋭く見つめてきた。


「…夜の親族か?」


 あまりにも唐突にそんなことを言われ、私はこれ以上ないくらいに焦った。


「いえ、そんなことは…」


 言った後にしまったと思った。


「嘘をつかなくてもいい。」


 やっぱり気付かれた。


「夜のことを知らないのであれば、急に聞かれて、誰のことかと尋ねるより先に親族ではないと否定する可能性は低い。それに、そんな珍しい苗字の者がこの学校の剣道部に集うというのも不自然だ。」


 この人、なかなか鋭いわ…


「そして、その青い瞳。私が夜の親族ではないかと疑うことになった原因だ。」


 瞳…。そういえば夜も青かったっけ…?


「で、夜とどういう関係だ?」


 どういうって言われても…


「…いとこです。」


 妥当なところを言ってみた。


「まぁ、そう言うならそういうことにしといてやろう。」


 …バレてる。


「ぶ、部長!は、話はこのくらいにして練習しましょう!練習!」


 うわぁ~…愛美、焦ってるのバレバレでしょ…


「練習の前にあいつらにも自己紹介してきな。」


 部長の指差す先には、まったりとお茶をすする女の先輩と、彼女に話しかける男の同級生がいた。



「私は桐原きりはら あき、よろしくね~。」


「俺、林 真吾、よろしく!」


 ゆっくりと自己紹介をする桐原先輩。その横で落ち着きのない林くん。


 完全に対照的なんだけど…


「今日は夜はどうしたのか知ってるか?」


 質問したいのが抑えきれなくなったのか、林くんが夜のことを尋ねてきた。


「夜?夜なら用事で海外だけど。」


「マジで!?」


 …私、最近嘘ついてばっかりかも…


「何の用事なんだ?」


「おじの仕事の手伝いよ。」


「おじの仕事って大変なのか?」


「ん~…公にはできないわね。」


「なんかすげーな…」


「自己紹介も終わったところで早速実力を試してみたい。」


 部長が戻ってくると、いきなりの提案が飛び出した。


「…と、言いたいところだが、あいにく部員集めが終わっていない。ということで、今から部員集めを…」


 部長がそこまで言うと、外から話し声が聞こえた。1つは、いつもしつこく付きまとってくるティアのもの。もう1つのは、以前どこかで聞いたことのある女性の声。


「瑠璃!確かに剣道部には興味あるって言ったけど、こんな急には…」


「今日思い立ったことは、今日やるのが一番ですわ!」


 …ティア、私の言ったこと聞いてたのかしら?


