推しを信仰します
オチはありません。
はい、こんにちは
私、リーヴェ・ニスカヴァーラ公爵令嬢なんですけども、手っ取り早く説明しますと転生いたしました。私の最後の意識は車が歩道に派手に突っ込んできて私にぶちあたったぐらいです。
目を覚ました途端に美女に抱っこされ「はぁ~バブみを感じる~ばぶばぶママー!」と言ってた具合に自分がばぶばぶしていることに気付きとち狂うかと思いました。
そんなこんなでやべぇなこれラノベで見たな、と思いながら剣と魔法のファンタジズムな世界に転生し見た目も美しく身分も貴族とはわたくし人生の勝ち組すぎると調子に乗りに乗ってすくすく元気に育ちましたところここでテンプレのように気づきます。
あれ、これ俗に言う悪役令嬢転生じゃね?と
私は前世お気づきだとは思うのですがオタクでした。オタク喪女で腐と夢と萌の三重苦です。何が違うかって?全然違うわ!という女オタク特有の癇癪を起こしつつ本題です。
私は6歳になった時、王城に初めてのご挨拶に行きました。そこでアロルド・ノルシュトレーム第二王子を紹介されたところ、あーーなんかこの聞いたことあるんだけど、全然思い出せないけどこれなんか所々記憶に一致するわ乙女ゲームやコレェ!と覚醒しました。乙女ゲームなんてやりまくりすぎて選択肢とか全く覚えてないんですけど、推し王子なんで絶対にそうです。
そしてこの推し王子もテンプレのように「女なんて皆一緒微笑めば頬を赤らめる」系のこじらせ王子なんですよ。選択肢は覚えてないんですけど、そもそも学園から始まる乙女ゲームに今の私の選択肢は関係ないですが、王子に会った瞬間に麗しいショタに出くわし頬を赤らめてしまった後にその考えに至った為にいやはや失敗したなとは思ったのですけど、私の中の萌女が叫びます「いや、初対面で顔以外の判断基準があるのか!」と。恋の戦争のあまりにも理不尽な敗退理由に女の子大好きな萌女の私は怒りを覚えました。
ストーリーにならうと一目惚れしたリーヴェは王子に付きまとい無理矢理に婚約し鬱陶しがられ学園に入りリーヴェは王子に近づくヒロイン子ちゃんをいじめ倒し断罪され仲良くなったヒロイン子ちゃんと王子は結婚して幸せに暮らすみたいなストーリーだったと思います。
そんなテンプレ中のテンプレの攻略対象が何故推しなのか。理由はひとつに決まっている。
いや顔ですよ。
むしろなんで顔以外で判断出来るんですか?乙女ゲームの攻略対象って会って1年も2年も満たないのにヒロイン子ちゃんが聞いてもない心の闇をどいつもこいつも思い出の場所と称する所で吐露するんですよ、どうしろって言うんですか。私は薄情な女でしたので「へーん、ほーん」としか思わなかったんですよすみません。私の可哀想ー!と思うのは親しい身内が死んだかによります。この王子は自身が何もかも優秀で、そのせいで兄である第一王子がコンプレックスを持ってしまい第二王子につらくあたってしまう、第二王子は兄がとても大好きであったから余計につらかったのです。それが誰に対しても心を閉ざしてしまう理由の心の闇だったと思います。腐女の私は第一王子と第二王子の関係性に歓喜し、夢女の私は腐女の私に負け息が絶えていました。ですが別に同情するほどのものでもありません寧ろおいしい。私が蔑ろにされる理由でもないはずです、リーヴェは一目惚れのしかも第二王子という権力目当てではないじゃないですか。少しガツンと言ってやろうではありませんか!世の女の子をなめすぎです。
「あの」
「本日はお会いできて光栄です、ニスカヴァーラ嬢」
「わわわわわわたくしのことはどうかリーヴェとお呼びくださいまし………!!!」
いや無理…推し…金髪碧眼は性癖…好きです結婚してください声がもう好き。一声で負けた…でも全然悔しくないです。私はリーヴェがリーヴェになった理由がたった今分かりました。欲望に忠実…!一目惚れして鬱陶しく付きまとうまでも分かります、なんかもう鬱陶しがられる表情すら見てみたいですもん。嫌われてもいいなんかもう同じ息をするだけでもうありがとうございます神聖な空気です私の家に仏壇を作ります。
