第4話 違法コロシアム4
それから、一分も掛からないうちに「ルサァ!!」と呼ぶ声が聞こえた。ナンバー4に抱えられた状態のまま呼ばれた方を向けば、ザキトとミカエル、そして他の部隊が駆けつけてくるのが見えた。
そしてザキトは、先にルサたちから少し離れたところで倒れている逃亡者を取り押さえ、男の両手に人間用の電子手錠をかけた。その後、逃亡者とナンバー4を他の部隊に引き渡し、なんとか今回の任務も幕を閉じたのだった。
「たっく、ルサ! お前はまた勝手な行動しやがって! なんで普段は考えて行動するくせに、ゲシュヴィスターのことになると暴走するんだ!?」
「…体が勝手に動くんだから仕方がないでしょう」
今回の任務が終わり、ルサはザキトに応急処置をしてもらっている。もちろん、単独行動をしたことについて、こっぴどく叱られている際中である。
「『仕方がない』じゃない! 毎回毎回! どんだけ俺らが心配したと思ってんだ!」
「…ごめん」
目を逸らし、ムスっとした顔をしているが、犬の耳でも生えていたら垂れ下がっているであろうルサを見て、ザキトは大きなため息を零す。
「はぁぁぁぁぁ……ミカエルさんからも言ってやってくださいよ」
ザキトはこのどうしようもない同僚に心配半分、呆れ半分の表情を向けながら、ミカエルに声を掛ける。
「ルサ、逃亡者の追撃及びゲシュヴィスターの保護、よくやった。だが、単独行動をしたことはいいことではない。前にも言ったが、勝手な行動をすることで他の者達の行動を邪魔する可能性や君自身に危険が及ぶ可能性もある。実際に、今、怪我しているしね」
「うっ、すみません…」
「まぁ、即座にゲシュヴィスターのために行動できるところはガルディアンの者としていいところでもあるがな。単独行動をするときは必ず仲間に伝えることはしなさい。わかったね?」
「はい…」
ミカエルはルサに今回の行動に対しての注意と今後の行動についての話をし、今回の成果のこともあり罰則はなしということで話を終わらせた。
「さてと、そろそろ私達も本部に戻ろうか。ルサは本部に着いたらそのまま医療室に直行ね」
「…ちなみに今回の担当医官は誰ですか?」
「ラファエル先生だ」
「うっ、どやされる…」
「自業自得だ。しっかり、叱られてこい」
お説教と応急処置を終え、ミカエルからあまり嬉しくない情報を聞きながらルサはガルディアン部隊専用車に乗り込む。そんなルサを後ろから眺めていたザキトはミカエルにぼやく。
「ミカエルさん、ルサにちょっと甘すぎません?」
「そうかな?」
「だって、何回も似たような行動してるんですよ? 今回も注意だけで終わらせるのはどうかと」
ザキトは今回も罰則がないことに対しどうなのかとしかめっ面でミカエルに尋ねる。そんな、ザキトと対象にミカエルはにこやかな顔を向け、逆に問いかえる。
「正直に言うと?」
「同僚としてすっげぇー心配です。今後も今回のようなこと、絶対に起きると思いますし」
ザキトはしかめっ面からムスッと先程ルサがしていたような顔をする。そんな顔を見てミカエルは「ははは」と微笑みながら呟く。
「確かに、君が心配するのもよくわかる。私も流石に今回は肝が冷えたよ」
「俺は常にですよ」
「はは、けど彼女の行動によって数々のゲシュヴィスターが救われてきた。今回もそうだ。私が次の行動を考えている間に自らゲシュヴィスターのことを瞬時に考え行動し、結果的に任務を達成させた。だから彼女は私達と同じ、ガルディアン部隊にいるわけだしね」
「そうですが…」
ザキトが渋るような顔をし、車に乗っているルサの事を見つめる。ミカエルもザキトと同様にルサの事を見つめた。
「だけど、そんな彼女にはそろそろ必要かもしれないね。彼女を支えてくれて、互いに信頼していける──『パートナー』を。」
ミカエルはそう話し終えると、ルサと同じ車に乗り込む。ザキトもその後を追い、運転席に乗り込むとエンジンをかけ、本部へと帰っていった。
その様子を1機の偵察用カメラが撮影していた。
そして、その映像をモニターで何者かが見ていたが、そのことは誰も気づかずにいた。