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星の占い師と犬の騎士  作者: 狐川 月九
一部 星の占い師と犬の騎士
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1つ目の契約 

 「2.、29歳って‥」

 あまりの事実に口を手で押さえ、スコープさんの方を見る。彼は疲れたのか、椅子に座りうとうととしていた。老いた占い師だと勝手に思い込んでいた。


 「国民一人一人に加護を与えるのですから、使用する魔力が膨大なのです。彼は私たちと同様に、13年の時を過ごしましたが、肉体の老いる速度は5倍になってしまいました。それだけ、魔力を消費し続けていたということです。そしてついに、肉体の老いが限界を迎えています。私と、リゲルの今すべきことは、彼をこの任から解放すること。つまり、後釜となる占い師が必要なのです。」


  それは、つまり‥。

 カエデが、申し訳なさそうに私のことを見ている。耳がいつもより垂れている。ファウストは、苛立っているのか、指の先でカツカツと机を叩いていた。


 「私が、次の占い師ということなのでしょうか‥。」

 

 「さすがアゼリアさん。察しが良くて助かります。」

女王様が微笑む。

 

 「え、でもスコープさんには申し訳ないですけど、13年でおばあちゃんになっちゃうってことですよね?!」

 さすがにそこは譲れない。名誉な仕事かもしれないが、今度の人生でこそ、幸せに生きたいと願っていたのに。


 「大丈夫です。そこで、あなたの騎士の出番なのです。‥ってあら、ファウスト。あなたもしかしてまだ話してないのかしら?」


 「俺が言ってやろうか。こいつはお前のコ‥」

とリゲルが言いかけた所で、ファウストが叫びながら勢いよく机を叩いた。バン!!っと音が響き、スコープさんとカエデがびくりと体を揺らす。


 「あー、自分で言います!自分で言うから!!頼むからリゲルは黙ってろ!!」


 もしかして、リゲルはコーギーって言おうとしたのかな‥なんてつい考えてしまう。

 

 「少しでいいので、アゼリアと2人に‥。」

 うつむくファウストがそう女王様に伝える。


 頷いた女王様たちは、隣の部屋で待っててもらうことになった。


 

 いざ2人になっちゃうと‥緊張する!

前世のこと、覚えてるってことよね。私から話してもいいのかな、どうしよう分からなくなってきた‥

ぐるぐる考え始めてしまい、つい部屋の時計を見る。時計は、もう正午を指し示していた。カチコチと時計の音が聞こえる中、ファウストが口を開く。


 「ごめん!!俺‥俺‥コトセのこと、守れなかった‥」

 そう言い、膝を地面に付き、頭を下げる。

 

「やめて!!だって、あれは私の不注意のせいだもの。コブシは、帰ろうって、止めてくれたじゃない。」

慌ててかがみ、ファウストの肩を掴んで起こそうとする。


 「いいや違う!あれは事故なんかじゃなかったんだ。俺、聞こえたんだ。男たちの声が。若い女を狙って、連れ去る相談してる話し声が。あの時、コトセは狙われてたんだ。後ろから。だから俺、車から遠ざかろうと‥して‥。」

 ファウストの顔が悔しさにゆがむ。肩が震えていた。

 

 知らなかった。そんな事思いもよらなかった。じゃあ、コブシは、私と同じように、お互いを助けられなかったことを悔いていたの?

 

 私は、ファウストの腕を自分の肩に絡ませ、体を無理やり起こさせる。顔をなんとか向かい合わせた。


 「私たち、お互い助けられなかったって思ってたんだね‥。私も、会ったら謝らなきゃと思ってた‥。気づいてあげられなくてごめんね。本当にありがとう。」

私は大きく息を吸い込んで続ける。


「でも、私はもうコトセじゃない。アゼリア。コブシも、もうコブシじゃない。ファウスト。もう、お互いに縛られるのはやめよう。別々に、自由に次の人生を生きようよ。」


  そう言って、顔を近づける。あぁ、本当にこの人は綺麗な顔をしているなと思う。悔し涙を浮かべ、歯を食い縛らせ‥私のことを見つめている。薄茶の髪が陽の光で金色に光って透けていた。


 

 「いやだ。」


 そう言ったファウストが‥私に口付けた。自分の肩に置いたファウストの腕が、そのまま私の頭を掴む。もう片方の腕が背中に回る。力が強く、手を彼の前に潜り込ませてはねのけることもできず、自分の手が宙をさまよう。強く抱き寄せられるので、背中がだんだん床に近づき‥押し倒されるような格好になってしまった。


 「んっ‥‥ふっ‥。」

 隙間からなんとか息を吸おうとするが、すぐに食まれる。騎士服の褒賞の飾りが、ジャラジャラと鳴っていた。

 獣に‥食べられてるみたい‥。あたまがぼうっとしてきた。苦しくて目に涙が浮かぶ。だめ、離してもらえない‥。髪のポニーテールの根本が頭に当たって地味に痛い。さっきまで時計の音がしていたのに、今は気にならない。

