第48話 人狼vs鬼 その1
2章まだ続く。
実は 第45話 大海 のを投稿開始時点で思い描いて、まだかなまだかな〜とか思いながら書き続けてようやく書きたかった所の一つを書けたわけです!
「それにしても随分デカくなりやがったなァ、吸血鬼」
「これが元の姿だ。」
木材を運んで自身の家を作って貰おうとしていたプルーとムートを置いて、帰り道、開けた場所で人狼がレイアンに声をかける。
それは、ワイバーンとの戦争前の、決闘の続きのお誘いだ。
「ルールは簡単、どっちかが降参するか、先に戦闘不能になった方が負け。魔法もありだから安心しやがれェ?吸血鬼。」
「舐めるなよ。人狼が。」
実を言うと鬼になった事で結構レイアンの身体能力があがっていた。
闘気、とは元々魔物が身体強化の魔法を使う事で巨体を支えているのだが、獣人はそれを扱える。
そして、人族はその魔法は使えない代わりに魔力を無魔法モドキで具現化、それを身体強化の術式にする事で無意識に扱える、という原理だ。
まあぶっちゃけ言うと誰でも、それこそ人間でなすても使えるし意識してそれをやろうったって難しい。
そんなのするくらいなら普通に訓練した方がいいし実戦経験がある程度あれば自然と使える様になるのでそれを知っているのは物好きだけだ。
そして、その闘気をレイアンは僅か、ほんの僅かだが纏えるようになったことで実際の攻撃力機動力はレイアンの想像以上だ。
「「よーい、ドン」」
二人でほぼ同時に合図をし、お互いに襲いかかる。
低く跳んだレイアンに対してハウリルは高く跳んだ。
真っ直ぐ、先に勢いが止まりかけた所で拳を放つ。
「うおりゃ!」
「甘ェ!」
レイアンのそれは落下の勢いを上手く利用できるハウリルの拳で弾かれ、押し負けた反動で動けないところに回し蹴りが小気味よい音を立てて入る。
「ぐあッ!?――魔弾!」
「フンッ!どりゃあ!」
魔力を圧縮し、無魔法モドキで具現化されるという一番覚えるのが簡単なそれは、本来紫色にもかかわらず無色透明だった。
見え難いだけの魔弾を拳で相殺、空中で前回転する勢いを利用してかかと落としを放つハウリル。
「結界!」
「なァッ!?」
「からの、ファイヤ・アロー!」
「ぐォッ、―――身体強化ァ!」
魔弾を放ち、ろくに構えもしてない無防備な姿を見て防がれる事を想像していなかった為に隙を見せてしまい、レイアンの魔法で腕を焼かれる。
本来より強めに、そして繊細な制御で行使された火の矢は例え初級の技でも軽い火傷、で済ませる事はなかった。
身体強化した左腕を振るって火を消し、そのまま拳を握ってパンチを食らわせるハウリル。
「ッらァァァ!」
「っ! ぐ、ぉお、おおおおおお!」
魔法が間に合わない事を悟って咄嗟に受け身を取り、左腕から鈍い音がするのを聞き流して飛び膝蹴りをハウリルの鳩尾に入れる。
「くッ、クソがァァァ!」
――――避けろ!
「うっ、――――あっ、ぶねえええ!?バーニング・フレア!!!」
「効くかよォォォ!!!」
「嘘だろっっ!?」
身体を捻って鳩尾に当たるのだけは回避し、怒りのままに“部分獣化”した強撃をチノリがレイアンからの忠告を受けてギリギリで躱す。
そして、ハウリルが右半身を晒したところに懐かしき火魔法でカウンターを試みるが身体の向きを変えながら前に突き出した右腕があっさりと打ち消した。
「なかなかやんじゃァねェか。吸血鬼ィィ!!!」
「そっちも、なあっ!!!」
左のストレート。利き腕の右で合わせるレイアンだが、悪手。
やはり弾かれて隙を晒す、が、今度は予め結界を張っていた。
「分かってんだよォ!――――“部分獣化”ァ!!!」
バリィイン!
「ッ!?ぐえあっ、ぉ、がぁあああっ!?」
「馬ァ鹿がァァァ!!!」
「うぐぇああああっ!?」
読んでいたハウリルが部分獣化した左腕が結界をいとも容易く貫通し、そのままレイアンの鳩尾に直撃する。
低レベルな罵倒をしながら、悲鳴をあげ、無防備な背中晒すレイアンを蹴り上げて吹き飛ばす。
「かっ、はぁっ。―――成功しやがれ、近距離転移!」
「――――っ、なァッ!?消えたァ……?」
成功確率未だ5%の転移魔法を奇跡的に発動させ、追撃をしようと高く跳躍したハウリルの視界から姿を消す。
そして、ろくに場所も指定していなかったが、これまた運良く背後をとれたレイアンが――。
「爆炎!」
「グアァァァァッッッ!?」
火炎魔法の爆炎を発動させ、無防備なハウリルの背中に大火傷を負わせる。
撃ち落とされ、地に叩きつけられた瞬間、他と変わらず変化なく残った邪悪な蝙蝠の翼に魔力を込めて勢いよく接近、射程内に入った人狼の横っ腹を蹴り飛ばした。
「っっしゃあ!!ざまあみやがれバカ狼ぃ!」
「うぐ…あァ…」
身体をゆっくりと動かし、幽鬼のようにフラフラと立ち上がった人狼が。
「多重身体強化。――――第2ラウンドと行こうやァ、クソ吸血鬼ィ!」
「……ちと、ヤバそうかも」
第2ラウンドの始まりを告げる。




