ご褒美と2回目
「はぁ~…」
…朝からため息なんて幸せが逃げるな…
あれから1週間毎日あの刀に魔力を流し込んでいたので、さすがに疲労がたまっていた。
「夜くん、一緒にお昼食べよ!」
「いや、夜は私とだ!」
もっともほとんどコイツらのせいだけど。
「会長は2年生なのに何で1年の教室に来てるんですか!?」
ほんと、何しに来てるのやら…
「それはだな、私と夜との愛を深めるためだ!」
「ふ~ん…」
「会長のアタックじゃ華麗にスルーされますよ!ここは私の…」
だいたい、毎日毎日おんなじようなやりとりをして飽きないのか…?
「夜、いいな~!」
「だったら代わってくれ。」
「いや、ダメだ!俺なんかが代わったら潰される!」
潰される?…この2人ならやりかねないかもな。
「お兄さま!」
ややこしいときにまたややこしいのが来た…
「何ですか、その何で来たんだよコイツ的な目は?」
…俺って目に出るタイプなのか?
「そんなタイプありませんわ!それより…」
ティアは俺の耳元に口を近付け、コソッと何かを言った。
「マジ?」
「はい。」
前に襲ってきたフードの仲間がこの学校に近づいてきているらしい。
「どうするんだよ?」
「とりあえず…」
「ちょっと、瑠璃ちゃん!」
「いくら妹と言えどもそんなに夜の近くで話すことは許さないぞ!」
少しくらい静かにできないのか…?
そんなことを思いながら2人を見る。すると、2人とも急に黙りこんだ。
あれ?どうしたんだ?
「お兄さま、ナイスですわ!」
「で、どうするんだ?」
「とりあえず、向こうの動きを様子見したいと思ってますの。そこでお兄さまとテレパシーが使える方が楽だと思いますので…」
ティアは俺の手を握った。
「ん?テレパシーってどうするんだ?」
「お兄さまの魔力を私に流し込んでください。私はお兄さまに流し込むので。」
「あぁ、わかった。」
ティアの魔力が流れてくるのがわかると、俺も魔力を流し始めた。
「…おまえ、大丈夫か?」
魔力を流し始めると、ティアが妙に辛そうにしているように見えた。
「お兄さま…もう、結構です…」
途切れ途切れにそう言うので、流すのをやめた。
「ほんとに大丈夫か?」
「お兄さまの魔力が体の中で…」
そんなに流したつもりはなかったんだけどな…
「それと顔が赤いぞ。」
「はっ!私としたことがお姉さまというものがありながら…」
また意味の分からないことを…
「ねぇ…お二人さん…」
「さっきから人前でイチャイチャして…」
「私たちのことなんか全く気に止めてないんでしょ…?」
後ろから真っ黒なオーラを放った愛美と部長が目の前に迫ってくる…
(ティア!逃げるぞ!)
早速テレパシーを使うことになるなんてな…
『お兄さま…私まだ動けそうにありませんわ…』
(…わかった。)
ティアの足の下に手を通し、背中に手をかけることでティアを持ち上げた。
「お姫様だっこ…」
「夜…私にはやってくれないのに…」
それがかえって彼女たちを怒らせてしまつた。
『お兄さま…。なかなか大胆ですわ…。』
ティアがなんだか熱っぽい視線を送ってきていた。
「な~に、2人で見つめ合っちゃったりしてるの~…」
「夜、見せつけているのか…?」
2人は脅威的なスピードで俺たちの周りを取り囲んだ。
コイツらほんとに人間…?
諦めてティアを降ろした。
(…ティア、コイツらから逃げ出すのは無理みたいだ…)
『お兄さま、がんばってください…』
何をがんばれって言うんだよ…
ティアは鬼と化した愛美の方へ歩いていった。
…スルー!?
