2 別離と出立
2話目です!
『【全自動・英霊召喚】が発動しました。結果を表示しますか?』
空中から声が響いた。
「頼む」
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自動召喚種別:索敵
召喚英霊 :万里眼グレイス
英霊種別 :支援型
英霊等級 :A
自動行動結果:訪問者1(宮廷魔術師カイル)を感知
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空中に輝く文字が表示された。
さっき【全自動・英霊召喚】の設定を変えたため、オートで『索敵』が発動したのだ。
来たのはカイル──俺の後輩の宮廷魔術師のようだった。
「とにかく俺は誰とも敵対せず、この国を出ていくから」
言って、俺は『英霊』たちをいったん引っ込めた。
それから来客に応対するために玄関へ向かう。
「フレイさん、この国を出ていくって本当ですか?」
「……悪いな」
俺はカイルに頭を下げた。
彼はまだ若く、席次も一番下だが、才能にあふれる有望株である。
「絶対おかしいですよ。フレイさんが成果を捏造してるなんて、言いがかりです! 僕、抗議してきます」
「駄目だ」
俺は即座に言った。
「お前にまでとばっちりが来るかもしれない」
「構いません! 僕、フレイさんがこんな仕打ちを受けるなんて我慢できません。誰よりも研究熱心で、誠実な仕事をしているフレイさんが──」
「その言葉だけで十分だよ」
「フレイさん……」
「お前は若いし、才能もある。将来は宮廷魔術師筆頭にだってなれるかもしれない。だから、ここからいなくなる俺のためにリスクを冒さないでくれ。お前の将来に傷をつけたくないんだ」
「でも……」
「分かってくれよ、カイル」
「……フレイさんが、そう言うなら」
カイルは泣いていた。
俺もちょっとウルッと来たが、なんとかこらえる。
カイルが帰ってから三十分後、また来客があった。
「フレイさん、嘘だろ? この国を出ていくって――」
「今度はお前か」
魔法戦団の団長を務める男、ラドウィグだ。
「フレイさん、俺たち魔法戦団のために何度も体を張って戦ってくれたのに……どうして……」
「悪いな。宮廷には色々あるんだ」
より勢力が強い者に疎まれたら、終わりだ。
「フレイさんのおかげで大勢の命が救われたこと、俺たち魔法戦団一同は決して忘れません」
「ありがとう。お前たちの今後の武運を祈ってるよ」
できれば、これからもお前たちを守るために戦いたかったが……。
その後も、仕事やその他のかかわりで親しくなった人たちが、次々に俺を訪ねてきてくれた。
俺は国外追放の処分を受けた身だ。
多分、誰も近づいてこないだろうと思っていた。
俺も、誰にも別れの挨拶を交わすことなく、寂しくここを去るものだと思っていた。
だから、俺を訪ねてくれた人たちには本当に感謝している。
嬉しい――。
ただその一言に尽きる。
「みんな、ありがとう──」
しみじみとつぶやく。
俺には家族がいない。
母は俺を産んですぐに死に、父も十年前に死んだ。
今は天涯孤独である。
だけど、彼らのように俺がいなくなることを惜しんでくれる人たちがいる。
本当にありがたいことだ。
この国を去ることになって、初めてその大きさに気づいた。
「もう会えないのか……」
寂しさがこみ上げる。
いや、これで終わりになんてしたくない。
「いつか、また会おう」
俺は彼らとの再会を胸に誓い、出立した。
俺は馬車で一路、国外を目指していた。
急な出立だっただけに、ちゃんとした予定なんて立っていない。
とりあえず宮廷魔術師時代に交流があった国の魔術師を訪ねてみる予定だ。
なんとか再就職につながればいいんだが──。
そんなことを考えながら、隣国に向かった。