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星の占い師と犬の騎士  作者: 狐川 月九
一部 星の占い師と犬の騎士
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2つ目の契約 

 ようやく息が落ち着いた私は、もう1つの契約を結ぶために先程の部屋へ戻ることにした。先頭をスコープさん、その後ろにファウスト、私と続く。


 スタスタと長い足で先を歩くファウスト。前世では、短い足、プリプリしたお尻がなんともいえずかわいかったのに‥。よくお尻のほっぺに手を当てて、もふもふと毛並みを楽しんでたのを思い出す。

 そんな事を思い出した私は‥本当に無意識に、ファウストのお尻を右手でぺたっと触ってしまった。


 「んっ!!?」

 驚いたファウストが、慌てて振り返る。

 「あ、ごめん!」

我に返り、慌てて謝り手を引っ込めたのだが。


 「おい、そこのチカン。いや、漢じゃなく女か?」

 1番見たらいけない人物に見られてしまった。


 「はぁ、アゼリア、それはあかんやろ。僕のやったらセーフなのにー。」

 カエデはくるくるの尻尾をふりふり振っている。中庭で散々遊んだ2人がちょうど中に入ってきたところだった。


 「違う!違うの!手が勝手に‥。」

自分でも何を口走っているのか最早分からない。


 「事案だな。」

 「タイホやね。」

 

 2人がじわじわと迫ってくる。あぁ、王宮付占い師(前科持ち)になってしまうのね‥なんて考えていると、ファウストが叫んだ。


 「違う、合意だ!」

 

 ファウストは耳まで真っ赤にしている。

 この男も何を言っているのか、分かっているのだろうか。


 「そうか、合意なら‥まぁせめて隠れてやれよ。」

 「問題ないな。」

 2人はうんうんとなぜか納得している。


 「ち、ちがうのーー!!」

 私は顔を赤くしながら叫んだ。

あまりの大声に、中庭の木に止まっていた雀が一斉に飛び去っていった。



 最初に通された部屋に戻ってきた。

 「はぁ、なんであんな事しちゃったんだろ。」

 三角座りになり、部屋の隅でぶつぶつと呟く。


 「まぁまぁ、経緯はなんとなく察しつくからもう気にせんほうがいいわ。ごめん僕らも面白がってもたわ。」

 カエデによしよしと慰められる。


 「いや、本当に面白かったぞ。」

 ファウストがリゲルを睨みつけている。この2人は、仲がいいのか悪いのかよく分からない。


 「まぁおふざけはそれくらいにして。そろそろ本題に入りましょうか。」

 スコープさんが机を持ち上げ、ガチャガチャと端に寄せる。

「アゼリアさん、サイコロは持ってきましたね?アゼリアさんには守護星座霊の盟を、これから呼び出す星座霊と結んでもらいます。」

 朝、カエデが言っていた話だ。


「え、でも私はまだ季節の星座霊しか呼び出せないし、先払いできるだけの魔力が‥。あ、金星糖忘れちゃった。」

 「大丈夫ですよ。さきほど、リリィ様は時魔法の契約と一緒に、王宮付きの契約も続けて結んでいらっしゃいました。今のアゼリアさんは、王宮付き占い師として、魔力も高まったはずです。」


 さらに光が眩しくなったのはそれだったのかと納得する。


 「そっか、王宮付きにはもうなってるのか‥。じゃあ、早くしないといけないですね。」

 私はローブのポケットからサイコロを取り出す。薄青色の光を浴びていた。


 「やってみます!」

サイコロを振り、呪文を詠唱する。サイコロから魔法陣、そして五芒星が現れた。中心の文字は、「愛」と書かれている。真ん中から、星座霊が出てくる‥はずなのだが、何も出てこない。


 「あれ、え、失敗‥?何も出てこないなんてことある?」

 辺りを見回すと‥ホスト‥ではなかった、リゲルが金色に光っている。

 

 「えっ?」

 「なんだ、またご指名か。俺の指名料は高くつくぞ。しかも、文字は愛か。」

 にやにやとリゲルが笑っている。


 「やっぱり俺のことが好きなんだろう。」


 ちょっと真面目な顔になったリゲルが、近づいてくる。五芒星の中心にまで後退した所で、肩を掴まれてしまった。

 リゲルの顔が近づいてくる。契約に関わることかもしれないので、こちらからは何も手出しできない。

 チャラいとはいっても、やはりこの人も相当かっこいい。甘めな顔立ちをしているファウストとは違い、色気があるかっこよさだ。少し屈み、伏せられた白金色の睫毛は長い。


 「この者に、オリオンの守護を。」

そう言って、リゲルが私の額に口付けた。額が急に熱をもつ。


 そういえば、私が5歳の時の冬にも同じようなことがあったな。もしかしたら、リゲルだったのだろうか‥


 そんなことを考えていると、額から口が離れ、今度は‥うなじに吸いつかれた。

 ?!!声にならない声が出る。まさかこう来るとは思っていなかった。両肩を両手でしっかり押さえられているので、動こうにも動けないし、拒否できない。

ファウストがすごい顔でこっちを睨んでいるのが見える。

 しばらくそのままの状態が続いたかと思うと、急に力が入らなくなってしまった。魔力が急減している。立っているのが難しい。体がふらつく。両肩にあったリゲルの両手が、私の腰と背中を支え始めた。膝ががくがくと震える。


 まだ、終わらない‥の‥?