「お姉さまぁ~!!1人連れて参りましたわ!」


 扉が勢いよく開くと、真っ赤な髪をなびかせながらティアがこちらに向かってくるのが見えた。


「あの2人で部員集め完了ですよ、部長!」


 愛美が嬉しそうにそう言った。


「お姉さま、褒めてください!」


 近くまで来たティアはそう言った。


「褒める?瑠璃、アンタ私の言ったこと聞いてたのかしら?」


 ティアに手を掴まれている女子生徒を見ると、彼女は剣道部の練習をよく見に来ていた子でもあり、夜とティアのキス現場を目撃した子でもあった。


「彼女は私のクラスメイトの桜乃さくらの 憂希ゆうきさんですわ。剣道部に興味があるとのことでしたのでここまで連れて参りましたの。」


「アンタのは連れてくるんじゃなくて、強制連行でしょ!」


「どうとらえるかはその人次第ですわ。」


「桜乃さん、ごめんね。」


 ティアのことは放っておき、とりあえず連れてこられた彼女の方に専念した。


「先輩、謝らないでください!確かに興味があるって言ったのは私なんで…」


 うわぁ~…、この子めちゃくちゃいい子…


「ところで、剣道部部員が少なくて廃部になっちゃうって本当ですか?」


「えぇ、本当みたいよ。」


「だったら私、この部活に入ります!」


 彼女は決心したようで、大きな声でそう言いきった。


「ほら。」


 部長が出てきて彼女に白い紙を渡した。


「入部届けだ。ビシバシ鍛えるから心しておけよ。」


 そう言って、同じ紙を私とティアにも渡した。


神凪かんなぎ ゆい、ここの部長だ。」




 私たち3人が入部届けを提出すると、部長は早速実力が見てみたいようで、道着やら面やらを持ってきていた。


「私1人で3人を相手するのは時間がかかる。秋、林、準備をして来い。」


 やる気満々だ…


「あの、純先輩。夜先輩とはどういう関係なんですか?瑠璃は夜先輩のことは兄だって…。それで、先輩のことは姉だって言ったっていうことは、つまり、先輩と夜先輩は兄妹なんですか?」


「…」


 ヤバイ…焦りすぎて何て応えたらいいのか分からない…


「どうなんですか!?」


 さらに追いたててくる憂希。


「憂希ちゃ~ん、どうしてそんなに夜くんのことを気にしてるのかな~?」


 一部始終を聞いていた愛美が会話の中に入ってきて、私たちの話題から話をそらした。


「え?あの…それは…」


 憂希は明らかに言いにくそうな様子で顔を真っ赤にしていた。


 もしかして、この子も夜のことを…


「もしかして、憂希ちゃん、夜くんのことが…」


「そ、そそんなわけないじゃないですか!!」


 声が上ずってるし、まったく説得力がないんだけど…


「おい、おまえたちも早く着替えてこないか。」


 彼女への救いの手とばかりに、部長からの指示が飛んできた。


「ほう…おまえたち兄妹だったのか…。」


 しかし、部長の隣を通ったときに、そんな部長のささやきを耳にしたような気がした。




「よーし、林は紅月妹、秋は桜乃を相手してやってくれ。私は紅月姉を相手する。」


 紅月姉やら妹やら名前で呼ぶってことはできないのかしら…。もしかして、名前覚えられてないとか?


「それでは各自始めてくれ!」


 部長が言い終わって数秒すると、パシンという音と共にドスンと何かが落ちたような音がした。


「林先輩?少々張り合いがなさすぎではありませんか?」


 見ると、ティアが林くんの目の前に竹刀を突き付けているのが目に入った。


「おまえの妹も夜に似て優秀だな。それでは、夜の兄妹であるおまえにも期待が持てそうだ!」


 部長が竹刀を早くも左手に持ち代えていた。


「ところで部長、その妹やら姉って呼び方じゃなく、名前で読んで欲しいのですが…」


「私に勝てたら考えてやろう!」


 そう言って竹刀を振り下ろしてくるが、これはフェイントで部長は真横から竹刀を振ってきた。


「やはり面白い試合ができそうだ。」


 その打撃を受け流すと、さらに部長はフェイント混じりの連続攻撃を放ってきた。


「少しは攻撃してきてくれないと勝負にならないぞ。」


 部長がまたフェイントを仕掛けてくる。


 …今!


 一瞬の隙を突いて部長の懐に入り込む。しかし、部長に焦りの色はなかった。


「かかった!」


 フェイントかと思われたその打撃は止まることなく下ろされていた。


 後ろには…この距離じゃ間に合わない。それなら…


 部長の胴を狙って竹刀を振るう。


 パァン!!


