6.鬼ごっこ
「目的地に着いたぞ」
俺はシートベルトを外しながら彼女に声をかける。
「意外と丁寧な運転でしたね」
「意外とは心外だな、俺はゴールドだぞ」
「まずはグリーンを取ってください」
取りたくても取れないのだ、日本の法が憎い。
でも薬中で無免許の未成年が無事故、無違反ってすごいと思うんたがな。
「とりあえず、ここでお買い物だ」
「ホームセンターですか……」
「死体処理には色々道具がいるからな」
一言に山に埋めると言っても多くのやり方がある。
そしてそのどの方法も手間と時間と道具が必要だ。
「あの、降りないんですか? 」
天野は車から降りるそぶりを見せない俺を不思議そうに見つめている。
「ちょっと調べたいことがあってな、あと質問の続きもしたい」
「なるほど、わかりました」
俺はスマホを片手に質問を消化していく。
「天野の家族構成を教えてくれ」
「母と私とトランクの死体です
母は半年程前から帰ってきてないので実質いません」
「あいつの仕事は?」
「去年勤めていた会社をリストラされてからは無職です」
「じゃあ失踪届けを出す人間は誰もいないのか?」
「わかりません、完璧に人間関係を把握してるわけでは無いので」
「それもそうか」
もし失踪届けを出す人間がいないなら希望が見えてくる。
死体を完璧に遺棄するよりも死体の身元を判別不能にする方が良いかもしれない。
「あいつに犯罪歴はあるのか?」
「無いと思います、勤め先はなかなかの大手企業だったので」
「通院歴、病歴、過去にした大きな怪我を知ってる範囲で教えてくれ」
「すいません、わかりません
ただ薬などを服用している所を見たことがないので最近の通院は無いと思います」
犯罪歴が無いとわかったのは大きい。
DNAを採られていたらいくら身元を闇に葬っても意味が無い。
「天野は普段休日をどう過ごしてるんだ」
「基本的には家で本を読んでいます」
「読書が趣味なのか?」
「そんな大層なものじゃありません」
「好きな異性のタイプは?」
「……あの、この質問絶対必要ありませんよね?」
やっぱりダメか、流れでいけそうと思ったんだが。
「俺的には一番重要な質問なんだけど」
「消極的な男性が好みです」
天野は楽しそうに、してやったりといった感じでニヤニヤしている。
「照れるな……」
「自己分析がおかしいですよ!」
天野が悔しそうに俺を睨んでくる。
だがそこに敵意は無く、少しだが信頼さえ感じる。
不思議だ、彼女とこんな風に会話ができる日がくるなんて。
殺人に対して罪の意識が無いわけではない。
自分の行いの業も自覚している。
だが俺の胸は暖かい。
不謹慎だが幸せだった。
世間は平気で人を殺すことのできる人間を鬼に例えて殺人鬼と呼ぶ。
そういう意味では俺は立派な殺人鬼なのかもしれない。