グモールの森③
「軍まで動かす気か。吸血鬼は。」
アキの言葉でその場の空気が重くなる。
・・・・・と思っていた。
「軍とは大きく出たわね。吸血鬼が最近来ないってだけでそこまで考えたの?根拠は?」(朱李)
「その状況と勘。」(アキ)
「・・・・・勘?へー死にたいの?」(朱李)
「すいません勘じゃないです状況から考えました。」(アキ)
「随分と早口だねえ。」(樹枝)
「余計なことを言う口はこれか?」(アキ)
「痛い痛い痛い。」(樹枝)
アキが樹枝さんの頬を引っ張る。
朱李はそんな二人を見てため息をつき、華さんは苦笑いしていた。
吸血鬼が軍を動かすという話はどこにいったのだろう。
「えっと・・・・・軍と戦うかもしれないのに大丈夫・・・なんですか?」
僕は静かに座って近くの華さんに聞いてみる。
華はそれを聞いてキョトンとしてから、笑いながら答えてくれた。
「セト。よく考えてもみろよ~。ここにいるのは守護神に自然の神。それに神霊に半人半神だぞ?全員神に属するやつしかいないんだ。それにこの森にいる魔物たちも協力してくれる。負ける要素があるか~?」
・・・・・今の一瞬でとんでもない量の情報が入っていた気がする。
「え?神霊?半人半神?あれ、今、すごい言葉が・・・・・」
「そういや言ってなかったな。俺が半人半神で、朱李が神霊だぞ!でもオレには敬語は使わんで欲しいな。」
「あ、うん。分かった。」
僕はもう常識を捨てた。
・・・・・といってもこの情報にはついていけないので思考も捨てた。
ただ敬語は僕も使い慣れてなかったから、それは助かったと思う。
「そうよ。私は最高位の神霊。敬いなさい。タメ口聞いたら殺すから。」
「え、僕は最上位の神だけど君まだ神霊なんだw」
「あんたこそ、神になってかなり経つのにまだ最高位になれていないの?ポンコツだからじゃない?」
「ん?」
「あ?」
「喧嘩するの早すぎ。犬猿の仲はまだ治らないんだね。」
アキが間に立って二人の喧嘩を止める。
樹枝さんと朱李、さんはそっぽを向いて紅茶をすすった。
・・・・・すするタイミングが同じなことに僕はツッコんでもいいだろうか。
「さて。吸血鬼が攻めてくるのは大丈夫そうだから放っておくとして。ほかに報告は?」
「う~ん・・・僕的には気になることは無かったよ。」
「アキの方はどうなんだ?六人とは仲良くやれてるのか?」
華がキラキラした目でそう聞いた。
僕も最高神、特に七芒星の様子を聞いてみたくてアキの方を見た。
「・・・・・・・黙秘権を行使」
「できないわよ。」
「・・・・・・・・・」
全力で明後日を見始めた。
その様子に三人はため息をつくが、僕にはよく分からなかった。
・・・すぐに理解できたけど。
「・・・・・六人とも、私を叱ることが趣味みたいでね。私のメンタルをボコボコにしてきます。どうしたらいいですか?」
「イタズラをするのをやめなさいよ。」
「え?私の生命力を取るの?」
「え、生命力なんか?」
「神の生命力だぞ☆」
「イタズラが生命力とか僕初耳なんだけど。」
「・・・・・・」
いきなりの情報に頭が追い付かない。
とりあえず思ったことを言うことにした。
「・・・アキはイタズラ好きなんだね。」(セト)
「んー・・・あれはイタズラではないよー?罠なんだよー?ただそれをあの六人に向けて使ってるだけなんだよー」
「理由は?」(樹枝)
「反応が面白い。」
「確信犯じゃない。」
「ちなみに最近のイタズラは何してるんだ?」(華)
「お茶に声が高くなる薬を混ぜたり~、廊下を歩いているやつに落とし穴をプレゼントしたり~、会議室にビックリ箱という名の、苦手なもののプレゼント?」
「割とエグかった。」(セト)
「そういえば、神としての仕事はしてるのか?よくサボって怒られてるだろ?」(華)
「チョットナニイッテルカワカンナイ(ちょっと何言ってるか分かんない)。」
「これもしかして、世界の様子を見るのはついでで、怒った人から逃げているんじゃないのか。」(樹枝)
「セト。気をつけなさい。こいつはこういう奴だから。」(朱李)
「あ、はい。そうします。」(セト)
僕はノリについていけず、思考をブン投げた。
みんなに散々言われたアキは、机をバンッと叩いて立ち上がる。
「とりあえず!吸血鬼が攻めてくるかもしれないから、私達もちょっと滞在するね。」
「ああ。好きにするといいよ。」
「・・・・・・え?」
流れるようにして僕たちはグモールの森で泊まることが決定した。
泊まるといっても、この森に宿があるわけではないので野宿と同じだ。
ちなみに三人は寝る必要がなく、仲良く寄り添って夜空を見て夜を過ごすらしい。
樹枝と朱李は仲が悪いが、華が間に入れば問題はないらしい。
だから僕とアキは、アキの魔法で(手作業が面倒だから byアキ)作ったツルのハンモックで寝ることになった。
その後、昼ごはんに持ってきたサンドイッチを二人で食べて、解散となった。
解散といっても、一人で森の中を歩くのは危険なので僕は華と森の観光をすることになった。
「あそこに滝があって下に大きな湖がある。お風呂代わりに使っていいぞ。あ、あっちには果物の木がたくさんあるぞ~。」
「へえ~!森の中ってこうなってるんだ!」
「楽しんでくれるとやっぱ嬉しいな!」
華はその姿相応の笑顔を見せる。
僕はその笑顔を見て、彼が半人半神だということを忘れてしまいそうだった。
(敬語じゃなくてもいいって言われても、なんだか緊張するな・・・・)
僕がぎこちない顔をしていても、華は気づかないフリをして説明を続けてくれた。
そんなとき、隣から声がした。
『華様。この方はお客様ですか?』
「・・・・・え?」
声がした方を見ると大きな熊が立っていた。
僕の三倍もありそうな大きさの熊が、隣に。
(全然気づかなかった・・・ていうか今しゃべった・・・?)