 もしかして、あの夢はこの事だったの‥?カエデに欲求不満だなんてからかわれたけど。

 

 突然、ガタガタッと音がして、現実に引き戻された。


 ファウストが私を離し、勢いよく起き上がる。

 

「お、あぁよく寝たな。話は終わったのかな。そろそろご飯の時間ですかね。」


 スコープさん‥椅子に座って寝たまま、取り残されてたんだ‥。


 うたた寝していたが、体勢ががくんと崩れて起きたらしい。椅子に座ったまま、目をしょぼしょぼさせているので、おそらく今ほどの現場は見られていないと思われる。


 私は床に倒れ込んだままだ。ファウストが、私の手をとって起き上がらせてくれた。


 「謝らないから。俺、前世からずっと‥ずっと好きだった。自由に生きるなんて、今更できない。アゼリアのために生きたいんだ。今度こそ、俺が守るって。決めたんだ。やっと、同じ人間になれたんだ。あきらめない、絶対に。」

 

 真っ直ぐに、私のことを見つめて言葉を紡ぐ。


 前世って‥あの愛くるしいコーギーだった頃からってことよね。それにしてもまぁ、絵になるイケメンだな。

 あまりの出来事に、急に他人事のようになってしまった。脳がバグっている。

 


 ドアをノックする音が聞こえ、

「お話は終わったかしら?」

 女王様が入ってきた。にやにやしたリゲルがすぐ後ろに立っている。

 

「ほら。スコープを置いてきてよかっただろ。」

真っ赤な顔をした私とファウストを見て、からかうように言う。


 わざとだったの?!この男、相当食えない奴だ‥。

 

 カエデは興奮し過ぎて疲れたのか、リゲルに抱かれてくぅくぅと眠っている。こんなに呑気な奴だったっけな。


 「お互いの積もる話もあるでしょうけど、今はお仕事の話を優先させてもらいますね。アゼリアさんには、王宮付占い師になっていただきます。こちらに住まなくても結構ですよ。用ができた際に足を運んでもらいますね。そして、老いを緩衝させるために、ファウスト、アゼリア、そしてあなたたちの前世。4人分の魂を、時魔法で連結させます。」

 「時魔法‥?連結‥?」


 予想しない言葉に戸惑う。

「リリィ様は、元々時の加護を受けているんだ。先代の王妃が聖魔法で加護を授けていたんだが、身罷みまかられた。聖魔法の継承者がその時いなかったものだから、リリィ様がとりあえず‥聖魔法も引き継いだんだよ。時の魔法は、時間を進めたり止めたりすることが可能になる。」


 「4人分の魂を連結させれば、消費する魔力のダメージを4人で分散できる。肉体はなくても、お前たち前世の記憶はあるだろう?魂が今の自分の魂と混じっているんだよ。人格は、間違いなく今の自分のものだけどな。魂が残っていれば、ダメージを受け止めることができる。スコープほど老いることは絶対にない。そして、魂の連結は、よほど絆が深くなければできない。今のアゼリアとファウストほど、適任者はいないんだ。これは‥お前たちにしかできない。」


 リゲルはカエデを椅子の上にあったクッションに寝かせ、スコープさんを立ち上がらせた。


 「ファウストは‥いいの?」

「俺は。アゼリアが星の加護を授かる以上、この仕事を避けられないっていうのは覚悟してた。一緒に生きていけるのなら、なんだって受け入れてやる。」


 「私は‥私には、何も救うことができないと思っていました。今までの私は、どうしようもなく無力で。今の私にできることがあるなら‥必ずやり遂げてみせます。」

  

 女王様は、優しく微笑まれた。

 「そう言ってくれると思っていました。では時の契約を結びます。占い師と騎士よ。向かい合わせ、両手を繋ぎなさい。」


 ファウストと言われた通りにする。さっきまでキス‥していたかと思うと、急に顔が熱を持ってきた。

ファウストは私のことを真っ直ぐに見つめてくる。握られた手が熱く、ぎゅうっと強くて握られた。手は固く、大きく、ごつごつとしていた。

‥戦いに、身を置いている人の手だ。


 女王様が呪文を詠唱する。私たちの足元に、時計のような紋様が現れた。これが、時の魔法陣なのだろう。辺りが金色に光って眩しい。目を開けているのが難しくなってしまった。

 目を薄く開けると、ファウストの後ろに、コーギーの姿がうっすらと見える。さらにその後ろに誰かいるような気がした。リゲル、あんな所にいたっけと思っていたら、更に光が強くなり‥私は眩んで倒れてしまった。

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