再会
《人物ファイル》
・名前
紅月 夜
あかつき よう
・誕生日
7月11日
・血液型
不明
・趣味
特になし。強いて言えば屋上で流れる雲を見ること。
・特技
特技という特技はない。
・容姿
サラサラとしたウルフカットの黒髪、キリッとした顔立ち、そして海のように真っ青の瞳をしている。かなりのイケメン。
本小説の主人公の1人。何事にもあまり興味はなく、基本的にめんどくさいことは避けて通るタイプ。特に勉強、他人の心情を読み取ることは超苦手。典型的な鈍感ぶりを発揮する。
しかし、ときには鋭い洞察力を発揮し、普段からは考えられないようなことを言うことも…
「…またここ?」
目が覚めたのは白いカーテンで仕切られた部屋。つまり保健室だった。前と違っていたのはおじさんにティアと呼ばれていた女の子が心配そうに私の顔を見つめていることだけだった。
「お姉さま!やっとお目覚めになったのですね!」
この子は私のことを姉だと思っているみたいね。それなら傷つけないないように…。
「私どのくらい寝てた?」
自然な会話になるように優しい感じで言ってみた。
「お姉さま…。10年の間にこんなにも優しくなられて…。」
…また危ない雰囲気になってきた…
優しく言ったことを後悔しながら私は少し身構えて彼女の様子を見ていた。
「ティアの愛を受け取ってください!」
「はい、ストップ。」
その声の主は飛び込んできたティアの足首を掴んだ。足首を掴まれたティアはどうすることもできず頭から床に突っ込んだ。
「色々と厄介なことになってきたわね、純ちゃん。」
厄介なことには基本的に何らかの関係があるあの先生だった。
「ルー様、純って一体どなたのことを言っているのです?」
「イヴのことだ。」
ティアの質問には先生の隣にいたおじさんが答えた。
「久しぶりだな。」
たしか最後に会ったのは中学校の入学式のときだったっけ…
「悪いがあまり感傷に浸っている時間はないのでな、さっさと本題に入るぞ。」
そういえば物心ついたときからこの人に育ててもらってたんだっけ…
「まず今日おまえを襲ったフードのヤツことだ。」
フードの子によって傷つけられた体には小さな切り傷や火傷の痕しか残っていないことに気付いた。
「バンパイアのことはルーから聞いただろう?その傷痕もバンパイアの高い治癒力のおかげだ。」
人の心を読まないでよ…。まぁ、昔からこうだったけど…。
「悪かった。それであのフードがおまえを襲った理由なんだが、おまえがバンパイアだからなんだ。それもとても優れた血を受け継いだな。」
優れた血…?
「おまえの両親は実は…」
「この子達にはまだ早いわ。」
先生は急におじさんの話を遮った。
「つまりおまえの両親はとても優れたバンパイアだったということだ。」
何かごまかしてる…
どうせ今聞いても答えてはくれないと思った私はあえてそのことに突っ込まなかった。
「そのバンパイアの血に何か特別な価値があるの?」
「バンパイアの血はとても貴重なもので、その血は未知なる力を秘めていると言う。それゆえ高値で取引したりする奴がいるんだ。」
未知なる力…
「そしてその力は血が優れていればいるほど強力であると言われている。」
だから私が…
それも気になっていたことの1つだったが私にはもう1つ気になることがあった。
「バンパイアだったからって言うのならどうして今まで襲われなかったの?」
「夜くんの暴走。」
質問には先生が答えた。
「夜くんの暴走によってかけられていた封印が完全に解けちゃったって言ったでしょ?その間のバンパイアの力を探知して家までたどり着いたのよ。それがたまたま今日だったからよ。」
「つまりもう私を追っている者はいないっていうことですか?」
「違うわ。今日送られてきた追っ手にはそれを操っていた主人がいる。つまりこれからも今日みたいなことは起こるってこと。」
「こんななことが度々起こるって危険ですよね?」
「だから彼を呼んだのよ。」
「余計なのもついてきてしまったが。」 そう言ってティアの方を見た。
「…お姉さまぁ~!」
ティアは私に泣きついてきた。
「イヴはおまえのことは覚えていないだろう。」
「そんなはずありませんわ!それなら先ほどのような自然な会話は出来ませんわ!」
会話っていうほどの会話じゃなかったって…
「そう思うなら本人に聞いてみればいいだろう。」
「…イヴお姉さまティアのこと覚えていらっしゃいますよね?」
これって正直に答えちゃっていいの?
