ショッピング地獄
「ちょっと買い物に付き合ってくれない?」
今日最後の授業が終わり、帰る準備をしていた愛美に話しかけた。
「何を買うの?」
「衣類全般と新しい制服の注文よ。」
例の大変身のせいで今の姿に合う服は愛美に借りているの以外にはなかった。
「そういうことなら任せて!」
「えらく気合い入ってるわね…。」
この気合いの意味はこのときの私には全くわかっていなかった。
「まずは制服の注文ね。」
私たちは学校の近所にある制服店へ向かった。
「いらっしゃいませ~!」
店の自動ドアが開くと元気のいい声が店内から聞こえてきた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「制服の注文を。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
そう言って店員さんは店の奥の方へ入っていった。
「それでは採寸をさせていただくのでこちらへどうぞ。」
「私も同行します!」
「はぁ!?」
急に愛美がとんでもないことを言い出した。
「愛美、どういうつもり?」
「だって興味深いじゃん!」
「だからって…。」
愛美ってもしかして意外と変人!?
そんなことを思っている内に愛美に引かれて店員さんについていっていた。
「ちょっと、どこまで脱がせるつもり!?上着脱いだからもうこれでいいでしょ!」
「純ちゃんは下着で押さえ付けてるんでしょ!だったら全部脱がなきゃダ…」
「うるさい!さっさと出ていきなさ~い!」
愛美…あなたも変態だったのね…。
邪魔者がいなくなると採寸はあっと言う間に終わった。
「それでは出来次第こちらから連絡させていただきますので。」
制服の注文は無事に終わり、次は家の近くのデパートに向かった。
「ねぇ、純ちゃん。無視しないでよ~!私が悪かったからさ~。」
「…」
さっきからこんな会話ばかりが続いていた。
「純ちゃ~ん…」
「もう、わかったわよ。そのかわり次はないからね。」
あまりにもしつこいのでとりあえず許してあげることにした。
「愛美、適当に似合いそうなもの持ってきてくれない?私こういうのあんまりわからなくて。」
「任せといて~!」
このとき愛美にこんなこと頼んでなければあんなことにはならなかったのに…。
「…一体何着持ってきたの?」
愛美のカートには大量の衣類が積み上げられていた。
「ほらほら~!ガンガン試着していってよ~!」
ここからが地獄の始まりだった。着ては脱いで、着ては脱いでのループが永遠と思えるくらい繰り返された。それなのにいっこうに減らない山積みにされた衣類。それどころかだんだんと増えていっている。
「純ちゃんって何着ても似合うよね~!」
「…」
もはや私は愛美の着せ替え人形になっていた。
「お願いだからもう帰ろう…。」
「だ~め!まだまだぁ~!」
「え…?」
「さぁ、次行くよ!」
「もう…無理…。」
私にはその先の記憶がなかった。気がついた時には自分の部屋のベッドの上に横たわっていた。次の日愛美に昨日のことを聞くと、
「純ちゃん、魂が抜けちゃってて家まで連れて帰るの大変だったんだから!あっ、あと昨日買ったのはちゃんとタンスにしまっといてあげたよ!」
などのことを言っていた。
(はぁ…トラウマになりそうだわ…。)
純「まったくひどい目に会ったわ…」
愛「だからごめんって言ってるじゃん!」
純「愛美には反省の色がないのよ!」
愛「反省してるってば~!だからまた一緒に行こうよ~!」
純「絶対イヤ!!」
愛「えぇ~!夜くんからも何か言ってあげて!」
夜「ん~…行ってやれば?」
純「ちょっと、夜!私がどんなに大変だったか知ってるでしょ!」
夜「服を着るのがそんなに大変なのか?」
純「問題はその量よ!」
夜「あ~…見てなかった。」
純「ふ~ん…見てなかったならしょうがないわね…」
夜「…またな!」
愛「あっ!夜くんが逃げた!」
純「愛美、あなたにも少し話があるんだけど?」
愛「え~っと…また今度じゃだめかな?」
純「だめ。」