出会い
朝日に照らされた瞼をゆっくりと目を開く。
周囲に目を向けると横たわっているのは河原。
川に飛び込んだはずが河原にあがっているということは…
「水の精霊いるだろう。出てきてくれ」
起き上がりながら、川の方へ声を掛けると、川の一部が盛り上がり、女性の形になっていく。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。ひさしぶりね。崖から川に飛び込んだ時は驚いたわ。いくらあなたでも、これからは危険になったら私や他の精霊をよんでね」
「君たちの力はなるべく借りないようにしている。前にも言っただろう?」
「わかっているわ。だけど、心配ぐらいはさせて頂戴、あなたが求めればいつだって私達は力を貸すわ」
「ありがとう。いずれまた、君たちの国に遊びに行くよ。精霊王にもよろしく伝えておいてくれ」
水の精霊が「待っているわ」と帰っていく。
元の川に戻ってから、水を含んだ服を着替える。
乾いたマントを羽織ると最後に剣を腰に差す。
「よしっ」と準備が出来たので、周囲に目を向けると木が生い茂る森が広がっている。
これなら食べ物には困らないだろう。
「グーッ」と空腹だとお腹が訴えているから早く答えてやらないといけないだろう。
森に生えているキノコや山菜、果物などを取り、生で食べられる物を食べ歩きしながらお腹を膨らませていると。
何かに当たったような気がしたが、気にせずに進むと周囲から木が無くなり、突然城壁に囲まれた石造りの城が現れた。
(どうしてこんな森の中に城?)
正面にある門は開門されて、そこから石造りの道とその先に大きな石造りの城が聳えている。
驚きにより、しばらく立ち止まっていたがここに居ても仕方がない。
門をくぐると道の両側には広い芝生と色とりどりの花が植えられた庭が広がっている。
歩いていると芝生の整備をしている人を見つけたので声を掛けるとこちらを見るが見えないのかしばらく探すようなそぶりをしたが結局見つけてもらえずに作業に戻った。
近づいてよく見ると声を掛けた相手が人ではなく、ゴーレムだった。
これだけ精巧に作られたゴーレムは世界で最先端の魔道具を作っている魔導都市でも見たことがない。
こちらを認識できなかったことを考えると魔力を見て、人を判断しているのだろうか?
それから庭や城の中を見て回り、人がいないか探したがゴーレムはいるが人は見つからなかった。
これだけの城に誰もいないとは考えられない。
「あとはここだけか」
城の一番奥に佇む厳かな扉。この扉だけ他の扉にはなかった紋章が描かれている。
先端に透明な玉がはめ込まれた一本の杖に2匹の龍が巻きついている。
この紋章は見たことがない。
「とりあえず開けてみるか」
扉を開くと部屋の奥に透明な円柱状のケースの中に眠るように入れられた少女がいた。
腰まで伸びた白銀の髪をした15歳前後の白いドレスを着た少女は近づいても動く気配はない。
胸が動いているため生きていることはわかるが、部屋には他に何もない。
ケースを触ってみるが材質はわからない。
どうするか考えながら顔を上げて少女を見ると…紅い瞳がこちらを見ていた。
◇
少女は紅い瞳でこちらを見下ろしていた。
「おはよう」
とりあえず、最初は挨拶をすると少女も「おはようございます」と挨拶を返してくれた。
会話が出来ることに安心しながら、まずは自己紹介をしよう。
「初めまして、俺はユウトと旅人をしている」
「ユウトさんですか。私はローエン魔術帝国の第1皇女エリスです」
ローエン魔術帝国?聞いたことが国名だな。城の中で見たゴーレムを見る限りかなりの技術を持った国であることは間違いない。
しかし、ならばなぜ皇女1人しかいないのかがわからない。
国が滅んだのか?だとしてもどう「あの、少しよろしいでしょうか」。
考え事をしていていると途中で少女に声を掛けられた。
「どうした」と聞くと、「ここから出してもらえませんか?」とお願いをされたので、ケースを取り除く方法を聞いたら壊すしかないと言われ、無命により、ケースを破壊する。
ケースを破壊した瞬間。周囲へゆっくりと魔力が広がりながら、落下してくる少女を受け止め、足からゆっくりと床に下ろすと。
少女から手を放すと顔をまっ赤にして俯いていた。
「どうした」と聞くと「男性に触られるのが初めてで、その…緊張してしまって」と返答があった。
これまで男性に触れられたことがない?周囲のガードが固くないか?