「正直に答えてやった方がこいつのためだぞ。」
嘘ついてもしょうがないよね…
「ごめん…。覚えてないんだ…。」
「そんな…。」
ティアは保健室から走り去ってしまった。私はそのあとを追いかけようとしたが体に包帯を巻いているだけで何も着るものがなくどうすることもできなかった。
「着るものならこれ。」
先生が手渡したのはいつも着ている白衣だった。その白衣を羽織ると私は彼女を探しに保健室を後にした。
「あの子たちったらまだ話の途中なのにね。」
「まだ話す機会はあるだろう。」
『どこに行ったんだろうな。』
(へぇ~。あんたも人の心配なんてするんだ?)
『おまえと関係があるみたいな感じだしきっと俺とも関係があるんだろ?だったら俺だって少しくらい心配するっての。』
(ふ~ん…)
『何か文句でもあるか?』
(意外とそういうこと考えてるんだ。)
『意外ってどういうことだ?』
(てっきり他人の事なんてまるっきり興味なんてないと思ってた。)
『んなことより早く見つければ?』
(言われなくても探してるわよ!)
こういう時って意外と遠くには行ってないものなんだよね。
私は学校の階段を駆け足で上っていった。
「イヴ…お姉さまぁ…」
イヴお姉さまの記憶がなくなっていることぐらいは予想していましたが、いざ覚えていないと言われるとこんなにも悲しいことだとは思っていませんでした。正直もう何もかもがどうでもよくなってしまいました。
「やっぱりここね。」
この甘く優しい声は…
「お姉さま…?」
私の背後にいつの間にか愛しいお姉さまが立っていた。
「ごめんね、ティア。」
そう言うとお姉さまは私の背中を優しく包み込んでくれた。私の名前を知ってらしたのは少し私を驚かせましたが、お姉さまのことだからきっと会話から読み取ったのでしょう。その優しさが先ほどまでの悲しみを少しずつ和らげていった。
「…ねぇ、もう落ち着いた?」
「お姉さま、もう少し…」
もう少しってもう10分ぐらいこの体勢なんだけど…
「もういいでしょ?」
そう言ってティアから離れた。
「お姉さまぁ~、もっとティアを慰めてくださいよぉ…」
こんなことになるならやらなきゃよかった…。っていうかさっきまでのあの表情はなんだったのよ!
「変なこと言ってないで戻るわよ。」
「待ってください、お姉さまぁ~!」
そんなこんなで保健室に戻ると真剣な表情のおじさんと先生が何かについて話していたようだった。
「おかえりなさい、純ちゃん、ティアちゃん。」
先生が優しい声でそう言って迎えた。
「それでは早くやるべきことをやってしまうぞ。とんだ邪魔が入ってしまったからな。」
真剣な表情のままおじさんはティアをチラリと見て言った。
(相変わらず言うことキツイなぁ…)
『まぁ、そういう人だろ。』
私の小学生のころのおじさんは今と同じような雰囲気でいつも厳しかった印象しか残っていなかった。
「先ほど話したおまえたちを狙う者から身を守るためのすべを教える。」
守るすべ…?
