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08 器


 突然エルサニア王都に戻ってきた僕、


 アポ無しにもほどがあるアレな振る舞いなんだけど、


 ツァイシャ女王様は、すぐに謁見してくれました。


 いつもの謁見の間ではなく、


 私室で、ふたりきりで。




 最初に、深々と、頭を下げてくれた、ツァイシャ女王様。


 今回の件は、アルゼハルト王からの御提案だったそうです。


 始めは反対していたツァイシャ女王様を動かしたのは、王様の、心からの言葉による説得。


 幼い頃から成長を見守ってきたシェルカさんの幸せのために最良の伴侶をと願ってきたのに、


 クルゼス国内ではどうしてもお眼鏡に叶う者は現れなかったそうです。


 結婚の申し込みは殺到するけど、皆の目はシェルカさん本人を見てはいない。


 実はその中には、今回の騒動の原因となった連中も大勢いたとか。


 なにより問題だったのは、クルゼスでのシェルカさんの立場と人気。


 なにせ『白翼』にして王の懐刀。


 シェルカさんが纏うものがあまりにも凄すぎるため、誰もシェルカさん自身に寄り添ってくれない。


 ならばいっそと国外に目を向けると、


 エルサニアに逸材あり。


 和平が叶った今こそが好機、


 この機会、逃すまじ。


 もちろん、シェルカさん自身が僕を拒絶したら、その時は全て無かった事に、と。



 って、逸材って誰ですかっ。



「カミスさんのクリスへのあの言葉と、その後の振る舞いが、決定打となったようですよ」


 どの言葉でしょう。



「『お互いが相手のことを深く知るための準備期間』として、共に暮らす相手に優しく寄り添う真摯にして紳士な姿勢、です」



 自分のへたれが恨めしい。


 いっそ、ケダモノムーブで大暴れしたほうが良かったのかな。


 って、そんなの僕なんかにできるわけないでしょっ。



「アルゼハルト王の、国よりもまずシェルカさんを想う心からの願い」

「無碍には出来ませんでした」



 それなら納得、


 って、本当にこれでいいのか、僕、


 今、流されるのは僕ひとりじゃない、


 家族みんなもいっしょにってことだよっ。


 もっとちゃんと、将来を見据えて……



「無事にシェルカさんの御心も射止めたことですし、しばらくはジオーネにて、領主としての学びを」


 待った!


 なにやらさらなる陰謀が進行中のようですけど、それならそうと、ちゃんと説明してくれないと。



「人には、それぞれが生まれ持って備わった、"器"が、あるのです」

「カミスさんの"器"は、あれほどの才媛乙女たちを包み込んで未だ余りある程」

「民を導くに足る、大きさなのですよ」


 勘弁してくださいよぅ。


 僕なんて、そんなにでっかい男じゃないですよぅ。



「共に同じ道を歩む友として手を取り合える日が来る事を、心待ちにしております」


 このやせっぽっちな身体に、どんだけ重たいものを乗せちゃうんですかっ。



 ふたりきりだからというわけじゃないんだろうな。


 ツァイシャ女王様の、いつも以上に優しくて柔らかな物腰。


 言葉遣いも、なんだかいつもと違って、くだけた感じ。



 お城に乗り込んで来た時の怒りとか、


 そんなのとっくにあさっての方向にふっ飛んじゃいました。



 そもそも、あれなのです。


 人がそれぞれ"器"を持っているなら、


 ツァイシャ女王様たちが持っている大きな"器"に、


 僕なんかのちっちゃな"器"が、抗えるわけ無いのです。



 つまりは、いつもの、流され人生。


 問題は、流されるたびに、"器"っていう僕の船に乗る乙女たちが増えちゃうってこと。




「早く戻って、奥さまたちを安心させてあげてくださいね」


 ツァイシャ女王様が、イタズラっぽく、ウィンク。


 なるほどそれが、あのライクァさんを陥落させたロイヤルスマイルなのですね。



 この期に及んで、結局、なすがままの、僕。


 すごすごと、お城を出て、


 なんだかにこにこしているクロ先生に導かれるままに『転送』



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