 ほぼ同時に鋭い音が響き渡る。


「私の勝ちだな。」


「いえ、私の勝ちですよ、部長?」


 どちらとも言えない勝敗だった。しかし、部長がそんなことを言うので、こっちも黙っているわけにはいかなかった。


「「…」」


「は~い!2人ともそこまで!っていうか、引き分けでいいじゃないですか!」


 にらみ合って動かない私たちの間に入って愛美がそう言った。


「いや、あれは私の方が速かった。」


「そんなはずありませんでしたよ。私の攻撃の方が…」


 それでも止めようとしない部長。しかし、言われっぱなしにはしたくない私。


「はいはい、一度お茶でも飲んで気分を落ち着けてみたらどうかしら?」


 桐原先輩が私たちを引き離し、お茶を持ってくる。


「いや、あれは私の勝ちだった…」


「そうね。」


 部長の愚痴を聞く先輩。なんだか保護者のようだった。


「先輩にもあんな一面があるんですね。」


 桜乃さんが私の隣に座って話しかけてきた。


「あんな一面?」


「ほら、先輩って外見だけ見ればクールビューティーな人じゃないですか。それに似合わず、あんなに負けず嫌いだっただなんてかなり意外でした。」


「悪い?」


「いや、決して悪いということではなくて、可愛い一面もあるんだなぁ~って。」


「そう?私なんかよりもあなたの方が可愛いと思うけど。」


 からかい半分本気半分で言ってみると、少し顔を赤くしていた。


「そういうところが憂希ちゃんの可愛いところだよね~!」


 愛美が桜乃さんの背後から現れた。


「ちょっと、愛美先輩!どこ触ってるんですか!」


 背後から飛び付いてくる愛美に桜乃さんが抵抗している。


 下級生に抱き付くってどうなのかしら?しかも、同性の。


「ちょっと発育不良気味?」


 愛美がそんなデリカシーのないことを言ったとたんに桜乃さんは酷く落ち込んでしまって、その場でうずくまっていた。


「桜乃さん!私なんてそのくらいの歳の時は小学生かってくらいだったんだから、自信持って!!」


 必死に勇気づけようと最近までの自分のことを話す。


「そんなわけあるはずありません…」


 チラリと私の体を見ると、さらに落ち込んでしまった。


 嘘じゃないのに…


「お姉さま!大丈夫ですか!?」


 ショックを受けていた私に近づいてきたティアがそう声をかけた。


 …ティアがいるじゃない!


「桜乃さん!あなたと同い年の瑠璃なんてあなたよりも発育が遅れてるんだから大丈夫よ!」


「お、お姉さま!?」


 ティアは珍しく鋭い目付きで私を睨み付けてきた。一方の桜乃さんはティアの方をチラチラと見ていた。


「そう…ですよね!きっと今からですよね!」


 元気を取り戻した桜乃さん。その横で私をにらみ続けるティア。そして、こんなややこしいことになった原因の愛美はいつの間にか部長のところへ行っていた。


「お・ね・え・さ・ま!私、意外とそのこと気にしていますのよ。それなのに、お姉さまは…。罰として今日は私と一夜を共に…」


「するわけないでしょ!」


 とりあえず、桜乃さんが立ち直ってくれたから良しとしよう!


