第64話 近衛騎士団vs獣人村 最終戦 前編
「――――来たか。」
「おォ。そうだなァ。」
「「楽しませてくれよ?俺(私)達を!!!」」
吸血鬼と人狼が獣人村への通り道に立ち塞がり、金属音を鳴らす少数精鋭(にしても、二人はやり過ぎだとは思うが。)を、睨みつける。
「私は〜ホントは体術メインだから〜――――あまり、舐めないほうがいいと思うよ?」
「先日の仮は返す。まさか、生きているとはな」
ゼノスによると俺達の攻略は一週間後…つまり、今日だ。
いくら二人で人外級に強いとはいえ、正午に出発したと報告があってから30分も経ってない内に着くのは速すぎると思うのだが。
………
まあ、最悪追い詰められたら切ってない奥の手が一つだけある。
それにかけるしかない、か。
レイアン。代われ
『了解』
「重力魔法」
「「「ッ!?」」」
ハウリルとウサギ耳を獣人村入り口まで。
そして騎士団長を俺の眼前まで吹き飛ばす。
「始めよう、かっ!」
「ぐがっ…!」
そして、鳩尾を蹴ったあと顔面に伸び切った拳をめり込ませる。
まあ、あたかも自分の事のように言ってるけどレイアンがやってるんだけどね。
そして更に重力魔法を術式の構築まで事前に終わらせてある俺ちょー有能
「重力魔法!!!」
「ぬぐっ、ぉおおおっ!?」
大盾で受けようとしたみたいだが、まあ、少し粘られただけで無事あの、生命がどーたらこーたらの…権能?の一部射程外に出る。
全身鎧に豪華な兜。光属性の短剣に女神の大盾。
更に、前回には下げてなかった変な首飾りに掌には指輪みたいなのを付けてる凹凸がある。
これは…まあ、間違いなく魔道具だろうな。
チートやろーが!装備に頼んな!
「魔法耐性の指輪、発動!」
「……チッ。オリジナル火炎魔法、爆裂拳!」
バーンナックルは、エクスプロードの威力を下げて(まあ具体的にいうと効果範囲を重力魔法で下げ、更に込めるMPも魔力も手加減した)、バーストフレアで拳へのダメージを減少させる。
そこに、まあ半ば忘れかけてたバーニアで攻撃速度をあげるって感じだ。
ちなみに開発したはいいものの、あまりにも制御が難しすぎて獣人は勿論あのゼノスすら使えなかった。
レイアンも十分チート野郎だぜ。
俺だけがマトモ。
「〜〜〜ッ! 効、かぁぁん!!!」
「近距離転移ッ!」
「退魔ノ光!」
爆裂拳が兜にヒット!
半壊させて壊れなかった方の半分も焦げ目が付いてる。
てか、壊れてないほうも若干溶けてる。
が、雄叫びと共に腰に下げた光属性の剣(今後略して属性剣とする)に手を伸ばしたのを確認して転移魔法で4mほど距離をとる。
(避けきれねえどうする!?…あ、闇魔法、闇魔法だ!闇魔法使え!結界と合わせて少しでも防げ!)
『わかったからお前は結界魔法を使え!』
(んなことわかってる!唯一お前よりできるんだからな!――終わった!余裕あったら魔法陣を任せる!)
『了解、じゃぁ闇魔法術式は整えたから魔力を流せ!』
(やったぞ!)
『行使は私がやる!』
「“光届カヌ闇ノ世界”!」
命名まんまだな!
…いけるか!?
退魔ノ光とやらが結界をジリジリと熱く破壊していく。
(クソ…不味いな。魔法陣は構築し終えた!やる事ないなら魔力流せ!)
『もうやってる!』
(俺は攻撃系の魔法の術式構築をやる!暇があったら手伝ってくれな!)
『わかった!』
結界がより強固になる。
だが、やはり耐久値は物凄い速度で減っていく。
バリィンッ!
破壊された!チッ!
でも、闇魔法はまだ完全に散ってない!
イケる!防ぎ切れる!
攻撃魔法は…。
ウォーターボールとダークボール、ダークスピアにダークランス、エクスプロードにファイアボール、ストロングウィンドに疾風魔法の鎌風、同じく疾風魔法の、
緑疾風。
次に身体強化系統はバーニア、ウィンドフット、闇纏ウ鬼だ。
どれも精度はかなり落ちてるし不完全。
最悪暴発する上に本来の効果の30%くらいの威力しかない。
でも、この場では十分だ!
おっと、闇魔法の効果が切れたが…ま。
腕に少し火傷しただけだ!
