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平凡はチートと出会う  作者: 花詠 眠
3/8

グモールの森②


僕たちは家を出てまっすぐ森に向かった。

グモールの森だと意識して見ると、少し背筋が寒くなった。

それを知ってか知らずか、アキは僕の背中をたたいて言った。


「何も心配しなくてもいいって!私を誰だと思ってんの!」


その声にハッとさせられた。


(そういえばアキは神だった・・・しかも七芒星の守護神・・・けど全然そう見えないんだよなあ・・・)


もう一度よくアキの姿を見てみる。

目立つ色は基本的に水色で、どちらかといえば氷や水のイメージだ。

それに僕より身長が高いとはいえ子供の容姿。

しかも性格は、明るく活発でノリを大切にする神らしくないもの。

こんな人が世界を創った神の一柱だなんて、一体誰が想像できるだろうか。


「今、とんでもなく失礼なことを考えたと思うから言っとくけど、七芒星の中では私はまだまともだからね?」

「え?」


アキの爆弾発言で僕は、自分の神の想像を壊された気がした。

そんな感じに軽く会話をしながら森の中を進んでいた。

狩りでよく中に入るとは言ったが、そこまで奥には入らないようにしていたので奥に進むにつれ自分の知らない景色が広がりワクワクした。


「セト~ワクワクするのはいいけど警戒はしてよ?一応危険な魔物だっているんだから。」

「あっ、そうだったね・・・ってアキ!前!」


アキが僕の言葉で前を向いた。

アキの前にいたのは巨大な豚だった。

ただ、普通の豚と違って全身がキラキラした石で覆われている。

しかも口から大きな牙が見えているので、豚よりも猪に見える。

豚が右足でアキを踏みつぶそうとしたが、アキはすぐに地面を蹴ってその場を離れた。

僕は小さな魔物を見たことがあっても、ここまでの大きさは見たことがなかったので足がすくんでしまった。

しかし、


「セト~あの魔物の名前って知ってる~?」

「今言うこと!?」


アキの場違いな発言で少し緊張がほぐれた。


「いや~生物はクロウの担当だからね。名前何だっけ~ってなったの!教えてくれるまで戦いませーん!」

「ちょっと!?」


豚が体を振るって石のつぶてを飛ばす。

アキは器用に跳んだり、空中で体をひねって避けた。

僕は呆れながら叫んだ。


「そいつは金剛豚ダイアモンドポーク!!体にダイアモンドがあるから貴重とされてる魔物だよ!!」

「さっすがセト!物知りだねぇ!」


アキはそう言うと高く飛び上がる。

アキの落下地点は一番固いと思われる金剛豚の頭の宝石の上だった。


(あの勢いで着地したら体がもたないんじゃ・・・!!)


僕の額に冷や汗が流れる。

しかし、頭上からは笑い声が聞こえる。


「心配しなくたって大丈夫だよ!!私は!!」


アキが勢いよく回転して足を前に出す。


「守護神なんだから!!」


かかと落としが綺麗にきまる。

当たった部分から、世界で一番固い鉱石が割れていく。

キラキラとダイアモンドの破片が雨のように降っていく。

金剛豚も気絶したようで、倒れていく。

僕にはそれが、ひどくゆっくりに見えた。

キラキラと光る雨の中、彼女はゆっくりと地面に降り立つ。


「ほら。大丈夫だったでしょ?」


振り返った彼女の瞳がダイアモンドにそっくりで。

景色とも同化して。

とても幻想的だった。





「殺さないの?」


何とか幻想的な光景から意識を戻して僕は言った。

金剛豚は気絶しているだけで死んではいない。

もし頭にダイアモンドがなかったら即死だったろう。

魔物は基本的に人間の脅威になる。

そのため相対したら殺すのが普通である。

・・・・・この神に普通が通用するのか疑問だが。


「うん。魔物だって生物だ。私たちは別に、今食料に困っているわけではないし、誰かが殺されたわけではない。この子を殺す理由にはならない。この子にも生活がある。森いえに入ってきた人を警戒して襲い掛かってきただけだろうしね。」