「ではリーヴェ嬢よろしければ庭園へご案内致しましょう」
くすりと微笑まれ差し出されたお手手にめちゃくちゃ動揺しました。そんな御手にわたくしに触れろとおっしゃるのですか!?いやこれはもう2度もないチャンスかもしれないですよねお触れしてもよろしいでしょうか、いや待って私手汗やばない?こんな時に喪女というスペックがよろしくないこんなに美少女なのに!いや決断しましょうわたくし。いくぞ、せーのでやるぞ。
「はい、ではよろしくお願いします」
後に父様は語りました。あれはまるで戦場に赴く騎士のような顔であったと。
その後の記憶は全くもって抜け落ちています。ですが庭園の花よりか王子を凝視していた気がします。いやもうすごい、すごい好き。
家に帰り悪役令嬢転生だと気づいた今、やらなければならないことがあります。国外追放に向けて準備?ヒロイン対策?いいえ。
「お父様お願いがあります。」
「どうしたんだい?リーヴェ」
ニコニコとしている娘を溺愛するお父様はなんでも言うことを聞いてくれるのですありがたいです本当に。でも私以外にやっちゃダメですよ我儘ちゃんが育っちゃいますからね。そういう子も可愛いですが。
「鈴を、鈴と板とノコギリを下さいませDIYします」
「え?」
やることなんてひとつしかありません。仏壇を作ります。
お父様はなんでも聞いてくれると思ったのですが危ないからという理由で反対されやがりました。私に甘々なお兄様にも頼み込みましたが反対されやがりました。いや別に剣の稽古とか言ってないじゃないですかよくないですか?
「何か欲しいものがあるのならば作らずとも用意するから」と言われ設計図さえ渡せばいけるかなと思ったのですが、そうすると愛がなくない?と私の悪魔の声に身を委ね何としてでも、断固たる意志で自己で作りあげる決意を致しました。
ノコギリが危ないという理由で止められたのならば剣と魔法のファンタジアな世界を利用して魔法で作り上げればいいではないですか!と至った私とても天才でありました。ですがすぐに使えたりなどは流石に天才の私も出来なかったのでしょう。魔法の勉強を自分流に死にものぐるいで致しました。だって魔法の先生をつけてもらう時間すらが勿体無い、それに我儘言った後の我儘って言いづらくないですか?これ多分前世の大人の記憶のせいなんですけど。なので何としてでも信仰せねば夜もおちおち眠れない。
そうして6歳にして風魔法を上級まで磨き上げ細部の刻みやヤスリなどの代わりの動作などできるようになり仏壇が完成致しました。
その事を知ったお父様は衝撃を受けお兄様は私を誉めそやし、周りに自慢しまくりました。お母様は白目を剥きそうでした、本当にすみません。完成したものが皆様分からなかったようで噂されたものが独学で6歳で風魔法を上級までできるようになっただけでした。
ですが問題がありました。仏壇にアロルド様の絵姿を飾ったところで気付きます。
――果たして、立派に礼儀作法も身につけていない私がアロルド様の御前に立ってよろしいのだろうか、と
私はお母様の元へ転がり込み、懇願しました。私にどうか礼儀作法を教えてくださいと言いましたところお母様はこれまでにない程歓喜しました。最低限の礼儀作法で殿下の御前に立ったことを死ぬほど後悔していて必死さが伝わったのかめちゃめちゃ厳しい先生をつけられスポ根漫画のごとく熱く作法を身につけていきました。
そして時は経ち毎朝毎晩仏壇の前で鈴を鳴らし地面に頭を擦り付けさめざめと泣く姿にはもう侍女も家族も見慣れたようで狼狽えません。もちろん王城の方角には足を向けて寝たことはございません当たり前の義務教育ですよね!
