転校生?
「あ~もう!あの先生のせいでギリギリになっちゃったじゃない!」
私は現在全速力で廊下を走ってます。
『文句なら俺じゃなくてあの先生に言ってもらえるとうれしいんだけど。』
「今いないじゃない。」
私が職員室に着くと同時に目の前の扉が開いた。
「紅月さん!どこに行っていたんですかぁ!?」
そこには昨日までの私と同じくらいの背丈の子ども…じゃなくて先生が立っていた。
「ちょっと変な先生と色々あって…。」
「そうだったんですかぁ~。紅月さんも大変ですねぇ~。」
「それより今から教室に行くんですよね?」
「そうですよぉ~。紅月さんはいちおう転校生ってことになってるです。」
そう。私は何故か転校生ということになっていた。そりゃ1、2週間も欠席して入学式にも出なかったら少し変だと思うけど、転校生扱いにしなくても…。
朝から先生に呼び出されたのもこれを伝えるためだった。
「着きましたよぉ~。」
「1年D組…。」
どこかで聞いたような…。
「それでは先生は先に行くので呼ばれたら入ってきてくださいです。」
そう言うと先生は教室の中に入っていった。
「皆さ~ん、おはようございま~す!」
いつものように先生が元気に教室に入ってきた。まだ会ってからそんなに経ってないんだけどね。
「先生!転校生がウチに来るって本当ですか?」
ある男子が先生にそんな質問をした。
そういえば朝からそんな話題があがってたなぁ…。
「さすが男子諸君!そういう情報には敏感ですねぇ~!」
「先生!女ですか?それとも男ですか?」
「喜べ!男子諸君!転校生は女の子なのだ~!それも超カワイイんですよぉ~!でも~、このクラスの男子諸君にはもったいないので先生が頂いちゃいますです~!」
なんだか転校生の子かわいそう…。
先生の言っためちゃくちゃなことに対して男子は期待を抱きつつ先生にツッコミをいれていた。
「それでは先生の嫁の登場で~す!」
先生…色々間違ってるよ…。転校生そんな紹介されたらとっても出にくいじゃん…。
<<ガラガラ…>>
教室の扉が開きみんなが静まりかえった。
歩く度にサラサラとなびく真っ白の髪。吸い込まれそうになるほど澄んだ青色の目。整った体型には少し窮屈そうな制服。
え…?転校生って彼女!?
彼女は黒板に自分の名前を書き終えると、前を向き自己紹介を始めた。
「え~っと、名前は紅月 純です。よろしくお願いします。ちなみに先生の嫁ではないので。」
なんで純ちゃんが転校生としてここにいるの!?
「紅月さんの席は先生のそば…と言いたいところですが、みんなからのまがまがしい殺気を感じるのでやめておきます~。紅月さんはあそこの席を使ってくださいです~。」
先生の指差していた席に彼女が移動し始めると教室がザワザワとし始めた。
「それではみなさんも紅月さんと仲良くしてあげてくださいです~!」
先生はそう言い残して教室から出ていった。
「私に言いたいことがあるなら1人ずつ言ってもらえるとうれしいんだけど。」
私はそう言って男子女子に関わらず周りに集まってくるクラスメイトたちを一列に並べさせた。
『おまえよくやるよな…。』
質問に答え始めてから10分ほどの時間が経ったのにも関わらず列に並ぶ人数にあまり変化はなかった。それもそのはず質問をし終えた主に男子が何度も何度も列に並び質問を繰り返していたためにいつまで経っても終わらないのだった。
「みんな、そろそろやめてあげなよ。」
さすがに返答するのに疲れ始めたときに1人のクラスメイトが私に手を差しのべてくれた。するとタイミング良く授業開始のチャイムがなった。
「ありがと、愛美。」
「どういたしまして!」
私たちは一言交え、愛美は自分の席に戻っていった。
「意外といいところね。」
私は愛美を引き連れて夜がいつも行っていた屋上に来ていた。
「ここがいつも夜くんがいる場所なんだ~。」
そう言って愛美はメモをとっていた。
「夜が言うにはここにはあんまり人が来ないんだって。アイツの言ってたことだから確証はないけどね。」
そんなことを言っていると屋上の扉が急に開き男子が1人出てきた。
「やっぱりね。」
その男子は何かを探しているかのように辺りを見回していた。
『アイツどっかで見たような…。』
(ふ~ん…。知り合い?)
