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【中編】舌戦、VSグルメ王!

その日、3人はかの有名な美食番組の会場にいた。彼らの他にも素人たちが大勢集まっていたが、それは『グルメ王 設楽京平に挑む!』という番組の企画のためである。設楽京平を倒すために、全国から舌に覚えのある連中が集まってきていたのだ。これもすべて里奈の差し金である。結局、目も眩むような大金があれば大抵のことは思い通りに進むのだ。



「里奈、お前のおかげだよ」


「それはいいんだけど、本当に正攻法で挑むつもり?」


軽井沢と田山は顔を不思議そうに顔を見合わせる。


「…インチキしろってことか?そんなの必要ない」


「ああ、俺たちはカミノシタ一期生だぞ。あの頃とは違う」


あまりにも2人が熱弁するので、里奈は仕方なく折れた。


「分かったよ。確か田山が先だっけ、頑張ってね」




参加者たちはそれぞれABCの3つのブロックに分けられた。そして、ふるいにかけるためのお題を課される。まずは田山がいるAブロックの参加者からだった。



「超高級牛肉と低品質劣悪牛肉を見分けてください。正解者は本戦に進むことができますが、間違えてしまうとここで脱落です」



合図で一斉に肉を食べ比べる。それぞれが思い思いの方法で肉の判別を試みているなか、田山は目を閉じていた。里奈と軽井沢はそんな彼を見ながら、何か嫌な予感がした。



案の定、田山は脱落した。牛肉の良し悪しが分からなかったのだ。それを見て軽井沢は一転、焦りだした。


「なあ、里奈。インチキでいくぞ」






軽井沢のCブロックの順がやってきた。彼らに課せられたのは『新鮮肉と腐肉を見分けよ』という実に単純なお題だった。


「あのさあ。このくらい普通に分かんないかな?」


「俺たちに分かるわけないだろ!」


「じゃあカミノシタ育成所はなんだったの」


「それを言わないでくれ」


「…もう、仕方ないなあ」




戦いが始まった。軽井沢のメガネにはカメラがあり、そして耳には小さなイヤホンがある。そこから里奈の声が聞こえてきた。


「うーん、Aが腐ってるね。Bを選んで」


「なんで分かるんだよ」


「逆にどうして分かんないの。あと怪しまれるから喋んないでね」



田山とは違い、軽井沢は見事に脱落から逃れることができた。その後もあらゆる策を駆使して戦いを有利に進めていったが、それはまさしく里奈の財力と器用さによる賜物であり、もはやそこには軽井沢の主体性などまるでなかった。


とうとう戦いは大詰め、ついに決勝戦にまでのぼりつめた。



「軽井沢、やりやがったな」


田山は里奈の肩に手を置いて言った。


「いやさあ、ぜんぶ私じゃん」


「おっ、始まるぞ」


田山は駆け出していく。しかし、里奈はそれを引き留めた。


「待って、今度は手伝ってもらうから」




里奈が恐れていたとおり、決勝戦は見ただけで判別可能な易問ではなかった。ワインの産地当ては見かけでは分からない。味覚と嗅覚、そしてそこから得られた情報から正解を導くに足る知識が必要だが、あいにくそんなものはない。そこで里奈は田山の身体能力を頼ったのだった。


進行上、答えの記された紙は運営側のもとにある。それを見ることさえできれば、ワインを飲まずとも正解を導きだすことができるという寸法だ。



「田山、とりあえずここから2階に上がれる?」


「ああ。階段はどこにある?」


「階段はダメ。壁を伝うなりなんなりして上がって」


「どうして」


「階段に通じるドアは関係者以外立ち入り禁止。パスワードロックがかかってるし、そもそもあんたみたいにキャラが濃いと関係者になりすますのも無理あるよ」



田山はなるほどと頷くと、すぐに駆け出した。何も考えずに走り出したわけではない。今このタイミングであれば、壁の一点が死角になっていた、そこを突いたのだ。その太い足が田山を支え、彼はだんだんと壁をのぼっていく。のぼりきるのにそう時間はかからなかった。



「ここからどうすればいい?」


「司会のところへ向かって。背後から答えを盗み見るの」



そうこうしている間にも軽井沢たちの戦いは進んでいた。6つあるワインをできるかぎり時間をかけて飲み、田山の成功を待った。


「早くしてくれ、もってあと3分だ」


「待て軽井沢、いま走ってる」



人の目に触れぬよう、田山は床だけでなく壁や天井を走り抜ける。立体的な動作は彼をさらに速くし、あっという間に司会のところへとたどり着いた。


今度は一転、ゆっくり、そろそろと歩みを進める。司会まであと10メートル。



「2分経った、時間稼ぎもそろそろ限界だぞ」


「田山を急かさないで。バレたら元も子もないんだから」


「バレたらって、この問題を外しても元も子もないだろ」


「自力で解けないあんたが悪いんでしょ」


「そんなことどうでもいい、田山、そろそろヤバい!」



「駄目だ、トラブルだ。気が緩んでるのか知らないが、司会がステージに背を向けてる。つまり、こっちを向いてるから近付けない」


「ああ!?」


しかし、すぐさま軽井沢は閃く。そして大声で叫んだ。



「解けました!」



いっせいに人々が軽井沢の方を見た。それは司会も例外ではなかった。


「よくやった、軽井沢。今ならいけるぞ」


「えー…、Aはパリ、Bは群馬、Cは…」



そのときほど、2人が田山の言葉に真剣に耳を傾けたときはなかった。一言たりとも聞き逃さぬように耳をすまし、そして軽井沢はそれを復唱した。


「Aはパリ、Bは群馬、Cは…」






「軽井沢さん、全問正解です!見事、設楽京平さんとの対戦権を手にしました!」

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