儀式を終えたあと準備を致します、第一王子のお誕生日パーティに行くのです。私ははやいもんでもう10歳になりましたので5歳上の第一王子はもう学園入学されるのですね。アロルド様は私と同じ歳ですからお久しぶりに生の御尊顔を拝見できるという特典付きパーティ最高10歳アロルド様10歳のアロルド様、私の脳内はこれだけしかないです。あ、お誕生日はおめでとうございます。
アロルド様の御前に出ても恥ずかしくない格好で行きましょう、私は真っ直ぐな黒髪で赤眼の超絶美少女ですがキラキラアロルド様に出会えば私など塵も残さず浄化されます、悪魔か私は。色合い的にはたしかに悪魔っぽいですね、すみません悪魔の信仰対象はアロルド様という神です。
王城に着いたあとお兄様にエスコートされ暫く周りを観察します。するとイケメンスペック高お兄様の周りにはご令嬢がたかりまくります。ですが流石お兄様。口を開けば私の自慢をご令嬢方にしまくってます、なんでしょうかこの図。お兄様を口説こうとするご令嬢方と私自慢で対抗する斜め上の戦い面白すぎるんですけど。
それを傍らに何か私に視線を感じます。なんでしょうとその方向を見るとあれは、ヒロイン子ちゃんではないですか!私に視線を寄越すということはあの子は転生者ですね?ヒロイン子ちゃんが夢女過激派同担拒否勢に加え逆ハー勘違いめんどくさい女オタクの頂点に位置すれば仲良くなれないのですがそれ以外であればいけます。リア充の皮だって三重苦の私にすれば余裕でかぶれます。そういえばこの頃だったんですかね、ヒロイン子ちゃんが貴族の養女になったのって。なんと話しかけに行きましょうかと考えながらお兄様を放置してヒロイン子ちゃんに近寄りました。
「貴女お名前はなんとおっしゃるの?」
すみませんなヒロイン子ちゃんのお名前覚えてないのです。亜麻色の髪で翠眼で潤んだ瞳で見てくるヒロイン子ちゃんいやほんと可愛いななんだこの子だいたい夢女がヒロインに嫉妬する原因はあまりにも自分と既視感を感じないのと善意の塊すぎるからだと思うよと私の中の夢女が言ってます。頬を上気させて瞳が揺れている可愛らしい姿に萌女の私はとても悶えそう……え?頬を上気させている?
「ホ、ホールリン子爵の娘、フレイヤでございます。………うわぁっ可愛い……」
悪意が皆無な感じしますね……最後に小声で褒められたのですが。普通に嬉しいのですがこれはどうしましょうか、転生者云々のお話できますかね。いきなり切り込んじゃいましょうか。
「ありがとう、わたくしはリーヴェ・ニスカヴァーラですわ、ところで貴女わたくしとおなじ転生者でございますの?」
「えぇっ!?ニスカヴァーラ様もでしょうか」
あらこれは意外ですね、分かっていて見ているのかと思っていましたがですが転生者で通じるとはこれはもうオタク確定私たちズッ友になれますね。推し被りしたら私の仏壇作りを伝授して一緒に信仰しましょうか。私の中でもうフレイヤちゃんは大親友まで昇格しています。
「と、ところで推しは…」
いけない、オタク特有の同志を見つけると嬉しくて焦ってどもるという失態を犯してしまいましたがフレイヤちゃんは逆に気にした様子はありません。
「じ、実はリーヴェ様が推しで…大好きで…一目見れただけでももう死んでも悔いはなくて、その上お話させていただけるなんてもう私、ありがとうございますありがとうございます」
私でしたかー!!おいおいと泣き出すフレイヤちゃんがもう女アイドルの握手会に来て感激しすぎて泣き出すドルオタみたいになってしまっています、でも分かりますその気持ち私もアロルド様にお会いできた時によく泣かずにいられたのか分かりませんもの!その代わり記憶は飛びましたが!
