01 ジオーネ
『リヴァイス 29 若先生の旅の途中』の続きで、
チームカミスのお話しです。
お楽しみいただければ幸いです。
ご無沙汰しております、カミスです。
相変わらずの流され人生なのですが、僕なりにできることを、いろいろやったり、やらかしたり、そんな感じです。
それでも、チームカミスのリーダーとしては、甘えたことも言ってられないわけで。
まあそれはそれとして、本当にもういろいろな出来事に振り回されちゃって目が回るような毎日なのです。
僕たちが暮らしているエルサニア王国と、はるか昔から何度も戦争を繰り返してきた隣国クルゼス王国との和平は、モノカさんたちの活躍によって無事成立しました。
それ自体はとても喜ばしいことだったのですが、それがきっかけでとんでもないことが判明しました。
なんと、両国の戦争状態を裏で操っていた大悪党、いわゆる戦争屋の存在が発覚したのです。
そして、それを知った両国トップは秘密裏に会談。
連中を一網打尽にするために、さまざまな問題を乗り越えて手を結んだのです。
まずは、現状把握。
戦争を商売にして甘い汁を吸い続けてきた連中、奴らの本拠地があるのは両国不可侵の国境の街、ジオーネ。
両国不可侵というのは、どちらか一方によって占領されることを阻むための取り決め。
ならば、両国の連合軍で一斉に攻めるべし。
情報によれば、悪党どもはジオーネの街の中心部に要塞のように強固な建造物を建設、全ての情報と自警団に擬装させた手勢をそこに集約させて秘密の漏洩を完璧に防いでいるとのこと。
そのおかげなのか、幸いにして建物の外にいる街の住人たちは悪事とは全くの無関係。
ならば、大軍で攻めて街を戦場にする必要は無し、アジトの建物のみを包囲・制圧するなら少数先鋭部隊で良し。
そして、作戦立案。
エルサニア・クルゼス連合の先鋭部隊が『転送』で急襲してアジトを包囲。
包囲完了後、すぐに降伏勧告、連中の注意を外に向けさせる。
連中が外からの攻撃に備えている時に、実力のある有志冒険者たちが館の屋上へと『転送』
館内に突入して、反撃や逃亡を許さぬ勢いで一気に制圧。
奴らを逃さないため、証拠を隠滅させないための、電撃作戦。
戦争屋発覚から作戦決行まで、わずか三日。
大陸西方の二大強国の本気、本当に、すごいです。
もちろん、館に張られている『転送』阻害結界なんてモノともしない、天才魔導具技師アリシエラさんの『転送』技術あっての作戦ですね。
そして、エルサニアのツァイシャ女王様からお願いされた僕たちチームカミスも、その作戦に参加することを決意しました。
普段は、こういうとんでもない荒事には関わらないようにしているのですが、実はどうしてもこの機会を逃せない理由が。
僕たちチームカミスのメンバーのひとり、クリスことクリスティア。
前国王ライクァさんの姪であるクリス、彼女の御両親はエルサニアの騎士でした。
ジオーネが戦乱に巻き込まれないようにと派遣された部隊の指揮をとって出陣、主戦場から逃れた残党がジオーネに被害を及ばさないよう討伐する戦闘のさなか、御不幸に見舞われたそうです。
それなのに、守ろうとした平和の象徴ジオーネに、悪党どもの本拠地が。
つまり、今回の騒動の黒幕どもは、クリスの御両親の仇。
クリスのためにも、この件の決着は自分たちの目で見届けよう、とチーム全員が決意。
作戦には、最強の助っ人、ライクァさんも同行してくれることとなりました。
「この件に関わった連中は全員生かしたまま捕えて、必ずやその罪を償わせる、ぞ」
ライクァさんとクリス、ふたりの尋常じゃない気合い、みんなにも伝わってきました。
そして作戦当日、敵の本拠地へとチームモノカの皆さんと共に魔導車『システマ』で『転送』
僕は『システマ』守備部隊として後方支援だったので直接全部は見ていないのですが、
クリスやライクァさん、それにモノカさんたち前衛のみんなの活躍は、それはもう凄まじかったそうです。
そして、黒幕を含めた悪党どもは一網打尽、証拠物件は全て押収、討伐部隊の大勝利となった次第。
なのですが、両国にとって本当に大変なのはそれから、だったのです。
ジオーネで捕まった黒幕たちはみんな、両国で正式に任命されてジオーネ統治のために派遣されて来た、とてもお偉い方々。
押収された名簿などの証拠物件で、黒幕たちとずぶずぶに関わっていた本国在住のお偉いさんたちも捕縛。
それにとどまらず、経済界の大物の大商人たちも共犯者としてお縄に。
ひと通り逮捕劇が終わると、両国ともにとんでもないことになっていました。
なにせ、それまで国政や経済に関わっていたお偉い方々が大量に抜けちゃったのです。
エルサニアのツァイシャ女王様もクルゼスのアルゼハルト王も、頭を悩ませます。
まずは、国を立て直すことが急務。
さらに困ったのが、事の発端となったジオーネの処遇。
討伐戦の後、ちゃんとした統治者抜きの状態でも、ジオーネの街自体は普段通り平穏なままだったそうです。
独立行政区とか自治区とかそういうのはよく分かりませんが、街の成り立ち由来で、住人たちが『自由と平和と独立』を愛する気風だったのが幸いしたとか。
それでも、両国共同で造った街を両国任命の統治責任者抜きで放置したままなのはマズい、となるわけで。
しかし、両国とも国内問題でいっぱいいっぱいで、優秀な人材を派遣する余裕は無し。
そこで妙案。
とりあえずってことで、今回の討伐に参加してくれた正義感あふれる冒険者たちの中から良さげなのを選んで、統治責任者(仮)にしちゃえ、となったそうです。
で、僕たちチームカミスに白羽の矢が。
リーダーがすごく優秀だからとか、討伐戦でいちばん活躍したから、では無いのです。
もちろん、リーダーがすごくお人好しだから、でも無いと思うのです、たぶん。
どうやら、チームメンバーのエルミナが、今回の件と関わりない第三国の王女だったという肩書きが、決め手となった模様。
エルミナ自身は故国のエルシニアとはとっくに縁を切っちゃってたんですが、やはりそういうって完全には断ち切れないのですね。
会談の席でのツァイシャ女王様とエルミナ、どちらも悲しげな表情だったのが、とても辛かったです。
そんな感じでいろいろあって、
今、僕たちチームカミスは、国境の街ジオーネに、領主代行として長期滞在中なのです。




