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05 真剣


 シェルカさんと、執務室で、ふたりきり。


 スゴい美人さんとふたりきり、なんですけど、


 部屋の空気は、真剣組み手稽古、みたいな感じなので、


 甘くはないのです。



「カミスさんは、今のジオーネについて、どう思われますか」


 シェルカさんの、すごく真剣な、まっすぐなまなざし。


 今のジオーネをどう思っているか、僕なりの考えを、ちゃんと真剣に、伝えなきゃ。



「ジオーネの人たちのスローガンは『自由と平和と独立』ですよね」

「今のこの街では、それがいい感じにできていると思います」

「もし空気が読めない統治者が来ちゃったらお払い箱にしても良いくらいに、なんて言ったら、ツァイシャ女王様に叱られちゃうかもですけど」



「つまり、カミスさんはジオーネ独立派、ということでしょうか」


 シェルカさんのお顔が、ほんの少しだけ、曇った。



「独立は、無理だと思います」

「エルサニア王都城下町よりも安心して歩けるくらいに安全な街、それが維持できていられるのは、大国二国の庇護の元だから、ですよね」

「立地として、第三国からの武力による侵略の心配はいらないと思いますけど、今回の戦争屋みたいな悪党が、悪意を持って支配するためにこっそり侵略してきたら、この街の住人だけじゃなにもできずに支配されちゃうと思います」

「もっとも、ジオーネの外から来た連中が悪意を持って支配しちゃったら、今のこの街の良さなんてあっという間に無くなっちゃうと思いますけど」

「今回あんなことがあったのにジオーネの人たちがジオーネらしさを失わずに済んだのは、あの戦争屋たちがここを支配しようとせず自分たちの隠れ蓑とするために街との関係をできるだけ断っていたからですよね」



「それでは、ジオーネの今の繁栄は今の制度ありき、という認識なのですね」


 シェルカさん、少し微笑んだ、かも。


 なんだかだんだん、シェルカさんのこと、分かってきたような……



「もしジオーネの住人の総意として完全な独立の話しが持ち上がって、それが実現したとしても、その時この街はジオーネじゃなくなってると思います」

「ここの住人たちが変化を望んだのならそれでも構わないけど、今のジオーネの平和と繁栄をそのまま維持できるなんて思っていたら甘いんじゃないかな、と」



「つまり、現状維持が一番、と」



「今とは違うやり方でもっと良くなる方法もあるかもしれないけど、僕なんかじゃ思いつきもしないですし、こんなに上手くいってるのなら今のままが一番ですよね」



「分かりました」

「話しをまとめたいと思います」

「クルゼスもエルサニアも無理に統治の手を強めようとせず、例え方はよろしく無いが、あの戦争屋どものようにジオーネの住人には過度に干渉しないこと」

「ジオーネ側も無理に独立しようとはせず、今の繁栄をあるがままに受け入れること」

「つまりは、現状維持こそが最適解」

「カミスさんのこの考え、エルサニア側の総意と受け取ってもよろしいのでしょうか」



「えーと、僕の立場って責任者(仮)なので、総意(仮)みたいな感じで、お願いできれば……」



「了解しました」


 やった!


 今回の了解は、本当に了解してもらえたみたいだ。


 シェルカさんの表情から、さっきまでの真剣勝負的緊張感が抜けましたよ。


 なんだかスッキリしたみたいな柔らかな表情で、見ているこっちまでうれしくなっちゃうよ。


 良しっ、自分なりに今できることを、精一杯頑張ったよね、僕。


 これにて一件落着、かな。




「まずは、謝罪しないといけません」


 はい?



「カミスさんのことを、ただ優しいだけの、女性大好きな甘すぎる殿方かと」


 えーと、嫌いじゃないです、なんて言ったら、両国の外交問題になっちゃう、かも。



「理性と知性と、それに父性をも兼ね備えた傑物」

「まさに英雄、でした」


 もしもしシェルカさん、英雄と呼ぶには大事なことが抜けていませんか。


 自他共に認めるへなちょこ、ですよっ。



「強さとは、様々な形があるもの、と、私は考えます」


 そうかも。



「カミスさんは、強い人です」


 誰かさんからも、言われたような……



「印象のみに気を取られて、真に人を見る目が無かったこと」

「それゆえ、謝罪しなければならないのです」


 うん、シェルカさんの気持ちが収まるのなら、それで良いです。


 というわけで、今度こそ一件落着!




「最後に、もうひとつだけ、お聞きしたいことが」


 落着、していない模様。



 僕の空気読みセンサーが、徐々に反応しだしましたよ。


 えーと、今のシェルカさんの表情がですね、


 なんと言いますか、覚悟と恥じらいが入り混じった、特定の状況下における乙女特有の表情、


 って、ヤバい!


 僕の記憶が確かなら、この先にあるのは、いつもの、危険な、あのシチュエーション!



「カミスさんは、私のような者のことは、どう思われますか」


 ほら、やっぱり、


 って、すごいな、僕。


 いろいろと鍛えられたおかげなのか、


 ある種の危機察知能力だけは、野生のケダモノ並みだよ。


 って、しゃっきりしなきゃ、僕。



 シェルカさんの表情が、また、変わりました。

 

 覚悟を決めた乙女の、すごく真剣な、まっすぐなまなざし。


 僕なりの考えを、ちゃんと真剣に、まっすぐ伝えなきゃ。



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