「リーヴェ様…あっリーヴェ様とお呼びしてしまいました尊名を勝手にお呼びしたことを深くお詫び申し上げます私ここで死んでも構いません悔いが無さすぎますので」
「わ、わたくしがかまいましてよ!」
私が信仰対象だとめちゃくちゃやりづらいなと思いましたけども悪い気分は致しません。ここは快適な学園ライフを送る為にアロルド様の尊顔を眺めれるようにご協力していただこうかと思っております。よし
「フレイヤちゃん、あのわたくしアロルド様が」
「嫌です!やめてください!」
ほわっ!?名前で呼んでしまったのに怒ってしまわれたのでしょうかキッと目つきが厳しくなります。
「リーヴェ様、どうか殿下のお名前はお口にされないで下さいませ…リーヴェ様のお口から殿下のお名前など聞きたくありませんあの男は許しません」
「で、殿下は地雷ですの?」
「殿下が地雷です。受け付けませんそもそも「女は皆同じちょっと微笑めばすぐ惚れやがる面白い女はいないのか、と思っていたがヒロインは違うかったこいつは媚びない面白い女…」系の男ってなんなんですか?リーヴェ様も超絶美少女ですから、「男はみんなちょろい微笑めばすぐ惚れやがる」とか思ってたらどうするのですか?その2人が出会った時に何が始まるのですか?バトルロイヤルですか?そのバトルに勝った結果の報酬がリーヴェ様でしょうに喜べよ意味がわからないです……ハッ!私ったらリーヴェ様違うのです!」
ひ、ひぇ〜転生ヒロインが推しモンペや〜!驚きました。ごめんなさい私もわりと推しに対して金と努力を惜しまない系のオタクだと自負していましたが推しに対するモンスターペアレントは発症していないがために油断していました、だって私の推しを推してる理由が顔だもの。
「フレイヤちゃん、でもわたくし殿下が元々推しで…一目会ってもうダメだったの、すごく尊みが強くて…仏壇まで作ってしまって…」
「なっ…!私のリーヴェ様が!だめです!許しません私はヴィルヘルム様を推します、推していますその方でないとだめです!」
ノマカプ厨!!フレイヤちゃんあなたノマカプ厨だったのですね!ヴィルヘルム様とはヴィルヘルム・ヨーハンソン公爵令息私と同じ公爵の地位についておられてわりと交流がある感じの人なんですけど、その方は王弟の息子で弟を産んだ時に母が亡くなり再婚相手の義母に手酷い虐待を受け弟を殺されそうになった時に闇堕ちしそうな方でした。
ちなみに乙女ゲームの中でもリーヴェが交流を持っていたのでアロルド様に夢中なリーヴェでありますがさすがに養母のヴィルヘルムへの対応に不信感を抱きヴィルヘルムの父に告発したことでヴィルヘルムはリーヴェに恋心を抱くんですけど、リーヴェはアロルド様に夢中であるが為に振り向かないことでド嫉妬して闇堕ちしてヒロインが慰めるみたいなルートだった気がします。確かにノマカプ厨にすごい人気なカップリングだった気がしますけどちょっと待ってください。
「わたくし、ヴィルヘルム様の闇堕ちルートまっしぐらかもしれません…」
「リーヴェ様!」
フレイヤちゃんは歓喜しておられますけど、私やらかしてしまいました。アロルド様の信仰に精を出していた私はヴィルヘルム様のルートなど微塵も気にしていませんでした。けれどもちょくちょくお会いしてたヴィルヘルム様に対して養母はえらいどぎつい言葉かけますな、ちょっと注意しときますかなぐらいの軽い気持ちでヨーハンソン公爵にちくったんですよ。まさかそれが弟殺される直前だとは思わないじゃないですか。
「でしたらもうリーヴェ様はヴィルヘルム様とくっつくほかありませんよ!闇堕ちルートはやばいですもの!」
「ひえ………」
断罪ルートを特に回避しようと思っていなかったのにこんなのってないです。闇堕ちルートはヴィルヘルム様がリーヴェに振り向いて欲しいがためにアロルド様を殺そうと画策して、魔力がすごく強かったので魔王になってしまうところをヒロイン救済、いえこれって
「フレイヤちゃん!流されるところでした…フレイヤちゃんがヴィルヘルム様を慰めればよいのです!」
「嫌です!私はリーヴェ様がよいのです!」
「い、いいえ、これはフレイヤちゃんの役割ですわ」
「ぽっと出のヒロインなんかにリーヴェ様とヴィルヘルム様の関係性を崩されたくありません!!!」
「えぇ…」
ノマカプ厨がつよい、倒せない…。ですが私の推しはアロルド様。アロルド様の為に生きていると言っても過言ではありません、ですから
「どちらにしても始まりは学園からです…フレイヤちゃん、勝負です…わたくしのアロルド様の信仰か、はたまたヴィルリヴか…」
「なんと……受けてたちましょう、断言致します。リーヴェ様のお幸せはヴィルヘルム様と共にあるということを…勝負は学園から、ですね」
敵前逃亡ということなかれ。私としてはフレイヤちゃんはもう大親友の域であるが、いきなり宗教を変えろなんて無理です。絶対にアロルド様を崇拝して生きていきます。
王子様が続々と入ってこられます。アロルド様の御横顔とてもお美しい…好き…しんどい…
私はフレイヤちゃんに背を向け去っていく。いやフレイヤちゃんは私の背中をじっと舐め回さんがごとく見つめていますけど気にしません。そう、ここからは勝負です。
――絶対にヴィルヘルム様とはくっつかずに闇堕ちも回避してやるのだから…!
そうして私は乙女ゲームの物語から何も逸れてないことに気付くのは学園が始まった頃である。