私はあの手から出る火の玉や5本の飛び回るナイフを思い出した。
「まずおまえの魔属性を理解せねばならん。その首から下げている首飾りを外せ。」
言われるがままにあの先生からもらった封印のペンダントを外した。すると今までゆっくり流れていたものが勢いよく全身を流れ始めたのを感じた。
「手を出してみろ。」
手を前に出すと無色透明の小石が手の上にのせられた。
「今から言うことを頭でイメージしてみろ。まずはその石が火で燃えている状況からだ。」
石を燃やす?…真っ赤に燃え盛る火…
「ほう…。おまえのフォームはバーストのようだな。」
おじさんは私の手を見ながら言ったので手を見てみると、手のひらにあったはずの石がイメージしたのに似た火に包まれていた。
…バーストってなに?
「バーストとは簡単に言えば今日のあの使者のように自らの魔力を炎などの力に変換して放つことを言う。」
他にも違うのがあるのかな…。
「土台となるのは基本的にバーストとチャージだ。」
チャージ?
「自分の魔力を自身の体や持ち物などに流し込み、身体能力の向上や持ち物にエレメントと呼ばれる属性を付与することができるタイプのことだ。」
ふ~ん…
「そしてこの石の色はおまえの得意な属性を表しているのだが…。」
石の色は…
無色透明だった石は様々な色に変化し、1つの色にとどまることはなかった。
「おじさま、これって…」
「あぁ、エンチャントロードだ。基本的に我々魔族には扱えない属性があるが、全ての属性を使いこなすことができるごく少数の者のことをそう呼んでいる。」
ティアやおじさん、先生までもが驚いていた。そして何より私自信が一番驚いていた。
「しかしいくら全ての属性を扱えても使いこなせなければ意味がない。だから今からその訓練をしようというわけだ。」
「訓練ってどこで?」
そんないかにも怪しげなことを学校でやるわけにはいかないし…
「それなら心配ない。パラレルワールドや平行世界という言葉を聞いたことがあるだろう?」
「もう1つの世界とかいうやつ?」
「簡単に言えばそういうことだ。そして訓練する場所となるのがそれだ。」
「そんなわけのわからない世界にどうやって入るの?」
「入ると言うより作り出すと言った方がいいな。」
「つまりパラレルワールドを作り出してそこで訓練するってこと?」
「そういうことだ。理解できたならさっさと始めるぞ。」
【絶】
何か強大な力を感じた。
人の気配がない…
さっきまでグラウンドで聞こえていた部活動生の元気な声が聞こえてこなくなった。
「とりあえず外に出るぞ。」
おじさんは保健室から出ていった。
「お姉さま、行きましょう!」
ティアが私の手を引っ張って連れ出そうとした。
「引っ張らなくても行くってば!」
バランスを崩しながらも保健室の外に出た。
「エンチャントロードの訓練なんて面白そうじゃない!」
後ろからゆっくりと先生が歩き、保健室には誰もいなくなった。
純「魔力なんてほんと信じられないわ。」
ティア「お姉さまがエンチャントロードだなんて本当に驚きましたわ!」
純「エンチャントロードのすごさがイマイチわからないんだけど…」
ティア「後々わかっていきますわ!お姉さまなら必ずやそのお力を使いこなせるはずですもの!」
純「いや、プレッシャーになるからやめて。」
ティア「お姉さまは以前オリジナルの魔法などとおっしゃって魔法の開発をするほどすごかったんです!」
純「だからプレッシャーになるからやめてって…」
ティア「そういえば私がその魔法の練習台となることもしばしば…。あれ、とっても辛かったんですよ?」
純「…何て言うか…ごめん。」
ティア「ごめんで済んだら警察はいらないんですよ、お姉さま。」
純「…何を言いたいの?」
ティア「だから…、お姉さまの体で許してあげますわ!」
純「…ティア、あんたって昔からそういう感じだったの?」
ティア「もちろん昔からお姉さまのことを愛し続けておりました!」
純「昔の私も大変だったでしょうね!」
ティア「お姉さまぁ~、待ってくださ~い!」