どうやら俺しか見えていないようだった。
うぅ…。気分が悪い…。
結局弁当を2つ食べさせられただけだった。とは言っても、いわゆる『あ~ん』とか言うやつで。周りは好奇と殺意のこもった目でこっちを見てたけど…
「夜!部活に行くついでに付き合ってください!」
「いや、ついでじゃないし。」
「くっ…諦めない…」
ほんとこの人何考えてんだろう…
「夜くん!部活行こっ!」
あのめんどくさい昼飯の後から妙に機嫌が良くなっている。
「行くか…」
俺と愛美が歩き出すと、落ち込んでいた部長はすぐに着いてきた。
「夜!私とまた勝負しよう!」
「はいはい…」
「もちろん、私が勝ったら付き合ってもらうけどな!」
「やっぱやめとく。」
そう言って剣道場の倉庫に入った。なぜ倉庫なのかというと、この剣道部には部室が1つしかなく男子部員は2人しかいないので、俺たちは倉庫で着替えているからだった。
倉庫内に入ると、真吾が先に着替えていた。
「お、夜じゃん!」
俺以外の誰がここに来るんだよ…
「俺決めた!部長に告白するってさ!」
俺に言ってどうするんだろう…
「まぁ、がんばれ。」
とりあえずエールを送っておいた。
うまくいけば追っかけ回されることも少なくなるかもしれないし。
「ところで告白ってどんな感じでしたらいいと思う?」
知るかよ…
そのあとしばらく告白のアドバイスを求められたが全て適当に流しておいた。
『お兄さま!聞こえます?』
ちょうど倉庫から出ると同時にティアの声が聞こえてきた。
(ん?どうした?)
『朝に申し上げた追っ手がどうやらお兄さまの居場所を突き止めたようで、今そちらに向かっているようです。』
(それって結構ヤバくないか?)
『それについては【絶】を使いますので大丈夫ですわ。私がそちらに今向かっているので少しの間待っていて下さいますか?』
(あぁ、わかった。)
さて、待っとけったってこっちから行った方が早く落ち合えそうだしな。
そう思った俺はティアの言っていたことなど気にしないで、道着のまま剣道場を出た。
「あっ!」
外に出ると最近よく見る中等部の女子がいた。
「見学なら入れば?」
「あ…失礼します!」
そう言って逃げていく。いつものパターンだ。ってか、何しに来てるんだろう?
そう思いながら周りを見渡していると、上空から何かを感じ取った。
(それらしきもの見つけたぞ。)
見上げると、前に見たフードを被ったヤツがいた。
『その場でじっとしていてと申し上げたのに…』
(ところでそろそろ着きそうか?)
『はい!もう目の前まで来てますわ!』
校舎の方を見ると、人では到底あり得ないようなスピードでこっちに走っている…というよりは飛んでいるティアを見つけた。
(…おまえ、止まれるよな?)
『はい!お兄さまを使って。』
(…)
ドスッ…!
「…止まる気なかったろ?」
「そんなことありませんわ。」
「だったらなんで魔力使わなかったんだよ。」
「私とお兄さまとのスキンシップのためですわ!」
スキンシップ…
「だいたいおまえはお姉さまとやらを愛してたんじゃないのか?」
「もちろんそうですわ!ただし、お兄さまもお姉さまと同じくらい好きになってしまいましたわ!」
「…さっさとあの魔族片付けてくれよ…」
「はい!わかりましたわ、お兄さまっ!」
意味のわからない満面の笑みを浮かべてティアは俺から離れた。
【絶】
ティアが目を閉じ魔力を集中すると、あっという間に周りには俺とティアと追っ手の3人だけになっていた。
「お兄さま!あの魔族を倒したらご褒美頂けます?」
ティアがこっちを向いたと思ったら、そんなことを言い始めた。
「ってか、ご褒美って?」
「そうですわね~…キスかハグするっていうのはどうです?」
「却下!」
ってか、その2択両方ともおかしいだろ…
「それではお兄さまにお任せしますわ!」
最終的に俺任せなのか…
「期待してますわ!お兄さま!」
期待しないでくれよ…
ティアは追っ手の方へさっきのさらに倍以上のスピードで突っ込んでいった。
【魔障壁】
追っ手の周りに見えない魔力の壁ができ、ティアの攻撃を受け止めようとした。しかし、ティアの蹴りはいとも容易く魔力の壁を破り、追っ手を真下に蹴落としていた。
「そんなことで私に勝てると思って?」
地面に叩きつけられた追っ手はなんとかまだ動けるらしく、ヨロヨロと立ち上がった。
「報告シマス」
急に追っ手がそんなことをつぶやき始めた。
「そうはさせませんわ!」
ティアが空中で弧を描くように体を回転させ、追っ手めがけてまっすぐ落下した。
「障害、ティア・ル…」
【氷花】
ティアの手から現れた巨大な氷の柱が追っ手を貫いた。
「ふぅ…なんとか間に合いましたわ。」
戦いを終えたティアがこちらに降りてきた。
…俺の気のせいか?
