第八話
「ひゃん!」
「・・・・・・・・」
「ひゃん! ひゃん!」
「めんこい」
*めんこいとは北海道弁で、可愛いという意味です。
後、主人公は北海道出身ではありません。
めんこい! めんこいめんこい!
兎に角、めんこい物体が。道の真ん中で吠えている。
超可愛らしく。
「ひゃんひゃんひゃん!」
「子犬・・・・だよな?」
垂れ耳で、ビーグルに似た姿。そして、黒っぽい毛色の子犬。
それが一生懸命に、馬や俺に向かって吠えていた。
「孤児院の帰りに、こんな出会いがあるとは」
どうしよう。助けるべきか? でも、魔物の住む森の中の路上にいる子犬が。ただの犬な訳ない。もしかして。魔犬の類いとかじゃないよな。
「ひゃわん! ひゅん・・・・」
疲れたのか、鳴き声に力がない。もしかして弱ってる?
馬車から降りて、子犬に近づく。子犬は、近づく俺を警戒して唸り始める。ただ・・・・子犬なので全然怖くない。
「んー、可愛いな。取り敢えず、鑑定魔法で調べてみるか。
鑑定!」
両手の指で三角を作り、三角形の中央に子犬を持ってきて、子犬にかざす。すると、子犬の鑑定結果が、表示される。
「んーと? ブラックドック? あぁ、やっぱり魔犬の類いか。
うんーー。どうする? 連れて帰るか? でもなぁー。
一応、魔獣だしなぁー。でも、ここに一匹で放っておくのも気が引けるんだよなぁーー」
「ひゃんひゃん! ひゃわん!」
「・・・・・・・・」
可愛い・・・・何てめんこい奴だ。
そもそも、こいつの親は何処に行ったんだ?
この子が迷子なのか。それとも・・・・?
親が近くにいそうにないよな?
辺りを見廻すが、これといって気配は感じない。
俺が近くに居るから出てこない? いや、母犬なら助けに出て来る筈。近くに居るならだけど。
いくら待っても、その様子は無い。
「・・・・仕方ない。連れ帰ろう」
「ひゃんわん」と鳴く子犬を、サッと抱き抱える。最初は暴れて抵抗したが、直ぐに諦めたかの様に静かになった。
「ん? あっ、怪我してる! なら、やっぱり・・・・母犬と一緒にいた所を、別の何かに襲われてはぐれたとか。そんな理由かもしれないな。兎に角、怪我を治療しとこう」
下級回復治療魔法・・・・「ライトヒール」
子犬に手の平をかざし、魔法を唱える。手から、暖かな光が降り注ぎ、子犬の傷を癒した。
回復したのか子犬は「ひゃん!」と元気よく鳴いた。
そして、助けてくれた事を理解したのか。俺の手をぺろぺろと舐めた。
「くすぐったいよ。ははは。元気になったみたいだな。
良かった良かった。お前、うちの子になるか?」
そう子犬に尋ねる。まあ、理解するとは思っていないが。
何となく聞いて見た。すると子犬は「ひゃん」と返事をした。
返事と捉えていいのかは、正直分からない。
けど、一応。これでもかと撫でてやった。
「あっ、名前をどうするか。・・・・ポチ?」
「がふっ!」
どうやら気にいらなかったらしい。思いきり噛まれた。
「嫌って事か?」「ひゃん!」
「そうか・・・えーと、だったら・・・・ジョン?」
「がふっ!」
「・・・・またか。ジョンもダメか?」
「ひゃわん!」
「名づけに口出すとか、贅沢な奴だな。名前をつけてもらうだけ、ありがたいと思えよ」
「ひゃうん」とそっぽを向く。こだわりでもあるのか?
「うーーん。黒いからクロってのはちょっとなぁー。安直だよな。
いっその事、そのまま犬に・・。
冗談! 冗談だから暴れるな!」
「うーー」
抱っこする腕の中で、唸りながら暴れて抗議する子犬。
何か、何かないか? コイツにピッタリな名前は・・・・。
「よし! ちょっと和風テイストで、黒丸は?」
「わふーん!」
「えっ? これでいいの?」
子犬は、腕の中でスリスリと甘えて来た。どうやら、オッケーという事らしい。いいのか? 本当に・・・・。
「冗談のつもりだったんだが。まあ、本人が気に入ってるし、いいか。今日からお前は、黒丸だ!」
「ひゃうーーん!」
我が家に新しい家族が増えた。