第三話
「何だ。誰が来たかと思えば、ベルさんか」
「何だとは何です。何だとは・・・・それより早く入れてくれませんか、リアン君」
やって来たのは、商人のベルさん。因みに小人族のため、見た目は可愛らしい男の子だ。ただし、年は俺の軽く十倍は生きてるらしい。
「直ぐに開けますよ」
頑丈に作ってある扉を開ける。馬車に乗ったベルさんが、手綱を操り、荷馬車を敷地内へと入れる。それと、脇を固めていた二人の馬に乗った護衛も一緒にだ。
「ふう。リアン君が道を整備してくれたから、ここまで馬車で入れるようになって助かりましたよ」
「結構大変でしたけどね」
「魔法であれだけ出来るなら、魔法士でも目指せばよいのでは?」
「うーーん。遠慮します」
「リアン君は変わってますね」
「そうかな? それで、今日はなんの取り引きに? 確か、来るのは再来週の筈でしたよね?」
「いやー、リアン君の所の作物が大人気でね。それと、あれの注文が入ってね」
「あぁー、アレですね」
「そう、アレ」
「兎に角、家の方に」
「はい、分かりました」
アレとは何か。それは・・・・。
「ベルさんもついてますね。三日前に取れたばかりなんですよ」
そう言って俺は、家から茄子くらいの大きさの赤黒い物体を持ってくる。それを見てベルさんが「おお、今回のは中々大きいですね」と大喜びした。
俺が持って来た物、それは・・・・。
「そいつは・・・・熊の胆か?」
「えっ、あっ、はい」
無口で無愛想な護衛に話しかけられて、思わず驚いた。
この人・・・・喋れたんだ。ベルさんが話しかけて、頷く所しか見てなかったので、ちょっとビックリ。
そう、俺の持って来たなのは熊の胆。つまり熊の胆嚢だ。
地球でも、漢方として珍重されている。確か、熊の胆一個が一万円ぐらいするとかしないとか。
因みにこの熊の胆。異世界ではそこまで価値は無かった。
と言うか、薬として見られていなかったと言うべきだろう。
基本、捨てられていたみたいだ。
俺が獲った熊から、胆嚢を取り出して乾燥させ、ベルさんに初めて見せた時。「何ですかこのゴミは?」なんて言われた。
「薬になるらしい」と教えたら、凄いビックリしていた。
取り敢えず、その時は安い値で買い取られたが。今は、中々良い値段で買い取ってもらっている。
「まさか、熊の胆が金になるとはな」と、無愛想な護衛さんが不思議そうに熊の胆を見つめる。
「アローンさんも、やっぱり疑いますよね」と、ベルは苦笑いしながら言った。続けてベルさんが「でも、コレが薬として高い効能がある事が分かりましたから」と、無愛想護衛こと、アローンさんに説明した。何でも、知り合いの錬金術師に薬の材料、或いは調合に使えるのか確かめたらしく。
高く買い取ってくれる事から。その結果は、言うまでもないだろう。
「あっ、リアン君」
「ん? 何ですかベルさん」
「いや、熊の胆があるなら・・・・毛皮もあるよね? 買い取ろうか?一緒に」
「そうですね。じゃあ、お願いします。あっ、他にも色々ありますけど、それもお願いしても?」
「勿論! 是非に!」
俺はもう一度家に戻り。綺麗に折り畳まれた毛皮を、何枚も重ねて持ってくる。すると「おぉ、コレはまた大量・・・・って! その赤茶の毛皮って!」
「あっ、はい」
「レッドデビルベアー・・・・」とアローンさんが呟いた。
「この間、襲われたんです。柵を壊されて、修理が大変でした・・・」
「いやいやいや! 柵がどうとかの問題じゃないでしょ!
はっ! まさかこの熊の胆は・・・・」
「はい。レッドデビルベアーの物です」
「最高級品じゃないですか・・・・。高値で買取ります! 後、毛皮も買います。全部!」
「ありがとうございます。ベルさん」
こいつは・・・・中々の値で売れそうだな。老後の資金は多いほどいい。異世界こそ、しっかりとした老後の計画を、だ!
「これは・・・・一角兎、ホーンラビットの毛皮ですね。あの、角はないのですか?」
「勿論ありますよ。よいしょ」
ベルさんにホーンラビットの角を見せる。
「うむ。色、ツヤ問題ないですね。勿論、全部買います!」
倒した魔物の素材を、ベルさんは全て吟味し。それなりの値段をつけてくれた。毛皮と角、熊の胆に、その他素材。
合計で・・・・「金貨150枚でどうです?」
「それで構いません」
「なら、ここにサインを・・・・」
「リ・ア・ンと。後は・・・・何かいります?」
「はい。では、果物や野菜など、その他諸々をお願いします」
「分かりました」
その後ベルさんは、荷馬車一杯に買い取り品を積んで、ホクホク顔で帰っていった。
「うん、いい売り上げだった。おっ、もう昼か。何食べようかな」