確かに、と僕は素直に思った。

僕は今まで生きるために肉がいるから動物を狩ってきた。

理由もないのに殺すのは、彼らの命をないがしろにしている気がする。


「あと、意味なく殺したらこの森の自称支配者が怒るからね。」

「支配者・・・・・」

「自称だよ、自称。でもちゃんと森の中のことは全部把握できてるんだよね・・・・・そのことでドヤられるからイラつくんだよね。」


アキは顔に青筋を立てながら言った。

僕は七芒星の一柱をイラつかせることができるその支配者をすごいと思った。


(言ったら悪いけどアキもイラついたら首を飛ばしそうなんだよね・・・)


ちょっと心配になりながら僕たちは足を進めた。


それから数十分。

魔物が出てきてはアキがぶん殴り、珍しい植物があれば観察したりと森の中を満喫しながら歩いていた。


「ねえアキ。その支配者って人はどこにいるの?」

「森の最奥・・・・・って言いたいんだけど。実はそうでもない。」

「どういうこと?」

「いや~グモールの森って広いじゃん?大陸の三分の一て。自分でも笑っちゃうわ。」

「作ったのはそっちじゃん・・・」

「そうだけど、そうじゃないんだよなあ・・・・・・まあ、置いといて。そのせいで自称支配者が目視で森の様子を確認できる範囲は狭い。だから常日頃に移動してるんだよね。」

「え、じゃあアキでもその人の場所は知らないの?」

「いや、今回は集まろうって連絡をしたから集合場所にいるはず。」

「なるほど・・・・・」


僕たちは雑談をしながら森の中を進んでいた。

アキから聞く話は、本に書かれていなかったことも多く新鮮で面白かった。

図鑑にも載っていない、魔物の習性の話をされることもあって楽しかったが、魔物のことに詳しいじゃん、と呆れてもいた。


「守護神ってどんなことするの?」

「どんなことをする・・・ふっ。セト。神の仕事は鬼畜さ。」

「そうなの?」

「そうだよ~。分厚い本に世界の様子を記すんだけど、他の神から依頼が来ることもある。それらを捌く感じなんだけど・・・・・・その量がえげつないのさ。」


その量を思い出したからだろうか。アキは顔を青ざめて言う。


「・・・・・えっと、お疲れ様。」

「うん。ありがと。」


アキを労うと嬉しそうな顔をした。

僕は神でも働かないといけないのかと、世界の世知辛さを痛感した。


「さてそろそろじゃないかな?」

「え?」


アキは僕の背中をトンっと押す。

その力に流されて前に出た僕は、目の前の光景に声を失った。




「・・・・・」


その部分だけ木が生えておらず、広場のようになっていた。

太陽の光がよく入り、さまざまな種類の花がそれぞれ存在を主張している。

その中心と思われるところに、石でできたテーブルと五つの椅子がある。

そこには三人の男女が座っていた。


「遅刻なんて、いい度胸ねアキ。」


声のした右を僕は見る。

厳しい口調で言うのは、亜麻色の髪と目をした少女。髪は腰あたりで結ばれている。何故か巫女服。


「まあまあ。たった五分くらいいいだろ?アキだってわざと遅れたわけじゃないんだしな。」


と、少女をなだめるのは左側の少年。

オレンジがかった茶色の髪と目。ふんわりとした髪は首まである。よく見れば小さなピアスを左耳にしている。若草色の浴衣を着こなしている。


「今日は世界の様子を見に来たんじゃないのかい?人間の子供を連れて。何をしているんだ?」


組んだ手の上に顎を乗せてこちらをじっと見るのは真ん中の少年。

左側の少年と似た顔立ちだ。茶色のロングヘアーに赤みを帯びた茶色の目。こちらは右耳に小さなピアスをしている。赤色の浴衣を着ている。


三人とも十代に見えるが、雰囲気が違う。

大人のそれだ。

僕はこの空気に怖気づいた。

しかし、アキはいつもの口調で話しかける。


「そ~んな固いこと言わないでよ~。世話をしてた人に辛辣じゃないかな~?それに何故この子を連れてきたのかなんて、森のことなら何でもわかる支配者にはわかってるんじゃないの?ん?」