 さっきみたいに意識を手放したくないと抗うが、もう視界はブラックアウト寸前だ。


 ようやく、魔法陣の光が消えたのが見えた。


 「お疲れ様。よく頑張ったな。」

 私からその手が離れると同時に、駆け寄ったファウストが私をひょいっと抱え上げた。ちょっとどころかかなり恥ずかしいが、お姫様抱っこされている。


 「しつこいのは嫌われるぞ。オッサン。」

 明らかに不機嫌な声でファウストが言い放つ。


 「若い女の子の魔力は格別だな。」

 リゲルは口をぺろりと舐めた。


 「ん、あの‥オリオン座って‥?」

 ファウストの腕の中で、私は声を絞り出す。


 「あれ、言ってなかったか?俺はオリオン座の星座霊だ。それに、アゼリアと俺の相性はいい。俺が守護星座霊になるのは分かってたからな。」

 リゲルはくるりと身を翻し、スーツの上着を羽織る。

 「ほら。だからこの格好に着替えたんだよ。わざわざ作らせたんだ。アゼリアの前世では、エスピーっていうんだろ?これからは俺が守護星座だ。加護を授けるための星の思い出も視てやるからな。」


 ホストじゃなくてSPのつもりだったんだ‥!!


 この星座霊は、このためだけにスーツを用意していそいそと着替え、犬とフリスビーで遊んでいたらしい。


 「リゲル、あまりファウストをからかうのはやめなさい。嫉妬で何をするか分かりませんよ。」

 スコープさんがリゲルを諫める。

 

 

 「俺が、俺がアゼリアの護衛役になる!」

 私を抱きしめながら、ファウストが突然宣言した。

 予想していなかった言葉に、私はただ驚いていた。しかし、周りのみんなは、まるで予想通りというかのように、納得した表情をしている。

 

 「ええ、そう言うと思っていました。あなたがそのために、13年の月日をかけて努力していたのを、私たちは1番良く知っています。指揮隊長は、あなたの友人であるヨハンが引き受けてくれるそうですよ。王と、リリィ様には私から改めて報告しますが、もう書類上の手続きは済んでいます。」


 もう手続きも済んでるって‥手際が良すぎない?

 

 呆気にとられる私を置いて、スコープさんは話を続ける。


 「ファウストも王宮に住んでいますし、本来であればアゼリアさんも王宮付き占い師の部屋で過ごしてもらうことになるのですが‥。今のアゼリアさんのアパートは、仕事部屋も兼ねています。アゼリアさんは、できれば町の占い師も続けられた方がいいと思うんです。リゲルがいるといっても、星座霊を召喚したほうが魔力が伸びますからね。普段は町の方で過ごしていただき、週に一度、王宮に通われるというのがいいかと思います。町の人たちも、占いのために王宮へ行こうとはならないでしょうし。」

 「じゃあ、俺も町に住む!」

 間髪入れずにファウストが言う。


 「そうでしょうね。アパートの隣の部屋が空いていたので、借りてしまおうかと思ったのですが‥。リゲルとカエデもいるので。町の外れの屋敷が空いています。近いうちに手配しておくので、そこで、みんなで住んでもらいましょうか。」

 

 「えぇっ!!?」

 ファウストと私の声が重なる。

 スコープさん、何者なのだろうかと思うくらい仕事が早い。


 「ちょっと待てよ、俺がアゼリアと住むのはいいとして、なんでリゲルまで一緒なんだよ。」


 「仕方ないだろ、俺が守護星座な以上、俺とアゼリアは一緒だ。それともあれか、俺とお前でアゼリアの隣の部屋に住むか?」

 不敵な笑みを浮かべ、ファウストを見ている。


 ファウストは‥うん、いつもの表情だ。

 

 なんとなく分かってきた。リゲルはファウストのこと、これでかわいがってるんだな‥。まぁ13年の付き合いだっていうし、小さい頃からみてたっていうなら‥。私には兄弟姉妹はいないから分からないけど、お兄ちゃんと弟って感じなのかもしれない。

 

 「僕はアゼリアと今まで通り一緒や!」

 カエデがなぜか誇らしげに胸を張っている。


 「そうだ。お前、毛並みの手入れもう少しちゃんとしてもらってくれよ。これから暑くなってくるんだからな。今からどんどん毛抜けるぞ。」

 

 ファウストがカエデに向かってそう言った。


 ん? もしかして、カエデの飼い主って‥。


 「ファウストなの?!」

 「ん、何がだ?」

 「カエデの飼い主さん!」


 「知らなかったのか」と当然のように言われてしまう。

そうか、私とファウストのことも、カエデのこともみんな分かってて‥‥さっきの大声で気力を使い果たしてしまった。ついに意識が遠のく。


 一日に色々なことが起こりすぎてしまい、わたしは本日2回も気を失うこととなってしまった。

 

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