2 魔王城へ
必要な局面になれば追加で英霊を呼び出すとして、とりあえずはこの四人とともに進むことにした。
異空間内の移動は、ハーヴェルが空間移動系の呪文を使い、俺たち全員を運んでくれた。
さすがに彼の呪文制御は完璧だ。
揺れ一つなく、快適な移動だった。
進みながら、メーヴェに魔王のことを聞く。
「魔王ガルヴェラというのは、どういう奴なんだ?」
名前だけなら、俺だって知っている。
伝説の魔王ガルヴェラ――。
かつて人間世界に侵攻し、勇者パーティとほぼ相打ちになって魔界へ去っていたという。
「あたしはその勇者パーティの一員だった。最終決戦で、こちらのパーティは勇者を除いてほぼ全滅。奴は大ダメージを受けて魔界に撤退した」
と、メーヴェ。
「それ以来、魔王がこの世界に攻めこんだ記録はない――はずだったが、ふたたび現れたようだな」
「ただ魔王は侵攻目的じゃないと言っていたな」
「どうだか。魔王の言葉を信じるのは危うすぎる」
「……確かに、な」
うなずき、俺は周囲を見回した
あちこちに薄紫色のモヤが漂っている。
瘴気だ。
「すさまじい密度だな……」
つぶやきながら、俺はハッと気づいた。
アーシアに来る前にモンスターのスタンピードに遭遇したことがあった。
それ自体は英霊の一つ、『獣操者ガドローア』があっさりと鎮めたのだが――。
彼女が気になることを言っていた。
『どうやらこのモンスターたちは強烈な瘴気を浴びているようだ。その影響で凶暴化したのだな』
――と。
「じゃあ、まさかあのスタンピードは魔王が原因……?」
つぶやいたとき、
「到着です、主よ」
ハーヴェルが言った。
俺たちは城の正門前までやって来た。
「ありがとう、ハーヴェル」
「主のために尽くすのみです」
漆黒の魔術師が恭しく一礼する。
「さーて、と。城の中には魔族とかモンスターとかがウヨウヨいそうだな。この俺が全部ぶっ潰してやるぜ!」
威勢よく叫んだのは、破砕騎士ゴル。
白兵戦での物理攻撃破壊力ならトップクラスにあるパワーファイターだ。
「あらあら、野蛮ですわね」
呆れたように言ったのは紅の聖女スカーレットだった。
「なんだ、てめえ。先にてめえからぶっ壊してやろうか?」
「ますます野蛮ですわ」
「てめぇ……!」
「そこまでだ、二人とも」
俺はため息交じりに仲裁に入った。
「ゴル、その闘志は敵を相手に取っておいてくれ。スカーレットもほどほどに頼むよ」
「わーったよ。主に言われちゃ敵わねえ」
「承知いたしました」
二人の英霊は矛を収めてくれた。
と、
「よく来てくれた。誘いに応じてくれて礼を言う」
ふいに、俺たちの前で光が弾けた。
小柄な人影が出現する。
「君は――」
驚く俺。
目の前にいるのは、可憐な少女だった。
「まさか……ガルヴェラ、か……!?」
メーヴェが眉をひそめる。
「なんだ、その姿は――」
「これが我の本来の姿だ」
可憐な少女の姿をした魔王が告げた。