「・・・・・はあ。アキはいつもこうだから、圧をかけても面白くないね。」


真ん中の少年が下を向く。

とても残念がっているようで、テーブルにおでこをぶつけていた。

しかし、アキのおかげで空気が和らいだ。

僕はほっと一息つく。


「はは。こいつが悪かったな。ささ。座ってくれ。」


左側の少年が手招きする。

アキがすぐに座ったので僕も座ることにした。


「じゃ、ちゃちゃっと自己紹介しちゃって。話が進まないから。」

「一番の原因はあんたでしょ。」


少女がキッと睨むが、アキは目をそらした。

少女はそのままの目つきで僕を向く。


「私は朱李しゅり。あんまり近寄らないで。殺すわよ。」

(その目で見られたら嫌でもわかるよ・・・)


僕は殺意を隠そうともしない朱李のことは、苦手な人物のリストの筆頭に載った。


「やあ。初めまして。僕は樹枝じゅえ。このグモールの森の支配者であり、自然の神だよ。」

「で、オレがはな。樹枝の弟なんよ。よろしくな。」


樹枝は右耳にピアスをしている方で、華は左耳にピアスをしている方だ。


(なるほど。兄弟だからピアスがお揃いなのか。確かに顔だちも似てる気がする。今スルーしたけど自然の神ってことは・・・・あっ。)

「僕はセトです。えっと、昨日まで森の近くで暮らしていた者です。」

「うん。君のことは把握しているよ。セト。」(樹枝)

「えっ?」


樹枝さんからの一言で僕の動きは止まる。

樹枝さんが手を叩くと、地面から木の根が出てきて液体の入ったカップを五人分置く。

樹枝さんはそれを飲みながら話した。


「僕はこの森の支配者だ。森の範囲内ならどんなことでも把握できる。だから君が森の中に入って狩りをしていることは知っていた。」(樹枝)

「えっと・・・・・」(セト)

「この森の中にいる生物、植物は全て僕の管理下にある。勝手に取られたり殺されたりするのは、あまり嬉しくないんだ。」(樹枝)

「あっ・・・・・」(セト)


アキが魔物を殺さなかったのは、こういう意味だと僕は気づいた。

圧をかけてくる樹枝さんに見据えられ、僕は背筋が冷たくなった。


「えっと・・・・・す、すいませ」

「ちょっと樹枝いじめすぎ!」


アキが思いっきり樹枝さんに拳骨を振り落とした。

そのままの勢いで、樹枝さんはテーブルに頭をぶつける。

幸い、カップは華さんがさっと避けていたので、濡れることはなかった。


「アキ。あんたは手加減なさすぎ。華が作ったテーブルじゃなきゃ壊れてるわよ。」(朱李)

「ええ!それはごめん!」(アキ)

「オレのでも壊れそうだけどな。」(華)

「ふふ・・・さすが僕の弟華・・・・・おかげで僕の頭の方が重傷だ。」


頭をあげた樹枝さんのおでこからは血が流れていた。


「おお。悪いな兄ちゃん。」(華)

「華は謝らなくていいよ~。樹枝の自業自得。セトを追い詰めるような言い方して。本当に怒ってるならもう首をヒュンってしてるでしょ。」(アキ)

「え・・・ああ、そういえばそんな事言ってたね。」(セト)


じっと四人が樹枝さんを見る。

樹枝さんはおでこの血を拭きながら、バツが悪そうに目をそらした。


「・・・僕は無意味な殺生が嫌いなだけで、生きるために殺すのは別にいいのさ。この世は弱肉強食。殺した相手に感謝しながらその血肉を頂くのは、生きることに必要だからね。」(樹枝)

「逆に言えば、森の生物を無意味に殺すやつが多くて、セトみたいな人間がもう天然記念物レベルなんだよ。よかったね!」(アキ)

「い、いい事なのかな?」(セト)

「いい事じゃないわよ。ほとんどの人間が勝手に森に入って森を荒らすのよ?大問題よ!これ以上森を赤くしないでほしいわ!」(朱李)

「はは。ここすごい物騒な話しかしねえな。」(華)


