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ガルディアン  作者: 桜猫
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第3話 違法コロシアム3

「…いない」


「ん? 何がだ?」とルサの声に反応したザキトは疑問を呟く。


「一人、いない。さっきの試合に出てた、赤コーナーのゲシュヴィスターがいない」

「なんだと?」


 三人は元々調査していた剣闘士のゲシュヴィスターの人数を確かめていく。


「本当だ。人数が合わないな」

「まさかっ、俺らがここに来るまでの間に連れ出された!?」

「可能性はある。取り押さえ損ねた奴がまだいたのかもしれない」

「どうしますか?」

「…」


 ミカエルは、直ちに今ここで剣闘士のゲシュヴィスター一体を連れ去り、逃げたであろう者の後を追いかけるか。それとも、ここにいる剣闘士のゲシュヴィスターたちを今から来る別部隊に確実に保護してもらってから追いかけるか……だが、それだと逃走している者を逃がしてしまう可能性があるわけで、どちらの行動を取るのかを悩んでいた。


 しかし、その悩みは無意味になる。ふと、周りを見るとザキトはいるが、ルサがいないことに気づく。


「ルサはどうした?」

「え?」


 ザキトもミカエルに言われ、隣にいたはずのルサがいないことに気づき、「あの野郎またか…」と片手で顔を覆った。


 一方、ザキト達とは別行動を始めたルサは、赤コーナーのゲシュヴィスターを連れて逃げている者を追跡していた。ミカエルから次の行動の指示が出るまで待てず、先程見つけていた収納倉庫の一番右端にある扉に向かい、たぶん、そこから逃げたであろうと推測し、足を進めたのだ。

 

 一言声をかけるべきだとは分かっていたが、言ったところで反対されるか、別部隊が来るまで待たされるおちになりかねないと判断し、単独行動を起こしたのだ。

あとで怒られるなぁ。というか、この道であってる?、と思っていた時、ルサが歩いている通路先に二人の人影が見えた。

 そして、その人影の正体は、赤コーナーのゲシュヴィスターと逃亡者だった。


「見つけた」


ルサはすぐに武器の不具合がないかを確認したあと、素早く動く。


「ガルディアン部隊だ! 今すぐそこのゲシュヴィスターを解放し、大人しく同行しなさい!」


拳銃を相手に向け、抵抗しないよう警告する。


「ちっ! もう来ちまったのか……4、殺れ」


 逃亡者の男はルサの存在に気が付くと、隣にいる赤コーナーのゲシュヴィスター『ナンバー4』にルサを殺すように命令する。ナンバー4は「…了解した」と命令に従い、ルサに攻撃し始める。

 剣闘士として活動していたこともあり、なかなかの高スペックの攻撃をしてくるナンバー4からの攻撃を避けつつ、ルサは次の行動を考える。


 ──まず、彼を傷つけず動きを止めるために……『あれ』をするか


 ルサは次の行動を定め終えると、先程は避けてばかりであったが、一旦、ナンバー4と距離を置き、電流が流れる警棒でナンバー4を傷つけない程度に攻撃を仕掛け始める。その行動の変化にナンバー4は警戒を上げ、先程よりも攻撃力とスピードを上げる。

 お互いに一歩も譲らない中、ルサの動きに異変が起き始める。


 生身の人間であるルサと身体が金属機械で出来ているゲシュヴィスターであるナンバー4とではやはり体力や攻撃力、耐久性にかなり差が出る。ナンバー4は先ほどの試合で怪我をしており、左肩から何本かケーブルが千切れ火花が散ったり、オイルが漏れていたりしていたが、動きは鈍くなるどころかどんどん攻撃力を上がっていく。

 

 一方、ルサは大きな傷は無いが所々にナンバー4からの攻撃によって傷ついている部分もあり、体力が徐々に削れていっているので、このままずっと戦闘を続ければ、いずれ限界が来てしまう。


──やっぱり人間相手と違って、一人でゲシュヴィスター相手はきついかっ


 ルサはそう思いながらも攻撃を止めない。

 いずれ限界があることはナンバー4も分かっていたのだろう。ナンバー4は目を凝らし、その時を待っていたかのように、少しだけルサの型が崩れたのを見逃さなかった。


 「悪いな」


 ナンバー4は辛そうに呟き、ほんの少し見せた隙を狙い、人間にとって急所である脇腹に刃を向け、切り裂こうとする。


 しかし―


「なっ!?」


 その攻撃が来ることを読んでいたのか、ルサは素早く体を捩じりこみ攻撃を交わし、そのまま勢いでナンバー4の首元にある接続部分にジャックを繋げ、ナンバー4の体に『あるプログラム』を送りつける。

そして、それと同時に半球体の物質を足枷へと投げ込む。すると、ナンバー4は片膝を地面に付けた状態から身動きが取れなくなる。ナンバー4は今、自分が何をされたのか分からず、困惑した顔をする。


