第13話 運命に逆らう時②
プツン。
鳴ったのか鳴っていないのか。
分からないが、ナニカが切れた。
「…貴様ら喜べ、本物の地獄を見せてやる。」
自分でも驚く程低く、恐ろしい声がでた。
しかし、今の俺には聞こえない。
怒りのままに腕を爪で切り落とし、出た血を操って倒れていたグノスをこちらに引っ張りながら身体のあちこちに穴を空ける。
思えば俺は手加減していた。まあ聖剣使いだけは瀕死で留めておこう。最悪止血だけはする。
多分今後の事も考えていたのだろう。
邪神だとか魔王だとか。めんどくさい敵を倒すとき、間違いなく聖剣を扱える唯一の主人公という存在に頼るつもりだったから。
…甘い。甘すぎる。自分の生き死にがかかった状態で相手を気遣う必要などない。
俺は間違っていたようだ。
まあ、親友の為に怒れるだけマシなのか。
意外と冷静な気がする…気の所為か?
「グノスぅーーーっ!?」
杖を片手にグノスに近付くヒーラーにほぼ再生しかけている傷からでた残りの血を使い、血弾で全身を射抜き、更に止血を使い戻る勢いで強制的に近寄らされるヒーラーを直前で技を止めて血を操り投げ飛ばし床に叩きつけた。
コイツはバカらしい。ヒーラーの癖に自らノコノコやってくるとは。
止血して、傷を修復する。その時にヒーラーとタンクの血を吸った。
実質二人始末した事になるのか。
意外と大した事はないな。
「テメエよくもアイシャとグノスをっ!!!」
「待って、今行くのは無謀―――」
聞き終わる前に聖剣使いが斬りかかってくる。
仲間の意見も利かないクズとか、糞だな。死んだ方が世のためになる。
「うらあっ!」
よく見ると聖属性のエネルギーを放つそれが俺の肉を斬ろうとする。ので、腕を差し出した。
再生が遅すぎる。しかも余計に肩まで切れた。
流石聖剣だ。吸血値を使用して即座に回復し、左手の爪で聖剣使いの肩を掠めた。
「ぐぅっ…りゃあ!らあっ!………バーニングフレア!」
「バーニングフレア。」
余波で治りづらいかすり傷をつけられた。
高位魔法を使ってきたが相殺する。
「ストロングウィンド。バーニングフレア。ブラックアウト。」
「ぐぁあああっ!?……みえ、ない?」
ストロングウィンドはその名の通り強風で吹き飛ばす魔法。バーニングフレアはとにかく燃やす魔法。ブラックアウトは視界を奪う魔法。
ブラックアウトは闇魔法だ。
「<血弾><血槍><血剣><血弾>」
「ごがあっ!?ぐぅっ…うぎゃあああ!?」
避けられないよね。クロウも避けられない状態でボコられたんだよね。どう?やられ心地。最悪だろ?
「フローズンブリザ「邪魔すんな。」ふぐぅっ…!?」
隠密蝙蝠化で移動して背後を取り、無防備な腹に蝙蝠化を解いて殴打する。
バッティのバフのおかげでダメージ1.5倍だ。
「<血弾>。」
「きゃ!」
近接はとことん弱いってホントだったんだな。
罠に嵌ってくれて助かるぜ。
「んえっ!?」
「…………バーニングフレア!」
「うぐッ…ぁああああ!?」
ストロングフレアを予め壁に放つ、そして余波で動けなくなり、その隙にバーニングフレアを撃つ。
咄嗟のフローズンで軽い火傷で済んで良かったな。
美人さん。
「聖剣技“ホーリースラッシュ”!!!」
「!? <血盾>!」
振り返り、もう当たる直前の所で吸血値を使用して盾を作る。
が、
パリパリンッ!