その男子がこちらに気付くと、あっと言う間に私たちの目の前までやって来た。
「はじめまして!俺、杉本 舜って言います!」
杉本という名前の男子は急に自己紹介を始めた。そのあまりに唐突なことに私は少し動揺していた。
「いや~。噂通りの美しさですね~。」
「純ちゃん!純ちゃん!」
1人で話を進めている杉本っていう人は放っておいて、私の名前をコソコソと呼んでいる愛美の方へ体を向けた。
「なに?」
「この人、入学式のときにも私のところに来てこんなこと言ってたんだよ。」
「ふ~ん…。つまり色んな女の子たちに声をかけて回ってるってことね。」
「しかもかなりしつこくてみんな迷惑してるみたいなんだ。」
「なるほどね。」
つまりこの人を少し痛い目にあわせればいいのかな?
「あっ!あなたは片岡 愛美さん!こんなところでこの学年トップクラスの美少女2人に出会えるだなんて俺って幸せものだなぁ!」
『そうだ!こいつ俺と同じクラスにいた変人だった。』
(そんなことは見ればわかるのよ!)
「ところで純さん。紅月 夜ってヤツ知ってますか?」
「誰?それ?」
不意にそんな質問をされたので少し焦って返答してしまった。
「ですよね~。もし関係があったなら俺はアイツを一生恨み続けるますからね~。」
「ところであなた色んな女の子たちに声をかけて回ってるそうじゃない?」
「俺のこと知ってくださっていたんですね!?」
(…こいつとは会話が成立しそうもないわね。)
『…変態だからな。』
「みんな迷惑してるらしいのよね。」
「迷惑してるっていうのは好きの裏返しですよ!」
この自分勝手な発言に私は我慢できなくなった。ゆっくりと立ち上がると、この自己中男子の腹めがけて後ろ回し蹴りを放った。男子は2、3メートルほど飛んでいった。
「すごーい!」
隣にいた愛美は感心した表情でこちらを見ていた。
「これに懲りたらもう女の子たちに手を出さないことね。」
そう言ってもといた場所に戻ろうとしたとたん、
「純さんの愛のムチなんて感激だぁぁぁ!」
後ろからわけのわからない叫び声が聞こえてきた。
(…こいつ懲りてない…。)
『…さすが変態…。』
私たちは心の中で驚き呆れていた。
「私…こいつ苦手…。」
「純ちゃんがそんなこと言うなんて…。明日は雪でも降るのかな…。」
「私だって苦手なものくらいあるわよ!」
そんなことを言っているうちに休み時間終了のチャイムが鳴ってしまっていた。
「とりあえず教室に戻った方がいいわね。」
私が屋上の扉の方へ向かって歩き出すと愛美もその後を追って歩き始めた。
「…で、あなたついて来ないでくれる?」
「そういうわけにはいきません!もし純さんや愛美さんが変なやつらに絡まれたらどうするんですか!」
「そんなやつ私がどうにかするわよ。」
「かよわいレディーにそんな危険なことはさせません!」
そのかよわいレディーに蹴っ飛ばされたのはどこのどいつよ!
そう心の中で叫びながら私は愛美の手をつかみ、この変態を振りきるために全力で走った。
「ちょっと待ってくださいよ~!」
走り去るその後ろ姿を追って変態と称された杉本はものすごい勢いで走り出した。
純「はぁ…。今回はさんざんだったわ。」
愛「ほんとあの人しつこすぎ。」
夜「俺もあそこまでおかしなヤツとは思ってなかった。」
純「何か対策でも考えないとね。」
愛「対策って言ったって、あの変態に効きそうなものってある?」
純「…」
杉「お~い、純さ~ん!こんなところにいたんですね!」
純「噂をすれば…。」
杉「純さん何か悩み事でもあるんですか?あるなら俺にドーンと相談してください!」
純「あんたのことよ!」
杉「俺に惚れちゃったとかですか!?」
純「…消えて。」
愛「純ちゃん任せたよ。」
夜「さて、俺たちは避難するか…。」
杉「避難?何のこと…ギャァァァー!!」