グモールの森④
僕たちはその後、他愛もない話をしながら最初の広場まで戻った。
そこにはアキたちがもう戻ってきていた。
椅子に座って雑談をしているようだった。
アキがこっちに気づいて右手を振る。
「お。セト。観光はどうだった?」
「いいものが見れたよ。樹枝さん。ありがとうございます。」
「ふふ。もっと崇めてもらってもいいんだよ?」
「調子に乗るんじゃないわよ。」
朱李さんが樹枝さんを殴ろうとするが、後ろに椅子を傾けて避ける。
追撃するのをアキが手で制した。
「てか、罨と会ったんだ。おひさ~。」
『お久しぶりです。アキ様。お変わりないようで。』
「ところでアキ。その手に乗ってるのは・・・?」
僕がそう言うとみんなの視線がアキの手元に向かう。
アキの手には白い子ウサギが抱えられていた。
「ん~?この子はね、私の腕に飛び込んだ来てくれた子だよ~」
「自分から追いかけといてよく言むぐぐぐぐ」
「余計なことを言う口は縫ってあげようか?」
「兄ちゃん・・・・・」
華は苦笑いをしながら椅子に座った。
僕もそれに続き、罨は地面に座る。
「こういう小動物は癒しなんだよ。叱られる毎日の中での潤い・・・分かる?」
「いや、だから。それは君自身のせいだろ?」
「おっと歳かな?ちょっと聞こえずらい。」
「鼓膜を破るぐらいの声で言いましょ。」
「遠慮しま~す!」
口喧嘩(小競り合い?)が続いている中でも、アキは子ウサギをなでる手を止めなかった。
子ウサギも満更ではなさそうで、随分とリラックスしている。
僕がじっと見入っていると、アキは子ウサギを僕に差し出した。
「えっ?」
「ずっと見てくるじゃん。触りたいんじゃないの?」
「あー・・・うん。触ってもいいかな。」
「どうぞどうぞ。」
「決めるのはアキじゃないよね?」
「樹枝。ちょっと黙る?」
そんな言い合いの中、アキから子ウサギを受け取り膝に置く。
ふわふわの毛が手をかすめ、心が温かくなる。
「・・・・・確かに。癒しかも。」
そう呟くと、アキが動きをピタッと止める。
「セト。」
「えっ、な、何?」
「その子ペットにする?」
「・・・・・え?」
アキの言葉に思考が止まる。
(この子を・・・ペットに・・・?)
僕が戸惑っている中、みんなが追い打ちをかける。
「ふうん・・・いいじゃないの?その子も嫌がってないんでしょ?」
「うん。嫌がってないよ。僕的には癒しに逃げてほしくないんだけど・・・」
「まあまあ。いいじゃないか。な、罨。」
『私もいいと思います。』
「でっしょ!!旅に癒しは大事!!てか、樹枝も癒しって認めてるじゃん。」
みんなが次々に(意外にも)賛成の意見を述べる。
僕がチラリと子ウサギの方を見ると、キラキラとした目で見てくる。
うっ、と僕は言葉に詰まった。
「い、いきなりそんなことを言われても・・・・」
『なんでそんな話になってるんだ。』
罨とは違う声が、樹枝さんの後ろから聞こえる。
皆の視線がそっちに向くと、白く大きな生き物がそこに現れた。
「おお。ペット代表。」
『誰がペット代表だ。』
「まあ落ち着けよ可可 。アキに嚙みついても何もできないぞ。」
『樹枝様・・・それはそうですね。』
「ちょっと?どーいう意味?」
「えっと・・・・・その方?は?」
僕はその白い狼のような動物に手を向けながら聞く。
「ああ。こいつは可可。最高位の魔物。見ての通り、 神狼だ。で、オレたちのペットだ。ほら。挨拶しろ。」
『初めまして人間。よろしくするつもりはない。』
牙を見せながら可可が言う。
なんだか朱李さんと同じ雰囲気で苦笑いしてしまう。
『失礼ですよ可可。仮にもアキ様のお客様ですよ?』
『うるさい罨。俺に命令するな。大体俺よりあとにこの森に来たくせに出しゃばるなよ。』
『私には魔物の長という役割を与えられています。あなたがアキ様のお客様に失礼な態度をとっているので、相応の対応をさせていただいているだけです。』
『何が相応の対応だ?調子に乗るなよ?』
可可が毛を逆立てる。今にも罨を攻撃しそうだ。
樹枝さんたち三人はその様子を放っている。
そんな様子に僕はおろおろしていると、
「はいはい・・・・・・喧嘩しない。」
アキが飲んでいた紅茶(緑茶)を置いて、目を細める。
たったそれだけ。
それだけで
空気が張り詰めた。
二人ともピタッと動きを止める。
僕も動けず、冷や汗を流す。
『申し訳ありません。』
先に動けるようになった罨が謝る。
「うむうむ。分かったらいいのだ。」
『・・・・・チッ。』
アキが腕を組んで偉そうにすると、対照的に可可の機嫌が悪くなる。
僕が動けなかった間に、子ウサギはアキの方に移動していた。
そんな子ウサギに喜んでアキは撫でまくる。
(・・・・・いや、そんなことより・・・)
僕はさっき起こったことに、まだ頭が追い付いていなかった。
ただアキが目を細めただけ。
たったそれだけであの威圧感。
「どう?あれが本物の圧よ。本物の''強者''の圧。」
「強者・・・・・」
「あれ。もしかしてアキから聞いてないのかい?・・・アキは」
樹枝さんがテーブルに肘をつき手を組んで、その手の上に顎を乗せる。
そして、ニヤリと笑って言う。
「最高神''七芒星''最強の人物。つまり、世界で一番強い人物だ。」
アキは子ウサギの体に顔を埋めて、幸せそうに笑っていた。




