第十七話
ベルさんに、気をつけてと言われた、三日後の夜の事だった。
「ひゃわんわん! ひゃわんわん!」
「どうしたものか・・・・」
「食い物寄越せーー!」
「「「「「「食い物寄越せーー!!!!」」」」」」
近隣の村人だろうか。数はざっとだが、百人はいるだろうか。
その村人達が、武器になりそう物を各々持って、俺の家に押し寄せている。鍬に斧、鎌、鋤と色々だ。
現状はまさに、農家による一揆集会。いや、俺に一揆を起こしても・・・・抑圧する体制に挑めよ。まあ、一揆じゃなくて、ただの村人による略奪か。
うちの周りは、頑丈な柵によって守られているが。さすがにちょっと怖い。柵はよじ登れないように、忍び返しのような物を施してある。主に、ゴブリン対策だ。時たま、よじ登って来たゴブリンに、畑を荒らされたので付けた。
それにしても・・・・まさか本当に襲撃があるとは。
燃える松明が、村人の顔を照らす。
ん? あれ? あのおじさん。前に話た事あった人じゃん。
えっ? あのおばさんも! ・・・・・・・・。
まさか、顔見知りまで来るとは・・・・精神的ダメージが計り知れない。
「おぉぉぉ!! 開けろぉーー!!」
「いや、開けろ言われて開けないでしょ」
「ふざけやがって! 食い物寄越せー!」
「・・・・あのさ、あんたら恥ずかしくないの? 最近、不作が続いてるからって、人の物を奪いに来るとか」
「うるせぇー!! 仕方ねぇんだ!!」
「そうだ!! 生きるためには仕方ねぇ!!」
「「「「「「そうだ!! そうだ!!」」」」」」
普通に「食料を分けてほしい」と言えばいいのに。生きるためなんてのは結局、略奪を正当化させるためなのにしか聞こえない。
それに、この人達どう見ても元気だし。
身なりは悪いが、痩せ細って今にも、と言う人はいない。
正直、そんな人達ならまだ分かる。ここに居る人達は、ただ鬱憤を晴らすために来たとしか思えない。
「仕方ねぇって・・・・あんたら、普通に元気じゃんか」
「オメェに何が分かる!」「そうだ! 食うにも困ってんだ!」
「お前みたいな孤児が! こんな畑は勿体ねぇ!」
「そうだ! ここの畑は、俺達にこそ必要だ!
みんなもそう思うだろう? なぁ!!」
「「「「「「「そうだ!! そうだ!!」」」」」」」
どう言う理屈だよ、それ。と言うか・・・・なんかおかしいな?
なんだろ・・・・妙な理屈で畑を奪う方向になって・・・・。
あーー、そう言う事か。恐らく、誰かに先導されてるな。
畑を、と言うより。ここの土地そのものを狙ってる奴ねぇ。
・・・・ハァー。そんな奴、一人しか思いつかない。
正確には、他にも思いつくが。こんな事を仕出かす奴は一人だけだ。
「おい! どっかに隠れて見てんだろ! リドリーのおっさん!」
「何だ、もう気づいたのか」
村人の後ろから声が。そして、その声の主が、村人をかき分け前に出て来た。
「よう、ガキンチョ」
ハゲヅラ、小太りのおっさんが前に出てきた。その後ろに二人の腰巾着を連れて。
「やっぱり、あんたか。懲りないねぇ、あんたも」
「ふん。なんとでも言え! さあー、ここを開けろ!
これからは、俺達がここを使ってやる!」
この男は、二年前からここを狙っている。
面倒な事に、コイツ・・・・俺を引き取ってくれた爺さんの親戚なのだ。俺がこの土地を相続した際も、自分にも権利うんちゃらを言ってきた奴だ。まあ、正式な遺言書があったので、リドリーの奴はどうしようも無かったが。
「開けろ言われて開ける馬鹿がいるか、バカ」
「ぬんんん! 貴様ーー! そう言う態度をとるなら、俺にも考えがある。みんな聞けーー! コイツは引き取ってもらった恩を忘れ! ヨム爺さんとネア婆さんを騙して、この土地を我が者にしたんだ!」
「なんだって!」「そんな事が!」「なんて事を!」
「悪魔だ! こいつは悪魔だ!」
「「「「「「悪魔を捕まえろー!!」」」」」」
一揆じゃなくて、魔女狩りだな。これ。
「みんなぁー! コイツを引きずり出せぇーー!!!」
「「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」」」
「まあ、待ってくれみんな!」
焚きつけたリドリーが、何故か村人達を止めに入った。
「確かにコイツは恩を仇で返す悪魔だ! しかし、反省し我々にここをあけ渡すと言うなら。許してやろうではないか! コイツはまだ若い。過ちを許してやろう」
「そ、そうだな」「うん。反省すると言うなら」
「あぁ。そうだ。許してやらん事も」「あぁ。許してやろう」
何だコイツ等。ひとんちの土地を奪いに来といて、今度は許してやる? アホなのか? 許すかどうかは俺の方だろ?
「おい! どうだ? 今なら許しやらんでもないぞ?」
「ひゃんひゃんひゃん!」
「・・・・おい! そのうるさい犬を黙らせろ! そして、さっさと返事をせんか!」
「あーよしよし。黒丸、そんな奴に近づくな。バカとアホがうつるぞ」
「ひゃうん?」
リドリーに吠える黒丸を抱っこして、頭をナデナデしてやる。
まったく、うるさいれんちゅうでちゅねぇー。
「おい! 無視するな! 貴様、状況を分かっているのか!!」
「ん? 状況? あー、分かってる分かってる。あんた等こそ、状況分かってる?」
「あぁ? 何を言ってる。頭でもおかしくなったのか?」
「いや、頭がおかしいのはあんた等だから。さっきから、アホみたいに騒いでさ。いきなりやって来て、食い物寄越せ? 今度は土地? 更には、爺さん婆さんを騙した? バカなの? アホなの?」
「ぐぬぬぬぬっ!! 貴様!! 優しくしてやれば図に乗りやがって!! みんな!! 構う事無い!! やってしまぇーー!!」」
「「「「「「「おぉーー!!!」」」」」」
リドリーは、茹でた蛸の様に真っ赤になって怒った。そして、村人達に号令をかけた。しかし、俺は特に何かするつもりもない。
何故かと言うと。そろそろなのだ。
「えーと、うん。そろそろだな」
「ん? 何がそろそろ・・・・「グゴォォォォォーーー!!!」
リドリーが、俺の呟きを聞いて。それがなんなのかを、問いただそうと口にした瞬間。辺り一体に、恐ろしい咆哮が轟いた。
それは、間違いなく魔獣の咆哮だった。
それも、かなり巨大な。