「ぐがぁあああ!?」
「っしゃ!当たった!」
障壁を容易く破り、通常時より増大した聖属性により肩から腰まで切り裂かれた傷口が全身を焼く。
そして一番軽い火傷すら未だ治らない。
天敵だ。全ての魔物の天敵。
本能がここで葬り去らないといけないと強く訴えてくる
「かふっ、け、つだん!」
「うぐっ!」
不意打ちの血弾を聖剣の聖属性魔力でカバーし、あっさり防ぎ切る。
(理不尽すぎるだろ…)
許さねえぞ。神とやら。
特に謎世界のここに転移させやがった神的なナニカだけは絶対ゆるさん。
拳を全力で握り聖剣使いの腹に打ち込む。
めり込んで鈍い音を立てた気もするが無視して二撃目3撃目とパンチを繰り出す。
「ひー…る」
ヒーラーの回復で態勢を立て直した聖剣使いが雄叫びと共に剣を思い切り振り下ろした。
頭かち割られたがプルーの回復で全回復した。
クロウを回復するためにはより早くコイツラを追い出さなくてはならない。
聖剣の前には魔物の張った結界など簡単にパリーンだ。
「吸血!」
「「「がぁっ…!?」」」
瀕死のヒーラー、タンク、戦闘中の聖剣使いから血を頂戴する。
方法は簡単だ。手首を爪で切ってでてきた血を操って瀕死二人から吸い取り、止血で戻ってきた血を直前で解除、そのまま操り聖剣使いの傷口から吸血を再度使用する。
この際結構な量を吸い取った。
「ホーリースラッ「隠密蝙蝠化」シュ!」
数十匹の蝙蝠に化けて聖なる斬撃を回避。
と言っても15匹は死滅したが。
兎に角無事な個体を裏に回し解除。
当然の如く放たれたマルチ・フローズンブリザードにより障壁は凍結、崩れ去り俺も間もなく凍り付いたが中身まで凍る前に吸血再生を聖剣使いの血を拝借してゴリ押し。
無理矢理危機を脱して大量の血を抜かれた聖剣使いは青い顔をしている。
まあ、聖属性の回復魔法…通称奇跡魔法により完全復活していたが、聖剣の効力が明らかに落ちていた。
「ダブルスラッシュ!」
「フローズン!」
「マルチ・フレアバースト!」
「マルチ・アイスショット!」
俺は何回も死んだ。苦痛に呻く暇も与えられずに。
しかし貯めた吸血値での吸血再生とプルーの回復ゴリ押しでしぶとく蘇生された。持ち前の再生能力は聖属性魔力でほぼ無効化されている。
いずれ精神崩壊するか殺されるかと底が見え始めた所で、奇跡が起きた。
「くっ…そろそろ貴方も私も魔力が尽きてきたわよ!お仲間助けるなら助けるで支援するからさっさとしなさい!」
「わかってる!アイシャ…グノス…クソ!待ってろ!今助ける!」
魔力が尽きてきたらしい。だろうな。障壁なんか途中からあって無い様な物だったもんな。
そんな強力な魔法使ってんだから当たり前か。
すると、ヒーラーとタンクが本気で死にかけているではないか。
それに気づいた聖剣使いが止めの一撃を放ってくる。
「………絶対に、死なせない!」
「貴様如きに奪われてなるものか!」
「「終わりだ!」」
「ホーリーダブルスラッシュ!」
「ブラッディ・マルチ・レイ!」
青白い剣撃と3本の赤き閃光が交差する。
一撃目は一本の血のレーザーに相殺される。
二撃目は一本を切り裂き、そのままレイアンの肉体を両断した。
一本目は相殺される。
二本目は切り裂かれ、勢い殺せず身体が縦に真っ二つだ
三本目はジークの右胸を貫通し、後ろのミィリスのフローズンで凍り付き止まった。
「来るならこい。相手をしてやる、小娘。」
「生憎パーティーメンバー全員死ぬなんて事になったらめんどくさい事になるから今回だけは見逃してやるわ。」
その言葉に内心ホッとする。
コイツと今やりあったらクロウは死んじゃうし最悪俺も死ぬ。全滅だ。
ミィリス・クリスはマルチ・フローズンブリザードで崩壊している城の窓をぶち破り周囲を凍らせ高速で王都魔法学園の方に滑っていった。
勿論気絶して瀕死状態の全員を氷塊の上に乗せて。