(できるなら術式の補助は頼む!俺は今から魔力流していく作業に集中するから!)
『任せろチノリ!』
「…やった、か?」
「舐めるなよニンゲンッ!」
闇が晴れた瞬間、ゲームとかだと絶対やってないフラグを立てた騎士団長に殴りかかる。
身体強化系統からやるか!
『どんどん身体が軽くなる…重ねがけするとすさまじいな』
(………おっしゃああ!身体強化系統は全部発動させてやったぜええええ!)
「ふん!でりゃあ!っっるおおおお!」
「甘い!」
「ぐっ、舐めるなぁ!」
「ごふぅっ!?」
属性剣を振り回す騎士団長だが、バフを重ねがけしたレイアンに裏を取られて空中で翼を羽ばたかせながら回し蹴りを食らわせる。
が、騎士団長は両腕でしっかり衝撃を防ぎ、回し蹴りを止められて無防備なレイアンの脇腹に拳の鉄の部分で殴る。
息を吐き出すのとうめき声が混じったそれを聞き逃さず、まだイケると判断した騎士団長が大盾の尖った部分を仰向けになった姿勢のレイアンに叩き込む。
「ごっ゛がぁ゛あ゛あ゛あああああああああ!?」
本来こんな使われ方は想定されていないが女神の紋章があるだけにちゃんと効果はあり、具体的に言えばダメージ3倍だ。それに衝撃を受けた後から気付き、咆哮とも悲鳴ともつかないそれがより大きくなる。
(――――よし、準備は整った!いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!)
「がっ、はっ…ゼロ距離から喰らうがいい」
「なにぃっ!?うぉ、おぉおおおおおっ!?ぁああああああああああああっっがぁぎゃああああああっああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっあああああああッッッ!?!?」
現状チノリが使える全ての属性の全ての魔法、それは一段階弱まっている上に偶に暴発して爆発していたがレイアンはこうなる事を予測して事前にマジックバリアと闘気を肌1cm離れたところに張り巡らせていた為に無効化している。
対して、騎士団長は距離をとるくらいの時間はあるだろうと思っていたので、それはもうボッコボコにされていた。
ウォーターボールで鎧が僅かに凹み、ダークボールで兜は完全に吹き飛ばされ、髪が無造作に振り乱される。
暴発したダークスピアは闇属性の魔力で属性剣の威力を少し下げる。
ダークランスは左脚の面積を大きく削り、穿ち抜く。
エクスプロードは小爆発程度の威力だが既に破壊された場所だった為、大火傷を負わせて骨にヒビを入れる。
鎌風は鎧がある部位は少し削るだけだったが鎧がない部位には結構な切り傷を与えていた。
緑疾風は暴発して爆発していた。
そして、騎士団長こと、バルバロトが生命の権能を発動させる。
それは、本気の、必殺のものであり、彼もそれに見合う代償を払う事になる。
使徒が貸し与えられた権能を行使する際、代償を払う代わりにクールダウンタイムが全くないのだ。
「ゼェ…ハァ…ゼェ…ハァ、うぐっ、『司るは生命。我らが女神よ、使徒である私に仇なす者に鉄槌を!
ゴッドブレス!』」
「三連続近距離転移ッ!!!間に合ええええええ!!!」
先程の攻撃で吹き飛ばされたバルバロト。
ので、10mほど距離は離れていたがレイアンは寒気と鳥肌が止まらなかった。
勘でチノリとレイアンは言葉を交わさず全力で転移を行使する。
風魔法で魔法陣を転移先に構築し、魔力を流す。
転移と同時に次の転移魔法を二人共同で術式構築、転移したその場で転移魔法陣は発動と共に砕け散ったがギリギリ土壇場で成功した。
まあ、転移魔法が一回目でたまたまスキルレベル上がったのも結構影響したらしいが。
「………生きてる、らしいな。」
「――――ォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ………!!!」
(おおこっわ…地獄の亡者でもそんな声出さねえぞ…)
『面白い例えだな。チノリ。――アレは恐らく権能の効果が切れないうちに止めを刺すつもりらしいな。』
(…魔力が切れるのが先か権能?が切れて代償とやらを支払ってその隙に俺らに殺されるのが先かの勝負だな。)
『……チノリ、お前珍しく冴えてるな』
(どーいう意味だゴラァン?!)
「見つけたぞ…ゼェ…ハァ…」
「…第2ラウンドの始まりって、訳か」
(絶対かってやろーぜ、レイアン。)
『ああ。勿論だ!』




