1話 スワンボートは、目を開けたまま眠っていた。
「3人合せて、すりーせぶん?」
と僕は呟いた。
何の意味があるのか、自分でも解らない。
夢の中で聞いたのか、現実の世界で聞いたのかも解らない。
そして、僕が誰なのか?
一切の記憶がない。
僕は、記憶を喪失したのかも知れない。
問題はもう一つ、スーツの中のホルダーには、
リボルバーが1丁。
そして腰のホルダーにもリボルバーが1丁。
ずっしりと重みがあった。多分、本物だ。
さらに、ショルダーバックの中には拳銃の弾丸のケースがいっぱい。
僕は何をしようとしていたのか?
なんらかの犯罪だろうか?
これじゃ警察にも行けない。
身分を証明するものは、何も持ってなかった。
財布すら持ってなかった。お茶も買えない。
はあ~参った。
もうすぐ夜になる。
どうしよう・・・・。
夜中、寝る場所を求めて歩き続けた。
夜の街の明かりが輝いていた。
お金のない僕には関係のない街の明かりとても眩しかった。
結局、眠る場所は見つかず、公園のベンチに落ち着いた。
お金もない、記憶もない僕には眠る場所もない。
はあ。
家路を急ぐ人々は消え、深夜の公園は静かな沈黙に包まれていた。
公園のスワンボートは、目を開けたまま眠っていた。
池は、夜中静かに波を打ち、その音は、
この世界の時間が止まっていない事を僕に告げていた。
待っていれば、また朝が来るんだ。
でも朝が来たからって、何かが好転するのだろうか?
零だ。今の僕には何もない。
お金もない。記憶もない。過去もない。
未来もないのかも。
そんな事を、ずっと考えていると、冷たい雨が降ってきた。
僕は慌てて、公園の東屋に避難した。
疲れる。雨の存在がこんなに疲労感を伴うとは思わなかった。
僕はため息をついて、何気にズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「あれ?」
ポケットの中には鍵が入っていた。それも車の電子キー。
こ・れ・は!
まさに僕の記憶を解く鍵と言っても過言ではない!
今まで気づかなかった自分を悔いた。
つづく