一旦、全員落ち着いて紅茶(と樹枝さんが言っていた)を飲む。

紅茶・・・というより緑茶の味だった。


「で、本題に入るけど。最近の森の様子は?」(アキ)

「アキ。セトに聞かせてもいいのか?結構ごくひ?じゅーよーきみつ?なんじゃないのか?」(華)

「あ、聞いちゃいけない話なら僕、離れるけど?」(セト)

「大丈夫大丈夫。そーんなに気になさんな!重要機密とかチョットナニイッテルカワカンナイシ(ちょっと何言ってるか分かんないし)。」(アキ)


思いっきり棒読みだ。


「そんなんだからいつも説教されてるんじゃないの?」(朱李)

「はは。耳が痛いや。」(アキ)

「アキはいつも説教されてるんだ。」(セト)

「ま、本当に大事な話になったら席を外してもらえばいいだろう。今の森の様子だね?」(樹枝)


樹枝さんが真剣な表情でアキを見る。

空気が重くなったのを感じた。

少し緊張して背筋が伸びる。


「相変わらず人間が宝に釣られてホイホイ入ってくるよ。まるで蜜に群がる蜂だ。昨日も十一人くらい入ってきたよ。森を荒らしたと判断したらすぐに処理したけど。」(樹枝)


処理。

僕は特に何も感じる事無く、その言葉を聞けた。

本来ならもっと取り乱したり、人殺しだと騒いだりするのが普通なのだろうが、僕は生憎''普通''の暮らしをしたことがない。

感性が他の人と違うのは何となくわかる。


(でも、人から命を狙われ続けたら性格もひねくれるよ。だから仕方ないね。)


「宝、ねえ・・・前に国を巡ったときには、もう全部の国にその噂が広がってたから手遅れなんだよなあ・・・・・誰が流したんだろ。」(アキ)

「どうせ、それも人間でしょ。こんなに広い森に何かあるとか考えたんじゃない?忌々しい・・・」(朱李)

「この話は前にもしただろ?それは考えたって無駄だ。」(樹枝)

「人間もそうだけど、動物も増えてきてるな。」(華)

「動物も?」(セト)

「うん。生態系ピラミッドで一番下にいるのは動物なのは分かるよね?一番狩りやすいからどんどん数が減っていってるの。そんな動物の群れがよく住みに来るのよ。」(アキ)


アキが噛み砕いて説明してくれるのでよくわかる。

この世界には種族がたくさんいる。

遠い昔に一番強いものが道具無し、魔法ありの試合で上下をはっきりさせたおかげで、生態系ピラミッドがはっきりしている。


上から


神龍

神霊

半〇半〇(半妖半人などのハーフ)・魔族・鬼

天使・精霊・悪魔

魔物・吸血鬼・エルフ・獣人・ドワーフ・魚人・竜

人間

動物


となっている。

しかも、それに格の位がある。

上から最高位、最上位、上位、中位、下位、である。

ちなみに何故か、人間と動物には格がない。

格がないことで平等を指しているのか、他の種族が格をつけるまでもないと考えたのかは未だ不明のままだ。

また、最上位だから最高位には勝てないという確実なことは無い。

戦場では何が味方するか分からないし、魔力量などの個体差もある。


「そーいえば昨日来たのは人間だけ?」(アキ)

「・・・そのことなんだけど、最近はおかしいくらい吸血鬼だけが来ていないんだ。」(樹枝)

「ほー・・・他の種族は来ていることを考えると、ちょっと怪しいね~」(アキ)

「大方予想はついてるけどな。」(華)

「吸血鬼が何か企んでるのか・・・?」(セト)

「あいつらの考えることは単純よ。人数にものを言わせて来るだけよ。」(朱李)

「人数にものを言わせてって・・・ことは!」(セト)


僕はがたっと立ち上がった。

テーブルの上の紅茶が揺れる。


「ほへー。あるかも分からん宝に・・・・・」


アキがニヤッと笑う。


「軍まで動かす気か。吸血鬼は。」




僕はなぜ、旅に出た初日に神と吸血鬼の戦争に巻き込まれようとしているのだろうか。



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