「罨か。おう。アキが連れてきたからオキャクサマだな。」
『なるほど。初めまして。私わたくしは罨。森の魔物の長をさせていただいております。』
熊もとい罨が礼儀正しくお辞儀をしながら自己紹介をした。
「え、あ、えと、初めまして。セトです。」
僕は少々面食らったが、すぐに自己紹介した。
『そんな怯えなくても大丈夫ですよ。敬語も大丈夫です。』
「驚いてるんだよ。悪いな。罨は元々動物だったんだが、俺たちの神気しんきを浴びて魔物になったんだ。そんな感じだから喋れるんだぞ。」
「・・・・・ごめん、神気って何?」
「アキから聞いてないのか?」
「・・・・・アキが七芒星の守護神ってことぐらいしか聞いてない。」
『相変わらずの説明不足ですね。』
僕は森の中を歩きながら二人の説明を聞くことにした。
「さてと、まずは神気の説明だな。」
『神気とは神から発する''気''のことです。また、気とは空気中にある見えないエネルギーのことです。・・・つまるところ、生物で言うところの魔力が空気にも干渉したものですかね。』
「あれだな。神のオーラってやつだ。」
「な、なるほど??」
『簡単に言えば、神の加護の弱い版です。で、その神気は生物に影響を与えます。動物を魔物に、霊を神霊に、龍を神龍に、といった感じですね。他にも種族の格を上げたりします。』
「なるほど!」
「むう。オレがちゃんと説明したかったぞ。」
『それは申し訳ありません。』
罨が軽く頭を下げる。
華は真面目だなあ、と言って苦笑いした。
「じゃあ、森の中の動物は全員魔物になっちゃったの?」
「いやいや、さすがにこの大きな森全部は無理だぞ。俺たちの周りにいる、もしくは関わりのある動物が順番に魔物になっちゃってるな。」
「へえ~!」
『そういえばセトさんは、どのような理由でアキ様と一緒におられるのですか?』
「えっと・・・・・」
僕たちはさっき華が言っていた湖まで来た。
湖が光を反射してキラキラ輝いている。
「・・・僕は、世界を見たいんだ。あの家だけの世界じゃなくて、この世界の隅々まで。それをアキに言ったら、私について来い、って言われて」
「で、流されたってことか。セト。目的があるのはいいことだが、アキに流されたら不味いぞ。」
「え、不味いの?」
『ええ。おそらく、本当に全部回るまで帰してくれませんよ。』
「・・・・・それなら上等だよ。僕も全部連れて行ってくれるまで放さないよ。」
((あ、似た者同士だ。))
僕は湖の景色に目を奪われていて、二人の表情は気づかなかった。
『セトさんの家族は反対しなかったのですか?』
「あ、罨。それは・・・」
「僕の両親はもういなくて・・・・・」
『それは・・・すいません。失礼なことを聞いてしまって。』
「いや、大丈夫。僕の中で整理はついてるから。」
僕は頭を深々と下げる罨の頭を上げさせた。
「そうか。じゃあセトは、なんで両親が亡くなっていることを何で知ってるんだ?」
整理できてると聞いた途端、華は切り込んだ。
僕は、なんとなくアキと似ていると思いながら答えた。
「華は容赦ないね・・・・・なんというか、僕には生まれたときからの記憶があるんだ。覚えてるのは、女性と男性が僕を守るように抱きかかえていて・・・黒ずくめの誰かがナイフを持ってて・・・赤い液体が飛び散って・・・そこまでは覚えてるんだ。」
「うわあ・・・初っ端そんな記憶だったら嫌だな。」
『・・・何と言ったらいいか・・・・・』
「華や罨はどうなの?やっぱりここにいるってことは、あんまり幸せじゃなかった?」
『いえ、私は家族とともに亡命して、家族は皆、寿命で亡くなったのでそこまででは。』
話の流れで華に視線が集まる。
華は苦笑いした。
「オレの話をするには、樹枝と朱李の話もしなきゃならん。無断で聞いてどうなるか分からんから、聞かないことをおすすめするぞ。」
「あ~・・・確かに。」
『それは怖いですね。』
「まあ、一つ言うならな・・・・・」
華は目を伏せながら言う。
「オレは・・・オレ達は''待ち人''なんだ。」