「何をしてる!? ささっと動け!」


 先程から様子を見ていた逃亡者の男は動かなくなったナンバー4に向かってと叫ぶ。

 しかし、ナンバー4は己の身体に動くよう信号を送りつけても全く動く様子がない。


「無駄だよ」


 ルサは、そんな困惑と焦りの顔をしているナンバー4と血相を変えた逃亡者に呟いた。


「これでも一応、私はただの警察官ではなくガルディアン部隊に所属しているからゲシュヴィスターから襲われたときの対策はしてあるの」


 ルサは二人を交互に見ながらナンバー4に何をしたのか話始める。


「今わたしはあなたに、『身体停止プログラム』を送くったから一時的にだけど動くことはできない。それと、主催者(あなたたち)が彼に仕込んだマイクロチップだけど、接続をした際に私の仲間にデータを送り込み、瞬時に解除してもらった」


そして、目線をナンバー4の足元に向けながら話を続ける。


「ちなみにこの足枷も、『これ』が放ってる弱電磁パルスで機能は停止し、爆発することはできないから」


 ルサは、そう言って、ナンバー4の足枷についてる半球体型の妨害機器に指をさす。


「だから、あなたが起動させようとしても爆発することはないし、もちろん、彼以外の剣闘士のゲシュヴィスターたちにも付いていた爆弾は今頃解除され、私の仲間に保護されているだろうね」


 説明を聞いていた逃亡者は蛙がつぶれたかのような顔をし、「くっそ」と声をもらす。

そして、その話を聞いていたナンバー4はオプティック(ひとみ)を見開きながらルサに尋ねた。


「…あいつらは無事なのか?」

「無事よ。だから、もう無理に彼に従う必要はない」


 ルサは足を少し折り曲げ、ナンバー4と同じ目線で話す。


「私が推測するに、あなたは『同房が殺されたくなければ、だまって護衛しろ』とでも言われたんでしょう? 戦闘体験した感じ、あなたが一番強そうだし」

「…」


 ゲシュヴィスターは何も答えないが、ルサはそれを肯定であると受け取る。

そして、ルサは立ち上がると逃亡者の方に向き直った。


「さてと、鬼ごっこはここまでにして、大人しく捕まりなさい」


 ルサが、ジャケットの内側にある人間用の電子手錠を取り出し、逃亡者に近づこうと歩き始める。

 すると、男は突然奇声を上げ始めた。


「…っあぁあぁああ!!!」


 そして、手に持っていた銃をルサの方に向ける。


 「ここで捕まって、一生牢屋にいるぐらいならお前らもろとも道連れにして死んでやる!」


 男は大声で叫び上げ、銃口をルサから未だに身動きが取れないナンバー4の方に向け直し、弾を打ち込むためにギアを抜く。

 「バンッバンッ」と二回銃声を鳴らし、二つの銃弾はナンバー4に目掛けて飛んで行く。ナンバー4は瞬時にオプティック()を閉じ、少しでも防御するように身を丸めた。


 しかし、来るはずであろう痛みが訪れず、不思議に思い、オプティック()を開けてみると──……


「!?」


 目の前にはナンバー4を庇うように仁王立ちをしているルサがおり、銃弾はナンバー4ではなくルサの左腕と右足を打ち抜いていた。


「――っう!」


 ルサは痛みに耐えながら、咄嗟に銃を逃亡者に向け、男の手にある銃を打ち落とし、さらにここから逃げ出させないために男の右腿を打ち抜いた。

 男は体制を崩し倒れ、悲鳴を上げながら打たれた右腿を抱える。


 一方、ルサも男に銃弾を打った直後にそのまま後ろに倒れる。そんなルサを少しだけ身動きが取れるようになったナンバー4が瞬時に支える。

「お、お前! 何してっ──」とナンバー4が声を掛け終える前に、ルサが言葉を遮った。



「怪我はない?」

 


 ナンバー4は、さらにオプティック()を見開き、こちらに微笑んでいるルサを凝視する。今、自分に向けられた言葉を徐々に理解し、信じられないものを見る顔する。そして、ルサに声を掛ける。


「…お前、馬鹿じゃないのか? 機械の身体である俺はあんな銃弾ぐらいなら軽症で済むが、生身である人間のお前は、もし、打ちどころが悪ければ死んでいたかもしれないんだぞっ」


 ナンバー4は表情を険しくしたが、ルサを見つめるそのオプティック(ひとみ)はとても心配をしている優しい瞳だった。そんな瞳を向けられたルサは、微笑みながら、銃弾に打たれていない方の右手でナンバー4の頬に触れる。


「ふふ、そうかも…っう。けど…あのまま爆弾の足枷や傷口から出るオイル箇所に銃弾が当たったりしてたら、爆発して、あなたと私は重症、最悪死んでたかもしれない。まぁ、結果的に打ちどころは悪くないから軽症で済むだろうし。それに──」



「これ以上、あなたが傷つくところを見たくなかった」



 そう呟いたルサをナンバー4は思う。


「…やっぱ、お前、馬鹿だな」

「褒め言葉として貰っとく」


 ルサは「ニッ」と笑みを向け、ナンバー4もそれに釣られて微笑み返した。


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