「先輩!私のことは憂希って呼んでくれると嬉しいです!」


「分かったわ、憂希。」


「ところで先輩、夜先輩はどうして今日は来ていないんですか?」


 本気で心配しているようで真面目な顔をして尋ねてきた。


「気になる?」


 しかし、どうしてもこういう子を見ると、からかいたくなってしまう私がいた。


「ただ心配なだけですっ!先輩、からかわないでください!」


 さすがに気付かれたか…


「夜はおじの用事に付き合わされて海外よ。」


「海外ですか!?」


 あぁ…こんな真面目な子に嘘をつくなんて、心が痛む…


「でも、2週間ほどで帰ってくるみたい。」


「2週間…長いですね。」


「夜と会えなくて寂しい?」


「そうですね少しは…って、先輩!?」


 自分の言ったことに気づいてか、憂希は顔を真っ赤にしていた。




「お!来たか、朱雀。」


 急に扉が開いたかと思うと、部長がその方向に向かって手を振っていた。


「神凪会長、部員集めの方はどうですか?」


 その来訪者は微笑みを絶やすことなく、優しげな声色で部長にそう尋ねた。


「あぁ、ちょうど集め終わったところだ。」


 部長はさっき私たちが書いたばかりの入部届けをその人に渡した。


「はい、確かに受け取りました。」


「朱雀、おまえも大変だな。」


「いえいえ、神凪会長に比べたらこの程度まだまだですよ。」


 この人はどうやら生徒会に所属していて、部長の下で仕事をこなしているようだった。


「ねぇねぇ、純ちゃん!あの人、男の子か女の子かどっちに見える?」


 愛美も、というよりここにいる全員がそのやりとりを見ていたようで、当の本人たちと桐原先輩以外はみんな同じようなことを考えているみたいだった。


「端的に言うなら男子の格好をした女子ってところかしらね。」


 来訪者はその女性らしい顔立ちとはぜんぜん似合わない男子の制服を身に付けていた。


「そうだよね!誰がどう見たって女の子だよね!」


 愛美の言う通り、たぶん誰が見ても女の子と思うであろうが、男子の制服を着ている以上は男の子みたいであった。


「でも、仮に女子だったとして学校側が男子の制服を着た女子を容認してると思う?」


「あんなにカワイイのになぁ…」


「別にカワイイから女の子ってわけでもないでしょ?」


「えぇ~!でも、憂希ちゃんとかすっごくカワイイじゃん!」


 そう言って、近くに座っていた憂希に飛び付いて頬擦りをしていた。


「あの、ちょっと、先輩!?」


 一方の憂希はどうにか押し離そうと必死に抵抗をしていた。


「あのね…。だったら部長を見て愛美はどう思う?」


「部長…?う~ん…」


「カワイイとはちょっと違うでしょ?」


「…カワイイと言うよりはカッコイイ感じ?」


「つまりそういうこと。カワイイ男の子もいれば、カッコイイ女の子もいるってことよ。」


「あぁ~!なるほどね!」


 当たり前のことを説明すると、本人は納得してくれたようだった。


 大したことは言ってないんだけど…


「フォローありがとうございます。」


 いきなり後ろから声が聞こえてきたのでさっと後ろを振り返るとさっきまで話題にしていた彼が立っていた。


「僕は日輪を守護する陰影、月の使者。」


「「「…」」」


 私たち3人は彼の言ったことを全く理解できず、ただただ聞くことしか出来なかった。


「朱雀、まだそれを続けてたのか…」


「ええ、これをやらないと始まりませんから。」


 呆れたように部長が間に入ると、彼は笑顔でそれに答えた。


朱雀すざくれんです。どうぞお見知りおきを。」


「あ、えっと…」


「純さんですね。噂は色々とお聞きしています。」


 噂…嫌な予感しかしない…


「私の同級生で副会長を務めてもらっている。」


「あの~、朱雀先輩!先輩って男の子ですか!?それとも女の子なんですか!?」


「そうですね…」


 愛美の失礼な質問に彼はそれだけを言って一呼吸おいた。


「僕が男性に見えますか?」


 彼は低い声でそう言ったあと、その場で優雅にクルリと1回転して、


「それとも、私は女性に見えますか?」


 と、声色を変え、本当に女の子であるかのような上目遣いでそう尋ねた。正直、それを見た後ではさっきまで男性だと確信していたはずであったにも関わらず、女性ではないかという疑念が沸き上がってきた。


「朱雀、おまえにはプライドってものがないのか?」


「そんなものとうのむかしに無くしてしまいました。」


「おまえのそれは男であるとわかっていても疑わざるを得ないものがあるぞ。」


 そう部長が言うからにはやはり男性なのであろう。


「まぁ、僕にとっては男であろうが女であろうがそんなことは大した問題ではないんですよ。」


 淡々と語るその口調はまるで自分のことなどどうでもいいかのような思いを感じ取ることができた。


「それでは僕は生徒会の方に戻りますよ。」


 彼はみんなに軽くお辞儀をし、剣道場から出ていった。


「なんというか…不思議な人でしたね。」


 憂希が隣でつぶやくかのようにそう言った。


「つかみ所のない人だったわね…」


「…」


 ふと視界に入ったティアはどこか難しい顔をしていた。


「どうかした?」


「いえ、なんでもありませんわ!」


 話しかけると、少し驚いたような反応を見せてそう言った。


「そう、そんなはずがありませんわ…」


 ティアは自分自身に言い聞かせるようにそうつぶやいていた。

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