氷の柱の刺さった追っ手の体にまだごく微量の魔力が流れているのを感じた。
「…システム…ソン…ショウ…ジ…バクモード…移行…」
自爆!?
「ティア!!」
【爆炎魔破】
この1週間でティアから習ったチャージを使う。足にできるだけ多くの魔力を流し込み、思いっきり地面を蹴った。
ものすごい爆音と共に強い熱風と衝撃によって俺たちは吹き飛ばされた。
「お、お兄さま…?」
「…いってぇー!」
身体中に痛みが走った。
「あ、あの…お兄さま…?」
「ん…?」
「あの…た、体勢が…」
ちょうど俺がティアを押し倒したような体勢になっていた。
「あ、悪い!」
すぐさま体を起こそうとしたが、ティアが首に腕を絡めてそれをさせなかった。
「お兄さま、約束のキスを…」
「してないっての!」
しかし、予想以上にティアの腕の力は強く、脱け出すことができなかった。
「お兄さま!頭を動かさないで下さい!」
「動かさなきゃよけられないだろ!」
さっきからこのやりとりが続いていた。
「もういい加減諦めろって!」
俺がそう言って、この場をどうにかしようとしたがティアは全く気にしていない。
「えっ!?」
急に後ろから声が聞こえてきた。すかさず声の主を探すと、1人の女子が顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。
たしか…コイツは…
見覚えのある可愛い顔だったので少し思い出してみた。
そうだ!剣道部を見学してた女子だ!
「お兄さま!隙ありっ!」
「んっ!?」
しまった!油断してた。
気付いた頃にはもう遅く、俺の唇はティアによって奪われていた。
あれ?俺ってファーストもセカンドも奪われてないか?
「お兄さまの唇を頂きましたわ!」
「離せ。」
「お兄さま!ご褒美ありがとうございます!」
勝手に奪ったんだろ!
体を起こし、俺たちの様子を全て見ていた女子の方をチラリと伺うと、
「あっ!し、し、失礼しましたっ!」
めちゃくちゃ慌てて逃げていってしまった。
「そういえば…あの方…」
ティアが何か考え事をしているような顔をしていると思ったら、次の瞬間には何かを思い付いたように怪しい笑みを浮かべていた。
愛「ティアちゃんは純ちゃんが好きだったんじゃなかったの?」
ティア「もちろん、お姉さまのことは好きですわ!」
愛「それなら、私の夜くんに手を出さないでよ~!」
ティア「そういうわけにはいきませんわ!」
純「一応その理由とやらを聞かせてもらおうかしら…」
ティア「それはもちろん、お姉さまもお兄さまも好きだからに決まっていますわ!」
夜&純「はぁ…」
愛「ティアちゃん…二人とも呆れちゃってるよ。それに、二股なんて非道徳的だよ!」
ティア「魔界では二股なんてよくあることですわ。それどころか、一夫多妻なんてこともあるくらいです!」
夜&純&愛「…」