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引越し先の隣の部屋の住人

作者: コロン
掲載日:2024/01/03

 引越しの荷解きがほぼ終わった。


 両隣の部屋の住人に挨拶をするために、サンダルに足を入れる。

「さぶ…」

 吐く息が白い。日が落ちるとあっという間に寒くなる。さっさと挨拶を済ませてしまう事にした。


 右隣は電気が消えているので、まだ留守だろうと左隣を見る。

 左隣も明かりはついていないが、ガラス越しに人影が見えたので左隣から挨拶をする事にした。


「すみません。隣に引越してきました…」

「は〜い」


 若い女性が出てきた。OLさん…かな。


「隣に引越してきました佐々木と申します。よろしくお願いします」


「わあ、嬉しい!今井です。こちらこそよろしくお願いします」


 明るい感じの可愛らしい人だった。


「学生さんですか?」彼女に問われた。


「いえ、社会人です」

「あ…失礼しました。お若く見えるから…」

「いやぁ、よく言われます」

 あははと二人で笑いあう。


 その時ちょうど右隣の住人が帰って来た。

 誰もいないとでも思っていたのか、僕の存在に少し驚いた顔をした。


 サラリーマンだろうか。ポケットから鍵を取り出す際に、こちらをチラリと見た。

 この後挨拶に行くつもりなので、僕は軽く会釈した。


 …のに無視された。


「あの人、いつもあんな感じで…こちらが声を掛けてもいつも無視するんですよ」

「そう…ですか…」


 左隣の人はいい人なのに、右隣は…挨拶もしない奴か…

 まあ、別に交流を期待しているわけではないからな。都会ではそんな距離感だろう。


「何かあればいつでも声を掛けて下さいね」

 そう言って今井さんはドアを閉めた。


 僕はそのまま右隣の部屋に向かう。

「高田」と書かれた小さな紙が貼られている部屋のインターフォンを押す。


「………はい…」

「隣に引越して来た佐々木と申します。引越しのご挨拶を…」


 ……ガチャ。

 ドアが少し開いて、隙間から先程の男性がこちらを見ていた。


「今日、隣に引越して来ました。よろしくお願いします」

 そう言って引越し蕎麦もどきのカップラーメンを差し出す。


「……どうも…」

 男は怪訝な顔をして僕を見た後、隙間から手を伸ばしてラーメンを受け取りバタリと扉を閉めた。


「…なんだよ」


 心で毒づく。


 。。。


 それから今井さんとは会えば挨拶や立ち話しをする程度の仲になり、隣のサラリーマンには無視される日々。

 聞けば今井さんも無視されているそうなので、そんな人かと諦めた。



 。。。



「今度ウチでお茶しませんか?」


 夜、仕事から帰ると廊下で出会った今井さんに誘われた。 


「えっ…と…」返事に焦る。

 僕の反応に今井さんも焦ったようだ。

「あ!…そ、そんな重い感じじゃなくて!ご迷惑だったらごめんなさい」

 そう言ってペコペコと頭を下げた。


「あ、いや、違います!じゃあ、今度伺います!」

「え!嬉しい!」

 喜ぶ今井さんと僕は一緒に笑った。


 するとタイミングの悪いことに右隣の男が来てしまった。


「こんばんは」

 今井さんが挨拶をする。

 男は今井さんの声にぴくりともせず、また怪訝な顔で僕を見た。


「こんばんは。会社帰りですか?」

「………はい……」

 それだけ言うと部屋へ入って行った。


「ね?ひどいでしょ?」

「そうですね…」



 翌日から僕は何度となく今井さんの部屋に招かれた。

 残念な事に男女の仲になる事もなく、たわいもない話をしているだけ。

 今井さんの話を聞くだけだったり、僕の事を話したり。


 そのうち僕は今井さんの部屋に通うのが日課になっていた。




 。。。






「高田さん。この書類、早目に提出してくださいね」


 総務部の林さんに住所変更の書類を渡される。

「高田さんって確か半年くらい前に引越したばかりでしたよね?また引っ越すなんて何かあったんですか?」


「…」


 半年前に入居したアパート。


 入居してすぐに二軒左隣りの部屋でOLの首吊り自殺があった。

 それ以降、そこは空き部屋だ。


 OLの右隣の住人はその後すぐに引越して行った。

 そして入れ替わりで若いサラリーマンが入居してきたが…


「…隣の部屋に引越してきたサラリーマンが、夜に廊下で正座して笑っていたり、まるで誰かと話してるみたいにずっと独り言言ってるんです。会うと挨拶してくれるんだけど、なんか気持ち悪くてスルーしちゃうんですよ。そのせいで俺、そいつにあまり良く思われてないみたいなんですよね。トラブルになる前に引っ越したんです」









 新しいアパートに引っ越してから三ヶ月後、事故物件サイトで前にいたアパートを検索してみたら、炎のマークが2つ表示されていた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストになって、変わる視点。そこで「左隣」や「右隣」の意味と、前半の人物のことが分かって…絶妙ですね。 真相に気付いた時、背筋がゾクッとしました。約1700字に、怖さが凝縮されていますね…
[一言] 拝読させていただきました 問題のありそうな住人が実は…というどんでん返し オチとしても秀逸だと思います 今後も応援しております
[良い点] ひえ! 隣人にめちゃくちゃウキウキしちゃった分、落差が!
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