3話 セーラー服の上着に、陸上部の短パンって姿で、彼女は車内に戻って来た。
逃げちゃお・・・
僕の脳裏にはその言葉しか浮かばなかった。
僕が何者で、何をしているのかは解らない。
つい彼女に言われるまま、写真を撮ったけど、
あの写真は、明らかに僕にとって不利なものだし、
例えば、今、あの写真を奪ったとしても、
彼女にはまだ、何か手があるのかも知れない。
例えば、今、彼女を殺したとしても、
ダイニングメッセージになるような証拠を、
残しているのかも知れない。
清楚系美少女お嬢様オーラは、消え去ったものの、
彼女の目の奥には、僕程度では窺い知れない知性が、
見え隠れしていた。
待って・・・と言う事は、今、僕が逃げても、
それなりの手段を取られたら、どちらにせよ僕は終わりか?
一体、囚われているのはどっちだよ!
とりあえず様子を見よう。
セーラー服の上着に、陸上部の短パンって姿で、
彼女は車内に戻った。
「もう、人質の下のお世話は誘拐犯さんの、
責任でしょう。その位ちゃんとしてください。」
「すいません」
疲れ切った表情の彼女に申し訳ないと思いつつ、
僕は現状を理解しようと努めた。
「ところで君は誰?」
「えっ?知らないで私を誘拐したんですか?
まあパシリさんだしね」
「誘拐」と言う言葉を聞いて、僕は改めてショックを受けた。
やはり僕と犯人グループは誘拐したんだ。
「うん、まあ」
「私、憲兵隊本部長の娘の由良穂香」
「憲兵隊本部長の娘!」
なんかやってもーた。めっちゃやばい状況じゃん。
憲兵隊って言ったら、警察より怖い人たちじゃん!
何やってんだよ、僕と犯行グループは・・・
落ち着いて、そう落ち着く、とりあえず状況を把握しよう。
「で、身代金とか要求したの?」
「私が知るわけないでしょう」
「だよね・・・うん」
「うん」(微笑)
彼女は何か違和感を感じたような目をし、
そして、微笑みを押し殺した。
敵の弱点を見つけた戦士の視線に、
僕は全身でビビった。
彼女は、怯えていた少女から、
戦況を冷静に見守る将に姿を変えた。
「ところでパシリさんは、何でスーツなんか着てるの?
ネクタイなんかして。高校生にしか見えないけど」
なんで着てるんだろう?
なんで誘拐したんだろう?
なんで拳銃なんか持ってんだろう?
なんで記憶がないんだろう?
聞きたい事がいっぱいなのは、こっちの方だ。
心の奥で、自分に対する怒りがふつふつと滾ったが、
今はそれどころではない。ふう・・・
しかし、どうしよう・・・・これから・・・・
彼女を解放して、「記憶にございません」
と言っても、誰も信じてはくれないだろうな。
「お困り?」
「お困り」
僕は反射的に答えてしまった。
「実はですねパシリさん。
現状はあなたが考えている以上に、
複雑なのです」
先程、ミッションを失敗したばかりの少女は、
微笑みを浮かべながら言った。
つづく
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