いや、身の回りはゴーレムがしていたから人と関わることが少なかった可能性もあるか。
これから1人で生きて行けるのか心配になる少女だな。
「あの、ユウトさん。お聞きしたいことがあります」
先ほどまで恥じらいを見せていた少女が今度は真剣な表情になってこちらを見つめている。
「ローエン魔術帝国は今どうなっていますか?」
どうこたえるべきだろうか。少女に「いまはそんな国はない」と自分のいた国がないことを正直に伝えるべきだろうか。
しかし、城からでれば、いずれわかる。早いか遅いかの違いだ。なら…
「ローエン魔術帝国と言う国は聞いたことがない」
「そう…ですか」
紅い瞳からツーッと涙が頬を流れる。
それから止めどなく流れる涙を必死に拭うエリスを見て、自分の時と重なり、彼女を抱き寄せて、頭を撫でながら慰めると胸の中で声を出して泣き始めた。
◇
しばらく泣き続けて、落ち着いた時を見計らって魔術都市の図書館にならローエン魔術帝国についての蔵書があるかもしれないと伝える。
魔術都市の図書館には約千年前の本も蔵書されていると聞いたことがある。
あれだけの技術がある国が滅びればどんなに昔でも何かしらの痕跡が残るはずだ。
そこで手掛かりが見つかるかもしれない。
エリスは潤んだ瞳で上目遣いに「連れて行ってくださいますか?」と聞かれた。
俺と同じく家族を亡くした少女を助ける。これも何かの縁かもしれない。
現状どこに行くとも決めていないし、この少女に少し付き合うくらいは問題ないだろう。
そうと決まれば、まずは準備だ。旅をするとなるとエリスの服装が問題になる。
さすがに白いドレスを着て森の中を歩くわけにはいかないので、部屋を出て、服を探すことになった。
部屋を出て城内を歩いているとすれ違うゴーレムたちがエリスを見ると立ち止まり、エリスが通り過ぎるまで頭を下げている。
城門をくぐった当初から気になっていたこの城の事について、隣を歩くエリスに聞いてみる。
「エリス、この城について教えてくれないか」
隣を歩いていたエリスが突然立ち止まった。
言いにくいことだったか?
起きたばかりで、思い出したくないこともあるだろうから、後でいいかと思ったがエリスは再び歩き始めて、話してくれた
この城はエリスのために作られた城であるらしい。
エリスは生まれた時から膨大な魔力を保有していた。
そのため、色々なところから狙われ、なかでも最も厄介だったのが天使と悪魔。
悪魔がエリスの周囲にいる人間を操り、誘拐しようとしたり、天使が神のお告げとして教会関係者にエリスを引き渡すように要求させたりとあの手この手で手に入れようとした。
それでも直接的な手段ではなかった為、まだ、跳ねのける力が帝国にはあった。
エリスは15歳になるまで、家族と一緒に暮らしていた。
しかし、エリスが15歳の誕生日を迎えた日に天使と悪魔の間に大きな戦争が勃発した。
戦争は激しさを増して、地上にも影響を及ぼし始めた。
そんな時、生まれた時から15年間で増え続けてきた魔力量が神を殺せるとある上級悪魔が提言したことによって、エリスの運命が大きく変わった。
どちらも戦争に勝利するため、魔力の源であるエリスの心臓を求めた。
これまでは間接的にしか手を出してこなかった天使と悪魔が直接手に入れようとしてきたのだ。
そのため、当時のエリスの父親。つまり、皇帝が人里離れた森の中に認識阻害の結界を張った城を作り、城の管理を天使や悪魔に操られることのないゴーレムに全て任せて、魔力を外に漏らさないケースにエリスを入れることで守ろうとした。
エリスをケースに閉じ込めて眠らせる前に父親は「安全が確保出来たら迎えに行く」と言ってくれたそうだが俺がケースに触れて目を覚ますまで、一度も迎えに来てはくれなかった。
殺されたのか、安全が確保できなかったかはわからないが、恐らくこの世にはもういないだろう。
城の中の事はエリスが知っていたため、迷うことなく衣裳部屋についたが、どれもドレスなどで動きやすい服がない。結局俺の服を着て、腕や足などはまくって調整した。
「この城はどうする。恐らくアイテムボックスの中に入れることが出来ると思うが持っていくか?」
「城を入れることが出来るのですか!?」
動いているゴーレムを止めてくれたら恐らく入れることが出来る。生き物がいるとできないが、いなければ入れることはできるはずだ。
「お願いします!」と言われたので、エリスに城にいる全てのゴーレムを止めてもらい。
城門を出てからアイテムボックスに入れる。
「本当に入るのですね…」
半信半疑だったのだろう。エリスが目を白黒させている先、城があった場所には現在表面の土が無くなった地面だけが残っている。
日が落ちるまで少し時間がある。少しでも距離を稼いでおこう。
「行くぞ」
ボーっとしているエリスに声を掛けて歩き始めると「はい!」と後ろから追いかけてくる音が聞こえた。
お読みいただきありがとうございました。